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バオバブの記憶(2009年・日本)
樹齢500年とも1000年とも言われるバオバブの樹。
この樹に刻まれた生命の途方もない記憶の記(しるし)
写真家である本橋成一は、チェルノブイリ原発事故のあと、被災地の周辺に住む人たちの暮らしを描いたドキュメント「ナージャの村」や「アレクセイの泉」を撮った。 このほど、本橋成一監督は、西アフリカのセネガルを舞台に、精霊が宿るといわれているバオバブという大きな樹と、この樹とともに素朴に暮らす大家族を描いた「バオバブの記憶」(サスナフィルム、ポレポレタイムス社配給)を完成させた。
いまから35年前、監督はバオバブの大樹に出会う。大樹のあちこちに刻まれた痕跡に、人類の記憶のしるしを見て、その記憶をひもといていく。
バオバブに出会う旅を続ける。セネガルの首都ダカールは都市化が進んでいる。好きだったバオバブの林は、宅地造成のため、切り倒されている。悲しい再会であった。カメラはさらに東に進む。
ダカールから100キロ東にあるトゥーバ・トュール村。たくさんのバオバブの中には、樹齢1000年を超えるものもある。映画は、20人を超える大家族の12歳の少年モードゥを通して、日常の暮らしとバオバブの樹との関わりを、ゆったりと静かに描いていく。
モードゥは学校が好きなのに、家の手伝いのために、なかなか学校に行けない。
バオバブの樹をかじって、樹皮を剥ぐ。屋根に干して縄を編む伝統が、まだ残っている。縄の先に皮袋をつけ、水を汲む。
モードゥの隣に住むファトマ先生は、家の仕事を手伝うのも大事だが、勉強も大事とモードゥに言う。コーラン学校は公立の学校ではない。モードゥのように、家の仕事で学校に行けない子どもたちのために、教会で授業がある。公立学校では、ファトマ先生がフランス語を教えている。
雄大にそびえるバオバブの樹。雨期の前に葉は青くなる。葉の色を見て、みんなは雨期が近いことを知る。この年、雨はなかなか降らない。大人たちは、まいた種が無事育つかを心配している。雨を待つ間も、鬼ごっこで遊ぶ子どもたち。雷が鳴り、やっと雨が降ってくる。
翌朝、蛙がたくさん現れ、村は活気づく。落花生の種まきが始まるからだ。落花生は貴重な現金収入になる。バオバブの青葉を収穫する。小さい子が、葉のとげに刺される。「アリさんが咬んだ」と、可愛い叫び声をあげる。雨から3日後、蛙はいなくなり、おたまじゃくしの大群に変わる。
土曜、村の近くに市が立つ。たくさんの人が集まってくる。いろんな食品に混じって、100シェーファー(約30円)の子ども服や、バオバブの縄も売り買いされる。
バオバブの葉、茎、樹皮、実など、どの部分も薬効成分がある。煎じて朝晩飲むと、貧血にも効くという。葉を乾燥して粉にしたものは、鉄分、カルシウムが多く含まれ、食事に欠かせない。実にはビタミンCが豊富、水をまぜてジュースにする。
長老が霊力で治療する。バオバブの樹の下で祈りを捧げ、3歳の女の子に皮膚病の治療を施す。バオバブの粉クスリを塗るように、と。
夕食の準備が始まるころ、魚屋がやってくる。にしんに似た魚を、1匹50シェーファー(約15円)で売っている。魚は落花生の油で、から揚げにする。トマトのスープにはキャベツ、にんじん、芋が入る。主食のミール(イネ科の植物)に葉の粉を混ぜ、布にくるんで暖める。魚や野菜を入れたトマトスープをかけて食べる。食事は大人と子どもは別で、年長が小さい子どもたちの面倒をみる。
穀物の買い付けが終わって、モードゥの父親が帰ってくる。公立学校に行かせてほしいと頼むつもりのモードゥ。しかし話はなかなか切り出せない。ファトマ先生は、モードゥが学校に行きたいこと、来れない訳も分かっている。今日はモードゥにノートをプレゼントする。
風がバオバブの樹々をゆする。落花生の収穫が始まる。土曜市では、落花生の取引もさかんで、村長が仕切っての値段交渉が続く。
落花生の収穫が終わる頃、グリオという吟遊詩人が、皮を張って打楽器を作る。村の広場では祭りの準備が始まる。小さい子どもは、バケツに入って、体を洗ってもらう。
収穫を感謝する祭りが始まる。踊るのは、子どもたち、先生、母親たち。収穫の季節が終わると、長老が樹に感謝の祈りを捧げる。
道路にはトラックが走る。ゴミが積まれているところもある。もう長い間、この村で暮らす人たちは、バオバブの樹を始めとする自然とともに生きてきた。この村も、いつまでもこのままではないかもしれない。
映画には、夕日に映える美しいバオバブの樹や、のどかな村の風景がたびたび出てくる。また、馬や牛、羊などの家畜、とかげや鳥たちも登場する。そして、わたしたちは自然とどのようにつき合っていくべきかが静かに問われていることに気付くのである。
●2009年3月14日(土)より渋谷シアターイメージフォーラム、ポレポレ東中野他全国にて 未来へのロードショー