美・知との遭遇 美術教育見聞録 学び!と美術
研究会組織の小中連携を
導入事例Case1.2掲載
以前にも少し触れましたが、各地区の美術教育研究会や作品審査会に参加して、活気が失われていると感じることが多くなりました。近年、都市部では、大量の教員採用があるにもかかわらず、時間数が削減され続ける美術科は、研究会の組織会員数が目に見えて減少していると思われます。都市部以外ではその傾向がより顕著で、過疎化や少子化の影響もあり、美術の教員がいなくなる中学校が急増しています。県内の研究大会を引き受けることすら困難となっている地区も出ているのではないでしょうか。小学校の図画工作部会と中学校の美術部会が協力して、この難局を切り抜けていただきたいと思います。
それでも、少なくなった美術科教員が地道に授業に熱を入れ、私たちが教育の方法として優れることを確信する「造形表現による教育」を広くアピールし、学び続ける子どもたちや学んできた大人の理解を得ることから、まずは始める以外に改善の方法はないのでしょう。
図画工作や美術の学習を経験した大多数が、教科としての重要性を認めることが最大の味方を得ることになります。
知恵を伝承し、進化する美術教育
私が日文の教科書編集に加わるようになる前の教科書(平成元年版)美術3(表紙:マグリット)の「記念品をつくる」ページに共同制作「陶板のレリーフ(生徒作品)」があります。この頃は、美術の作品制作として、芸術に収斂されていくような、あくまでも個人制作が主流としての考えが強かったようです。ですから、この共同制作がとても印象的でした。その後、共同制作が多く取り入れられ、現在では、学びの意味に照らして多くの実践が行われるようになっています。当時は、「個人が制作するはずの作品を共同で行うというのはどういうことか。」「評価はどのようにできるのか。」というのが、私の先輩たちの疑問でした。
人間関係が希薄化する社会であるからこそ、子どもたちが集団の中で学ぶことの重要性を私たちは知っています。知恵を合わせること、アイデアをもち寄ることから前進する子ども集団を私たちは評価しています。表現力とは、コミュニケーションの初動です。そう思う私たちこそ孤軍奮闘する職場から発信して、美術教育者の研究組織を整備し、知恵を寄せ合い、アイデアをもち寄る必要があるのです。その重要な場である美術教育研究会の活性化は、どんなに会員数が少なくなっても維持しなければなりません。
その足掛かりのひとつになればと思い、今回から授業の「導入事例」がスタートします。
先生方の授業改善のヒントや研究会での話題としていただければ幸いです。
導入事例 Case1
小3『自然の中でかくれんぼ』(2時間)
- 保護色の昆虫をつくって自然の中にかくし、探し合う授業です。
- 授業の布石
- 国語科「自然のかくし絵」の学習から「保護色」の意味を理解した。
- 色水遊びの学習から「混色」を学び、総合的な学習で近くの山に出かけ「生き物」探しを行った。
◎導入の工夫<場所>よい子の森(林のある学校の前庭)
- T
- この前、弁天山に行って生き物を探したね。みんな上手に隠れてたね。それを何て言ったっけ?
- C
- 保護色!(教師は児童の前でポーズをとって一回り。花と葉っぱ柄のTシャツを着ている。)
- C
- あっ、先生の服のところにも保護色の虫が隠れている。
- T
- 周囲の「よい子の森」にも先生がつくった保護色の虫が隠れていますよ。さあ、探しましょう。
- C
- (歓声を上げながら探して)あった!見つけたよ。
- T
- この虫(探してきた虫)の色は、どの色を混ぜてつくったと思いますか?
- C
- 先生!量だよ。絵の具の量を変えると違う色ができるんだ。
- T
- なるほど、混ぜる絵の具の量を変えるといろいろな色ができそうだね。絵の具の量にも気をつけて保護色をつくってみましょう。虫ができたら、自然の中で虫のかくれんぼをしましょう。
(今回は色づくりに焦点化して行うため、虫の形はあらかじめ教師が準備した)
A先生の実践授業
導入事例 Case2
中3『あのシーンを立版古に』
- 紙(ボール紙など)を加工し、文化祭の演劇の一場面を遠近法を生かして立体表現する授業です。
- 教師の想い
◎導入の工夫
- ペーパークラフトの実物を示す。「ポップアップ絵本」「メッセージカード」「紙ロボ」等
- 発想練習:レイアウトや重なりによる遠近法を学習する。
- 試作:ステージとなる土台にフリー素材から切り取った写真やイラストを貼って立体化する。
I先生の実践授業