「埋もれ木」
自分の夢と仲良くしよう
夢と現実が重なって…新しいファンタジー映画。
昨年の6月に公開された、小栗康平監督の「埋もれ木」が、このほどDVD(松竹ビデオ事業室)で発売された。あらためて見て、さらに心ふるえた。ドラマ、ストーリーは存在しない、といっていいだろう。つぎつぎと出てくるシーンから、映像の伝える雰囲気を感じる。そんな映画である。
山に近い小さな町がある。高校一年生の“まち”は、「物語を作ろうよ」と、始めたお話を、先輩たちとふくらませてゆく。そのお話は「町のペット屋さんがラクダを買いました」「ラクダは町の人気者になりました」「ラクダのふるさとは海へと続き、浜にはクジラが打ち上げられました」…。
町に住む大人たちには、過去の歴史をひきずりながらも、とりあえずの現実がある。さびれたマーケットには、魚屋、豆腐屋、洗濯屋、建具屋などがある。大人たちは、お茶を飲み、家族への愚痴を言いあう。
大雨が降る。町のゲートボール場が崩れたあとに、大きな埋もれ木が現れる。火山の噴火によって、地中に埋もれていた古い昔の大木である。
大人も若者も子供も、みんな埋もれ木のまわりに集まり、お祭りになる。たくさんの色の風船をつけて天に昇る紙灯篭のクジラ、赤い馬が空に上ってゆく。空からは木の葉が落ちてくる・・。
映像から感じるのは、観客ひとりひとりである。夢や希望を持ち続けることが大事、かも知れない。大自然の前では、人間の営みはちっぽけだね、と思うかも知れない。
小栗康平監督の最新エッセイ集「時間をほどく」(朝日新聞社)の一節にこうある。「子供に教える前に大人たちが学んでくれというのが正直なところで、まずはこの社会が映画や映像表現について思索し、考える風土を作り出すことが先決なのだ。しかしそこまでは待てない。待てないから、緊急、火急に、やわらかな子供たちのこころに触れなければならないのである」
「埋もれ木」をご覧になって、これはどんな映画なのか、教師と生徒、親と子で、活発な意見、議論が交わされればいいのだが。
©2005「埋もれ木」製作委員会