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ICT・EducationNo.39 > p22〜p25

教育実践例
光の3原色についての授業と教材
大阪府立東百舌鳥高等学校 稲川 孝司
inagawa@higashimozu.osaka-c.ed.jp
1.はじめに
 「情報B」の主な目標である情報の科学的理解のための教材を開発し,それを利用して「画像のディジタル化」の単元で授業を行った。
 ここでは,「情報のディジタル化」全体の授業計画とその中の「画像のディジタル化」単元の詳細な授業案を示す。また,利用した教材の電子回路も詳しく説明する。
 光の三原色の単元は,3ビットの二進数から8種類の色が表現できることとその状態をベン図で表すことで,相互の関係が明らかになり生徒の理解が深まった。
2.授業について
(1)授業計画

実施校:大阪府立清水谷高等学校
対象学年:第1学年(2単位)
単元名:ディジタル表現と情報の記憶
単元の目標:ビット・バイトの情報の単位に慣れ,2進数と文字コードの関係を理解させる。3原色の組み合わせで色を表現することを理解させ,画像のディジタル化・動画のディジタル化の原理を理解させる。さらに,音をディジタル化するための方法である標本化・量子化の考えを理解させる。

授業内容

1
○情報のディジタル化
・ディジタルとアナログの違いを理解させる。
・情報の単位のビット,バイトを理解させる。
・JISコード,ASCIIコードを理解させる。
・十進数と二進数の関係を理解させる。

2
○カラー画像のディジタル化
・3原色の組み合わせでどんな色も表現できることを理解させる。
・光の3原色と色の3原色の違いを理解させる。
・画素(ピクセル)とその原理を理解させる。

3
○音のディジタル化
・音の標本化・量子化・符号化のしくみを理解させる。
・音のディジタル化の体験(マジカル・スプーンによるシミュレーション)をさせる。

4
○音のディジタル化の実習
・標本化・量子化・符号化のしくみをマジカル・スプーン実習で理解させる。
・シミュレータと実機の違いを理解させる。


(2)本時の授業(第2時)
単元:カラー画像のディジタル化
ねらい:3原色の組合せでどんな色も表現できることを学習。光の3原色と色の3原色の違い,画素(ピクセル)とその原理を知る。
準備物:色の3原色教材,光の3原色教材,LEDセット,ルーペ,プリント

授業内容

○前時の復習(2進数の計算)
・RGB自動点滅LEDを点灯させる。


22
○色の三原色
・混ぜるとどうなるか解説する。
○光の三原色
・RGB自動点滅LEDを示し,何種類の色が見えるか考えさせる。
・LEDを生徒に直接見せて3つの部品が光っていることを確認する。
・3原色LEDを使っての色を混合する。
・3原色の表を2進数と絡めて埋める。
・青色発光LEDの話題について触れる。
・フルカラーの仕組みを説明する。


22
○ペン型ライトによる光の合成実験
・ペン型ライトを赤,緑,青の3つを用意し
【1】赤と緑を混ぜる→黄
【2】赤と青を混ぜる→マジェンタ
【3】緑と青を混ぜる→シアン
【4】赤と緑と青を混ぜる→白
○画素(ピクセル)とその原理
・1画素が3原色からできており,それらが組み合わさり携帯やディスプレイの画面になることを説明する。
・ルーペをつかって携帯画面を観察する(ルーペを用意し,列ごとに配布)。


今日の授業でわかったことを自己評価する。
プリントの回収
3.授業で利用した教材
 カラー画像のディジタル化の単元において,科学的理解を深めるための簡単な教材を作成し授業で活用したので以下に紹介する。

(1)3原色RGB自動点滅LED

【部品】
3原色RGB自動点滅LED(OSTB5131A-IC) 1個
単2電池ボックス 1個
単2電池 2個

【特徴】
 図1のように3Vの直流電源を直接接続するだけで,内部にあるICの制御で赤・緑・青の3色のLEDを順に点灯し,様々な色に光るLED教材である。できるだけ単純にするために,電池ボックスの端子に直接LEDを半田付けしたものを教材としている。LEDが透明なので,内部の構造がよくわかる。特に,赤・緑・青の3個のLEDが交互に光っていることが肉眼でわかるのが良い。このLEDは3色の素子の位置が少し離れているために,混ざった色がうまく表現できない。そのため,光を拡散する白のラバーキャップが付いている。普通はこれをLEDにかぶせて利用するが,光の3原色の教材とするためにラバーキャップの下を3mm程度カットし短くして,横からLEDの光る部分が見えるようにすると良い。

【教材の使い方】
 順に様々な色に変化するため,教卓の上にさりげなく複数個置き,電池を入れて動作させておく。そして,めざとく見つけた生徒に「どんな色で光っているか,何色見えるか数えてごらん」と質問して,生徒に発光色数を数えさせる。
 次に,ごく近くからLEDの発光部分を見せて,3つのLEDがいろいろと組み合わさって様々な色で光っていることを自分の目で確認させる。そして,光の3原色の話につなげていく。

図1 3原色RGB自動点滅LED
▲図1 3原色RGB自動点滅LED

図2 回路図1
▲図2 回路図1

(2)3波長合成白色発光LEDディジタル版

【部品】
3波長合成白色発光LED(EP204K-35RGB) 1個
抵抗 200Ω 1個
抵抗 150Ω 2個
スイッチ 3個
単3電池 3個
単3電池ボックス 1個
ユニバーサル基板 1個

図3 3波長合成白色発光LEDディジタル版
▲図3 3波長合成白色発光LEDディジタル版

図4 回路図2
▲図4 回路図2

 なお,このLEDは面実装用なので,足の一部を折り曲げて(図5),ユニバーサル基板に入るように加工する必要がある。

図5 足の加工
▲図5 足の加工

【特徴】
 赤・緑・青の3色が1つのセルに入ったLEDを使い,3つのスイッチを配線してそれぞれ独立にON/OFFができるようにしたもの。スイッチの組合せで8種類の色を表現することができる。3つのLEDの位置が少しずれているため,完全には色が混ざらない。そこで,光を拡散させるものをLEDにかぶせる必要がある。ここでは,乳酸菌飲料の底の部分を利用している。

【教材の使い方】
 既に,「情報のディジタル化」の単元で二進数を学んでいるので,赤・緑・青の3個のLEDによる3ビットの二進数を使って8種類の状態を考えさせ,次の表の空白を埋めさせる。

OFF OFF OFF
       
       
       
       
       
       
       


 そして,スイッチを組み合わせてLEDを発光させて,生徒に色を確認させ,“シアン”や“マジェンタ”などの色を見せ,実際の色と色の名前の対応を図る。その中で,青色発光ダイオードが発明されてフルカラーの発光が可能になったこと,電球に比べて消費電力が5分の1程度,耐久性が10倍以上で省エネ性と長寿命になっており,21世紀の照明として信号機やテレビなどに使われ,携帯電話にも応用されていることにも言及する。時間があれば,電流計を接続して同じ光量を出すためのLEDと豆電球の電流の比を測定するとよい。

図6 光の3原色の図
▲図6 光の3原色の図

(3)3波長合成白色発光LEDアナログ版

【部品】
3波長合成白色発光LED(EP204K-35RGB) 1個
抵抗 33KΩ 3個
抵抗 4.7KΩ 3個
抵抗 150Ω 1個
抵抗 100Ω 2個
可変抵抗10KΩB 3個
2SC1815 3個
2単3電池 3個
単3電池ボックス 1個
ユニバーサル基板 1個
みのむしクリップ 2個

【特徴】
 前述と同じLEDを使い,赤・緑・青の各LEDの明るさを独立して可変できるようにしたもの。ボリュームを回転させて電流を制御し,3つの色の強さを単独に変化させることで,光の3原色によるフルカラーの原理が説明できる。

【教材の使い方】
 まず,赤・緑・青について単独にボリュームを回転させてLEDの明るさが変わることを見せておく。そして,それぞれの明るさが256段階だとすると全体の色は約1670万色になることを,256の3乗を実際に手計算させ納得させる。さらに,3つの赤・緑・青のボリュームを変化させて色が徐々に変化し,3つの色から様々な色を作り出せることを見せる。
 また,この原理で液晶テレビや携帯電話などの表示部分ができていることを説明し,ルーペを用いてパソコンの液晶ディスプレイを拡大して生徒に見せる。

図7 3波長合成白色発光LEDアナログ版
▲図7 3波長合成白色発光LEDアナログ版

図8 回路図3(電源部省略)
▲図8 回路図3(電源部省略)

(4)ペンライト

【特徴】
 100円ショップで購入できるペンライト型懐中電灯3個と赤・緑・青のセロファンを用意し,電球の前にセロファンを貼り付ける。光の3原色の合成を学習する教材として,安価で簡単に製作できる。

【教材の使い方】
 4名の生徒を指名し,黒板の前に出てきてもらう。3名はペンライトを1つずつ持ち,残りの1名は黒板の方に向いて立つ。そして,3名がその背中にペンライトを当てて中央が白くなるようにする。
 ペンライトの光量が違うため,光を集中させた部分が白になるよう,3人がペンライトとの距離を微妙に調整して工夫することが大切であり,距離が変わることで強さ(明るさ)が変わり,その結果,色が変わることが理解できる。

図9 合成用三色ペンライト
▲図9 合成用三色ペンライト
4.結果および考察
 「光の3原色」単元については,従来は説明だけの授業であったが,今回自作教材を使って観察と実験を伴う授業を行った。
 3原色RGB自動点滅LEDは簡単な教材であるが,様々な色で光るため,導入教材として,また,光の3原色の原理を説明する教材として十分活用できる。
 三波長合成白色発光LEDを使った教材は,スイッチのON/OFFで様々な色が表現でき,その中で,生徒にはなじみが少ない合成色のマジェンタやシアンの色を直接示すことができるため,これらの色を脳裏に焼き付けることができた。赤・緑・青の光の3原色を混ぜると白になることを,説明だけでなく実際に合成過程を見せることで理解を深めることができた。
 また,光の3原色の合成を二進数の延長と考え,赤・緑・青の3つの色を3ビットのON/OFFとして8つの状態ができることを確認した上で,表を作成し空白を埋めて色を調べていく作業を通じて,光のディジタル化の原理を学んだ。
 赤・緑・青のペンライト3本を使った実験では,自分たちで実際に実験してみることで,科学的理解と知識の定着をめざした。実験において,完全な白になるためには,赤・緑・青の光の強さを等しくするとともに,光軸を合わすことや電球のレンズの明るさのむらを調整することなど,様々な要因をクリアして初めて白の合成が可能になる。逆に,距離を変えることで光の強さが変わり,白以外の色になることからアナログ的に光の合成の原理がわかる。その意味で,自分たちで工夫して光の3原色の合成実験をすることは大切である。このような実験は,できれば3人ずつのグループで同時に実験できるのが望ましい。
 「画素(ピクセル)とその原理」の節では,1画素がRGBの3素子からできており,それらが組み合わさって携帯電話の画面やディスプレイ画面になっていることを説明するが,実際にディスプレイ画面をルーペで拡大してみると,確かに3素子のLEDから成り立っていることがわかるため,生徒に直接見せると興味がわく教材となる。しかし,最近の携帯電話は緻密すぎるため,ルーペで拡大してかろうじて見える程度であり,技術が進んでいることがわかる。
5.おわりに
 光の3原色の単元は,3ビットの2進数から8種類の色が表現できることと,その状態をベン図で表すことで,相互の関係が明らかになり,生徒の理解が深まった。そして,簡単な教材ではあるが,実験的な教材が情報の科学的理解を促進することがわかった。
 今後,他の教科と同様に,教科「情報」でも多くの実験教材をまとめて,実験テキストのようなものができれば良いと願っている。
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