ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.50 > p28〜p31

教科「情報」 テキスト 活用事例
データベースの授業案
─問題解決の一手法として─
神奈川県立茅ヶ崎北陵高等学校 三井 栄慶
メールアドレス
1.はじめに

 情報社会を生きる私達は,データベースと無縁でいることは不可能であり,データベースの恩恵を必ずと言ってよいほど受けている。その反面,普段の生活では,こうしたシステムはブラックボックスとなっているので,データベースを意識したり,そのしくみについて考える機会がないように感じられる。
 また,新学習指導要領では「情報の科学」の内容の取り扱い(3)において,問題解決にデータベースを活用できるようにすることが以下のように書かれている。

(3)情報の管理と問題解決
 イ 情報の蓄積・管理とデータベース
 情報を蓄積し管理・検索するためのデータベースの概
念を理解させ,問題解決にデータベースを活用できるよ
うにする。
▲図1 学習指導要領「情報の科学」(3)イ

 そこで本稿では,普段生徒が意識することが少ないデータベースについて関心を持たせるとともに,データベースの作成を通して,データベースを問題解決に活用するためにはどうすればよいかを生徒に考えさせるような授業を提案したい。
2.指導目標と評価規準
(1)指導目標
 1) 情報の整理の方法からデータベースを作る必要性について気づかせる。また,自分達が思っている以上に日常生活の中でデータベースが大きな役割を果たしていることを認識する。
 2) リレーショナルデータベースの基本的な知識を理解させ,リレーショナルデータベースの設計ができるようになる。
 3) データベース管理システムを活用することにより,データベースへのデータの入力およびクエリを使ったデータの検索ができるようになる。
 4) リレーショナルデータベースの設計の重要性を理解させ,同様に問題解決には問題のモデル化が重要であることを認識する。

(2)評価規準
観点 関心・意欲・
態度
思考・判断・
表現
技能 知識・理解
評価
規準
○ 積極的に
データベース
に入力する情
報を提供して
いる。
○データベー
スの設計の重
要性を積極的
にほかの生徒
に発表してい
る。
○ 情報から
データモデル
へのモデル化
を行っている。
○データモデ
ルからデータ
ベースの設計
を行っている。
○ よりよい
データベース
の設計を行っ
ている。
○データベー
ス管理システ
ムを活用して
データの入力
ができる。
○データベー
ス管理システ
ムを活用して
クエリを作成
し,必要な情
報を検索でき
る。
○リレーショ
ナルデータ
ベースを構成
する要素を正
しく理解する。
○リレーショ
ナルデータ
ベースについ
て必要な情報
を引き出す方
法を正しく理
解する。
○データベー
スの設計に必
要な正規化と
リレーション
シップを正し
く理解する。
3.指導観(学習させたい事柄)

(1)単元観(単元や題材が持つ教育的意義)
 生徒にとってデータベースはブラックボックスとなっており,意識してデータベースを考えることはない。そこで実例を挙げながらデータベースの存在意義やしくみを理解させ,最終的には自ら活用できるようにする。

(2)生徒観(生徒の実態や傾向)
 前述した通り,普段目にする機会のない事柄を扱うこととなるので,関心や意欲があまり高くないことが予想される。具体的な実例を挙げることにより,データベースは身近に存在するものであることを理解させる。

(3)教材観(教材の解釈・教具などの活用)
 日本文教出版「情報の科学」第6章では問題をモデル化し,そのモデルを活用して問題解決を行うことを意図している。その中の第2節ではデータベースについて記述されているが,データベース管理システムの利用方法に終始することなく,情報をモデル化し,データモデルにする方法を説明することで,データベース利用を問題解決の一手法として用いることに触れている。授業では教科書p.134を用いて解説を行い,問題解決の手段としてのデータベースの活用を意識させる。
図2 日本文教出版「情報の科学」p.134
▲図2 日本文教出版「情報の科学」p.134

4.指導計画と評価計画例
  学習活動・学習内容 評価方法




情報の整理について学び,デー
タモデルを作成できるように
する。

自分の情報からデータモデル
を作成する。
○データモデルを作るための
情報を積極的に提供できたか。

○情報からデータモデルへモ
デル化ができたか。




リレーショナルデータベース
の基本的な知識を理解する。

データモデルからデータベー
スの設計を行う。
○リレーショナルデータベー
スの基本的な知識が理解でき
たか。
○データモデルからデータ
ベースの設計を行っていたか。




データベース管理システムを
活用し,データ項目の型の定
義を行う。

データベース管理システムを
活用し,データの入力を行う。
○データベース管理システム
を活用してデータ項目の型の
定義およびデータの入力が正
しくできたか。




データベース管理システムを
活用し,クエリを作成するこ
とによりデータの検索を行う。

データベース作成の実習を通
した振り返りを行う。
○データベース管理システム
を活用しクエリを正しく作成
し,検索を行えたか。

○よりよいデータベースを作
成するためにほかの生徒と討
議が行えたか。
5.指導の概略
 第1・2時では,情報の特性を学び情報を整理する方法として,属性をつけデータモデルとしてモデル化を行う方法があることを理解させる。演習では生徒が自分で持っている情報から,データモデルを作ることを行う。
 第3・4時では,リレーショナルデータベースの基本的な知識を理解させる。演習では,前回作成したデータモデルを活用しながらデータベースの設計を行う。
 第5・6時では演習としてデータベース管理システムを活用し,前回の設計に従いデータの定義を行い,実際にデータの入力を行う。
 第7・8時では演習としてクエリを使って検索を行う。その後,よりよいデータベースにするのに必要な事柄を生徒同士で発表させる。
6.授業の展開
(1)授業の展開1(第1・2時)
 導入において情報は複数の情報(データ項目)を関連づけることによって意味が増すことを理解させる。図3にその例を示す。

 (a) 中野堂 32歳
 (b) 我孫子くん 32歳 男性 洗顔一本 中野堂
▲図3 関連づけされた情報の例

 (a)ではそれぞれの情報に意味は少ないが,(b)では情報が関連づけをすることにより,それぞれの項目での意味が増している。また,演習においては「おすすめのコンビニの商品」をデータベースに格納することを伝え,自分の記憶にある情報について各自で属性をつけさせ,ワークシートにまとめさせる。この時,商品の情報については,商品名などをなるべく具体的に記入させるようにする。

(2)授業の展開2(第3・4時)
 導入部分で情報を整理するときは表にすることでわかりやすくなることを伝え,そこからリレーショナルデータベースの優位性を説明する。リレーショナルデータベースの考え方は生徒にとって初めての概念なので丁寧に説明を行う。日本文教出版の「情報の科学」では,図4のように解説されている。
 実際の演習では第1・2時においてワークシートに記入した「おすすめのコンビニの商品」について,クラス全員のデータモデルを提示した上で,それぞれを比較させながら,共通する部分が多いものをデータベースの入力項目として取り入れ,正規化やリレーションシップの設定などの設計を行うようにする。
図4 日本文教出版「情報の科学」p.136
▲図4 日本文教出版「情報の科学」p.135

(3)授業の展開3(第5・6時)
 (2)で行った設計に従って,リレーショナルデータベースの作成とデータの入力を行う。授業では, データベース管理システムであるMicrosoft Access を利用し,データの型の定義,及びリレーションの構築を行う。その後,データベースの利点の一つとして「共有されていること」を強調したいので,各自で設計したデータベースではなく,共有フォルダ等を活用し,一つのデータベースにクラス全体で入力を行えるようにする。
図5 Accessによる入力画面
▲図5 Accessによる入力画面

(4)授業の展開4(第7・8時)
 (3)で作ったデータベースに対してクエリを作成し,必要な情報を検索する。その後,わざと検索がうまくいかない問題を提示し,それに対してどのように解決をしていかなければならないのかを生徒同士で発表させる。例えば,図6のような問題を提示し,その解決策を話し合わせる。
例 データの定義
  出席番号 商品名 品名 おすすめ度 の場合
 問1 クラスでおすすめ度「5」の商品
 問2 クラスでおすすめ度「5」のお菓子
▲図6 データベースの検索問題の例

 問1はクエリによる検索で求めることができるが,問2は「お菓子」の定義がデータベースでなされていないので,生徒によって検索結果が変わってしまう。これを解決するにはモデル化のときに「種類」という属性を設ける必要があることに気づかせることができる。
 図6の例だけでなく,データベースを安易に設計してしまったがために発生する可能性がある問題の例としては,次のようなものも挙げることができる。
図7  安易にデータベースを設計したために起こりうる問題の例(いずれも日本文教出版 「情報の科学」 p.137より)
▲図7  安易にデータベースを設計したために起こりうる問題の例(いずれも日本文教出版 「情報の科学」 p.137より)

 この発表を通して,データベースの構築方法だけでなく,あらかじめ入念な設計を施す必要性や,その方法としての問題解決におけるモデル化の重要性も示すことができる。
7.新カリキュラムでの実施にあたって
 以前の「情報B」のカリキュラムに比べ,新カリキュラムでの「情報の科学」では問題解決により重点が置かれており,プログラムもシミュレーションも問題解決の手法の一つとしてとらえられているように感じられる。
 日本文教出版「情報の科学」の教科書ではプログラムやシミュレーションと同様にデータベースの活用も問題解決の手法の一つとしてわかりやすく定義しており,データベース作成のみに陥りやすい単元であってもデータモデルの説明を入れるなど,モデル化の重要性がしっかりと説明されているので,データベース作成の授業を問題解決のテーマとして落とし込みやすくなっているように感じられる。
 今後は具体的な問題解決の場面でデータベースをどのように活用していくのかを授業展開できると,データベースの利用の必然性などを生徒により実感的に伝えることができるようになると考えている。このような授業ができるように,さまざまな題材を模索していきたい。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る