では,新CSや教科書を踏まえて,中学校現場での実践動向はどのようになっているのだろうか。 まず,実践以前に大きく変化したのは教材である。プログラムによる計測と制御の必修化により,研究レベルのものも含め,教材会社各社から安価なロボットや制御教材が続々と開発・販売されるようになってきた。LED制御を用いた教材など,実用性を持たせた教材も同様に複数出てきている。プログラミングについても,例えばフローチャート型など,手軽にアルゴリズムを記述できるソフトウェアもセットになっている例が多い。従来の制御教材の課題であった低価格化,プログラミングという敷居の高さ,教材としての実用性といった点の多くは,改善がなされつつある。CSによる必修化という公的枠組みの変更による影響・効果を改めて実感している。 授業実践に関しては,全日本技術・家庭科教育研究会(※注4)という中学校教員の研究団体があり,各都道府県,各ブロック,全国での研究授業および各種ものづくりフェアの運営など,活発に活動している。もちろん情報技術の授業研究,特に必修化の影響を受け,近年では制御を扱った授業研究に多くの教員が取り組んでいる。 23年度は,アルゴリズムの工夫や学習など,プログラミング自体に焦点化した研究が複数見られた。しかし,24年度では,例えば赤外線センサ搭載のロボットカー教材を使い,自動運転支援システムをまねてぶつからないように走行する課題設定(※注5)や,センサつき時計を使ってエアコンをシミュレーションする課題(※注6)など,単に動かすだけでなく,課題設定がなされ,技術的な目的を明確にした授業展開が増えている。これはプログラムによる制御を実践する段階から,技術科として制御で何を教えるべきかをより掘り下げて追求する段階に移行しつつあると見ることができる。 もちろん,ここで紹介したような授業は言わば現段階でのトップ水準の実践であり,平均的なものではない。そればかりか,技術科においては技術科の免許を持たずに臨時免許で教える,いわゆる免許外教員が,特に地方には多いのが実情である。こうした学校での制御の授業実践は当然困難が予想される。この点は教科「情報」でも同じような課題を抱えているのではないだろうか。また,先端的な実践であっても,制御技術やプログラミングという視点から見れば,簡易言語を用いて短い授業時間の中で行われている点から,レベルが高いとは言い難いという見方もできよう。 これは,教育予算の問題や材料加工,エネルギー,生物育成に情報という四つの内容を前述のごく限られた時間の中で教えなければならないという,現実的な制約条件によるところが大きい。簡単に解決できる問題ではない。 しかし,そうした現実の中でも,今回の新CSでは,技術科としての情報技術のとらえ方や方向性を今までよりも格段に明確にし,さまざまな制約条件の中で実践が進み出しつつある。すなわち,全国の中学生が,卒業までには従来よりも情報技術を深く学び,プログラミングの経験を持つようになる。そうした中学生が順次,高校へと進学していくのである。この生徒達を教科「情報」ではどのように引き受ければよいのであろうか。次の課題として,技術科と教科「情報」の連携・交流について検討する。
ある制御の授業研究会に参加した際に,「単に動かすだけでいいのだろうか」という問いが発せられた。これは,そもそも技術の学習で情報技術の何を教えるべきかという問いに置き換えることができよう。今回のCS改訂は,単にプログラミングが必修化されたというだけではなく,多くの教員にとって,改めて技術科教育は何を目指すべきかという議論のきっかけになっていると感じている。 本稿で紹介した技術科の動向が,教科「情報」とは,何を教える教科なのか。何を目指したらいいのかを再考する契機となれば幸いである。同時に,技術科と教科「情報」の連携・交流も進めていけたらと考えている。
※注1: Course of Study ※注2: 正確には家庭分野と半々なので,1・2年生で35時間,3年生で17.5時間となる。なお,この時数は先進国中では最低レベルである。 ※注3: 文部科学省 2008 『中学校学習指導要領解説 技術・家庭科編』 教育図書 参照。 ※注4: 全日本技術・家庭科教育研究会の活動については,「全日本技術・家庭科教育研究会」(http://ajgika.ne.jp/)を参照。 ※注5: 石川県中学校技術・家庭科教育研究部 2012 『自ら学び,考え,「生活に活きる力」を獲得しようとする生徒の育成,第49回東海・北陸地区中学校技術・家庭科研究大会石川大会研究要録』 p.55-58 参照。 ※注6: 鹿児島県中学校技術・家庭科教育研究部 2012 『生活をよりよくしようと実践する生徒の育成,第51回全日本中学校技術・家庭科研究大会大分大会要録』 p.105-108 参照。 ※注7: 詳細は,日本産業技術教育学会ロボコン委員会「ロボット学習資料公開サイト」(http://www.mura-lab.info/kaken/)を参照。