ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.6 > p5〜p8

教育実践例
精研高校の情報化
岡山県立精研高等学校 土肥 直樹
naoki_dohi@pref.okayama.jp
http://www.seiken.ed.pref.okayama.jp
1.はじめに
 本校は,農業に関する学科の「園芸科学科」と家庭に関する学科の「家政科」の二学科からなる専門高校である。したがって,「情報」という特別な学習を行うのではなく,今まで進めてきた学習において,いかに情報機器を有効なツールとして活用できるかということに試行を繰り返してきた。

 ここ数年間,教職員全体のレベルアップを図るため,校内での教員研修や教職員のボランティアによるLANの構築などさまざまな取り組みを行った。現在では,教務室内の常勤の職員は,ほとんどの者が自分のパソコンに向かって教材研究や校務処理を行っている。

 現在は,校内LANを岡山情報ハイウェイに接続しているため,すべてのパソコンでインターネットが利用できるようになっている。また,準備に時間がかかるが,すべての教室でインターネットを使った授業を行うことができる環境もできあがった。その成果もあって,昼食時や放課後に開放している情報処理教室や図書室などの生徒用パソコンの稼働率は,かなり高くなっている。

 授業においても,多くの教員がパソコンやTV会議システムを利用し,より魅力ある授業展開を考えている。昨年度,全日本教育工学研究協議会岡山大会において公開授業という発表の機会を与えられた。実践例として,その時までの交流と当日の授業について取り組みを中心に述べる。
2.交流活動
(1)特別活動としての交流

・バーチャル雪祭り
 平成9年度冬,それまでに交流のあった札幌新川高校(北海道)のお誘いを受け,バーチャル雪祭りと題して,TV会議システムを通じて札幌雪祭りの様子を見せていただいた。生徒は,初めてみる雪祭りの会場に感嘆の声をあげながら見入っていた。

・修学旅行自慢大会
 新川高校,大成高校(北海道),大師高校(神奈川県)などの高校とともに参加した。学校の紹介なども加えながら,修学旅行の旅程説明や感想などについて会話しながら有意義な交流を行うことができた。

・大原美術館の絵画教室
 昨年度3月,倉敷にある大原美術館より,TV会議システムを使った絵画教室を行っていただいた。本校の美術部生徒,日本原高校(岡山県),中川小学校(岡山県),藤田第二小学校(岡山県)の4校が参加した。TV会議システムで受信する画像による絵画の紹介は,画質の面で不安があったが,想像していた以上によく,学芸員の方からも非常にわかりやすい説明をしていただき,好評であった。この絵画教室がきっかけで,今年度から,こねっと協議会が主催する遠隔学習の一つにも採用された。

(2)LHRとして交流

・「産業社会と人間」の授業に参加
 本校の進路HRとして,総合学科である大師高校の「産業社会と人間」の授業に参加させていただいた。「その道のプロに聞く」というタイトルで人にやさしい家作りを考えておられる建築家の方の講義であった。生徒も教員も真剣に聞き,大いに参考になった。

・国際交流
 平成10年度冬,本校のある井原市が交流しているネパールとインドネシアの若者が本校を訪問した。本校の農業クラブの和太鼓で歓迎をした後,ネパール,インドネシアの方々から民族舞踊や歌などを披露していただいた。その模様を大師高校にも送信し,質問を交わしながら,交流を深めた。
3.授業実践
(1)おにいちゃんおねえちゃんの園芸教室(農業)

 園芸科学科では,従来より地域の小学校に出向いたり,小学生を迎え入れたりしながら「児童との交流」を行ってきた。その内容は,井原市の花であるペチュニアを中心とした草花の植え方や管理の方法などを,おにいちゃん先生やおねえちゃん先生,つまり本校の生徒が小学生の児童に教えるというものである。この授業のねらいは,高校生と小学生という異なる発育段階どうしの児童生徒の交流を通しながら,本校生徒が生物を育てる喜びを再認識するとともに,教える立場から,より草花に対する知識を身につけることができるというものである。

 TV会議システムを使うことによって,この授業をもっと多くの学校に広めていくことができる。昨年度は,本校の隣にある井原小学校と中川小学校はオフラインで,十日町小学校(新潟県)はTV会議システムを使って交流してきた。公開授業当日は,井原小学校の児童のみなさんには本校に来ていただき,TV会議システムを多地点接続装置(MCU)に接続することに より,中川小学校と十日町小学校を含めた4校で1年間のまとめを行った。

「おにいちゃんおねえちゃんの園芸教室」のようす
▲「おにいちゃんおねえちゃんの園芸教室」のようす
michiharu_miyake@pref.okayama.jp

(2)バイオマルチ交流(農業)

 本授業は,大師高校へ向けて,本校の園芸科学科の教員が「生物工学基礎編」を提供するものである。生物工学室のクリーンベンチの前から,大師高校のコンピュータルームや実験室に向けて,演示実験や説明を書画カメラやビデオ 映像を駆使しながら,授業を展開していく。施設設備のない学校ではできない生物工学の授業を,演示実習を見ながら専門の教員から詳しい説明を聞くことができ,好評を得ている。

「バイオマルチ交流」のようす
▲「バイオマルチ交流」のようす
teruhiro_nakasugi@pref.okayama.jp

(3)TV電話DEフリーマーケット(英語)

  平成10年度より始まったコモンアジェンダプロジェクトに参加し,ハワイ州のホノカア高校とカンザス州のベースホール高校との間で生徒間のメールによる交流を行った。公開授業では,ベースホール高校の生徒と本校の生徒の間で国による風習や高校生の生活習慣について比較が行われた。例えば,本校の生徒がベースホール高校の生徒に「蚊取り線香」を見せて考えさせたり,ベースホール高校の生徒が本校生徒に対して通学に使用している車を紹介したりして,国による違いを互いに体感した。

 日本における電話回線を使ったTV会議システムは,今のところ,ISDN1回線分(128kbps)が主流となっているが,アメリカではISDN3回線分(384kbps)が主流となっているようである。事前に行ったテスト接続では,そのことが分からず,何度も失敗を繰り返してしまった。

「TV電話DEフリーマーケット」のようす
▲「TV電話DEフリーマーケット」のようす
hiroshi_aoyama@pref.okayama.jp

(4)How's Your House?(家庭)

 現行の学習指導要領から普通教科「家庭」の一科目が男女とも選択必修となった。本校では,クラスの大半を男子が占める園芸科学科に家庭一般の授業を行っている。その生徒たちが,より興味をもつように,「すまい」をテーマとして,ライオン株式会社の家庭科学研究所より洗剤の種類やその効果についての講義と実験を行っていただいた。公開授業では,あらかじめ本校でも実験の器具や材料を用意しておき,スクリーンに映し出される演示実験に従いながら,実験を行って,結果について説明をいただくという形態となった。生徒にとっては,はじめて行う実験であったが,アドバイスをいただきながら行うことができ,知識を深めることができた。

「How's Your House?」のようす
▲「How's Your House?」のようす
minori_kouichi@pref.okayama.jp

(5)Handmade Cheeseは ・・・・な味!(家庭)

  平成11・12・13年度へき地学校高度情報設備活用方法研究開発事業に指定され,高速な回線(384k bps)を利用したTV会議システムが導入された。

 本授業は,それらの機器を使用し,80km離れた相手校である日本原高校(岡山県)酪農経済科の先生からの本校家政科食物コースの生徒に向けての手作りチーズの実習である。西洋料理,和風料理や中華料理など,専門的な外部講師の 実習に参加したことのある生徒たちではあったが,「手作りチーズ」については,初めての経験で興味深く真剣に取り組んでいた。
最初の頃の授業では,初めての先生,初めてのTV会議システムによる授業ということで戸惑いもあったが,休憩時間などに雑談をするなどして,しだいに和やかな雰囲気で実習は進んでいった。最後の授業では,担当の先生に来ていただき,オフラインでまとめていただいた。生徒も感動していたようであった。

「Handmade cheeseは・・・・な味!」のようす
▲「Handmade cheeseは・・・・な味!」のようす
mariko_tsutsumi@pref.okayama.jp(精研高校),
tomoki_okayama@pref.okayama.jp(日本原高校))

(6)Let's手話歌(家庭)

 本来は,遊びのツールとして利用されている通信カラオケソフトを手話の授業で活用した。カラオケの音楽に合わせた手話をビデオで録画し,そのビデオをキャプチャーして動画を作成し,カラオケソフトのバックに流す。生徒の馴 染みの深い曲を口ずさみながら手話の学習ができる楽しい授業を展開している。

「Let's手話歌」のようす
▲「Let's手話歌」のようす
shinobu_fujiwara@pref.okayama.jp
4.今後の展望と課題

(1)国際交流について

 アメリカとの交流については,前述したように,事前接続で成功したのは,ISDN3回線で接続した場合だけだった。公開授業でも接続を行ったが,1時間の通信費が5万円近くにもなり,継続して行う授業としては,コストの問題で無理があると思われる。また,時差の問題もある。交流しているカンザス州のベースホール高校は13時間の時差があり,通常の学習時間にリアルタイムで交流をするには,どちらかの学校に無理が生じる。そこで,今後は,交流してきた学校については,メール等で交流学習を深めていき,TV会議システムを使った授業については,アジアの国との間での交流を検討している。

(2)連携授業

 昨年度末までの間に,TV会議システムを効果的に使った社会人講師的な授業を行った。今年度は,さらに一歩進んで,年間の時間割の中に組み込むことによって,本校教員が他校の教科担任として単位認定まで行う連携授業の形で展開している。これが成功すれば,生徒の授業選択の幅が無限に広がると言っても過言ではないだろう。

※本校の情報教育については,多方面多数の方から御指導・御協力をいただいて行っております。この場をお借りして感謝の意を表したいと思います。なお,授業内容や交流内容は,すべて本校HPに掲載しておりますのでご覧下さい。詳細についてのお問い合わせは,写真のキャプションに掲載しましたメールアドレスにて,それぞれの授業担当者までお願いいたします。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る