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僕がいない場所
子どもの放つ心の叫びに耳を傾けよう
ポーランドから世界に投げかける、
現代社会の子どもたちの孤独な心を描いた作品
重く、辛い映画である。ポーランド映画「僕がいない場所」は、母親に愛されたいと望みながら、応えてもらえない少年の孤独を、真っ正面から描く。
冒頭、孤児院の係官が少年に質問をする。
住んでいる所は? 名前は?詩人になるのを夢みる少年は、ツィブリアン・カミル・ノルヴィットの「私の歌」の一節を朗読する。ポーランドの19世紀を代表する詩人ノルヴィットは、アンジェイ・ワイダの映画「灰とダイヤモンド」のタイトルのもとになった「舞台裏にて」という詩を書いている。
係官の、詩の意味は?との問いに、少年は、自分の気持ちだ、と答える。
少年の名はクンデル。孤児院から脱走を企てる。母親の家に戻ると、そこには見知らぬ男がいる。淋しさを訴える母親を残して、クンデルは一人で生きていく決心をする。
町はずれの川岸に、使われていないボロ船を見つけたクンデルは、ひとまずここに住むことにする。盗んだパンといわしの缶詰が、クンデルの食事である。
家の地下室から持ってきた、手回しのオルゴールが、クンデルの唯一の財産。オルゴールに触れ、幼いころを思い出すクンデル。
ボロ船の中から、空き缶や鉄くずを探しだして、顔見知りのスクラップ屋でわずかの金と引き替えるのが、唯一の収入である。そのお金で食堂に行くが、ウエイトレスは、お金はいらないと言う。クンデルは、ちゃんとお金を置いていく。
クンデルは、川岸に面した豪邸の少女と知り合う。姉のいる少女クレツズカは、美しい姉に劣等感を抱き、両親からもあまり愛されていないようである。クンデルにキスをせまったり、サンドイッチをさりげなくクンデルに差し入れたりする。
なじみのスクラップ屋の青年から、母親と寝たと聞かされたクンデルは、母親を訪ねるが、「二度とここには来ないで」と言われる。
傷ついたクンデルは、オルゴールを川に投げ、自らも身を投げるが…。
背景は、寒々としたポーランドの田舎町、黄色に染まった木々の林、よどんだ川である。画面は自然光で、濃淡くっきり。映像は、はっとする美しさである。「ピアノ・レッスン」の音楽を書いたマイケル・ナイマンの旋律が、少年の孤独をなぞって、これまた美しく、胸に残る。
クンデルを演じた少年の表情が、陰影たっぷり。疑惑に満ちたとき、悲しみのとき、ささやかな喜びのとき。そのときそのときの心理状態を的確に表現する。
いくつかの実話に基づいている、と女流監督のドロタ・ケンジェルザヴスカは語る。子供をめぐる悲惨な状況は、洋の東西を問わず、存在する。日本の現実を引き合いに出すまでもなく、親子間の愛情の欠如、そこから起こる悲劇は、数多い。
ポーランドでの、あるひとつの例にすぎないけれど、映画は、子供の放つ心の叫びを、みごとに表現したと思う。
大人は、子供の放つ心の叫びにこそ、耳を傾けるべきなのである。
●10月13日(土)よりシネマ・アンジェリカ他にて全国順次ロードショー!
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