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ICT・EducationNo.7 > p6〜p9

教育実践例
仮想都市構築による情報活用授業
千葉県立行徳高等学校 福島 毅
Xr2t-fksm@asahi-net.or.jp
1.実践の概要
 生徒が自分に興味のある職業を想定してホームページ(以下,HP)を作成し,校内でHPコンテストを行った。さらにその生徒作品を校内のイントラネットのサーバーに置かれた仮想都市の地図上に展開し,お互いの作品を閲覧・評価・リンクできる環境を整備した。
2.実践の一連の流れ
(1)HP作成のテーマ

 新教科「情報」の授業では情報の受信から編集加工・発信に至るすべてのプロセスにおいて,演習を取り入れた授業展開が求められている。これらのプロセスを統合した授業実践として,多くの学校でHP作成などを計画されていることだろう。

  そこで問題となるのがHP作成のテーマであるが,これは自己紹介といったものがまず想定されるだろう。本校でも実際に自己紹介のHPを作成課題としたことがある。しかし,よほど自己アピールや自己のアイデンティティを持つ生徒でなければ興味を持続することはできず,短時間で課題が終了し,淡白な作品提出が相次ぐ結果となってしまったのである。

  その失敗を省みて,さらに一歩踏み込んだHPのテーマはないものかと考えたのが「職業HP」である。

 これは,例えばサッカー選手や花屋のように,自分が将来実際についてみたい職業,あるいは現実路線ではないが,夢である職業を想定して,生徒各自がその職業について調査し,自分がその職業についたつもりでHPを立ち上げるというものである。

(2)職業HP作成手順

  世の中の職業は細かなものまで含めると何千という分類がされるだろう。手始めとして,教員側でNTTイエローページなどの電話帳を参考にして,五十音順に三百種類ほどの職業をリストアップし,サーバーのデータベースに置いておいた。生徒はデータベースから適当な職業を見つけ出し,必要があればネット検索をして,職業の中味を調べる。

 面白そうな職業が見つかった時点で,教員に登録を要請する。教員側はデータベースに,その職業を担当する生徒氏名を登録する。同じ職業を複数の生徒が希望した場合,あまり件数が多ければ違う職業を選ぶように促し,調整する。
職業が決まれば,あとはネット検索で実際のwebページを参照するもよし,その職業についている親戚や知人に相談するもよし,雑誌や図書で調べるもよしで,校内で公開されることを前提としてHPを作成していく。

職業のデータベース
▲職業のデータベース

(3)イントラネットへ登録

  職業HPが完成したら,イントラネットのサーバーにアップする。この手続きは簡単で,パソコン上にあるHP作品のデータをサーバーにある自分に割り当てられたフォルダ内にコピーするだけである。また他人の作品はその生徒が持つフォルダをたどることでいつでも自由に閲覧することができるように設定した(書きこみはもちろんできないようにしてある)。

 さらに完成した作品はすべてのページを印刷し,全員の作品が揃ったところで次に述べる校内のコンテストを行う。

(4)校内HPコンテスト

  学校のwebページコンテストはいろいろと行われているようだが,本校では授業で作成した生徒の全HP作品を校内コンテストとして発表し,表彰する試みを行っている。

 本校の現在のカリキュラムでは,3年生の2学期に職業HP作成を行い,3学期に,3年生全員の作品を印刷したものを一定期間廊下に掲示し,全職員・生徒に投票用紙を配って,投票を行ってもらい,優秀作品を表彰する形をとっている。

校内HPコンテストのようす

校内HPコンテストのようす

校内HPコンテストのようす
▲校内HPコンテストのようす

(5)ハイパータウン行徳

  職業HP作成の一連の流れは,校内HPコンテストの表彰で一段落する。しかし,ここから先に仮想都市構築の試みという別のプロジェクトがある。各生徒の作品を校内のネットワークで双方向にリンクするというものである。ただ単にリンクしても面白味がないので,サーバー上に仮想都市を地図として作り,そこに生徒作品を埋め込んで行くという作業を加えてみた。本校でのこの仮想都市構築の試みを「ハイパータウン行徳」と呼んでいる。

 ハイパータウン行徳は仮想の都市ではあるが,都市環境や機能性において,理想をある程度求めた都市となっている。例えば,7ページに示した2000年ミレニアムモデルでは,都市の中心に居住区を構え,環状道路を敷設し,郊外にオフィスやショッピングセンター,娯楽施設を用意している。これにより,都市中心部の交通集中が緩和されるなどのメリットが考えられる。
さて,このハイパータウン行徳の街のサブエリア(ワーキングオフィスエリアやショッピングエリア)をクリックすると,サブエリアの地図が現れるようになっている。さらにこのサブエリアから,生徒のページがリンクされるようになっている。これらは観光案内などのwebページに使われている手法で,クリッカブルマップと呼ばれている。

(6)進化する仮想都市
 ハイパータウン行徳という街はもちろん実在しないので,その設計は自由である。どのような都市を設計したら住み良い環境になるかをグループワークにし,生徒に考えさせ,プレゼンテーションさせるという課題も考えられよう。また,リンク構造を持つ地図(クリッカブルマップ)を開発したり,生徒作品を実際にリンクしてゆく作業を生徒に体験させることも課題として考えられる。

「ハイパータウン行徳」のミレニアムモデル
▲「ハイパータウン行徳」のミレニアムモデル

サブエリアの地図
▲サブエリアの地図

(7)仮想都市を自治体に提案

 日本において,都市計画は行政側とゼネコン担当者だけで行っていることが多く,時間と資金がかかるわりには,完成してみると,住民からは不評だったり,企業から相手にされなかったりすることが多い(駅前開発事業や工業団地の誘致失敗等)。これからの市民生活者となる生徒に,都市設計をさせ,もしそのアイデアを自治体にまで発信できるところまでできれば,より望ましい。都市を作成したアイデアやノウハウをきちんとまとめて,丁寧な資料を作成できれば,実際の都市づくりの参考になるはずである。

生徒のページ
▲生徒のページ
3.本実践の意味とメリット
(1)HP作成の有効性

 一般的に言って,HP作成には以下のメリットがあると思われる。
(ア)情報受信・編集・発信までの行為を網羅している。
(イ)問題発見・解決のための柔軟な学習コンテンツを提供できる。
(ウ)共同でのHP作りを設定すればコラボレーション(共同作業)を実現できる。
(エ)生徒による生徒の評価が可能である。
(オ)評価手段にメール・掲示板・アンケートなどのコミュニケーションツールを利用することができる。

(2)職業HP作成のメリット

 職業HP作成には以下のメリットがあると思われる。
(ア)HP作成初心者でも,ネット上の雛型を参照して作成できる。
(イ)自分の興味関心に合わせられるので,学習への主体的な取り組みが期待できる。
(ウ)卒業後の進路選択の指導も兼 ねている。
(エ)職業選択の行為が自分の問題発見につながる
(オ)選んだ職業の情報収集は情報受信の学習になる。
(カ)収集した資料整理は情報整理の学習になる。
(キ)素材加工やHP作成は情報編集加工の学習になる。
(ク)完成したHPの公開は情報発信の学習になる。

(3)仮想都市作成のメリット

 仮想都市作成には以下のメリットがあると思われる。
(ア)都市計画は人口・交通・住環境・流通・文化・教育・消費生活等の都市の抱える様々な問題を浮き彫りにし(問題発見),解決するプロセスを含んでいる。
(イ)完成した都市プランを政府や自治体に発信できれば,その行為が社会貢献になる。
(ウ)都市設計学習のプロセスが,「自分の住む街づくり」に大人になって生かされる。
(エ)グループワークや個人ワークなどの学習形態や教員側で用意する素材を調整することで,生徒レベルに合わせた柔軟が学習コンテンツを提供できる。
4.HPの評価

 この実践を通じて,HP作成の評価については以下のような観点が考えられた。

(ア)HP全般について
・提出期限を守っているか
・HPのテーマを理解しているか

(イ)扱っている情報について
・HPに掲載している情報量は適当か
・扱っている情報は正確か

(ウ)情報の受信について
・情報元は信頼できるルートのものか
・素材が精選されているか

(エ)情報の編集加工
・HPの作成技術は高いか
・HP作成ソフトを理解して使っているか
・音楽・音声・動画等の技術を使っているか
・HTMLを理解しているか
・リンクについて理解し,応用しているか

(オ)情報の発信
・受け手を意識した構成・内容になっているか
・受け手へのPR度は高いか
・他人にはない独創性があるか
・字や写真の大きさ・質が適当か
・背景,壁紙,文字色などに美的センスがあるか

(カ)モラル
・反社会的表現,公序良俗に反する表現はないか
・著作権を意識し,引用元などに了解をとっているか
・他人の顔写真を無許可で使う等の肖像権侵害はないか

5.実践を行ってみて
 第1回のハイパータウン行徳の試みは平成11年9月から12月にかけて行ったが,授業時間の関係で,生徒が互いのHPにリンクを互いに張ったり,メールで相互評価したり,都市設計のグループワークなどの時間までは取れなかった。しかし,校内HPコンテストを開催したことで,2年生以下の後輩生徒達が,「来年には今年以上の作品を作りたい」と意気込んでいたのが印象的であった。

 ゲーム世代の彼らにとって,仮想都市を設計していくというプロセスは興味があるようである。一方で,現実の都市設計を成功させるには,現状の都市の持つ問題点を浮き彫りにし,綿密な調査や住民,行政などとの連絡をきちんと行っていかなければ実現しないことを今後はきちんと伝えなくてはならないと考えている。

 職業HP作成と,それに関連する仮想都市設計の授業プランは,学校の実情に合わせた柔軟な展開が可能な教材であると思う。機会があればぜひ挑戦していただきたい。
参考文献 「イントラネット100のアイデア」福島毅著 正高社
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