一緒にシネタイム 子どもも、大人も。学び!とシネマ

「終りよければすべてよし All's Well That ends Well

それでも生きる子どもたちへ 人はいつか死ぬ。これは避けられないことである。元気だったのに突然の死も多い。少しづつ衰えての死もある。ずっと寝たきりでの死。その違いはあっても、人はいつかは死ぬのである。
 2年ほど前に、映画監督の羽田澄子さんは「安心して老いるために」という映画を撮った。
 死を前にしての医療のあり方があちこちで議論されている今、羽田さんは一歩進んで、「理想的な死とは何か」を考えた。現実に羽田さんは、肉親の死に何度かたちあっている。
 自宅で、家族や親しい人に囲まれて、静かに息を引き取る。とりあえずはそれが理想的ではあろう。しかし現実はどうか。
 いまの日本では、病院で死ぬケースが80%、自宅での死は13%という。かつて、昭和30年ころまでの数字とまったく逆である。それだけ医学が進歩したのかもしれないし、寿命は延びたのだろう。が、しかし今では、高性能の延命装置で生き延びることが可能になっている。。そこには生命の尊厳とは何かという問題もある。いたずらに、ただ長く生き続けることが、果たしていいのかどうか。

 映画は、5つの事例を報告する。

それでも生きる子どもたちへ 「ライフケアシステム」は、東京を中心に、会員制の在宅医療を進めている。「サンビレッジ新生苑」は、岐阜県池田町の特別養護老人ホーム。「安心して老いるために」の舞台になった施設で、ターミナル・ケアの先進的事例である。この施設のお手本になったのが、オーストラリアのバララット市の老人福祉施設「バララットヘルスサービス」で、映画はここのシステムを取材。運営は基本的には税金でまかなわれている。
 福祉大国、スウェーデンのターミナル・ケアに取材する。在宅医療の充実ぶりは、見事なものである。日本にも医療法人「アスムス」が栃木県にある。診療所、老人保健施設、ディセンター、訪問ヘルパーなどの事業も。静かに、ゆったりとした報告である。映画は淡々と、いま行われている終末医療の事例を紹介しているだけである。では、いま私たちはどうすればいいのか? 日本の老人医療の現実はどうなのか? 医療の必要な予備軍たちの福祉の現実はどうなのか?

 この映画の投げかけた問いは重い。

●公開は2007年6月2日 岩波ホールにて