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法教育 -意識していますか!?
社会科教育では「法教育」に関する研究会やシンポジウムが目白押しである。
「法教育」が、今年度中に告示されるであろう「新学習指導要領」に、新たに盛り込まれる項目の一つに挙げられているからだ。
主に、公平・公正とはどういうことかを深めながらの「ルール決め」、契約などの「私法」、裁判員制度を意識した「模擬裁判」、また刑事事件の「量刑を決める」などの教材を示しながら、または実践しながらの研究報告がなされている。
私たちは(私だけかもしれないが)、新しい試みに参画するとき、どうしてもその授業の教材、方法、子どもの活動などに目がいく。授業が活発で、子どもたちの思考が深まる瞬間に触れると満足感が充満し、お腹が満たされた感じになって帰路につきがちである。しかし、それだけでは本来何を育成するのか、到達目標はどこなのかを見落としてしまいがちではないだろうか。できるだけ「この授業の目標は何だっけ?」と自分自身に問いかけるようにしている。
では、法教育の目標は何か。学習指導要領が出されればはっきりすることではあるが、これまでの研究会・シンポジウムで語られていることをまとめてみた。
- 法的なものの見方を養う
公平・公正とはどういうことか。社会生活のルールについて。 - 憲法(自由権など)の価値を知る法の基本的な考えを知る
法を遵守することの意味を知る。 - 法システムに参画する力を育成する
裁判員として社会に参画し、法のシステムに関与する方法を学ぶ。意思決定する力を養う。
大雑把かもしれないが、この3点にまとめることができるのではないかと思う。しかし、法教育の現状は、まだまだ地域差や学校差または教師の個人差があるように感じる。「法教育」というだけで「法律の専門用語が難しくて…」と身構えてしまう教師もいる。
あるシンポジウムで、「法教育は法律の専門家を育てるわけではないのです。法教育は社会で生活をしている大人であれば判断できる範囲のことです。皆で話し合い、皆で決めることを授業でして頂ければよいのです。」と激励する大学教授がいた。
とは言っても、ある公開授業では、子どもの素朴な質問に対して、教師も弁護士も法律用語を使わずに子どもを納得させることが難しい状況に陥っている場面に遭遇したことがある。
自動車事故で人を死なせてしまった事件の量刑についての授業で、
「どうして人の命を奪ってしまったのに、罰金でよいのですか?人の命はお金では買えないのに。」という子どもの質問に対して、終始苦笑いで、「業務上過失致死とは…。罰金のお金は遺族に支払うのではなく、国に払うので…」などとたじたじであった。おそらくその子どもは納得できないままに終わってしまったと思う。
また、ある県の弁護士会が作成した教材は、よく内容が練られていて要素が盛り込まれてはいるが、とても授業時間内では扱えない量の資料になってしまっていて、授業では活用できないという状況もあるようだ。
法教育で扱う教材には「正しい答え」がないものがほとんどである。したがって、子どもたちの質問・疑問もそれぞれの子どもがもつ経験や正義感から発せられるものが多い。教材作成や授業実践を通して、今まさに子どもの質問に対して、難しい法律用語を使わずに説明するということの難しさを感じているのではないだろうか。
法教育が始まるにあたって不安なことは何ですか?
何度かの研究会・シンポジウムを通して先生方に取材することができた。
一番多かったのは、「弁護士さんをどのようにお呼びすればいいか分からない。」だった。これについては、各都道府県にある弁護士会に電話をすればどんな些細な質問にでも答えてくれるようシステムが整っているとのこと。例えば、東京弁護士会では、法教育センター委員会が設置されており、60~70名の弁護士が対応できるようになっている。
続いて興味深かった教師の不安として。
・「黙秘権」をどのように教えるの??
生活指導では、「悪いことをしたら素直に全部正直に話しなさい」と子どもに言う。黙秘権との矛盾を感じる子どもが多い。もし、生活指導の時に黙秘権を行使されたらどうしよう…。
ある弁護士にきいてみたところ、
「制度論ではないかと思う。供述が強要されることを防ぐためにある。拷問などで人権が侵されることのないようにするため。と教える。」や、
「逮捕されて刑罰につながるところで出てくるのが黙秘権である。と教える。」という。
また、法教育について研究されている大学教授は、
「国家権力に対してのみ行使するのが黙秘権である。と教える。」そうだ。
・子どもの法感覚に差がある??
法教育では、「いろんな人の意見がある」ということを知ることが第一歩と言うが、ある事件の量刑について班ごとに意見を出し合ったら、「無罪」「死刑」「懲役3年」「懲役30年」「罰金100万円」・・・さらにはどんな事故・事件であっても人の命を奪ってしまったら自分の命でしか償えないのでないか。など様々な意見がでた。いろんな考え方があることはわかったが、バランス感覚を養う必要はないのだろうか?どこまで授業で取り上げるべきなのだろうか?
ある弁護士の話では、
「この場合に「死刑」はありえないよ、と知識を教える必要はあると思う。しかし、詳しく業務上過失致死の場合の量刑の幅についてまで答えることはないと思う。」
また別の弁護士は、
量刑の知識を覚えさせることが授業の目的ではないのだから、なぜそう思うのかきちんと理由を述べさせ、いろんな考え方があることが理解できればそれでよいと思う。
子どもの質問で、教師も弁護士もうまく答えられない場面に遭遇した。
その質問は、
「どうして、弁護士さんは、悪いことをした人を守る(弁護する)のですか?」
さぁ、あなたなら、どのように子どもに答えるだろうか?
この質問について、どのように答えるのかまたの機会に取材してみようと思う。