では,実際にどのような学習活動が求められるのか,そこではどのような工夫が必要になるのか,学習指導要領の三つのキーワードをもとにして考えてみよう。
(1)メディアの意味
今回の学習指導要領で用いられた言葉の中でも,多義性があって理解しづらいのが「メディアの意味」だと思われる。学習指導要領解説によれば,
1)表現手段としてのメディア
メッセージを表現するために用いる情報の形態。
2)情報の伝達や通信の媒体としてのメディア
情報がやりとりされる経路。
3)情報を蓄積する媒体としてのメディア
情報を記録するものとしてのメディア。
がある。しかし,文言の最後に「など」とあるため,その言葉が意味する範囲についてはこの限りではないことを考慮する必要がある。したがって,メディアという言葉を次のような用語としてもとらえることが望ましい。
4)マスコミをあらわす語としてのメディア
放送や出版などの報道機関・情報発信機関そのもの。
5)情報を媒介するものとしてのメディア
情報がメディアを介して伝わることの意味。
情報通信の文脈では1)から3)の意味はとても重要だが,むしろ一般的な用語としては,マスコミを意味することがきわめて多い。「情報がメディアによってゆがめられる」という表現などに見られる「ゆがめる主体」は,意図的であれ非意図的であれ,情報を構成して送り出す機関であるマスコミなどである。そこで,報道機関や情報産業であるメディアによって大量に送り出されるメッセージと,自分たちがどうかかわるべきかを考えるメディアリテラシーの学習が,とても重要な事項になってきている。
そして,2)の意味とも関連して,自分たちが情報を受け取る情報源としてのインターネットだけでなく,情報発信するメディアとしてのインターネットについて,そこで情報がやりとりされることの意味を,信憑性,信頼性,情報公開の範囲,著作権や知的財産,個人情報の保護,匿名性などといったさまざまな視点から検討する学習が必要だと考えられる。
(2)問題の解決/問題解決
「社会と情報」では,「(4)ウ 情報社会における問題の解決」に「情報機器や情報通信ネットワークなどを適切に活用して問題を解決する方法を習得させる」という文言がある。また「情報の科学」では,「問題解決」が内容の2と3の両方の項目で登場し,大きなテーマとして扱われていることがわかる。どちらも,問題を身近なものとしてとらえ,解決することが前提となっている。これは,生徒が主体的に学習を進めるためだと考えられる。実際の授業においてどのような問題を扱うか,とくに注意を払う必要があるだろう。
問題が解決されるまでのプロセスは,次のように示される。
1) 問題の発見:問題点の具体的な記述
2) 問題の分析:情報の収集と整理
3) 解決方法の検討・実践・評価:方法の考案/検討/選択,実践,評価の各段階
問題解決を扱う教科等は「情報」だけではない。しかしながら,教科「情報」において問題解決を扱う理由は問題解決のプロセスにコンピュータやインターネットを用いることがほとんどであるためである。まず,問題を発見するためには,問題となる状況に関する知識が必要である。身近な問題も,つきつめれば社会のさまざまな問題とつながっているはずである。むしろ,社会のさまざまな知識や情報から問題を身近なものに絞り込んでいくようなプロセスが必要だろう。
さらに,社会についての知識の多くはさまざまなメディアを通して入手したものである。情報収集や整理においても情報手段が用いられる。検索エンジンを用いて類似の問題状況を探し,集めたデータを表計算ソフトを活用して,分析したり,データベースに入れて整理したりすることになる。
「社会と情報」では,ブレーンストーミングや図解,グラフ化などの情報そのものを扱う方法について焦点が当たる。いっぽうで,「情報の科学」では,問題をモデル化してシミュレーションを用いるなどして解決を図ることが重視される。
また,情報手段によってどのような長短があるのかについて検討することや,問題解決を行いながら,その方法や効果について,つねに客観的に振り返る機会の設定が重要になる。
(3)主体的に考え,討議し発表し合う
どちらの科目にも「生徒が主体的に考え,討議し,発表し合う」ことを求める記述がある。主体的な学習態度は,どの教科においてもとりわけ強調されるべきであるが,実は高等学校の授業の中でそれを実現するのは難しい。多くの学校現場で,授業は各自で学習の基礎となる事項を取り扱うだけで手一杯だと考えられている状況がある。
いっぽう,情報手段については,自ら働きかけなければ何も起こらないしくみがもともとある。また,前述したように生徒は情報手段を日頃から「主体的に」用いているという実態もある。その中で,主体的に取り組んだり考えたりする方向を導くことがこの教科の役割の一つだといえるだろう。その方向性こそ「望ましい情報社会」や「情報社会の発展」へとつながるのである。
「討議する」というとき,学習方法あるいは形態としてよく用いられるのがディベートである。ディベートは立場を定めてそれを正当化する主張を繰り広げるが,いっぽうで主張を防御するために反対意見についても掘り下げて調べる必要がある。さらに,その上でどのような議論が展開されるかについて推論する必要もある。その意味では,思考する学習が確実に行われるという利点がある。
また,より自由な討議の仕方もある。デ・ボーノが提唱する6色帽子による議論なども参考になる。これは6色の帽子を用意し,それをかぶったという想定でそれぞれの色に規定されることだけを論じる(考えるモードを絞る)手法である。青は見通しや意思決定
,白は事実,赤は感情,黒は批判的・否定的な意見,黄色は肯定的な意見,緑は創造的な意見である。まず青の帽子をかぶって,議論の方向性を決める。その後はほかの5色の帽子を適宜使っていく。全員が同じ色の帽子をかぶり,時間を決めて色に対応する考えだけを述べていく。議論の最後は青の帽子によって,議論をまとめる。青の帽子は議論を収斂させたいときがあれば,途中であっても用いられる。
このような議論の手法を授業展開の選択肢としていくつかもっておき,学習目標に応じて使い分けながら議論の進め方についても学ばせることが望まれる。
発表し合う学習では,すでに学校現場で広く取り組まれているものにプレゼンテーションがある。プレゼンテーションの指導では,資料の作成と発表の仕方について焦点化されがちである。しかし,今後求められていくのは発表をもとにした議論である。そこで期待したいのが,発表の内容についてのディスカッションである。そのためには,発表内容に関する質問をつくらせる指導とそれに応えさせるための指導が必要となるだろう。質問には,不明なことを明らかにするための質問と発表者の意見とは異なる見方や意見を述べて議論をするための質問がある。発表を聞いた後,つねにその両者を考えさせるような習慣をつけたり,それをうながすワークシートを手渡しておくような手立てが必要になると考えられる。 |