美・知との遭遇 美術教育見聞録 学び!と美術

ものづくりの面白さは漁(猟)から?
うなぎ捕り仕掛け「うなぎ石」で遊ぶ

画像:今月のPhoto 雷雲に消えた風力発電(福島県郡山市)

思春期前後の子どもたち

 「絵は嫌いだけど工作なら好き」と言う小学生のイメージは、すでに過去のものでしょうか。
 図工や美術の時間の表現は、その表現をしなくてはならない理由をよく考えてみると、教育的にも個人的にも意味づけるのはとても難しいことです。幼少期から小学校低学年の頃までは、絵を描いたり粘土をいじったりするだけで楽しくて、夢中で無邪気な時間を過ごすことができます。「先生、なんで絵を描かかないといけないの」といった質問をすることはないでしょう。ところが、自分の行為の意味を考えるようになる小学校高学年頃から、「絵は嫌いだけど工作なら好き」という児童が多くなるのではないでしょうか。
 工作には、絵に表す活動より明確な「用」という目的があり、それが表現する初動的理由の一つになっているとも考えられます。「用」のない「美」に価値を見出すのは私たちの成長の大きな転向点なのかもしれません。

 文化史を考えてみても、表現されたものに芸術的な価値や心理学的な意味をもつようになったのは近代のことです。児童が表現する自らを客観視するようになったからといっても、抽象的価値を認識できるのは簡単のことではありません。人類の文化史は、生活的に、あるいは政治的に、宗教的に、そして漁(猟)のために、絵で表したり、もので造ったりしてきた歴史です。その歴史を反芻するかのように私たちは文化を教育され、高度な価値や芸術的価値を知るに至るわけです。
 しかし、大人社会においても絵画や彫刻作品の価値付けは専門家に委ねているのが現状です。ですから、中学生や高校生が風景を描いたり、個々の内面にあるイメージをイラストなどに表す行為すら、驚愕すべき彼らの成長の証であり、教育の成果と言えるのではないでしょうか。
 本来は、思春期前後の図工や美術の指導は、とても難しく大変なことなのです。子どもたちの学習の意味を、受験などの安易な目的ですり替えることなく、表現意欲を持続させるのですから…。

ものづくりの動機が生まれるような遊びをしよう

 一方で、「理科離れ」が懸念されています。「絵離れ」とは比較にならないほど迅速に大掛かりに理数大好き企画が各地で進行しています。その裏側で、科学と常に連動して進歩発展してきた技術離れを心配しているのは私だけではないと思います。
 戦後の復興期にギャングエイジを過ごした世代は、遊びの道具やルールをつくってからが本番の遊びでした。その影響は、彼らが体力の衰えを感じるようになってからもあり、小さな板の端材やビニル袋、ひも、輪ゴムが捨てられず、また、生活用品などが必要なときは、まず自分でそれを作れないかと考える習性があります。最近はブラックボックス化した製品が多くなり、早々と自作を諦めざるを得ないのが常ですが、家族から棚づくりなどの依頼があると、帰宅時間が早まったりしました。
 例えば簡単な棚でも「用」という明確な目的があるものには、設置場所に合った発想が必要です。まず造形的イメージと材料を決め、簡単な設計図ということになります。そこからは技術的で科学的な領域に踏み込まざるを得ません。材料欠乏や加工道具の不備により、知恵と工夫の必要に迫られ、「制約が発想の母」と感じたりしました。その苦労が楽しく、ものづくりが材料性や構造性から科学世界へと誘ったように思うのです。
 直接的に、理科離れを防ごうと昆虫教室を開いたり、宇宙の不思議を説いてみても砂上の学問です。技術や科学に直面せざるを得ないものづくりに、子どもたちを向かわせ、知恵の偉大さや文化価値に目覚める科学探求の基礎固めが必要でしょう。現代っ子たちに不十分なのは、遊びの中にものづくりの動機が生まれるような場であると感じています。

 多感な時期が復興期であった世代も、子どもたちの親世代を助けて戸外に子どもを連れ出して遊びを教える必要があります。そのチャンスが夏休みです。

うなぎ捕り仕掛け「うなぎ石」

 紀州のうなぎ捕り仕掛け「うなぎ石」を紹介します。

イラスト画像:紀州のうなぎ捕り仕掛け「うなぎ石」

吉野川でも同じような仕掛けを見ましたから、徳島や高知でも同様かもしれません。
仕掛け作りの準備物は鋤簾(ジョレン)です。

  1. 水深30㎝程で、川底が砂と砂利混じりのやや固めのところを探します。
  2. 鋤簾などで深さ30〜40㎝の穴を掘ります。穴の直径が50〜60㎝になるはずです。
  3. その中に握り拳大の石を放り込んでいきます。二段並びくらいになったらさらに大きな石を積み上げます。最後は持ち上げられる程度の大きさということになります。
  4. 図—1のようにきれいに積み上がり、水面に石が見える程度になったら完成です。
  5. 1週間ほど待ちます。
    捕獲時の準備物はシュノーケルと水中めがね、うなぎ鋏、蓋付きバケツです。
  6. 水中めがねで覗きながら慎重に石を一つ一つ退けます。(うなぎは底の方にいることが多い)
  7. 石の隙間にうなぎが見えたら、うなぎ鋏で挟んでバケツに入れます。
  8. 石を元に戻せばまた一週間後に遊べます。
    近年は天然うなぎが減少しています。期待は裏切られるかもしれませんがワクワクする待つ時間をお楽しみ下さい。うなぎ鋏はうなぎを傷つけます。大きな網等で捕獲すれば水槽で飼育することもできます。