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教育実践例 |
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授業支援システムの活用と授業改善 ─ Moodleを活用した授業実践─
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1.はじめに |
岐阜県立加納高等学校は,普通科・音楽科・美術科をもつ特色ある学校である。普通科の9割以上の生徒が四年制大学へ進学し,進学先の約半数は国公立大学である。
普通科は1年,音楽科は3年,美術科は2年で,いずれも「情報B」を履修している。
この報告は,本校における2年間の実践をまとめたものである。
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2.CMS について |
CMSは一般的にコンテンツ作成と管理,ユーザ管理,コンテンツの公開管理などをブラウザ上から簡単に行うことができる。XOOPS,Moodle,exCampusなど,オープンソースとして無償で利用できるシステムが数多く存在している。
XOOPSはコミュニケーションツールとしての機能が高い。しかし,実際の授業の中でコミュニケーションを頻繁に行う機会は少ない。また,XOOPSには成績管理機能がなく,XOOPSを利用して教育活動を行った場合,何に基づいて評価を行うかが問題となる。課題や履修状況の管理など,教育活動の把握を行うことが難しい。
一方,Moodleは,学習者の成績集計機能,学習者提出のレポート評価,学習者提出のレポート自動評価など,多くのe-learning機能をもったシステムである。
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3.Moodle の構築 |
1年目にMoodleの構築および授業での日常的な活用方法と,それに連動した評価方法を探った。
構築した環境は以下の通り。
コンピュータの仕様
CPU:Intel®CoreTM2Duo 3.16GHz
メモリ:1.99GB RAM
OS:Ubuntu 8.10
Apache:2.2.9-7ubuntu3
MySQL:5.0.67-0ubuntu6
PHP:5.2.6-2ubuntu 4
Moodle:三重大学版Moodle1.9
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42台ある生徒機の接続に十分対応でき,コンピュータ室での利用が可能である。※注1〜4
MoodleはXOOPSと同様に,授業の支援システムとして活用できる。また,小中学校ですでに情報教育を受けてきている生徒にとって,Moodleの操作はそれほど難しくない。さらに,使ったことのない情報システムの活用に興味をもたせることもできる。教科「情報」の授業を,パソコン操作を教えるだけではなく,ネットワークを活用した学習として実践できた。
教科「情報」においては,情報通信ネットワークやソフトウェア等の操作方法といった情報技術の習得に重点を置いた指導がなされがちである。その一方で,メディアの意義や特性に触れ,情報をコミュニケーションに活用する力や問題解決に必要な創造的思考力,判断力を育成する指導が不十分であるという指摘がある。※注5その点でも,Moodleのような情報システムは,生徒の主体的な情報活用を支援するツールとなり得る。
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4.授業内でのMoodleの活用 |
(1)教材の作成
Moodleを授業で活用するために,授業で必要なものはすべてMoodle内に取り込み教材を作成した。授業に必要なものを「ガイドライン」,「課題」,「授業資料」※注6〜8,「自己評価」の4項目に分類し教材を作成した。Moodleを利用して授業計画を立案することは,指導案を作成することと同じである。
▲ Moodle で作成した教材
(2)評価について
ガイドラインは小テストモジュールを利用しており,採点は自動的に行われる。また,実習等の課題の採点はMoodle上で行うことができる。データのインポート・エクスポートが可能であり,授業での日常的な活用とそれに連動した評価が可能である。※注9,10
▲ Moodle 上で行われる評価
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5.活動の場でのMoodleの活用 |
(1)Wiki
問題解決型学習やプロジェクト学習では,生徒が情報を収集・分析し,問題を検討する。情報収集におけるインターネットの活用は手軽なものであるが,それを整理し,まとめていく作業は時間がかかる。また,グループでの作業において,各メンバーがそれぞれ調べたことをどのように共有するのかが課題となる。このような問題を解決する便利なツールとしてWikiがある。
WikiはWikipediaなどでも使われているツールで,誰でもネットワーク上のどこからでも文書の書き換えができるようになっているので,共同作業で文書を作成するのに向いている。Moodleには,このWikiがあり,問題解決型学習において有効である。Wikiを利用することで,インターネットで得られた情報をKJ法のように関連付け,整理することができる。※注11Wikiを利用するにはMoodleが十分に操作できることが必要であり,年間を通じてMoodleのサイトを活用する必要があると考える。
▲総合実習のワークシート
(2)フォーラム
問題解決型学習ではコミュニケーション活動が活発に行われることが必要である。Moodleには,コミュニケーション手段として「フォーラム機能」がある。
(3)総合実習でのMoodle の活用
本校では日本文教出版発行の教科書『新・情報B』を使用している。第4章の総合実習では「シミュレーションで探る自然法則(空気中の落下運動)」をテーマに取り上げている。この現象を教室の中で調べるために,ケーキカップなどの落下速度を実際に計り,この落下速度を,コンピュータシミュレーションと比較して,空気抵抗の法則を探った。
生徒にはグループ活動を主体として活動させ,教員はグループ活動を支援する立場となり授業を進めた。またMoodleの教材構成では以下の点に注意した。
・授業で使用するプリントは印刷し,別にディジタル化したものをMoodle上にアップした。
・提出課題は,Moodle上で行った。
・フォーラムを利用し,グループやクラス間の交流を図った。
・各授業の目標が立てやすいように評価の観点を示し,自己評価をさせた。
総合実習のテーマが「空気抵抗がある落下運動」で,生徒は実習に苦戦していたが,自己評価は高く,感想は前向きなものも多かった。以下にその一部を示す。
・実験値から空気抵抗の式を出すことができたのでよかったです。
・完璧!!全部一人で出来た!!いえーーーーーい\(^∀^)/
・ちゃんと定数n,kを求められた
・もっと効率のいいやり方があったらやってみたい
・kの値で大きく数字が動いてnの値で微調整をしてkとnの値を出すことができました。
・kとnの値を求めるのが難しくて細かい値で大変でした。グル ープで協力できたのでよかったです。
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MoodleのようなCMSの活用は,総合実習のように生徒が主体的に情報を活用する場面において,それを支援するツールとなり得ることがわかった。Moodleは授業の支援システムとして有効に活用でき,ディジタル化されているものを活用して効率化を図り,毎時間の授業内容すべてをコンテンツ化することは十分可能である。さらに,評価ツールとしてMoodleを活用するためには,長期的な実践が必要である。
教科「情報」の課題である情報をコミュニケーションなどに活用する力や問題解決に欠かせない創造的思考力や判断力の育成に向けた解決策の一つになりそうである。
▲総合実習の自己評価
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6.授業改善に向けて |
一昨年度の授業評価で教科「情報」の授業に,「興味がもてない」「あまり興味がもてない」生徒が全体の20%いることがわかり,改善する必要があると感じている。
コンピュータが目新しい時代ではなくなった。コンピュータだけでなく,学習内容そのものに興味をもたせる授業が求められる。
また,情報Bで取り扱う「情報の科学的な理解」が高校1年生の段階では数学等の他教科で学習している内容を超えている分野もある。そのため,生徒が学習内容の一部に難しさを感じている。
そこで,授業における実習内容を再検討し,授業内容の理解を助けるための実習を取り入れた。※注12
その一つとして,「コンピュータにおける演算」の学習内容を補助するためにマイクロコンピュータを利用した実習,「シミュレーションの実験」を行った。
「シミュレーションの実験」として,サイコロやトランプを利用した待ち行列の実験,円周率πを求めるために,ゴマを用いたモンテカルロ法や爪楊枝を用いたビュッホンの針などの実験を行った。実際に作業し,体験することで学習内容を深化させることができた。
この実践後に実施した,昨年度の授業評価においては,「興味がもてない」「あまり興味がもてない」生徒の割合が全体の15%となった。調査している集団が異なるので,この実践の効果だとは言い難いが,授業改善の一つの例であると考える。
新学習指導要領における「情報の科学」では問題解決が軸となっている。授業中で問題解決の機会となるような実習が必要である。また,学習活動の過程や成果を振り返るためにも,CMSの活用が考えられる。
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