美・知との遭遇 美術教育見聞録 学び!と美術
遺す
中本達也との出会い、子どもたちへ何を遺せるのか
中本の記憶
中本達也(1922-1973)について書く資格が、私にあると思えませんが、亡くなってから35年間忘れることのなかったことを理由に書いてみることにしました。
私が中本達也に出会ったのは美大受験の時でした。入試監督として机間巡視をしている姿からすでに存在感を感じていました。入学してから、中本達也の画風や第3回安井賞(1959)を受賞しているなどの経歴を知ったわけですが、最も強烈な印象は、千葉県の鋸山に巨大な岩壁彫刻を始めたということでした。手伝いにかり出されたゼミ生から聞く興味深い話が新鮮に感じられたものです。中本達也は、それまでもいろいろな表現方法を試みた作家であったようですが、彼が認められたのはタブローであり、大学では絵画ゼミの先生でしたから、岩壁彫刻を始めたと知ったときは理解に苦しみました。
若い私の結論は「半永久的に遺る岩に自らの生の痕跡を刻む。」という理解でした。
その考えが的中したかのように中本先生の病気が伝えられ、翌年に51歳の若さで亡くなられました。私は、大学のキャンパス内の芝生で黙祷しているゼミ生の姿を見送るだけでした。
以来、人間が美術をすることの意味と美術の学習を課すことの目的を考え続けることになった私には、中本達也の存在が、私の思考回路を楕円とすれば、つねに一方の中心にあったように思います。それは、生きることの意味や表現することの価値を考え続ける必要を私に教えたからだと感じています。美大では、版技法や描画材について学んだし、合評会では絵の見方について教わってきたはずなのに、具体的には何一つ思い出せません。まして、講義の内容の記憶は全くといっていいほど消滅しています。ただ、仲間たちの記憶やセピア色の風景と共に、中本達也先生の記憶だけが私の中で消えることはなかったのです。
教師の存在
教育の場で、私たちが子どもたちに何を遺せるのかを考えると、明日からの授業を大きく変える必要があるのかもしれません。大学生たちは、自分が使っていた美術の教科書や美術資料を見ると必ず反応します。そのくせ内容は忘れていて表紙だけを懐かしみます。現学生は表紙がモディリアーニ(1年)の教科書に反応しますが、表紙が新宮晋、裏表紙が絹谷幸二の美術資料は弟の代に移っているようです。私たちが小中学生に課す学習課題や知識・技術は、どれほどの意味を伴って彼らの中に残っているのでしょう。表紙だけが記憶に留まっているだけの授業は、まったく無意味な営みなのでしょうか。
人が人に教えるというのは、具体的で細切れの知識や理解でもなければ、技術や巧みな言葉でもないと私は考えるようになっています。子どもたちには、何を教わったかということより、誰に教わったかの方が重要であったりもします。私たちが児童生徒に見せる存在そのものが記憶され、学習活動や教科書はそのための教具として役立っているにすぎないのかもしれません。私たちが生あるうちにこだわっている煩悩の中枢は生身の人間関係にあると感じませんか。
一方で、私たちが学びの恩恵とする知識に代表される学習内容は、洗練され、計画的に教育されるよう編まれています。その内容の多くは誰の発見であるかは問題ではなく、生きる知恵のデータベースをつくり続けてきたダークマターのような存在が、偉人のように輝くこともなく築いてきたものです。生命の連鎖の中で知恵の集積と伝承を忠実に行ってきた偉大な価値をもっています。
ただ、それを人が教えるからこそ「活用」の方法や生きる目的を考えさせることが伴ってくるのです。私たちが造形表現をするときのように、生きることにも「主題」や目的があり創造的であるべきなのです。そのことを考え続けるきっかけを子どもたちに与えられたら、私たちの存在も少しは輝くときがあるのかもしれません。
穴エビ捕り
今年の夏は、大遊びするぞと意気込んではみたものの、果たして例年並みの貧弱な夏休みとなりました。その中の小さな遊びを紹介します。「穴エビ捕り」(和歌山県串本町)です。
準備物:水中メガネ、シュノーケル、虫かご、スコップ
地方名「あなえび」です。黒鯛釣りの絶好のえさですが、食用にはしません。泳いだり砂に潜ったりする様子がかわいいので、水槽飼育がおすすめです。スナモグリのように見えますが、小ブリの穴ジャコだと思います。
捕り方
- 河口近くの中州で、水深30㎝くらいまで入って水中を覗きます。干潮時は干潟まわりの水深5〜10㎝のところで裸眼で探せます。
画像:河口近くの中州 - 川底にこんな穴がたくさん発見できたら、
画像:川底に穴発見 - 穴の周りをきれいにして、囮をその穴に入れます。
画像:囮を穴に - 逃がさないようにシッポを持って待つこと数分。
画像:尾を掴んで待つ - 先住エビとケンカになると、手に冷水を感じ砂煙が上がります。
画像:住人とケンカに - 囮が必ず負けるので、シッポを持つ手を緩めると戻ってきます。
画像:私の指をつつく囮
- ※手探りで先住エビの爪を感じたら掴んで引き出します。
- ※スコップは最初の囮捕りに使います。砂利のない水深30㎝前後の砂底に深く入れ、砂をすくい上げます。幾度か続けると、小さい穴エビが捕れますので、それをまず囮エビにします。