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ブタがいた教室(2008年・日本)

これは教育?素晴らしい授業?
賛否両論を呼んだ実話の映画化

画像:ブタがいた教室(2008年)(C)2008「ブタがいた教室」製作委員会

 わたしたちはふだん、何の疑問もなく、しゃぶしゃぶやトンカツ、生姜焼きなど、豚肉を食べています。しかしもし、その豚が自分で育てた豚だとしたら…。
 ずいぶん前ですが、長野県のある町で、何頭もの生まれてすぐの子ブタを見たことがあります。もう、可愛いくて可愛くて、とても豚肉は食べられないなあ、と思ったものでした。それでも人間は生きるために、何らかの動物、植物を食べていかなければなりません。人間が生きることと、動物の命を大切にすることは、明らかに矛盾します。どう考えればいいのでしょうか?

 映画「ブタがいた教室」(日活配給)を見ました。

 いまから18年ほど前、大阪のある小学校で、新任の先生がクラスのみんなと豚を飼育、その経過を追ったテレビのドキュメントがありました。まだ「食育」や「いのちの授業」といったことが言われる前のことです。
 2年ほど豚を育てた結果、その豚を食べるか食べないか? こどもたちだけでなく、おとなにも、いろんな意見が出たようです。やれ残酷だ、これは教育の範囲ではない、などなどの批判もあったようです。それでも、先生の立場からは、こどもたちが「命」や「食べること」「生きること」について、真剣に議論する場を作ったことでの評価もありました。
 この授業を実施した黒田恭史という先生は、のちに「豚のPちゃんと32人の小学生」という本にまとめます。映画「ブタがいた教室」は、テレビのドキュメントとこの本を基にした設定で展開します。

 まだ新米の星先生(妻夫木聡)は、6年生の担任、小さな豚をかかえて教室に現れます。「1年間、みんなで豚を育てて、食べよう」と星先生。「どうして?」と言うこどもたちに先生は言います。「生きているものを食べることの意味を体で感じてほしい」と。
 教頭先生は反対しますが、星先生の熱心さに、校長先生は賛成してくれました。
 こどもたちは、校庭のすみに小屋を作り、当番まで決めて、豚の面倒をみます。名前はPちゃんと付けました。
 はじめは可愛い可愛いと、みんなは大はしゃぎでしたが、お母さんたちが反対したり、Pちゃんがほかのクラスで育てているトマトを食べてしまったり、いろいろ問題が起こってしまいます。それでも、みんなはPちゃんと楽しく遊ぶ日が続きます。
 夏休みもすぎて、卒業まで4カ月。クラスのなかで、Pちゃんを食べるのに反対する意見が出るようになります。いっしょに遊んで育てているうちに、Pちゃんのことをかわいそうに思うようになってきたのです。  さあ、クラスの意見は分かれてしまいます。みんなは自分の考えを言いあいます。いよいよ卒業です。星先生が最後の決断をします。果たして…。

 映画は、多くの論点を抱えています。それぞれのものの考え方、価値観も問われます。生きとし生けるものすべてが、生きていけるわけではありません。では、わたしたちはどうすればいいのでしょうか。

 育てた豚が立派に成長していくのを、こどもたちとともに、楽しみながら見守ることのできる映画です。しかし映画の提出した疑問は、活発な意見を述べるこどもたちだけではなく、わたちたちひとりひとりに問いかけています。
 「Pちゃんを 食べる 食べない」。

●11月1日(土)よりシネ・リーブル池袋、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー