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教育実践例 |
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メディアリテラシーを育成する実践事例の紹介 ─新学習指導要領での活用を目指して─
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1.はじめに |
平成25年度から施行される学習指導要領における教科「情報」の科目「社会と情報」には,「(1)ア 情報とメディアの特徴:情報機器や情報通信ネットワークなどを適切に活用するために,情報の特徴とメディアの意味を理解させる。」や「(2)ア コミュニケーション手段の発達:コミュニケーション手段の発達をその変遷と関連付けて理解させるとともに,通信サービスの特徴をコミュニケーションの形態とのかかわりで理解させる。」という項目がある。
情報技術の発展やインターネットの動画投稿サイトの登場により,映像の視聴や制作が身近な存在になった。そのため,映像がどういった目的で,どのように作られているのかを考える力,すなわちメディアリテラシーを学ぶ必要がでてきた。また,映像が持っている影響力は大きく,使用方法を間違えると相手に目的とは違う伝わり方をしたり,悪影響を及ぼしたりする場合もある。
これらの理由から,上記の項目を学習する必要性が出てきたものと考えられる。
現代社会の動きを捉えても,携帯電話やインターネットを介したトラブルが目につく。そのトラブルが悲惨な事故につながるケースも出ている。このような事例を考えると,メディアリテラシーを育成することはこれからの教育現場において,重要な課題である。
以上のような背景のもとで,メディアリテラシーを育成するための二つの実践を紹介したい。
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2.「メディア制作」の実践 |
(1)「メディア制作」について
メディアリテラシー教材を用いた授業について触れる前に,本校での映像制作の授業について紹介したい。
本校の普通科情報表現コースでは,学校設定科目「メディア制作」において,テーマを決めて映像制作を行っている。6,7名のグループ活動で,30秒 〜1分程度の映像制作を行っている。映像制作をする目的としては大きく次の5項目を考えた。
1)画像や映像によって相手にメッセージを伝える力をつける。
2)メッセージの内容,表現方法を考え,伝えることを通して表現力をつける。
3)情報機器を用い,画像や映像を加工する技術を身につける。
4)映像の効果のつけ方や表現方法によって,さまざまな伝わり方があることを理解する。
5)テーマとなる課題について深く考察する力をつける。
情報表現コースには,控え目な生徒が多く,他人と関わろうとする意識が低い。そのため,コミュニケーション力や表現力を養う機会が少ない。その一方で,パソコンや情報技術に対する興味関心は高い。こうした現状をふまえ,パソコンを活用して表現する機会を設け,かつ,情報モラルに関する題材(今年度は「携帯電話」)で学習する機会を作った。完成作品(図1)は発表会を設定し,相互評価や外部講師による評価を行った。
▲図1 「携帯電話」の生徒作品
(2)制作を通して
制作した生徒の感想は,
「一つのテーマを通してグループで動画を作る作業の難しさが改めて分かった。次の機会があればまた力をそそぎたいです。」
「他の人の作品などを見て,なるほどこんな方法があったのかなど新しい発見があった。」
「携帯電話を題材につくることで携帯電話の使い方について考えることになりよかったと思う。」
「多種多様な方法があり,それをどうするのかで伝わり方などが変わり,人に伝えることの難しさが分かった。」
などであった。生徒からの感想や制作している姿から,以下のような効果が見えた。
1)協力して活発に制作しているグループが見られた。
2)テーマについて改めて考えさせる機会ができた。
3)グループ作業の意味を考えさせるよい機会ができた。
4)他のグループの作品を観ることで,いろいろな考えや表現を知ることができた。
しかし,制作する上での課題もいくつかあげられた。
(3)出てきた課題
1)役割分担の振り分け
生徒に役割を決めさせると,一部の生徒が動くことになりがちで,ある程度教師からのアプローチが必要になる。しかし,どのように役割分担を行えばよいか,教師にとっていつも頭を悩ませる問題である。
2)撮影や編集における効果や内容の評価
映像制作に詳しい教師やプロの制作者でなければ,生徒の作品を専門的に評価することは難しい。ましてや生徒自身が評価することはなおさらのことである。特に作品の内容を評価することは,好みが大きく関わってしまうので,どの点をしっかり評価すべきかは悩むところである。
3)映像の影響力の学習の必要性
映像を作らせただけで終わってしまったため,映像が人にどのような影響を与えているのか,ということを指導することが中途半端になってしまった。
以上の点を踏まえて,今回開発した教材は特に2),3)の課題について解決を期待できる点が大きかった。また,教材を有効に活用できるような授業を考えることで1)の課題についても効果が期待できるものであった。
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3.教材の開発と実践 |
今回,実践事例で使用した教材はパナソニック教育財団の助成を受け武蔵大学・中橋研究室で開発されたものである。※注1
現在,開発された教材はhttp://mlis.jimdo.comで公開されている。本実践で使用した教材は以下の二つである。
1)メディアを学ぼう
メディアとは何かを説明するもの。図や写真などを使って抽象的な概念の理解をしやすくする教材である(図2)。
▲図2 「メディアを学ぼう」から
2)体験!編集の効果
選択肢を選んでいくとCMができるコンテンツである。色やBGM,テロップの入れ方によって,相手に伝わるメッセージや印象が変わることを学べる教材である(図3)。
▲図3 「体験!編集の効果」から
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4.本校での実践 |
(1)「メディアで学ぼう」の授業展開
1)考慮した点
・教材を使う前の導入部分
イメージマップを使い,生徒の「メディア」に対する思考イメージを確認した(図4)。そして,各生徒に質問して答えさせることで,多様な意見を共有し,学習に向けた意欲を持たせた。
・ワークシートの活用
本時の学習内容を把握させつつ,確実に知識をつけさせるためにワークシートを用意し,活用させた。
▲図4 「メディア」に対する思考イメージ
2)目標・指導案
・目標
メディアとその特性を知り,メディアが重要な役割を担っていることを知る。
・指導案
導入 |
・イメージマップを書かせる
・各生徒に答えさせ,黒板上に記していく
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展開1 |
・メディアの説明,イメージ図を書かせる
・メディアの例示をさせる
・教材での確認 |
展開2 |
・メディアの特徴をあげさせる
・教材上の問題をワークシートに解かせる
・教材での確認 |
まとめ |
・メディアが情報を得るためだけでなく,自分の考えを構成する上でも重要なことを確認させる
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3)授業を通して
メディアは生徒にも身近なものであり,興味関心が高かった気がする。そのため,授業を集中して聞き,内容を理解しようと心がけているように見えた。また,メディアの特性を教えるときにもう少し的を絞って教えたほうがよかった。さらに,さまざまなメディアを比較しながら教えたほうが分かりやすかったと考える。
(2)「体験!編集の効果」の授業展開
1)考慮した点
・ワークシートの活用
今回,本教材は各生徒が個別に使用する形にしたため,説明を最小限におさえ,ワークシートと教材で学習できるようにした。そのことで,教材を使用する時間を確保し,生徒が考えながら学習できるようにした。
・実際のCMとの比較
教材を使用することで,今回の目標を身につけることができたかを確認するために,実際のカレーのCMを取り上げ,制作者の意図と効果の意味を答えさせた。
2)目標・指導案
・目標
コミュニケーションをとるにはメディアが必要であることを知る。
CMは制作者の意図によって構成されていることを知る。
・指導案
導入 |
・コミュニケーションをとるためにはメディアが必要であることを説明
・メディアの一つとしてCMをとりあげることを説明
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展開1 |
・CMにはどのような情報が含まれているか,答えさせる
・教材の使用法を説明
・教材の使用
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展開2 |
・選んだ効果の理由を答えさせる
・カレーのCMを見せ,制作者の意図等を答えさせる
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まとめ |
・制作者の意図によって,表現方法や印象のつけ方が変わることを確認
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3)授業を通して
動きのある教材なので,生徒も楽しみながら学習していたようである。生徒によっては,近くの生徒と比較しながら教材を使用している場面も見えた。また,目標として,コミュニケーションについて触れているので,最後のまとめの部分でコミュニケーションについて振り返られるとよいと考えた。
ワークシートについては,各生徒個人での使用を今回行ったが,グループ活動にして,お互いが考えを出し合いつつ作業をする形のほうが理解が深まり,より効果が期待できただろう。※注2
(3)授業を振り返って
二つの教材を使用した後,生徒にアンケートをとったところ,以下のような記述が見られた。 「メディアの特徴を詳しく学べて,メディアはこの世界に大切だと学ぶことができた」 「CMによる心理的誘導効果についてよくわかった」 「文字の色にも意味があって,色が違うだけで,雰囲気が全然ちがうところを学んだ」
これらの意見を見ると,授業のねらい通りに学んでいたと考える。教材を使っている最中は,比較的集中して学習しているようにも見え,興味関心が高い内容にできたと思う。
ただし,やはり全体を通してグループでの学習を行うことで,さらに理解が深まるように感じた。これを今後の授業に活かしたい。
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5.おわりに |
今回,本稿を執筆しているさなかに東日本大震災が起こった。本校は仙台市にある。震災の渦中にある校舎で,各生徒や教員の話を聞くたびに胸がしめつけられる思いで過ごしている。そのような中,今回の掲載を快諾していただいた日本文教出版の方,温かいお言葉をかけてくださった皆様に感謝しております。
震災中,情報をどのように入手して,信憑性をどう判断するか,ということを考えさせられた。各メディアによるデマや風評被害の拡散も今回大きく取り上げられたことだと思う。
社会不安が大きくなると,何の根拠もない情報でも本当らしく聞こえてきてしまい,それがデマや風評被害を巻き起こしてしまうことを間近で感じた。私自身ライフラインやメディアが限定されているときは比較的慎重に情報を得ようとしていた。しかし,ライフラインがある程度復旧し,いくつかのメディアが使えるようになると,さまざまな情報が行き交うようになり,混乱して適切な判断を下せない状況が生じた。
メディアがラジオだけ,という場合は慎重に情報を得ようとするが,携帯電話やテレビ,インターネットといったメディアが増えると,携帯電話の情報だけに頼るなど,勝手な判断をして,混乱を引き起こす場合があるように感じた。
また,社会不安により,CM本来の目的が違った形で相手に伝わってしまい,自粛を余議なくされるような話もあった。
今回の震災のようなケースを含め,情報社会において,私たちがメディアとどう向き合っていかなければならないのかが問われている。学校教育を通して,メディアリテラシーについて学ぶことは不可欠であり,その教材の開発とよい授業実践を行うことが急務である。
メディアリテラシーの授業を実践されている全国の先生方にとって,今回の実践報告が少しでも参考になればと考えております。
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