「東京裁判」
これほど客観的にみた映画はない。
事実だけをそのままに、まったく偏りのない
ありのままを記録した映画で戦争を考える。
小林正樹監督の記録映画「東京裁判」が公開されたのは1983年である。その後、ビデオ、DVDになり、この夏、DVDで再発売となった。
戦後すぐの昭和23年、東京裁判、正しくは極東国際軍事裁判が開かれた。満州事変、支那事変、太平洋戦争までの17年余、日本のいわゆるA級戦犯に対するこの裁判の記録を、アメリカの国防総省が撮影していた。このぼう大な記録を中心に、4時間37分に編集したのが「東京裁判」である。
戦後生まれでも、特にこの世代はこの日本近代史に疎い。社会科の授業でも、せいぜい明治時代までだろうか。教科書に掲載されているものの、教師は「読んでおくように」と言うだけであったと記憶している。
映画は裁判そのものだけでなく、ここ70年ほどの世界の歴史を、極力、客観的に語る。記録映画といえども、作家小林正樹の作品である。事実を写しただけの映像なのに、ぐいぐいと引き込まれて行く。4時間半はあっという間である。近代の歴史そのものが「ドラマ」なのである。
戦争に勝った国が、戦争に負けた国を裁くことができるのか。日本は世界に対して何をしたのか。天皇の戦争責任は。日本は戦争に負け軍備を放棄、永遠の平和を誓った国ではなかったか。アメリカは何を願ったのか…。
A級戦犯を裁いた東京裁判は、全員有罪であった。無罪を主張した少数意見は却下された。映画は裁判前後の世界の情勢を伝える。
1948年、ソ連、ベルリン封鎖。軍備拡大。東西冷戦。1950年、朝鮮動乱。1951年、マッカーサー解任。1954年、アルジェリア、反仏独立戦争宣言。1956年、ハンガリー事件。スエズ動乱。アメリカ、南ヴェトナムに軍事援助強化。キューバ危機。1965年、ヴェトナム全土へ戦争拡大。1967年、中東動乱。1968年、米軍による南ヴェトナム・ソンミ村虐殺事件。チェコ事件。1972年、北ヴェトナム軍、全土にわたり大攻勢。米軍北爆を拡大。
裸で泣き叫ぶヴェトナムの少女、子供たち。映画のエンドマークはない。
戦争とは何だったのか。
小学生の高学年からでも、親子で見ることができる内容だ。
みんなで議論するための最良の教材と思う。
作品解説:
第二次大戦後、旧陸軍省参謀本部にて行なわれた「極東国際軍事裁判」の貴重な記録フィルムを5年の月日をかけて編集した、昭和史の生々しい真実を綴るドキュメンタリー。