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ICT・EducationNo.22 > p6〜p9

教育実践例
意欲・工夫を引き出す実習展開
−相互評価と自己評価の活用−
北海道岩見沢東高等学校 高木昭信
takagi@pd6.so-net.ne.jp
1.はじめに

 本校では昨年度から「情報C」の授業を実施しています。履修学年は,1年生と3年生で各1単位ずつの分割履修です。本事例は実施初年度の授業を進める中で,生徒の「意欲的な工夫を引き出す」にはという視点から計画実施したもので,評価に生徒の相互評価と自己評価を導入したものです。

2.本校の学習環境
 授業は全てパソコン実習室で実施しています。講義はパワーポイントによるプレゼンテーション形式で実施しています。生徒は配布された講義ノートのプリントを完成し,関連問題を演習して内容の理解を深めます。

 実習は,基本的に課題の内容説明と一部操作を演示し,その後テキストにのっとり取り組む方法で実施しています。実習の授業を進めていて,ある程度は仕方ないことですが,次のような点が気になり始めました。

・生徒の使用経験の差が多く,目的を計画通り進める生徒と,非常に時間がかかる生徒がいる。

・使用経験の低い生徒は,演示説明を十分理解できず,個別・全体説明の繰り返しが必要な場面が生じる。

 この状態へ個別的に対応するには限界があり,授業が計画通り進まない場合が生じます。生徒への取り組みに何らかの工夫の必要がありそうです。
3.生徒の意欲や工夫を引き出す実習課題の設定
 このことからできるだけ早い段階で,生徒の集中力・意欲・生徒相互の刺激や協力などを引き出せるような課題を設定してみることにしました。座学の授業は教師側からの一方通行になりがちな講義が多いにもかかわらず,難しいなどといいながら,興味を示し良く取り組んでいます。授業オリエンテーション時のアンケートに「情報の授業は楽しみ」と記述した生徒も多く,そういう期待感は授業をしていて感じられます。そういった点も考慮し,次の点に沿って実習内容を検討しました。

①意欲をもち工夫できる課題。
②生徒相互の関わりを引き出し,楽しんで取り組める課題。
③今後の実習につながりを持たせる内容の工夫。
④実習最後に合評会を設定し,生徒の相互評価と自己評価を実施。
⑤授業計画と評価の観点を事前に生徒に提示し,自ら計画性を持って制作させる。
4.実習課題の設定
 以上の点をふまえ,次のような課題を設定しました。

○単元「情報のディジタル化」
 実習課題「画像の処理〜アニメーションGifの制作」
 実習時間8時間

(1)授業計画

①PaintShopPro7の学習(2時間)
②絵コンテの作成(1時間)
③アニメーションGifの制作(2時間)
④作品の整理と発表用htmlファイルの作成(1時間)
⑤合評会(1時間)
⑥評価整理,自己評価(1時間)

 最初の授業でこの計画を示し,実習時間と内容を事前に理解させたうえで制作にあたらせました。同時に実習の評価項目表も配布し,学習すべき内容を意図させました

(2)絵コンテの制作について

 アニメーションGifファイルの制作にあたり,操作ばかり気にしてあれこれ悩み実際の作品計画が進まないまま時間を費やしてしまうことが考えられました。そこで,本物のアニメーションや映画の製作現場で使われている「絵コンテ」の制作を授業の最初に提案し,それを基に計画性のある制作をするようにさせました。

 絵コンテでのアイディア・制作意図は実際の作品に十分反映できなく不完全であっても評価対象となることを伝え,作成に意欲を持たせるようにしました。

生徒の「絵コンテ」+拡大表示 生徒の「絵コンテ」+拡大表示
▲生徒の「絵コンテ」

(3)評価項目の検討

 評価を考えるあたり,国立教育政策研究所の「評価規準,評価方法等の研究開発(中間整理)」普通教科情報の【「(1)情報のディジタル化」の評価規準の具体例】の評価観点を参考にし,評価項目表の作成をしました。この評価項目表をどのように運用するかは最後の最後まで悩みましたが,一部を教師・相互評価で使い,自己評価は全項目実施することにしました。

実習課題 アニメーションの制作

 評価の観点 (1.関心・意欲 2.思考・判断 3.技能・表現 4.知識・理解)

評価項目

観点

たいへんすばらしい

おおむね満足

もう少し

改善が必要

A

B

C

D

ソフトウエアの操作(1)

4

思い通りに,自分の力でソフトウエアを操作することができた。

ほぼ自分の力でソフトウエアを操作することができた。

自分の思い通りにはソフトウエアの操作ができず,教えてもらったり手伝ってもうこと多かった。

自分の力でソフトウエアを操作することはあまりできなかった。

ソフトウエアの操作(2)

4

データファイルの保存、複製、削除は十分理解し実行できた。ファイルの参照や不要ファイルの削除などのデータ管理の意味を理解し実行した。

データファイルの保存、複製、削除は間違わず実行できた。ファイルの参照や不要ファイルの削除などのデータ管理もできた。

データファイルの保存、複製、削除は実行できたが、ファイルの参照や不要ファイルの削除などのデータ管理はできなかった。

データファイルの保存、複製、削除などのデータ管理をまちがえたり、戸惑うことが多かった。

ソフトウエアの操作(3)

4

レイヤーを有効的に積極活用し作品製作した。

レイヤーを理解し活用しながら作品製作できた。

レイヤーは部分的には活用した。

レイヤーを活用できなかった。

絵コンテの制作

2・3

制作に意図を持ち、積極的にいろいろなアイデア、表現技法を生かそうと考えた結果,納得した絵コンテができた。

いくつかの意図、アイデアを作品に反映させた絵コンテが描けた。

作品の意図やアイディアは乏しいが、とにかく作品のひな形となる絵コンテはできた。

まったくアイデアが浮かばず,そのまま作品にもとになる絵コンテは満足に描けなかった。

発表の準備

1・2

発表会の文書やhtmlを十分吟味し作成し,スピーチ内容も入念に検討し実施した。

発表会の文書やhtmlはなんとか準備はしたが,スピーチ内容など不十分な部分もある。

発表会の文書やhtmlの制作に追われ,そのほかの準備はできなかった。

発表会の文書やhtmlは不十分なままで,その他の発表準備がまったくできなかった。

絵コンテにもとずく制作

3・4

絵コンテをもとに(絵コンテ以上に)制作でき、表現に納得いく工夫できた。

絵コンテをもとに、ほぼ予定した作品を制作できた。

絵コンテとは違う面も多いが、なんとか作品制作ができた。

絵コンテは参考にならず、納得いく作品は描けなかった。

作品発表

1・3

常に聴衆を意識し,メリハリのある声で,動きと間のあるすばらしい発表であった。

おおむね聴衆を意識し,大きな声で,動きと間のある発表であった。

時々聴衆を意識していたが,声が小さく,動きと間も悪い発表であった。

聴衆をまったく意識せず,ほとんど聞こえないような声で発表していた。

相互評価の態度

1・2

すべての作品を注意深く鑑賞し,作者の意図やアイディアを評価の対象として判断し、常に同じ基準を持って,公平な評価をした。

ほとんどの作品を注意深く鑑賞し,作者の作品の意図やアイディアも評価に反映させだいたい同じ基準を持って,評価をした。

たまに作品をいい加減に鑑賞したり,他の作者の意図やアイディアも材料とせず評価することもあった。公平な評価ができない時もあった。

すべての作品をいい加減に鑑賞し,作者の意図やアイディアもほとんど聞かずに,好き嫌いだけで評価をした。

創造性

2

ユニークなアイディアを持ち,非常によく考えられた独創性に富んだものであった。

ところどころにユニークな発想が見られ,考えた部分も多く示されていた。

変化がなく,独創性のある部分は少なかった。

絵や文字を並べただけのもので,独創性は全くなかった。

制作全体

1・3

大変意欲的に、工夫しながら制作を楽しんで取り組めた。

思い通りとはいかない面もあったが、意欲的に楽しんで制作に取り組めた。

意欲を持って、楽しんで取り組くむことまではできなかった。

制作に意欲を持てず、不満足でつまらなかった。

▲観点別評価項目表 ←この表をダウンロードする(IEの場合は右クリックし「対象をファイルに保存」を選択)
5.授業進行の様子
(1)PaintShopPro7の学習

 内容からして2時間で習得するには無理があります。ただ,個々の生徒のペースで実習を重ねて行くのでは集中力や意欲を引き出しにくく,これまでのように時間がかかると考え,ここは作品制作に必要な内容を一つ一つ順次演示説明し,大切なポイントだけを生徒に実習させました。どんなことができるかという操作全容の理解を重視し,作品制作で必要に応じ選択できるようにするためです。内容量から非常に速いペースの進行でしたが,生徒の理解度はともかく,今までになく集中力が高まった授業になりました。

授業中での生徒の様子
▲授業中での生徒の様子

(2)絵コンテの作成

 いきなり書くのは無理があると考え,次の点を指示しました。

・前時に内容説明をしておく。
・アニメーション例のあるWebサイト見せて作品制作へ具体的なイメージ化をさせる。
・絵コンテは提出とし,アイディアを制作過程の評価とする。
・実際の作品で変更はかまわない。

(3)アニメーションGifの制作

 生徒は非常に集中し,熱心に取り組みました。制作にあたり,操作に関しては生徒相互で教え合うことを指示しました。これは生徒の活動の活性化にかなり効果がありました。

 制作1時間終了後,生徒たちから「このままでは予定時間に完成するのは無理」という意見が多発しました。今回は計画をむやみに延長して行くことを避けたかったので,基本的に時間内で完成できるものを作ることを指示しますが,すでに生徒は様々なアイディアをもとにイメージを膨らませてしまっています。そこで放課後パソコン教室を解放し,指導に付くことにしました。結果として合評会まで2週間以上もの期間,パソコン教室は連日満員で生徒が入りきれない熱気あふれる状態が連日続きました。

放課後のパソコン教室の様子
▲放課後のパソコン教室の様子

(2)絵コンテの作成

 いきなり書くのは無理があると考え,次の点を指示しました。

・前時に内容説明をしておく。
・アニメーション例のあるWebサイト見せて作品制作へ具体的なイメージ化をさせる。
・絵コンテは提出とし,アイディアを制作過程の評価とする。
・実際の作品で変更はかまわない。

(3)アニメーションGifの制作

 生徒は非常に集中し,熱心に取り組みました。制作にあたり,操作に関しては生徒相互で教え合うことを指示しました。これは生徒の活動の活性化にかなり効果がありました。

 制作1時間終了後,生徒たちから「このままでは予定時間に完成するのは無理」という意見が多発しました。今回は計画をむやみに延長して行くことを避けたかったので,基本的に時間内で完成できるものを作ることを指示しますが,すでに生徒は様々なアイディアをもとにイメージを膨らませてしまっています。そこで放課後パソコン教室を解放し,指導に付くことにしました。結果として合評会まで2週間以上もの期間,パソコン教室は連日満員で生徒が入りきれない熱気あふれる状態が連日続きました。

発表の様子
▲発表の様子

+拡大表示
▲生徒作品1

+拡大表示
▲生徒作品2
6.評価
(1)観点別評価

 自己評価以外は,評価項目を全て実施することは内容の質的からも,時間的にも現実的ではなく無理があることがわかりました。今回は一部しか実際に実施できませんでした。実施した評価項目の中から共通する部分の「作品発表」「創造性」を点数化して比較して見ると,生徒自身の自己評価が最も厳しく,教師(私)の評価が甘目になっていることがわかります。

 

作品発表

創造

自己評価

57.8

 67.2

相互評価

75.1

 75.8

教師評価

74.4

 82.5


(2)自己評価のコメント

 自己評価でコメントも文章記述させたところ,各項目に予想以上に詳しい感想を記述してくれました。自己評価のコメント文から,図のような感想に結びきそうな語句をExcelで検索してみました。その件数と生徒数から%を出すと,おおよその生徒の感想,様子が数量的に判断できます。例えば「楽しかった」という語句が高い数値になっていますが,今回の実習への生徒の取り組みの様子を表しているようにも思えます。また,課題自体の評価にもなりそうです。

コメント

たのし(かった)

73

おもしろ(かった)

16

うまく(できた)

31

よく(できた)

26

がんば(った)

19

(うまく)できた

81

くふう(できた)

8

ともだち(にてつだっ/たすけて)

23

せんせい(にてつだっ/たすけて)

13

きんちょう(した)

23

おしえて(もらい)

15

むずか(しかった)

17

たいへん(だった)

26

くろう(した)

12

できな(かった)

28

わから(なかった)

18

▲自己評価コメント
7.まとめ
 生徒の相互・自己評価項目を事前に示し,計画と内容を意図させて「意欲や工夫する気持ちを引き出す」という設定のねらいは今回十分に達成できたように思います。この期間「楽しんで制作に当たること」を再三訴えましたが,自己評価の各項目のコメント記述にあるように「楽しんで工夫」しながら取り組もうとしている様子が随所に感じられ,指導していてやりがいを感じました。生徒とのコミュニケーションも増し,今後の展開が生徒とともに楽しみになりました。このような大きな内容の実習は2単位の「情報」の授業の中でいくつも計画することは無理でしょうが,取り組みを活性化する点で,今回のように計画と評価項目を事前提示してゆく展開方法は,今後も検討してゆく価値があると思いました。
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