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ICT・EducationNo.8 > p6〜p9

教育実践例
星林高校の情報教育
和歌山県立星林高等学校 山東 卓
t-sandou@peach.ocn.ne.jp
http://www.naxnet.or.jp/~seirin
1.はじめに
 本校は和歌山市南西部に位置し,各学年とも普通科6クラスと国際交流科2クラスが設置されている高校です。

  平成10年度普通科入学生からの教育課程が変更され,学校設定教科として「情報」が設置されています。また,国際交流科においては専門教科の中に「情報・通信Ⅰ」「情報・通信Ⅱ」の2科目が設置されています。そこで,以下に本校の情報教育の概要とその中のいくつかの実践例を報告します。
2.本校で実施している情報関連の授業
(1)普通科

普通科では以下に示す3科目を2・3年次で実施しています。
[1] 情報処理Ⅰ(2年次:2単位)
[2] 情報処理Ⅱ(3年次:2単位)
[3] 情報数学(3年次:2単位)

(2)国際交流科

国際交流科では専門教科の中で情報関連の授業として次の2科目を実施しています。
[1] 情報・通信Ⅰ(2年次:2単位)
[2] 情報・通信Ⅱ(3年次:2単位)

星林高校外観
▲星林高校外観

授業風景
▲授業風景
3.学校設定教科「情報」
 本校では2年次より類型制を実施しており,普通科の生徒は「文Ⅰ」「文Ⅱ」「文理」のいずれかを選択します。さらに「文Ⅰ」類型は「芸術選択群」「語学選択群」「情報選択群」の3群から構成されており,2年次から「情報選択群」の生徒は「情報」の3科目を履修します。以下にその概要を示します。

(1)授業目標

  現在実施している学校設定教科「情報」が,平成15年度より実施される新教科「情報」に移行できることを目標に次の4項目を授業目標として設定しています。この授業目標は,国際交流科の「情報・通信Ⅰ」「情報・通信Ⅱ」にも適用しています。

【目標】
[1] コンピュータリテラシーの育成
[2] 情報活用能力の育成
[3] 情報の科学的な理解力の育成
[4] 情報社会に参画する態度の育成

(2)授業形態

  情報関連の授業は1科目を2名の教員が担当し,ティームティーチング方式で授業を行っています。それぞれの科目において,担当している2名の教員が授業内容やその都度の授業進度,到達目標を検討したり授業で使用するテキストを作成したりしています。授業は毎時間コンピュータールームで行い,授業の冒頭には1名の教員が授業の内容を説明しますが,その後は2名の教員がともに教室内を巡回して生徒の指導に当たります。

(3)実施科目とその内容

[1] 情報処理Ⅰ(2年次:2単位)
・コンピュータの基本操作
・文書処理
・プレゼンテーション
・ホームページの作成
・メールの活用
・コンピュータの基礎知識
・表計算と情報分析
・データベース
[2] 情報処理Ⅱ(3年次:2単位)
・コンピュータ操作の復習
・ネットワークコンピュータの基礎知識と基本操作
・イントラネット上でのメールの活用
・双方向の通信
・ネットワークディスカッション
・テーマ別研究調査と発表
・卒業制作
[3] 情報数学(3年次:2単位)
・basicプログラム作成に必要な数学理論の学習(集合,n進法,確率・統計・実験的検証,オペレ−ションリサ−チ)
4.国際交流科における情報教育

 国際交流科は,国際化時代の進展に対応し,国際間の理解や交流を促進するとともに,個性豊かで国際感覚を備えた人材の育成を目指して,昭和63年4月に設置されました。国際交流科では,交流活動に情報通信ネットワークが活用できることを目標として,専門教科の中に「情報・通信Ⅰ」と「情報・通信Ⅱ」が設置されています。

  この2科目の授業の概要を以下に示します。

(1)授業形態

  普通科の情報関連授業と同様,それぞれの科目を2名の教員がティームティーチング方式で担当しています。授業の進め方についても,普通科の授業と同様です。

(2)各科目の授業内容

[1] 情報・通信Ⅰ(2年次:2単位)
・コンピュータの基本操作
・文書作成
・表計算の活用
・データベースの活用
・ホームページの作成
[2] 情報・通信Ⅱ(3年次:2単位)
・コンピュータ操作の復習
・ネットワークコンピュータの基礎知識と基本操作
・イントラネット上でのメールの活用
・ネットワークディスカッション
・情報の収集と発信(調べ学習)
・情報検索と企画書の作成
・応用実習(TV会議システムを用いた海外姉妹校との交流等)
・卒業制作

5.実践例
(1)テーマ別研究調査と発表

  これは,「情報処理Ⅱ」で本年度実施した授業内容です。その内容を以下に紹介します。

【授業展開とその概要】

[1] 企画会議(2時間)

  テーマの選定や調査方法・作業分担・発表方法について検討。今回選んだテーマとその目的は,以下の通りです。
  テーマ:紀州徳川家−和歌山と徳川家との関わり−
  研究の目的:数年前,江戸幕府8代将軍吉宗がクローズアップされ,それに伴い和歌山も吉宗ゆかりの地としてその名前が全国に広まった。今また徳川家のことがクローズアップされている。そこで,私たちの身近にある徳川家ゆかりの地についてもう一度調査・研究することを考えた。

[2] テ−マについて,インタ−ネットや文献を用いて調査・研究を行う。(2時間)

  あらかじめ,文献やインターネットにより和歌山県内の徳川ゆかりの地について調査しました。その結果を基にフィールドワークを行う場所を選定しました。

[3] フィールドワーク(現地調査)を行う。(2時間)

  土曜日の放課後を利用して,担当教員2名の引率のもと,[2] で選んだ場所のフィールドワークを実施しました。これにより,事前調査では得られない情報を収集することができました。

聞き取り調査
▲聞き取り調査

現地調査
▲現地調査

[4] 調査・研究した内容をホ−ムペ−ジ上にまとめる。(4時間)

  様々な形態での情報収集の結果をHTML形式にまとめました。まとめる内容については,フィールドワークを実施した場所別に担当者を決め,HTML形式でまとめました。

完成作品
▲完成作品

[5] 発表会(1時間)

  完成した内容をビデオプロジェクターでスクリーン上に映し,それを元に各制作担当者がその内容を発表しました。発表者の共通した感想は次の通りでした。

《生徒の感想》
  「自分たちの住んでいる地域のことがよくわかった。」
  「今まで何気なく通り過ぎていた場所を,注意深く見るようになった。」

(2)情報検索と企画書の作成

  「情報・通信Ⅱ」ではインターネットなどの情報通信ネットワークを活用した授業を実施していますが,この分野では実際に旅行企画書を作成しました。その授業展開を紹介します。

【授業展開とその概要】

[1] 実習課題の説明と作業班の編成生徒に提示した実習課題は次の通りです。

《実習課題》
  和歌山市西浜の「星林商事株式会社」の社員5名が会社の慰安と研修を兼ねて北海道に旅行することになりました。日程は平成13年3月10日〜3月13日の3泊4日です。この期間の旅行・研修条件は下記の通りです。また,この会社は酪農製品を扱っており,その関連会社の視察もしてみたいと思っています。

〔旅行・研修条件〕
・期日:3月10日〜13日(3泊4日)
・行先:北海道
・利用交通機関:飛行機または鉄道
・費用:一人あたり10万円を上限とするが,なるべく安くしたい。
・宿泊:夜はゆっくりと温泉につかりたい。
・観光:時間を十分に使ってゆっくりといろんなところを見たい。
・研修:3泊4日の期間中に1カ所は関連会社の視察もしたい。

〔課題の実施方法〕
  みなさんは旅行会社の企画担当になったつもりで上の課題を行ってください。班別で仮想旅行会社を作って企画を立ててください。ただし班のメンバーは誰がどの部分を担当したのかわかるようにしておいてください。そして次の要領で企画を提案してください。

〔企画書〕
  使用するソフトは一太郎とします。様式は各仮想会社に任せます。

〔企画用プレゼン〕
  HTML形式,パワーポイントなどどんな形式を使ってもよいです。

〔注意事項〕
  いろいろな手段で情報を収集してもよいですが,絶対に予約をしてはいけません。
  以上の要項のもと,生徒は数名で仮想旅行会社を構成し,それぞれの仮想会社での各自の役割分担と作業段取りを作成しました。

まとめた内容の1例
▲まとめた内容の1例

仮想会社による作業
▲仮想会社による作業

[2] 情報の検索と企画書の作成

  各仮想会社は課長,係長,社員で構成され課長が全体を掌握しながら作業が進みます。各会社は課題条件に見合った交通機関や宿泊,観光場所等を検索し,その結果をもとに企画書を作成します。

  また,会社によっては,交通費や宿泊費などの費用明細書を表計算ソフトを用いて作成しているところもあります。

インターネットによる検索
▲インターネットによる検索

パンフレットによる収集
▲パンフレットによる収集

[3] 企画の発表会

  各仮想会社は作成した企画を持ち時間5分で発表します。会社によっては作成した企画書をプリントアウトして事前に他の会社のメンバーに配布したところもあります。また生徒は,以前からもこのようなプレゼンテーションを経験しているため,手際よく発表していきます。


▲各仮想会社の発表

企画書のプレゼンテーション
▲企画書のプレゼンテーション

[4] 情報検索アンケートの実施

 発表会終了後,次のようなアンケートを生徒に実施しました。このアンケートによるの生徒の感想を以下に示します。

《情報検索実習のアンケート》
 今回実施した情報検索の実習について,次のアンケートに回答してください。

1.検索実習全体について
[1] とてもおもしろかった。
[2] 興味を持って行えた。
[3] あまりおもしろくなかった。
[4] 全然興味がわかなかった。

2.1.の回答の理由を下の枠の中に記入してください。

3.みなさんが旅行に出かけるときには,このような検索を行ってみようと思いますか?
[1] はい
[2] いいえ

4.今回の実習で苦労した点を下の枠の中に答えてください。

5.今回の実習の感想を下の枠の中に書いてください。

《生徒の感想の抜粋(原文)》
 「最初は楽しかったが,最後ぐらいになってくると疲れた。でも北海道のことがたくさんわかったし,インターネットを使っての応用も少しわかってきた。みんなのプランを聞くのも楽しかった。」

 「ここまで詳しく北海道について調べたら北海道に行きたくなった。」

 「コンピュータを使うのはあまり得意じゃないので難しかったが,この実習を通して,いろいろ現代の情報通信のすごさを学びました。」

 これ以外にも,この情報検索に興味を持った意見が多数寄せられました。
6.おわりに
 本校では,以上に示したように,文書作成,表計算,データベース等,個々のアプリケーションソフトの操作を生かしながら生徒の情報活用能力を向上させることを目標に情報教育を行っています。

  また,本校の姉妹校であるオーストラリアのウエストール・セカンダリーカレッジとの間で情報通信ネットワークを用いた交流活動も行っています。

詳しくはhttp://dewey.westallsc.vic.edu.au/media/default.htmをご覧下さい。
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