「合唱ができるまで」

合唱ができるまで歌声がひとつになっていく喜び

 パリの13区にあるモーリス・ラヴェル音楽院。ドキュメント映画「合唱ができるまで」は、この音楽院に所属するアマチュア合唱団のメンバーが、教会でのミサ・コンサートを控えて、リハーサルに励む経過を、ゆっくりと静かに描いている。  メンバーは老若男女さまざまで、誰でもが、初めからうまく歌えるわけはない。練習する曲は、マルカントワーヌ・シャルパンティエの「真夜中のミサ」。フランスではクリスマスによく演奏されるミサである。

 パートに分かれ、少しづつ、丹念に、練習が続く。だから、ここには格別のドラマもなければ、見ていての興奮もない。
合唱ができるまで  合唱を指導する女性指揮者クレール・マルシャンは、機知に富んだセリフを駆使するが、格別のメソッドがあるわけではない。一歩一歩、ていねいに「音楽」を積み上げてゆく様子が描かれるだけである。そして観客は、映画を見て、音楽を聴いていくうちに、いつのまにか、「真夜中のミサ」の練習に参加しているかのような錯覚を覚えるようになる。
 練習に励む子どもたちの表情、ことに目がいい。なにか尊厳なものを見つめるような輝きを帯びてくるように見える。監督のマリー=クロード・トレユ自身の音楽そのものへの尊敬と愛に満ち溢れた、すぐれたドキュメントだ。

 見終わって、「わたしも歌ってみたい」と思わずにいられない。
 教え、指導することは地味な作業である。近道はない。音楽にかぎったことではないのである。

(C)Les Films d‘Ici-Yumi Production-CNDP-2003 France