ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.49 > p6〜p11

社会と情報
PBLによる生徒主体の授業をつくる
─問題解決に向けたアカデミックスキルズのすすめ─
関西大学中・高等部
江守 恒明
1.はじめに
 新学習指導要領「社会と情報」における「情報社会に参画する態度」とは,「情報社会に参加し,よりよい情報社会にするための活動に積極的に加わろうとする意欲的な態度のこと」と明記されている。このような意欲的な態度を育成するためには,生徒が主体的に授業へ参加できる環境を整えることが大切である。
 従来の一斉型の授業から,生徒が主体的に学習に取り組めるような授業を展開するにはどうすればいいのだろうか。一つの例として,生徒自らが調べ,考え,議論し,問題を解決していく学習形態である「PBL(Project-Based Learning)」を授業に組み込むことがある。これは「問題解決型授業」ともいい,近年,大学などでもPBLによる講義が進められるようになっている。PBLによる授業では,生徒に対する教師のかかわり方が大きく変わる。教師は一方的に教え込むということはせず,適切な指示を与えたり,生徒とともに考えたり,ときには議論にも参加したりする。
 PBLの中では「アカデミックスキルズ」を身につけると,より効果的に学習することができる。アカデミックスキルズとは,大学で学ぶために必要な知的技法のことで,調査の仕方やデータの処理,議論や発表の方法,レポートの書き方など多岐にわたる。日本文教出版の「社会と情報」では,各章末でこのアカデミックスキルズを扱い(図1),終章の「情報社会と問題解決」に取り組むために必要な基礎的な力を身につけられるように構成されている(図2)。
アカデミックスキルズ1 プレゼンテーション…p.46 〜 51
アカデミックスキルズ2 調査の方法……………p.92 〜 95
アカデミックスキルズ3 レポート……………p.146 〜 147
アカデミックスキルズ4 情報発信……………p.164 〜 165
▲図1  日本文教出版「社会と情報」で扱っているアカデミックスキルズの内容

図2 アカデミックスキルズで身につける力(p.153)
▲図2 アカデミックスキルズで身につける力(p.153)

 また,アカデミックスキルズ以外に,教科書の本文でも問題解決に関連の深い内容が扱われるなど,資料性は高い。本稿では,この教科書を必要に応じて参照しながら,問題を発見し,解決策を検討し,実践,評価する一連の問題解決を行う授業を構想してみたい。具体的には,ポスター制作に向けて,アイディアを出し,関連する情報を集め,企画書をつくり,発表し,評価するという展開を想定している。
2.PBLとPDCAサイクル
 PBLに取り組む際は,PDCAサイクルを意識させるような授業計画を立てる。PDCAサイクルとは,「Plan(計画)」(目標を設定して,それを実現するための計画をつくる),「Do(実行)」(計画を実施し,その成果を測定する),「Check(評価)」(測定結果を評価し,結果を目標と比較するなどの分析を行う),「Act(改善)」(目標の改善・向上に必要な措置を実施する)という四つの段階を繰り返し,よりよい成果をあげていく営みである(図3)。
図3 ポスター制作を例にとったPDCAサイクル(p.33)
▲図3 ポスター制作を例にとったPDCAサイクル(p.33)

 PBLで生徒が主体的に学習を進める場合は,自分たちの活動に対して自己評価や相互評価を繰り返し行うことがとても重要になる。そこでの評価によって学習成果を見直すことができ,さらに明確な課題を発見したり,目標を立てたりすることができる。そのことが学習意欲への向上につながる。たとえば,次のような評価ワークシートを使って,改善点も含めて考えさせるとよい(図4)。
図4 評価ワークシートの例(p.33)
▲図4 評価ワークシートの例(p.33)
3.問題を見つけ出す発想法・思考法
 問題解決の最初のステップは問題を見つけ出すことである。ここで有効な手法は,ブレーンストーミングとカードを用いたアイディア整理法である。教科書のp.10では,アイディアや情報をカードに書き出し,グループ化しながらまとめていく方法が紹介されている。

(1)アイテムの準備
 いきなり『今日は○○について話し合いましょう』といっても発言は生まれない。たとえば,付箋紙,マーカー,先の太いペン,A3用紙や模造紙のような大きめの紙などのアイテムを準備することからはじめる(図5)。
図5 カードを用いたアイディア整理法の準備(p.10)
▲図5 カードを用いたアイディア整理法の準備(p.10)

 議論を行うには,「自分たちで書き出さないことには,何もはじまらないな」という雰囲気をつくることが大切である。教師が必要以上の指示をせず,生徒が動き出すのを待つことも求められる。

(2)キーワードをたくさん見つける
 まず,これまでの経験から「情報社会だからできたこと」,「情報社会だから起こったこと」をできるだけたくさん思い出して,付箋紙に連想するキーワードを書き出していく。付箋紙には複数の内容は書かず,1枚につき一つの事項を記述するようにする(図6)。
図6 付箋紙にキーワードを書き出した例(p.10)
▲図6 付箋紙にキーワードを書き出した例(p.10)

 ここでは,個人の作業になり,自分自身で考えることが大切である。場合によっては,一人につき10枚は必ず書かせるなどの基準を設けて強制的に書かせることも必要である。結果的にグループ内で同じ意見が出てもかまわない。なお,付箋紙に書くキーワードは,先の太いペンなどでわかりやすく大きな文字で書くことを意識させる。

(3)カテゴリに分類する
 たくさんの付箋紙が集められたら,同じものや関連のあるものをまとめる収束的な思考へ進む。アイディアを出す発散的な思考とは異なる考え方なので,頭を整理するためにも,カテゴリに分類する作業の前には,少し「休息」が必要である。問題を深くじっくり考える場合は,付箋紙に書き出す発散的な思考を数日間続け,すべてのアイディアを出し切ってから,カテゴリに分け,まとめる作業を行うこともある。
 カテゴリに分ける場合は,まず付箋の内容をよく読み,関連するものどうしをグルーピングしていく。次にカテゴリのタイトルをつける。タイトルを吟味させることで,付箋紙に書かれた内容の違いを明確にすることができる(図7)。
図7 カテゴリに分け,タイトルをつけた例(p.10)
▲図7 カテゴリに分け,タイトルをつけた例(p.10)

(4)整理してわかりやすく発表する
 ここまでの結果を発表させる。発表は,模造紙などに貼られた状態のものでもよい。しかし,時間があれば,より情報を整理させるためにカテゴリどうしの関係を樹形図などで整理してあらわすことにも挑戦させたい(図8)。
図8 樹形図や表にまとめた例(p.10)
▲図8 樹形図や表にまとめた例(p.10)

 これには,p.47のアカデミックスキルズ1にある図解のはたらきの解説が役立つ(図9)。
図9 図解のはたらきについての解説(p.47)
▲図9 図解のはたらきについての解説(p.47)

 図を使うことで,複雑な関係も視覚的に整理でき,情報の受け手の理解を助けることが多いことを学習させる。

4.情報の探し方,集め方
 問題点を見つけ出し,整理することができたら,次はその問題を解決するために必要な情報を集める。必要な情報とは,問題を解くためのヒントや,根拠となる事実である。情報を探し出す際は,インターネット検索による情報ばかりに偏らないように,書籍,雑誌,テレビ,各種資料など,多方面からバランスよく収集できる力を身につけさせたい。内容によっては,教科書p.92 〜 95のようなアンケートやインタビューといったさまざまな調査方法も試みてほしい(図10)。
図10 さまざまな調査方法の例(p.92)
▲図10 さまざまな調査方法の例(p.92)

(1)学校図書館の活用
 授業では,生徒にとって身近な学校図書館を活用することを想定している。司書教諭とも連携しながら,図書館の案内図などを見せ,実際に調べるときに必須となる参考文献コーナーや一般図書などの場所を必ず確認させる。
 図書館内にある資料は,ただ漠然と並べてあるのではない。ここでは,一般的に日本十進分類法(NDC)にしたがって分類されていることを理解させたい。また,それぞれの本棚には,どの番号の本が並べられているのかを示す案内板(項目表)が掲示されている場合も多いので,必ず確認させたい。

1)百科事典からはじめる
 図書館で情報を調べる際,まずは参考図書,つまりリファレンス本のコーナーに行くことがポイントである。調べたい事柄やキーワードを百科事典で確認するのである。キーワードを索引から探すと効率的に探せるが,百科事典には調べたい事柄が簡潔にまとめられており,それらを糸口にして調べを進めることができる。
 百科事典で調べたい事柄やキーワードを洗い出したら,次は各種参考図書(事典,図鑑など)に当たり,さらに詳しく調べていく。

2)ブラウジング
 日本十進分類法の分類番号を参考に,調べたい事柄のある本棚に並べられた本を一つひとつ観察していく。これを「ブラウジング」という。調べたい事柄は一つの分野の書架だけにあるとは限らない。たとえば「酸性雨」というキーワードについて調べるとすると,環境(519)や気象(451)のところにも関連する本がありそうだし,自然科学の研究法(407)のところも参考になりそうである。このように,一つの棚だけでなく,関係のありそうな棚を探すように生徒にうながす。
 棚をブラウジングする際には前後左右の棚も見ておくと,欲しかった情報が載っている本が見つかることがある。また,見つけた本の中で「これは使えるぞ!」という資料に出会ったら,その資料にあげられている参考文献をチェックしてみる。その本の著者が参考にした本が載っているので,調べたい事柄に関連のある本をさらに増やすことができることもある。

(2)インターネット検索
 インターネット検索を効率的に行うには,コツのようなものがある。教科書の巻末の資料15 〜16で扱っているので,参考にするとよい(図11)。
図11 情報収集の方法(資料15 〜 16)
▲図11 情報収集の方法(資料15 〜 16)

 インターネット検索では、次の三つの検索方法を使いこなせるようにしたい。
AND検索(キーワード「A」と「B」の両方が含まれるWebページを検索する)
OR検索(キーワード「A」と「B」のどちらかが含まれるWebページを検索する)
NOT検索(キーワード「A」のうち,「A」は含むが「B」は含んでいないWebページを検索する)
 また,ある特定の分野について調べる場合には,その分野に関する情報を集めたポータルサイトや企業または研究所などのWebサイトを使うと目的の情報が見つけやすいこともある。

(3)引用のルール
 調べたことをレポートなどにまとめる際は,ほとんどの場合,他人の著作物を利用することになる。教科書のp.108には,引用の条件とルールが説明されている(図12)。
図12 引用の条件とルール(p.108)
▲図12 引用の条件とルール(p.108)

 著作者の成果を大切にするという意味でも,正しい引用の条件とルールを知っておくことが必要である。

5.情報の組み立て方
 インターネット,図書,新聞,雑誌などの資料から確かな情報を手に入れたら,それらを整理し企画書を作成していく。情報を整理する際にも,前述した発想法・思考法が役に立つだろう。こうした作業を通して,企画を立てる上で必要な素材が整っていくのである。

(1)企画書をつくる
 企画書は情報を伝えるために必要な事柄をまとめた計画書である。企画書には目的,ターゲット,伝達方法,表現のコンセプト,構成と内容をまとめる。コンセプトとは,中心となる観点を短い言葉で表現したものである。企画書は自分たちの考えを主張する場である。相手を納得させる主張には,調べた事実やしっかりした理由づけも含めて確かな根拠が必要となる。ここまでが,Plan(計画)となる(図13)。
図13 企画書の例(p.29)
▲図13 企画書の例(p.29)

(2)制作の準備と制作
 企画書をもとにポスターをつくる場合を考えてみよう。限られた紙面上に掲載すべき情報を選び,訴えたい内容に優先順位をつける必要がある。アイキャッチをどうするか,正確に伝えるべき情報は何かなどを考えて構成していく。
 図やイラスト,写真などを組み合わせると,文字だけによる表現よりも見せ方のパターンが一段と増える(図14)。多くのチラシや広告に写真が使われているのは,見る人を短時間で引きつける必要があるためである。写真を撮るときには表現の目的に合った構図やカメラアングルなどを意識させる。また,写真は細かい描写が可能であるがゆえに不要な部分をぼかしたり,トリミングしたりして見る人がわかりやすいようにしたい。ここまでがDo(実行)である。
図14 ポスターの比較例(p.31)
▲図14 ポスターの比較例(p.31)

(3)評価と改善
 作品が完成したら発表会を行う。これが評価の場も兼ねている。ある計画を実行しても,評価しなければ次の計画に活かすための知識やノウハウを蓄積できない。PDCAサイクルにおけるCheck(評価)とAct (改善)はとても大切である。
 評価は,できれば専門家や指導者を招き,外部からの評価を取り入れるとよいだろう。作成したコンテンツはたくさんの人に評価してもらうことで,自分では気づかなかったことが見えてくる。指摘された改善点をもとに修正作業を行い,よりよいコンテンツを完成させたい。このように,PDCAサイクルを意識することで作品の質が向上する。完成作品はポートフォリオにして,学習の履歴が残るようにするとさらによいだろう。

6.おわりに
 ここでは,アカデミックスキルズを取り入れたPBLの例を紹介した。本稿では教科書にあるすべてのアカデミックスキルズを取り上げることができなかったが,アカデミックスキルズ3で扱っているレポートの書き方(p.146 〜 147)やアカデミックスキルズ4情報発信のページ(p.164 〜165)も,展開に応じてどんどん活用していくとよい。
 PBLを意識した授業では,その学習活動の特性から,ある程度まとまった授業時数が確保されていることが望ましい。ここで扱ったPBLとPDCAサイクルを意識した学習活動は,終章「情報社会と問題解決」に取り組むための事前準備であるともいえる。1〜3章で「社会と情報」を学習した生徒は,それ以前とは比較できないほど具体的な問題意識を抱きはじめる。その問題意識を大切にしながら,終章では,筆者が前任校で取り組んだ郷土資料館のプロデュースや序章のコラム(p.16)で扱った「anmitsu」(高校生がつくるフリーペーパー)を例に,情報科で学んだ知識や技術をフル活用して,問題解決に取り組める内容を紹介している。終章で説明されている問題解決の流れを意識し,生徒独自のユニークな視点での問題解決あるいは調査・研究を進めさせることで,「社会と情報」の学習を通して育成される「情報社会に積極的に参画する態度」が実を結ぶと考える。
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