教科「情報」の実践がはじまり,コンピュータ等の情報機器を活用した実践が行われている。教科情報の授業のデータの処理,情報表現や総合実習等において,多くの教科書で取り上げられていることもあり,アンケート調査を行う実践が多く行われている。調査票を作り,回答してもらい,その結果をExcelなどの表計算ソフトウェアを使って集計・グラフ化して,PowerPointなどを使ったプレゼンテーション・スライドに取り込んだり,Webページを作ったりして,授業中に発表したり,校外の人に見てもらったりすることが多く行われている。これは,自分の興味・関心のある身近な題材を使って情報を適切に収集・処理・発信することをねらっているのである。
さて,ここで教科書を見てみると,アンケート調査の手順が説明されているが,その多くは回収された回答を表計算ソフトウェアに入力した後,いかにして見やすく,美しく,魅力あるグラフを作るか,という事項に偏りすぎているように思われる。アンケート調査を行うということは,統計手法を使い適切な方法を用いて現象を数量的なデータとして入手し,目的に応じた最適な手法を適用した上で,他の情報と総合して十分に分析し,一応の結論を出し,さらに別の観点から統計調査を行ったり個別の事例について質的な調査を行ったりしていく営みである。この一連の過程で,手順や処理を間違うとアンケートの処理によって得られた「結論」の信憑性が損なわれることが多いことが指摘されている。たとえば,古くは,ダレル・ハフ著.高木秀玄訳(1968).「統計でウソをつく法−数式を使わない統計学入門」講談社ブルーバックスB-120をはじめ,最近でもいくつかのわかりやすい本がでている(たとえば,谷岡一郎(2000).「「社会調査」のウソ−リサーチ・リテラシーのすすめ」文藝春秋)。
そうであるにもかかわらず,正しいアンケート調査を行うための具体的な手順やその基礎となる統計の知識・技能についてあまり触れられていないのは,価格やその他のさまざまな原因のために,教科「情報」の教科書の紙幅に制限があること,学習指導要領が教科情報においてはあまり数学的な内容に深入りしないよう求めていることが原因にあるように思う。しかし単純に何の方法論も持たずに,たまたま出会った人「100人にききました」のようなアンケート調査をしてデータを得たとして,そのような偏ったデータをもとにどんな高級な統計手法を使っても,美しいグラフをかいて立派なプレゼンテーションをしても,調査結果は真実ではなく,結果として人をだます方法を教えていることになる,とまで言うのは言い過ぎであろうか。統計的な知識なくして,アンケートを適切に処理できるのだろうか。 |