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情報科教員の卵を育てる |
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通信教育による教職課程科目「情報科教育法」の履修
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北海道情報大学 通信教育部(非常勤講師) 櫻田 昭夫
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1.はじめに |
平成15年度から始まった教科「情報」は,現在も多くの場合,担当している先生が自分は習ったことがない授業を手探りで行っている状況にあります。
また,その情報科の教員を養成している大学の先生の多くも,習ったことも教えたこともない教科「情報」の指導法を担当しています。私もその一人です。
そんな中,「情報科教員の卵を育てる」のコーナーは,参考というより連帯感が自然と湧き上がる思いで拝読していました。
そして,今回,通信制の情報科教員養成について,その様子を書くことになりました。参考になるか,いささか不安ですが,通信教育による教員養成の様子,そのバックグラウンドである大学と通信教育の形態,そして,その実践から浮かんだ課題について,述べたいと思います。
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2.本校の通信教育部と教職課程 |
(1)学籍と授業形態
平成元年開学という比較的新しい北海道情報大学の通信教育は他にはない「方式・形態」を随所に取り入れています。
そのため,このことに関連して,担当している「情報科教育法」の指導内容,レポート,試験にも,何点かアイディアを取り入れています。それらについてはこの後,関係の項で触れたいと思います。
最初に,学籍について簡単に説明します。本学には以下のような学生がおります。
[1]正科生A
[2]正科生B
[3]科目等履修生
[4]聴講生
[5]特修生
一般的な大学の通信教育では,[1]の在宅の大学生と,[3]の必要な科目の履修者が一般的であります。本学がユニークなのは指定された専門学校(兼大学の教育センター)と本学の両方に在籍する[2]正科生Bがいることです(ダブルスクールと呼ばれています)。
これらの学生は,北海道から沖縄まで,全国の各地域にある13の教育センター(専門学校)に通学し,例えば午前中は,専門学校生として,午後は大学生として学ぶことになります。少々欲張りな感じもしますが,通信教育では特に不足がちな,実習や技能的な部分の補完に専門学校の授業・実習は誠に良くマッチングしていると思いますし,孤立感を深めがちな通信教育において教育センターに通学することにより連帯感を持つこともできます。
次に,授業形態ですが,以下のような授業があります。
[1]印刷授業
[2]面接授業(スクーリング)
[3]インターネットメディア授業
[4]IPメディア授業
[1]の印刷授業は,通信教育では一般的な形態で,大学が用意した印刷教材を用い家庭で自学・自習するものです。[2]の面接授業は,3日間で行う集中講義です。[3]のインターネットメディア授業は,インターネットを利用してオンデマンドで自宅でも受講可能なものです。[4]のIPメディア授業は,教育センターで正科生Bがスタジオからの講義を受講し,質疑応答が可能な双方向の授業です。
このように,学生の籍の置き方も多様ならば,授業形態も科目によって様々です。
(2)「情報科教育法」の授業形態
情報科教育法は,「情報科教育法1」,「情報科教育法2」の2科目で構成され,学期は,前期,後期に分かれています。授業形態は,上記のうち,[1]印刷授業,[2]面接授業で行っています。
今年度,印刷授業で「情報科教育法1」,「情報科教育法2」,前期,後期に履修登録した学生の学籍の割合は,正科生A及び正科生Bがそれぞれ約1割で,8割は科目等履修生,即ち当該科目のみの受講生です。
また,科目等履修生の多くは,現職の先生方と思われます。「情報科教育法」で科目等履修生の割合が,このように大きいのは,現職の数学や理科の先生方が情報の免許状を取得しようとしていると推測されます。
以前に行った,大阪教育センターでの面接授業の受講生の多くは現職でしたが,期限付き採用や時間講師でした。いずれの方も,今後の本採用獲得のために複数の免許取得を目指していました。
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3.「情報科教育法」の学習内容 |
(1)印刷授業
自学・自習が基本になる通信教育の場合,そのポイントは,いかに学習者がスムーズに学習に入り込めるか,また,継続できるかにあると思います。
前述のインターネットを利用した学習のように,通信教育を一般的な教室の学習に少しでも近づけようというのではなく,印刷授業は,従来から行われている自学・自習の最もベーシックな通信教育の形態です。
そのため,印刷授業の教材は,学習の結果を出すために必要なハード面での最も大きなファクターといえるかも知れません。
「情報科教育法」の場合ですと,教材はテキストと呼ぶ「高等学校学習指導要領解説」と「学習用プリント」と呼ぶ冊子(こちらが実際のテキスト)から構成されています。
学習用プリントは,「情報科教育法1」も「情報科教育法2」も,教室で90分の講義を15回受けるのと同じように,第1講から第15講で構成されています。
「情報科教育法1」の各講(中見出しは略) |
第1講 |
1 |
情報社会と新しい情報教育 |
第2講 |
2 |
教科「情報」の目標と科目編成 |
第3講 |
3 3.1 |
普通教科「情報」の各教科 「情報A」 |
第4講 |
3.2 |
「情報B」 |
第5講 |
3.3 |
「情報C」 |
第6講 |
4 |
普通教科「情報」の指導計画と内容の取扱 |
第7講 |
4.4 |
実習の重視 |
第8講 |
4.7 |
情報モラルの育成 |
第9講 |
確認問題 |
第10講 |
5 |
専門教科「情報」の各科目 |
第11講 |
5.2 |
応用選択的科目 |
第12講 |
5.3 |
総合的科目 |
第13講 |
6 |
専門教科「情報」の指導計画と内容の取扱 |
第14講 |
7 |
情報教育における教師の役割 |
第15講 |
確認問題 |
学習者は,大学で講義を受けるのと同様に,2〜3ページにわたって説明されている各講を各自のペースで学習することになります。同時に「高等学校学習指導要領解説」の該当部分を確かめながら,平均すると週に1講のペースで学習を進めることになります。
どうしても理解できないところや疑問がある場合は,質問票で質問することになります。実際の質問の多くは,質問票の様式でネットを利用しています。
この学習用プリントは,前任の教授のまさに力作で,膨大な資料をもとに作られており,教科「情報」の指導に必要な事項はもれなく載っているといっても過言ではありません。
「情報科教育法2」は,主に教科「情報」の授業運営に焦点を当てています。実習を重視している教科「情報」の授業をどのように展開するか,指導計画,授業の流れや留意点,課題の設定のポイント,学習評価に加え実習環境の整備等の学習を目標としています。
(2)レポート
指導する側にとってレポートは,学習者の学習状況を把握する重要な情報です。そして,学習が計画的に進められているかも知りたいところです。
学習者もレポートの提出義務がなければ,学習意欲を云々する以前に,気が緩んでしまいます。実際にレポート提出があっても,子供の頃の夏休みの宿題と同じで,気がつけば期限間近で,やっつけ仕事で提出する学生もいます。
レポート提出は,通信教育の場合,学習の根幹を占めています。
「情報科教育法」のレポートは,学習範囲全体を対象とした説明文から50の教科「情報」に関する用語を抜き取った文章を提示し,学習者は,テキスト,学習用プリントを参考にして,最も適切な用語で文章を完成させるものです。
用語・用語列を解答用紙に書いて提出しますが,多くの学習者は,「よく頑張って学習しているなー」といつも感じています。中には,正解というだけでなく,文字も正確,丁寧で,添削をしていて感動します。一方で,少数ですが,「出しただけ」というものもあります。間違っているだけでなく,誤字や「この字で板書をするの?」といったものもあります。誤字は間違って憶えているらしく,テキストやプリントを見て書いているにもかかわらず間違っています。中には,赤ペンで正しい文字とともに指摘したにもかかわらず,試験でまた同じ誤字を書く者もいて呆れます。
学校の仕事が多忙なのでしょう,学習が進まず未提出の学生も少なからずおります。
いずれにせよ,レポートに合格しなければ,試験は受けられません。
(3)面接授業
面接授業は,印刷授業と異なり,学校での普通の授業に近いものですが,短期間の集中講義であるため,受講生は前の時間に学習したことを忘れないうちに,次の学習に進める利点もありますが,3日間,9時から6時過ぎまで緊張を持続させなければならず,厳しいものと思います。
教える側といえば,顔を合わせて授業ができる嬉しさや,多くの場合が少人数で意欲的な受講生であり,立ち続けで体力的な不安はありますが,それも張り切っているせいか聞く側より疲れは感じません。
何といっても,授業が連続しているので,一方的にならないように,板書,説明,演習と組み合わせて学習者が連続して受動的にならないように十分な事前の準備が必要です。
紙幅の関係で内容は割愛いたします。
(4)質問票
質問票は,年間平均4〜5通と多くはありません。今までの質問を分類してみると,「テキストの内容・用語が分からない」,「学習の進め方が分からない」等の学習に関するものが6割を占めています。次に多いのが,「試験のための勉強の方法は」,「何が試験には重要か」,「試験を受けたが正解は」等の試験に関するものが3割,その他,「教員免許について」,「参考文献の紹介依頼」などもあります。
一所懸命に勉強している様子が分かる質問票には,数が少ないこともあり,嬉しくなり,時間をかけて回答をすることになります。中には,ご丁寧に礼状をくださる方もいます。
(5)試験
試験は今年度から,前後期それぞれ2度,年間4回全国の17会場で行われます。「情報科教育法」の場合,その内容は,レポートと同様に全範囲の学習の有無を問うもの,教科「情報」のそれぞれの科目の内容の理解を問うもの,論文形式で,例えば「情報教育の3つの観点」を記述させる,などから構成されています。
学習が十分でない者は最初から受験しないからでしょう,不合格はごく少数です。
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4.情報科教育の課題と「情報科教育法」履修のすすめ |
かつての「必修とばし」から始まった,情報科教育の課題は挙げると「枚挙にいとまがない」の感じがします。
全国高等学校長協会がWebサイトで公開しているレポートだけでも大変な数です。中でも,「情報」は生徒の能力格差が大きい,指導者の充足が難しい等の理由で「選択科目」がよい,などは問題が複雑です。
特に,指導者が不足するという点は,科目が2単位である,ということにあります。そのため,学校側は,職員定数と教員の持ち時間の関係で大規模校でなければ,専任の「情報」の先生を持てないとの事情があります。
私自身もコンピュータは,アセンブラで動かす時代から関わり,商業・工業高校の担当する先生方に自信を持って指導することができていましたが,新設された教科「情報」では,いろいろな問題・課題を感ずるばかりです。1つの例として,専門高校で行う「情報」の科目はいくつにも分化し,それぞれの科目の目標が単純・明快です。一方の普通教科「情報」は,わずか2単位なのに内容が盛りだくさんなため,指導項目が多岐にわたり,当然,複雑で課題も多くなります。
次の学習指導要領では,さらによいものになっていると思いますが,それにしても「情報科教育法」の指導方法の確立には,時間がかかりそうです。
ICTが社会生活と切り離せないのは事実です。情報科の教員でなくとも学校教育全体に教科「情報」の知識が必要なのも明白です。教科間の連携も必須なことから,今すぐ,情報科の教員を目指すのではなくても一度,通信教育で「情報科教育法」を勉強してみてはいかがでしょうか。
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5.おわりに |
全国からレポートが届きます。添削する前に必ず住所を見て,遠く離れて学ぶ人を想います。そして,これが勉強の原点だと。
以前,勤務していた,道立教育研究所の講堂に,「教学半」と書かれた大きな額が掲げられていました。その意は,「教えることは,学ぶことと相半ばしている」だと聞きました。教壇に立ってから学ぶことは,たくさんあります。日々研鑽を怠らず,自信を持って教壇に立てるまで頑張ってください。
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