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ICT・EducationNo.47 > p6〜p9

教育実践例
尼崎東高校における情報Aの実践
─プレゼンテーション能力の育成を目的に─
尼崎市立尼崎双星高等学校/ 尼崎市立尼崎東高等学校
 猪飼 涼介 ・ 上田 友幸 ・ 泰山 裕
rikai822@gmail.com
1.はじめに
 本校は,兵庫県尼崎市に位置する全日制普通科の高等学校である。複数志願選抜で180名,特色選抜(音楽類型)で20名募集し,1学年約200人,5クラスの学校である。平成23年度から統廃合のため,尼崎市立尼崎産業高等学校と合併し,尼崎双星高等学校となる。
 本校の大学・短期大学への進学率は約33%,専門学校への進学率は約40%,就職は約20%,その他は約7%と進路は多岐に渡る。そのため,本校では2年次から進路別に6つの類型クラスに分かれている。また,類型クラス内にも複数の選択科目を設置し,幅広い進路に対応したカリキュラムになっている。
 本校での情報教育は,類型クラスに分かれる前の1年次で,必修の「情報A」を2単位で行い,3年次の商業の選択科目である「文書デザイン」,「情報処理」へとつなげていく授業を行っている。
 ちなみに「文書デザイン」では,ポスター制作,CM制作等を行い,「情報処理」ではExcelを使った情報処理等を行っている。
 本稿では,1年次2単位で実施している「情報A」の実践を紹介していきたい。
2.「情報A」の目的と概要
 本校の「情報A」の目的は,「プレゼンテーション能力の育成」である。そこで,年間5回,クラスメイトの前に立って発表することができる授業を考えた。
 発表はスピーチのみの授業を2回と「テーマを決め,情報を集め,情報をまとめ,発表し,評価する」というプロジェクト学習※注1の要素を取り入れた授業を3回行っている。
 また,上記の学習を行うにあたって,最低限必要だと考えられるソフトウェアの操作技術を学ぶ授業,情報の信憑性や情報モラルを学ぶ授業も1学期に実施した。
3.「情報A」の年間スケジュール
 本校の「情報A」は,次のような流れで1年間の授業を行った。
 なお,発表を実施した授業には下線を引いてある。

(1)1学期

  • オリエンテーション(1h)
  • 30秒スピーチ『自分のことを知ってもらおう』(1h)
  • コンピュータの使用方法,アルファベットとタイピング(1h)
  • インターネットの使用方法,情報の信憑性(1h)
  • 『情報セキュリティ対策DVD「仕掛けられた罠」』(約25分)を観て自分なりの対策を考える(1h)
  • なりきりチャット体験(1h)
  • 著作権クイズと情報モラル(1h)
  • 『都道府県レポート』の作成(Word使用)(6h)
  • 『みんなの知らない都道府県情報』の発表(2h)
  • 『都道府県レポート』振り返り(1h)

(2)2学期

  • 夏休みの思い出レポート作成(1h)
  • 30秒スピーチ『夏休みの思い出を伝えよう』(1h)
  • 『これぞ!おすすめ』スライド作成&発表(13h)※詳細は後述
  • Excelの基礎(3h)
  • 班でアンケート作成(1h)
  • アンケート調査&まとめ(1h)
  • Excel実技試験(1h)

(3)3学期

  • 『尼東ハローワーク』スライド作成&発表と1年間の振り返り(10h)※詳細は後述
4.1学期の実践
(1)30秒スピーチ

 最初の発表である『30秒スピーチ』では,単に自己紹介するのではなく,30秒間という決められた時間の中で相手に情報を伝えることの難しさを知ってもらうことを目的として行った。オリエンテーションの授業で「私はこんな人物」ということが30秒間で相手に伝わるように発表のシナリオを考えてくる宿題を出した。しかし,本番では30秒間も話が続かず,前に立ったままになる生徒や緊張から話す内容を忘れてしまう生徒も多かった。振り返りプリントの中には「発表することは嫌い」とか「苦手」という言葉が多かったが,前向きに「次は,がんばりたい」と書いていた生徒もいた。

(2)インターネットと情報モラル

 コンピュータの使用方法やインターネットでの検索方法を説明する中で,情報モラルについても説明した。中でも「なりきりチャット体験」は,富山県立大門高校の実践※注2を参考に,生徒が「尼東太郎25歳 警察官」のような架空の人物になりきってチャットを行う授業である。合計8個のチャットルームを用意し,5人ずつ入室できるように生徒1人ずつに人物名とチャットルームのURLを書いた紙を渡した。授業の途中で同じチャットルームにいる生徒の種明かしを,最終的には誰が何の役を演じていたかの種明かしをした。振り返りプリントには「なりすましは簡単にできて,誰がどんな人を演じているか分からないから怖い」といった記述が多かった。
 次に『情報セキュリティ対策DVD「仕掛けられた罠」』は,主人公の千秋と弟の大輔が,フィッシング詐欺やオークション詐欺にあってしまい,警察に依頼して解決してもらうドラマである。インターネットの危険性や被害にあったときの対処法等を学べるDVDで,振り返りプリントには「インターネットは便利だけど怖い」といった内容が多かった。
 単に情報モラルの講義ではなく,なりすましの体験やDVDを通じて,インターネットの危険性を考えさせることができたと感じている。

(3)都道府県レポート

 くじ引きで都道府県を決め,都道府県の基本情報(人口,面積,場所,知事,県の木,県の花,県出身の有名人等)とおすすめ情報を調べて,レポートにまとめた。
 ソフトウェアはWordを使用し,レポートは最低2枚,おすすめ情報は2個以上挙げること,写真を必ず入れることを条件とした。
 レポート完成後,1分間で『みんなの知らない都道府県情報』を発表し,47都道府県のうち,40個をクラス全員で発表し,日本全国のおすすめ情報を共有した。
 最後には,白地図の自分が調べた都道府県の場所に色を塗った。
 生徒の振り返りでは「都道府県の○○を知れてよかった」,「発表は緊張したけど,調べたことをしゃべれて良かった」等の前向きな評価をしている生徒も多く見られ,1学期と比べて発表に対する意識が向上したと感じた。
5.2学期の実践
(1)夏休みの思い出レポート

 都道府県レポートの復習として,夏休みの思い出レポートを作成した。内容は1時間で終わる程度にし,次の授業で30秒スピーチが行えるようにWordでまとめた。  30秒スピーチでは,1学期に比べ多くの生徒が難なく30秒間話せるようになった。

(2)これぞ!おすすめ

 大阪府立芥川高等学校の実践※注1を参考に,自分がおすすめしたい物(ジャンルは問わない)をクラスメイトに紹介する授業を行った(表1)。PowerPointを使用し,6枚のスライドを完成させること,他人が納得できるような客観的な理由を3つ挙げること(主観的な理由は禁止)を条件とした。

第1回『これぞ!おすすめ』の説明・企画書の配布,作成
第2回PowerPoint 講座1・企画書作成
第3回企画書完成チェック
第4回PowerPoint 講座2・下書き作成
第5回PowerPoint 講座3・下書き完成チェック
第6回PowerPoint 講座4・PCでの作業
第7回PCでの作業
第8回PowerPoint の完成チェック
第9回発表練習・発表用スライドの印刷(自宅練習用)
第10回発表
第11回発表
第12回発表
第13回振り返り
▲表1 『これぞ!おすすめ』の流れ

 第1回〜第3回で,企画書にまとめ,チェックした。おすすめの理由が主観的なもの,説明しにくいもの,調べにくいものであればやり直すように指導した。
 第2回,第4回〜第6回にかけ,見やすい発表スライドを作るためのPowerPoint講座を10分程度行った。そのPowerPoint講座と並行して,下書き用紙を渡し,コンピュータで作業する前に,プリントにスライドの下書きをさせた。特にスライド1枚あたりの文字数を少なく,箇条書きにするよう指導し,チェックを受けた者からコンピュータで作業した。
 第9回目では,練習時間を設け,1分30秒の発表練習を3回行った。また,発表スライドを印刷し,自宅で練習できるようにした。
 発表は,発表原稿の持ち込み禁止で,1分30秒±15秒の時間内で行った。発表時には,本校の全職員に発表の日程表を配り,見学してもらった上で,発表の評価をしてもらった。
 また,発表後には振り返りを行い,今回の発表の良かったところ,悪かったところを挙げた上で「企画書」, 「下書き」,「PowerPoint作成」,「発表練習」,「発表本番」の5項目について,次回発表するときに気をつけることを振り返りプリントに書かせた。
 本実践は2009年11月に研究会※注3で報告した。その中で,集計したデータから『これぞ!おすすめ』を通じて,約9割の生徒が教師側の目標とする発表ができたことが分かった。2010年度はデータ分析を行っていないが,同様に発表することができたと感じている。

図1 『これぞ!おすすめ』生徒作品
▲図1 『これぞ!おすすめ』生徒作品

(3)エクセルの基礎

 3年の選択科目である「情報処理」でExcelを使用するため,基本的なExcelの技術を学ぶ授業を行った。四則演算,関数,グラフだけに絞った。
 その後,時間の余ったクラスのみの実施になったが「Excel !アンケート大会」という授業を行った。クラスで6グループ作り,Wordでアンケート用紙を作成し,印刷した。次の時間に,クラス全員を対象にアンケート調査を行った。アンケート回収後,データを入力し,グラフを作成した。その上で,グループ全員で分析・考察を行ったものを提示,教室に掲示した。
 生徒たちはマクドナルドの人気メニューやジブリ作品の人気投票の統計等をしていた。
6.3学期の実践
(1)尼東ハローワーク

 インターネットやインタビューから,職業について調べてまとめ,発表する授業を行った。
 本校は,就職する生徒も多いため,クラス全員で40種類の職業を共有する目的で行った(表2)。

第1回授業の説明 ・ インターネットで職業検索(宿題:職業インタビュー)
第2回職業検索の続き ・ 企画書作成
第3回企画書完成チェック ・ 下書き配布 ・ 職業インタビューの提出
第4回PowerPoint の復習 ・ PCでの作業
第5回PCでの作業
第6回PCでの作業 ・ 発表練習1回
第7回PowerPointの完成チェック ・ PowerPointの印刷 ・ 発表練習1回
第8回発表
第9回発表
第10回発表 ・ 振り返り
▲表2 『尼東ハローワーク』の流れ

 第1回の授業で『これぞ!おすすめ』の振り返りプリントを返却し,生徒たち自身に前回の成功点や失敗点を確認させた。次に,全員で5つの職業を調べ,仕事内容,その仕事に就くための条件や給料,就業時間,残業の有無をプリントにまとめた。職業を調べるときに,職業検索ができるWebサイト※注4をいくつか紹介した。
 また,身近な人から職業インタビューを行う宿題を出し,これらの情報から企画書を作成した。企画書,下書きのチェックを受けた生徒からPowerPointで発表スライドを5枚作成した。本番は発表原稿を持ち込み禁止とし,1分15秒±15秒の時間内で行った。
 この授業では,全体の説明を減らし,生徒たちが自主的に作業を進めていき,教師は質問に対応するという形で行った。そのため,進度に差は出たが,自分たちで考えて作業していくことができた。早く完成した生徒は用意したストップウォッチを使い,自主的に発表練習も行っていた。
 また,『これぞ!おすすめ』と同様に,全職員に発表日程を配り,見学に来てもらい,コメントをしてもらった。本校職員からも肯定的な評価をもらうことができた。
7.まとめ
 1学期は,人前で話すことができず,最初は先の見通しもなかなか持てなかった生徒が多かったが,3学期にはしっかり先のことを考えながら作業し,発表することができるようになった。そのため,発表を5回行ったことの成果が出たと考えている。
 今後は,Excelの授業や情報モラルの授業でも発表を取り入れられるように,授業を考えていきたい。
注1:二木崇「プロジェクト学習によるコミュニケーション能力の育成」,『ICT ・ Education』,No.27,pp.10-13参照
注2:情報実践C(富山県立大門高校の実践)http://www.med.kutc.kansai-u.ac.jp/~daimon/daimon.htm参照
注3:猪飼涼介 ・ 上田友幸 ・ 泰山裕,「プレゼンテーション能力育成を目的とした情報Aの実践」,『情報コミュニケーション学会研究報告』vol.6,no.1,(2009-0),pp.4-5参照
注4:13歳のハローワーク公式サイト(http://www.13hw.com/)などを紹介した。
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