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報告
スマートフォンの活用法 高校生熟議 in Osaka & Tokyo
─内閣府,文部科学省,総務省で高校生がリアルにプレゼンテーション─
羽衣学園高等学校 米田 謙三
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1.はじめに
 高校生熟議は,2011年度に「高校生熟議 in 大阪〜ケータイ・インターネットの在り方&活用法〜」としてスタートし,今回で2年目となります。今回は大阪に加えて東京でも開催し,約3か月間にわたる三回のリアル熟議と文部科学省「熟議カケアイ」を利用したネット熟議を開催しました。
 高校生熟議の目的には二つの側面があります。
 その一つは,教育的側面であり,「熟議」を通して初対面の人と話し合うという経験をし,段階的に「考える,まとめる,話す,見せる,伝える」などの技術を修練することです。
 もう一つの目的は,社会的に注目を浴びている携帯電話やインターネットをテーマとすることで,大人になる準備段階として携帯電話やインターネットを安全に,安心して使うために,高校生として情報モラルについて自ら深く考え,実践することで,将来のよりよいインターネット利用環境の構築の一助とすることです。今年度は急速に普及しているスマートフォンについて,高校生がその問題点と向き合い方について熟議を実施しました。また,高校生熟議では通信事業者やサイトの運営事業者,情報モラルに携わる団体などと連携したキャリア教育としての側面も持ち合わせ,今年はますますその連携が強まりました。
 さらに,今年は東京,大阪の代表者6名の高校生による「高校生熟議サミット」を開催し,提言を取りまとめました。この提言は,「高校生の意見を中央に」と考え,内閣府,総務省,文部科学省にプレゼンテーションを行うこととしました(図1)。
高校生熟議2012スケジュール
7月21日 第一回大阪 【リアル熟議】
8月26日 アイスブレイクイベント※
9月8日 第一回東京 【リアル熟議】
9月9日〜10月14日
  ネット熟議
11月3日 第二回大阪・東京 【リアル熟議】
12月15日 高校生熟議サミット
1月28日 各省庁でのプレゼンテーション
※アイスブレイクイベントは大阪のみの開催。
▲図1 高校生熟議の主な流れ
2.リアル熟議

 高校生熟議の具体的な様子について,大阪での熟議を中心に紹介します。

(1)第一回 大阪【リアル熟議】
 第一回は高校生,教員,企業関係者など100名以上の参加者を得て,「スマホって何?」をテーマに高校生がグループに分かれて活発な議論と発表を行いました。
 第一部では,スマートフォンに関連する企業の方にご協力いただき,それぞれ10分程度のプレゼンを聞きました(図2)。

講演のテーマ
「スマホ時代の到来」
株式会社ミクシィ様
「スマホとガラケーどう違う?」
株式会社ディー・エヌ・エー様
「スマホの便利さと課題」
グリー株式会社様
「スマホに必要なリテラシー」
NHN Japan株式会社様
▲図2 企業の講演テーマ

 第二部では,まず,学校の自己紹介で緊張感を和らげた後,グループ分けをしました。グループは,学校も学年も異なる初対面の高校生と,熟議を円滑に運営していくファシリテーター,専門的な質問があったときにすぐに対応するサポーター,熟議の模様を記録する書記からなります。ファシリテーターは大阪私学教育情報化研究会のメンバーが,サポーターには第一部でご講演いただいた企業の方,書記は以前の熟議に参加したOB,OGが務めました。
 熟議では,高校生達は付箋紙にスマホのよい点とよくない点をメモしながら,意見を出し合います。自分達のケータイへの依存の高さや,ケータイへの不満など,歓声が上がるほど活発な意見が出されました。付箋紙を模造紙に貼りつけていきながら意見を整理・分類し,各グループで第三部での発表内容をまとめました(図3)。
図3 第1回熟議の様子
▲図3 第一回熟議の様子

 第三部のグループ発表では,グループごとに上記をまとめた内容を3分程度で発表していきました。各グループとも,スキットや役割分担を決めるなど工夫を凝らした発表でした。

(2)アイスブレイクイベント
 高校生熟議2012 in大阪では,さらに熟議のテーマへの理解を深め,プレゼンテーションの技術を磨く目的で,アイスブレイクイベントを開催しました。アイスブレイクイベントでは,エヌ・ティ・ティ・ドコモ様の「ケータイ安全教室」の受講と,2020年の情報社会を描いた映像を鑑賞しました。 また第二部ではエヌ・ティ・ティラーニングシステムズ様によるプレゼンテーション手法に関する講演の後,複数の班に分かれ,よりよいプレゼンテーションにするためのグループワークを行いました。グループワークの成果を班ごとに発表しました。

(3)第二回 大阪×東京【リアル熟議】
 第二回では「これからのネットとケータイを考える」をテーマに活発な議論と発表を行いました。
 第一部では大阪と東京の会場をTV会議でつなぎ,お互いに学校紹介と質疑応答をしました。質問のやり取りでは,地域の特性が出てとても盛り上がり,場も一気に和やかになりました。
 第二部の熟議では,これまでの熟議のように模造紙での発表ではなく,最終的にプレゼンテーションのスライドにまとめて,それを使って発表をしました。プレゼンテーションの内容と共に,どんなプレゼン資料にすればいいかも話し合います。スライドはあらかじめ3枚のフォーマットを用意し,1)「スマートフォンって何」,2)「スマホのトラブルにどう対処する」,3)「スマホ世代の高校生の主張」の構成で論点をまとめていきます。
 第三部のグループ発表では,グループごとにスライドを発表していきました。すべての班が短い
時間の中で内容をうまくまとめての発表でした。
発表方法も工夫を凝らしたものが多く,大変盛り上がりました(図4)。
図4 プレゼンテーションの様子
▲図4 プレゼンテーションの様子
3.ネット熟議

(1) 実施時期
 第一回のリアル熟議を受け,大阪と東京の参加者と合同でネット熟議を開催しました。2012年9月9日(日)00:00 〜 10月14日(日)24:00まで,「ガラケー派,スマホ派?」をテーマに,スマートフォンの課題について,第一回での議論を踏まえ,文部科学省「熟議カケアイ」のサイト(※注1)を使ってネット上で熟議することにより,スマートフォンへの理解を深め,課題をより明らかにすることを目的に実施しました。

(2)ネット熟議への対応について
 この熟議の取り組みは,今年度の情報化月間関連事業の一環とされ,行政関係者からも高い注目を浴びました。リアル熟議と並行して開催しているネット熟議でも,昨年の経験を活かしてさらに活性化するように次の点を踏まえて進めました。
 昨年のネット熟議のコーディネーター及びファシリテーターを迎えて,さらに高校生が堂々とネット上でも自分達の意見を投稿できる環境を整備する方法について次のように議論しました。
1) ネット熟議ファシリテーターを設け,学生に担当してもらう。またその学生は熟議経験者とする(大阪と東京の代表各1名ずつ)。
2) ネット上で意見を述べることに躊躇する傾向があるため,なるべく投稿しやすいように簡単な質問の投げかけから始める。
3) ネット熟議は基本的にPCからしか投稿できないため,PCを自由に使える環境にない生徒には,校内でその機会を与える必要がある。
4) 秋は学校行事も多く,授業として長く時間を取ることが難しい。そのため一定の期間に集中的に投稿を行い,それにより活性化を促すために,ネット熟議ファシリテーターや各校の教員が協力する必要がある。
5) 最終的には,ネットの有害性や規制といった論点ではなく,生徒が将来,夢を持ってネットを活用したり,ネットを自己の目標達成の手段としたり,国際的な活動に通じるような議論を促したい。
6) 生徒達が投稿しやすく,目先の問題だけにとらわれず大きな視点で議論をさせるように促すためには,議論全体のストーリーをある程度事前にネット熟議ファシリテーターと教員が共有しておく必要がある。

(3)ネット熟議の内容・テーマ
 実際のサイト上では,一例として次のような議論が展開されました(図5)。

●こんにちは。ネット熟議では初めまして。
ガラケー歴6年の後,現在スマホ2ヶ月です!どちらも長
所短所あると思うのですが,私は総合的には 【スマホ派】
ですが,先の投稿にあった,打ち方では ガラケーの方が
私には合います。スマホではフリック操作もかなり慣れて
それなりになりましたが片手サイズならではの打ちやす
さと 画面を見ずに打てるほどに慣れていた私にとっては,
早さもガラケーの方が優ってましたね。しっかり画面を見
ないとボタンの場所がわからないので外ではより不便で
す。外で危険な経験をした方も多いと思いますし。今のと
ころ打ち方の面だけでガラケー派なので全体的にはスマ
ホ派ですけどね。他にガラケーのいいところも見つけたい
ですね!!
●>高校生はネット利用を控えるべきなのでしょうか?
僕はガンガン使うべきだと思います。たしかに問題もある
かと思います。「SNSしか使ってない」それも問題です。
でも高校生ともなると就職も絡んでくると思うので,ネッ
トでの調査・下調べも重要となってくると思います。そこ
で高校生にネットの利用を控えさせるとなると,かなり厳
しい状況になってくるかと・・・なので,授業でちゃんと
した知識を身に着けて,有効なネット活用をさせるべきか
なとおもいます。
▲図5 ネット熟議でのやり取り(原文を一部抜粋)
4. 高校生熟議サミット・提言発表
(1)熟議サミット
 2012年12月15日に,「高校生熟議2012 高校生熟議サミット」として,東京・大阪,それぞれ3名の高校生代表(計6名)が熟議の結果を持ちより,最終提言をまとめるための熟議を開催しました(図6)。
〔東京都〕 東京学芸大学附属国際中等教育学校
〔神奈川県〕 鎌倉女学院高等学校
〔茨城県〕 水戸女子高等学校
〔大阪府〕 大阪市立東高等学校
羽衣学園高等学校 
〔奈良県〕 奈良県立王寺工業高等学校
▲図6 熟議サミットの代表校

 第一部のアイスブレイクとして,各メンバーが選んで買ってきたお土産の説明と意気込みを発表しました。最初は緊張していましたが ここで少し和やかな雰囲気になりました。
 いよいよ熟議が始まりました。参観者が周りを囲んでいるので最初は視線も気になったようでしたが,途中からその視線も気にせず,活発な意見が飛び交いました。熟議では,次のような議論が展開されました(図7)。
S: 日常会話からもわかると思うが,このゲーム流行って
いるからいいよ!っていう話はあっても,このセキュ
リティのアプリいいよ!ということは話されること
はない。セキュリティに対する意識が甘いと思う。
S: Twitterとかでも,このアプリは使うななどが流れて
いる。けれどもそのアプリにはなんの問題もなかった
りすることもあり,扱いに困る。
S: 情報が多くて疲れる。
S: 暇な時間にちょっと見るつもりが30分とか1時間普
通に経過していることが多い。
S: マスメディアの(スマホ)ゴリ押し。
S: (漫画が原作の)「未来日記」がアニメ化するっていう
話を聞いてすごく喜んだが,実際アニメを見ると原作
はフィーチャーフォンだったのにスマホに変わって
いてがっかりした。世界観をゴリ押しで変えないでほ
しい。
S: 塾がスマホをすすめてくる。よい点のみを親に話して,
悪い点は全く教えない。塾が勉強支援アプリをつくっ
て支援するための教材の一部にしたいというのはわ
かるけど,もう少し考えてほしい。
F: スマホのアプリを使って勉強している例は?
S: 英単語,日本史の記憶系のものなど,いろいろある。
F: 紙ベースで宿題を出されるのと,スマホで宿題を出さ
れるのだったらどっちがいい?
S: スマホは紛失の可能性がかなり減るからよいと思う。
S: 学校での情報モラルの教育が全然足りないと思う。情
報の授業が高校であったけど,2進数や10進数を用
いてプログラミングをさせられた。情報の扱い方など
日常生活に役立つものも実施してほしい。
S: ウイルスに感染したとか,個人情報流出は,自分の知
識がないから漏れる。学校で教育するべきだと思う。
  ※S…生徒 F…ファシリテーター
▲図7 サミットでの熟議のやり取り(一部抜粋)

(2)提言
 その後,約40分程度をかけて模造紙にまとめた当日の記録をプレゼンテーションのスライドにしました。お互いに役割分担を決めて内容を簡潔にまとめ,また発表方法も自分達で決めていきました。
 最後に,第二部の提言では6名で5分以内という条件で,これまでの熟議から得られた高校生からの提言として発表しました(図8,図9)。
図8 サミットでの提言発表の様子
▲図8 サミットでの提言発表の様子


スマホに対する高校生の提言
 私達が討論した今までの課題として”依存”とい
う言葉がとても多く挙がりました。(高校生がスマ
ホに抱く不満として)バッテリーの持ちが悪いとい
うことがあります。これをつきつめて考えると,コ
ミュニケーションが疎かになったり,ウイルスに感
染して個人情報が流出したりするなど,すべてがつ
ながることがわかりました。またその原因は知識不
足も関係していると感じました。
 そこで,一番の原因はスマホへの依存であると考
え,いろんなことを話しました。そこで出てきた話
題として,情報が多すぎて疲れてしまう,リアルの
コミュニケーションができない,といったことなど
が挙がりました。また,課金制のゲームは,はまっ
てしまってレベルアップを目指し,ついついお金を
費やしてしまうので,「やめてほしい!」というこ
とも出ましたが,これはゲームを運営する事業者さ
んや行政にお願いするのではなく,自分達がセーブ
する必要があると考えました。
 自分達にできることもありますが,できないこと
もあります。そこで事業者さんには,セキュリティ
対策の強化をお願いしたいです。スマホは,使って
いる人のウイルス対策が甘いこともあるので,スマ
ホ本体にウイルス対策アプリを標準で搭載してほし
いです。それから,バッテリーの改良なども行って,
長時間使えるようにしてほしい。
 続いて,行政さんへのお願いです。マスメディア
も取り込んで,ネットリテラシーを広める啓発活動
を,今まで以上にしてほしいと感じました。また,
学校の授業にも,ネットリテラシーに関する内容を
もっと多く盛り込んでほしいと考えました。どのよ
うな教育をしてほしいかというと,例えばスマート
フォンを実際にウイルスに感染させ,”感染すると
非常に危険である”といったことを身をもって体感
する,というような授業です。これは,先生達でも
厳しいので,行政に加えて事業者さんも手伝ってほ
しいし,国は支援をするべきであると思います。ス
マートフォンは色々なことをすぐ検索できてしまう。
これは”考える力”をなくすことだと考えます。もっ
と私達には,スマホについて考える時間が必要だと
思いました。
▲図9 高校生からの提言

(3)内閣府,総務省,文部科学省での提言発表
 熟議サミットでの提言に基づき,1月28日に代表者2名による内閣府,総務省,文部科学省でのプレゼンテーションを行い,高校生からの提言を行政に伝えました(図10)。
図10 省庁での提言発表の様子

図10 省庁での提言発表の様子
▲図10 省庁での提言発表の様子
5. 最後に
 平成21年4月から施行された「青少年インターネット環境整備法」に基づき,青少年が安心・安全にインターネットを利用するための環境整備が進みました。また,急速に普及を始めたスマートフォンや新しいICT(情報通信技術)サービスにおいて,青少年が健全にICTを利活用できるように育成するため,青少年への指導に加え,保護者や教職員への「情報モラル教育」の啓発活動が重要視されています。高校生熟議での一連の取り組みは,その一助になったと確信しています。
 高校生が家庭や学校で如何に取り組むべきかを提案できたことが一番の成果だと考えます。高校生による熟議はまだ例が少ないですが,今回のテーマであるインターネットやスマホ(携帯電話)については,既に高いリテラシーを獲得している生徒もいる一方で,未だスマホを所持していない生徒も共に熟議に参加することにより,それぞれの立場から共通の問題点や課題,将来性を検討したことで双方の生徒が新しい気づきを得,今後,この問題についてより深い思慮が得られるきっかけとなったと考えます。
 また,学んだことを実践する交流・プロジェクト学習を実践することによりネットワークリテラシーを育み,生徒達が主体的に学ぶ意欲や問題発見・解決能力を身につけ,また情報機器を活用したコミュニケーション力や表現力を育むことができました。
 さらに,企業や地域の方からのサポートや協力をいただいたことで,新しい発見の一助ともなりました。企業の方の考えや他校の生徒,先生のネットに関する意見を聞き,さらに視野を広げ新しい考えを持つことができるようになりました。
 熟議は現場の課題解決と教育政策形成の新たな手法として期待される一方,熟議への参加は関係者の参画意識の向上,コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力の向上,学び合い,協働のための意識と行動の促進,参加者がともに作り上げる解決策など,高い教育効果と民主的な態度の育成に貢献します。ゆえに,多くの教育現場で熟議が行われてほしいと願います。
 また,この場をお借りしまして主催団体はじめ後援いただきました内閣府,総務省,文部科学省,経済産業省,一般社団法人全国高等学校PTA連合会,一般社団法人日本スマートフォンセキュリティ協会,また関係企業,教育関係者の皆様に感謝申し上げます。なお,高校生熟議の取り組みは,大阪私学教育情報化研究会のWebでこれまでの成果や内容もすべてアップしています。写真も一部掲載しています。次年度は,大阪,東京以外の地域でも開催を企画しています。是非ご参加ください。
※注1:文部科学省 政策創造エンジン 熟議カケアイ(http://jukugi.mext.go.jp/)ネット熟議に参加するには,サイト上で会員登録が必要。
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