美・知との遭遇 美術教育見聞録 学び!と美術
授業は感性を交流させる喜びから
春という「美」の指導
導入事例Case3.4掲載
このページを見ていただいている先生方から、「今月のPhoto」についても感想をいただくことがあります。私は常にカメラを持ち歩き、心動かされるものを撮影しようとしています。時には、「春」を撮ろうとドライブすることもありますが、気に入ったショットのほとんどは出会い頭に生まれています。
「美」を表すには、造形が優れた方法と思っていますが、若い頃は歩くように過ぎていた時間が、歳とともに走るように過ぎ去るのを感じ、感動を手軽に記録できるコンパクトデジカメを愛用するようになりました。HDDに溜まる画像は、紛れもなく私が見た世界であり、そこから感動を切り取ったものです。それを授業の変わり目に学生に見せることが楽しみの一つになっています。
春の遅い福島県では、遠くの雪山を背景に桜やツツジの花が咲き乱れる季節が4月中に出現します。場所によっては5月中旬まで楽しめます。そんな春爛漫を、福島に暮らす子どもや学生が知らずに育っていると感じたことがあります。4月最初の授業を休止して、外に連れ出したこともありました。改めて観察画の重要性を感じたりしますが、教師や地域の大人も「美」を感じる感性を閉じているのかもしれません。私も満開の桜の下で、できるだけ感動を言葉にしようと試みますが、撮りためたデジタル画像を見せながら私の説明を聞く生徒や学生の表情は、他の時間より真剣に思えます。その後、子どもたちや学生の方から以前に見た不思議体験や、昨日見た虹の感動などの話が多く寄せられるようになりました。
「美」の価値観は、学習によって得るものです。そして、時代や地域によって価値評価の基盤や風土的な感覚が当然変わるものです。人によって感受された「現象」や「もの」がどのように心情的な変化となるのかを表現し合わなければ、放置された子どもたちの感性は人間性の一部とはならないでしょう。例え指導者の感性が特異なものであっても、子どもたちは多く寄せられる感動情報から自らの「美」の価値観を形成し、表現やコミュニケーションの核となる感性を豊かに育んでいくと考えられます。そして、多様な感性の交流と共感は、表現意欲を生じさせ、人や社会を知るための幹糸になるはずです。雑務に忙殺され絵や彫刻に表す時間のない教師にも、デジカメは感動を伝えるささやかなチャンスを与えてくれています。
ぜひ、「私」という指導者を子どもたちに伝えるために、私の見た世界を切り取ってみてください。そこから授業の導入が始まります。
導入事例 Case3
小学5年 『アニメーションにちょう戦!』(4時間)
- デジカメでコマ撮りした画像をパソコンでつないでアニメーションをつくる授業です。
◎導入の工夫
<場所>パソコン教室の大型モニターに「アニメーションにちょう戦!」のタイトル動画を映す
- C
- どんどん文字がでてくるよ。こんなアニメーションつくれるの?
- T
- 実は簡単にできちゃうんだ。
- C
- えー。ほんとう?
- T
- 本当のアニメーションは1秒つくるのに30枚の絵をかくんだけれど、今回使うのは、パソコンとデジカメなんだ。この2つを使うと簡単にできちゃうぞ。まず、このマウスが動くアニメをつくってみるよ。撮影に2分、画像を取り込むのに1分、アニメ合成に1分というところかな。よーく見ててね。
- C
- 先生、本当に4分でできるんですね?
- T
- もし4分より多くかかったらごめんね。たぶん4分もかからないからね。じゃあ始めるよ。(少しずつマウスを動かしながら30コマ程度撮影。)
いいかい、動かすものは2センチぐらいずつ動かすんだよ。カメラは花マークのマクロモードで撮影することを忘れないでね。フラッシュはつけちゃだめだよ。 - T
- (1分程度で撮影を終えて)撮影終了したから、データをパソコンに取り込み、このアイコンを押して、撮影した画像を選択すると…。ほーら、アニメーションができた。
- C
- もうできたの?先生。おー、マウスが動いた。ほんとうにアニメだ。すげえ。
- T
- つくり方もだいたいわかったね。じゃあ、班ごとにデジカメを渡すよ…。
- ※撮影の留意点、データの取り込み方、GIFアニメーション作成ソフトの使い方を説明し、班ごとに試作を行った。
- ※この題材の詳細は、日文教育資料:図画工作・美術「わくわくどきどき題材アレンジにトライ!(2009年1月25日発行)」P28~をご覧ください。
H先生の実践授業
導入事例 Case4
中学1年 『墨象 -墨・いろ・かたち-』
- “漢字”を素材として自己の呼吸や鼓動を感じながら、身体中からにじみ出る思いを“かたち”にする授業です。
- 教師の想い:
無心で無自覚な行為から、自分の中に眠っている美質を発見してほしい。 自由で素直な表現から、他者の作品の良さや幅広い見方を学んでほしい。
◎導入の工夫
- T
- このふたつの作品は名だたる画家の作品です。みなさん、どう感じますか?
- S
- おお!なんか、格好いい!でも先生、何が描いてあるのかさっぱりわかりません。
- T
- そう。そこが大切なポイントです。実は、この絵はどちらも“漢字”なのです。しかも、描いたのはみなさんの先輩です。どう、素晴らしいでしょう。
- S
- へぇ~、でも、一体何の漢字なのだろう。
- T
- 軽やかなリズムの線で描かれた左の作品は「舞」を、大きく伸びやかな線を使った右の作品は「蝶」を表現しています。
- S
- そう言われれば確かに、漢字のイメージが…。
- T
- では、漢字がもつ形や意味からイメージを広げ、自由に伸びやかに表現してみましょう! (美しく魅力的な線でイラストボードへ一発勝負の清書をし、完成させます。)
S先生の実践授業