ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.8 > p10〜p13

教育実践例
光ファイバー網活用報告
−「課題研究」に焦点をあてて−
神奈川県立神奈川総合高等学校 石谷優行
ishitani@kanagawasohgoh-h.ed.jp
http://www.kanagawasohgoh-h.ed.jp
1.本校の概要
 本校は,「個性化」「国際文化」という2つのコースを持つ神奈川県下唯一の単位制による全日制・普通科の高校です。

  生徒達は入学時に3年間の履修計画を立て,それに基づいて時間割を作り,その時間割にしたがって授業に出席します。「自由」と「自己責任」を常に意識して学校活動に取り組んでいます。ここで本校の特色を挙げてみます。

本校の特色

(1)一日90分授業が4コマ。前期,後期の2期制。
(2)入学時からの履修計画による各自の時間割。
(3)その時間割にそった登校下校(空き時間も可)。朝のHR・帰りのHRは,なし。週1回のLHRは,あり。
(4)高校中途退学者・海外帰国生徒・在県外国人の受け入れ枠あり。ただし中途退学者は,前の高校で単位を修得していることが必要。
(5)4月入学・3月卒業に加え,10月入学・9月卒業も。
(6)米国・英国・仏国・中国との姉妹校交流。
(7)希望生徒による年間を通じた大学の授業への出席。
(8)私服,一足制。
(9)文書化した校則なし。
(10)行事等,学校活動の各分野においてボランティア組織が作られ生徒達は自主的・積極的に活動している。

10階建ての校舎
▲10階建ての校舎
2.全生徒の必修
 「情報処理」「オーラルコミュニケーションA」そして「課題研究」を学校として必修にしています。

  前述のとおり,生徒は各自の卒業までの履修計画に従って授業をとるため,「情報処理」を1年次に取る必要はありません。しかしやはり多くの生徒が履修しています。前期は,主にワードとエクセルの実習で,希望者はコンピュータ利用技術検定を受けます。今年度9月の試験では1級7人(満点2人)・2級17人・3級31人という合格結果でした。

  また,後期はインターネットやメールの実習を通しての情報リテラシー教育,ネット上でのネチケットや著作権等に配慮するための授業,パワーポイントを使用しての調査・発表学習を行っています。授業の節目ごとに課題を与え調査し,ワードの文書で提出させたり,校内メールで提出させたりしています。

  そして自ら調べて発表することの集大成が各自の「課題研究」となります。「課題研究発表会」は校内で2日間かけて行われ,各自の取り組みの成果を15分ずつ発表します。もちろん,楽曲や美術作品として提出するもの,また舞台上での15分間の演舞などもあります。
3.光ファイバー
 本校は,平成10年度より3年間の文部省の指定を受け,「光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法研究開発事業」を行ってきました。校内では「ネットワーク利用推進委員会」という組織を作り,1.5Mという専用線をどう生かしていくかということを検討しました。その際に,研究の中心を「生徒を取り入れてやっていく」こととしました。学校そのものが前述のとおり「自己責任」を強く生徒達に意識付けしており,入学してくる生徒達の多くは「主体的にものごとを考え,積極的に活動」します。教師側の姿勢としては,授業を通した生徒とのコミュニケーション以外に,生徒の活動のサポート役としての働きが多くあります。

  そして「生徒を取り入れて」と考える土台になったのは,コンピュータの知識が豊富な生徒が多いこともあります。在学中に通産省の「2種」や「初級シスアド」を独学で取得する生徒もいますし,また中学生段階ですでに取得して本校に入学して来る者もいます。

  そのため,本校のホームページに関してWebに載せる前の大部分を「インターネットスタッフ」という生徒達のボランティア組織が担当しています。各分掌等でホームページに載せたい内容があると,そのことをネット委員会に報告すると同時に「インターネットスタッフ」に連絡します。スタッフと各分掌の間で何回かやりとりがあった後,完成となると委員会そして管理職の目を通してUPという事になります。もちろん最終的なUPの作業は教員のみです。
4.課題研究の成果

 ここで,実際のネットワークを活用した課題研究の成果を挙げます。インターネットを活用した課題研究というと,どうしてもネットに関するものと考えがちですが,決してそんなことはありません。後述するように本校では生徒達の自己責任のもと,かなり自由にコンピュータ室を開放しています。そのためインターネットを「道具」として活用することが多く,ネットに関わらない内容でも,この光ファイバーのインターネットシステムがあったからこそ,完成した課題研究がたいへん多くあり,紙面の都合からその一部しか紹介できないのが誠に残念です。

コンピュータ学習室B(Win95が20台)
▲コンピュータ学習室B(Win95が20台)

コンピュータ学習室A(Win2000が40台)
▲コンピュータ学習室A(Win2000が40台)

  この他にも,LL学習室(WinNTが30台),ワープロ学習室(Macが40台)があります。
いずれの部屋からも,インターネットにアクセスすることが可能です。


(1)まず始めにネットワークを主体としたものから紹介します。

■「ネットワークを利用するソフトウェアの開発」

  この課題研究では,メールをやりとりするメールソフトをWebメールとして作成し,実際に運用もして好評を得ました。細かいところまでよく配慮されたソフトです。なお,提出されたレポート(A4で56枚)には,PHPで書かれた全ソースコードが載っていて後輩たちに役立っています。

■「学校とインターネット〜情報化社会の教育を考える〜」

  インターネットやメールを初めて使おうとする生徒達を対象に,「講習会」を行うわけですが,この課題研究では,その際のテキストを作成しました。現物をぜひ見ていただきたいところですが,微に入り細にわたり様々な注意やアドバイスが書かれ,また随所に参考となるホームページが示されているものです。現在でも授業で活用させてもらっています。

(2)次に,ネットワークを主体としたもの以外からです。

■「列車運行管理システム」

  この課題研究は,列車がいかに安全に走らされているかをテーマに,これまでの列車事故から各鉄道会社が学んだことをまとめ,さらにこれからの安全輸送を願ったレポートです。A4で32枚,各鉄道会社や事故を報道した各新聞社のホームページを,コンピュータ室で,開放時間ギリギリまで熱心に調査していました。

■「環境ホルモンについて」

  この課題研究は,サブタイトルに「今こそ現実に目を向けよ,私達と子孫達の未来のために」とあるように,大きな危機意識を持って書かれたレポートです。日米の認識の差や各国からの報告をはじめとして現実の実態にせまり,自分なりの仮説をたてて,それを立証したものです。A4で62枚,参考・引用文献は,なんと275にも及び,そのほとんど多くは「学会誌」という内容です。また環境ホルモンと確認された物質,あるいは疑われている物質のリストアップに,このレポートもWebを非常に多く活用していました。多くの先生方が,高校生のレベルをはるかに超える内容と評価していました。

■「プレゼンテーション」

  この課題研究は,上手なプレゼンテーションとは何かという素朴な疑問から始まり,自身の考え方を展開するうち,民間会社の「コマーシャル(宣伝)」に行き当たり,各会社がどのように自社製品を買い手側に印象付けているかを調べたものです。そして最後には14の会社とメールのやりとりをして,直接さまざまなノウハウがあることに気づいていきます。メールのやりとりの中で,生徒自身が変化していく様子が手に取るようにわかるレポートです。

  以上,5つのレポートについて紹介してきましたが,別掲のように,本校の卒業年次の生徒全員が取り組む「課題研究」は,インターネットなしでは考えられない状況になっています。「(座席が)込み合っているコンピュータ室であっても,(回線は)込み合っていない」という状況を確保しなければこれだけの課題研究の成果はなかったと言えます。
他の生徒の課題研究タイトル(抜粋)

「スウェーデンに学ぶ高齢者福祉」「民族間の争いを考える」「近代のベトナム」「世界の大学入試」「発展途上国の教育について」「薬物乱用」「銃社会」「少年犯罪について」「児童虐待について」「中国の少数民族の文化について」「熱帯雨林の破壊」「ADA−障害をもつアメリカ人法−について」「音楽療法とは」「『ストレス』について」「ニルヴァーナについて」「打楽器の魅力にせまる」「ジャズ研究」「ロマン派を訪ねて」「人類が『音楽』を生み出すまで」「日常生活とアートの融合」「3DCGMOVIE」「住宅設計とインテリアデザイン」「五感から安らぎを得るには」「PTSD」「思いこみを認知心理の方面から考えてみる」「脅迫性障害」「油絵から幼児虐待を考える」「夢Dream無意識の世界」「カナダの国立公園」「アイヌ民族」「アメリカにおける黒人差別の歴史とブラックミュージック」「死者の弔い方について」「イギリスの階級社会について」「薬物乱用」「遺伝子について」「スポーツ選手の試合場面における心理的状況について」「写真から身のまわりを見つめ直す」「発展途上国の教育」「ベンチャー企業と企業家」「天職」

5.課題研究以外に特筆すべきこと

 前述のとおり,本校では「姉妹校交流」を行っており,出発前の数ヶ月間は現地の方々とメールでやりとりして情報交換しています。もちろん帰ってきてからのメールのやりとりを授業で生かすことも行ってます。

  さらに,「公開セミナー」という県内の一般の方を対象とした生涯学習講座を毎週水・金の午後5時10分から開催しており,ここでインターネットを活用した講座も開講しています。

6.生徒のコンピュータ室の利用

 本校では放課後,そして生徒達の空き時間にコンピュータ室での授業がなければ自由に入室してインターネットやメールを使用して良いことになっています。生徒各自のIDという形はとっていません。空いているコンピュータならどのコンピュータでも自由に使用して良いことになっています。

7.有害情報・個人情報保護への対応

 本校では,有害情報に対してはソフト「WebSense」を導入しています。約30あるカテゴリーをひとつひとつネットワーク利用推進委員会で検討し,生徒に対しての基準を作ってきました。

  ただ,生徒達から「WebSense」にひっかかったものの,授業や研究のためどうしてもこのページを見たいとの要望があった場合には,「フィルタリング解除申請書」に,その目的やどうしてもこのページでなければならない理由を明記して提出し,ネットワーク利用推進委員会で検討して,解除するかどうかを判断しています。

  また,個人情報保護の観点から,著作権に対する意識付けを強く行ってます。ホームページから引用させてもらう際,その方のメールアドレスがホームページに出ている時は,許可をもらうためにメールを出すよう指導しています。

8.おわりに

 以上,本校の光ファイバーを活用した実践例の一部を挙げてきたわけですが,生徒達は教師側が想像する以上に,確実にインターネットやメールを「道具」として使いこなしている現状を示してくれました。

  そしてその陰には,多くの生徒達が一度に同じページをアクセスしても,イライラすることなく表示されるスピードが「学校に供給されていたから」という事実が土台になっています。

  これは,例えれば電気や水道と同じです。各家庭に入っている電気や水道でも学校のそれでも,使用している際にイライラすることはありません。しかし,供給されている量を考えればその「総量」はケタ違いのものです。

  本研究は,2001年3月をもって終了ということになりますが,研究をすればするほど,そして生徒達の使い方が分かれば分かるほどさらに多くの研究の必要性が出てくるのも事実です。

  今後もさらに生徒達の学習環境の整備のあり方を考えていきたいと思います。

  多くの先生方の御指導・御助言をお願いいたします。

  また,御質問も随時受け付けております。

前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る