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ICT・EducationNo.40 > p16〜p19

教育実践例
コミュニケーション能力を高める『情報C』の授業実践(2)
─『未来デザイン』でありたい姿を想い描かせるために─
岩手県立宮古北高等学校 西谷 成昭
nishiya-nariaki@myn-h.iwate-ed.jp
1.コミュニケーションを考える
 2007年度の『情報C』で,『未来デザイン』(※注1)の手法によってコミュニケーション能力を高める授業を試みた。テーマは,「コミュニケーションとは何か,どのような力を身に付けると良いのか。」とし,みんなで考えることにした。そのためにはどのような展開が望ましいかを考え,いくつかの話題を提供することから始めた。

(1)いじめ・不登校を考える

 最初に,いじめや不登校について,以下の話題を提供した。
 いじめが起きたり,不登校の生徒が多くなったりしているようだが,その原因は何だろうか。先生から注意されたとき「うざい」と言うことや,生徒同士の見るその目線がきついのは,基本的に人が人を好きになっていないからではないか。なぜ人が人を好きになれないのか。それは,基本的に「お互いの愛」が足りないからだと思う。人が人を見て嫌だと思うのは,長所を見ないで短所ばかり見ているからではないだろうか。自分が嫌いになる自己嫌悪って,短所が長所を食っているからだろう。みんな愛情を持って人に接すると良い感じになり,いじめや不登校がなくなるのではないか。
 生徒たちは真剣に聞き入っていたことが印象的であった。その主な感想は次の通りである。
    生徒の感想(1)
  • 相手を思いやり,一人ひとりを尊重したいと思った。
  • 相手のことを思ったり考えたりすると自分に跳ね返ってくることがわかった。
  • 授業ノート提出者:25名
    有効回答数:9名(男子4・女子5)
    回答率:36.00%
    生徒の感想(2)
  • イヤなことを人に対してしないという当たり前のことからはじめたい。
  • 優しい目で見てあげれば,相手も楽な気持ちになって過ごしやすいと思う。感情の人間関係を知った。
  • 授業ノート提出者:25名
    有効回答数:16名(男子9・女子7)
    回答率:84.21%

(2)庚申講から話し方を考える

 次に,庚申講について,以下のような話題を提供した。
 60年に一度やってくる庚申の年には,人間の体内にある虫がいて悪いことをした人には寝ている間に虫が動いて寿命が短くなるという。だから寝ないで過ごす。そこで家の奥様がお寺に集まり夜通し話しをした。いわゆる寄り合いである。
 人が集まって人のことを話すとき,悪口が出やすい。でもそればかり言っているうちに,奥様方の中には聞きたくないという人も出てくる。そうすると「悪い話し」から「良い話し」が出るようになる。次第に「良い話し」でいっぱいになると楽しくなって,和気藹々となる。そこで「尊敬の念」を抱くようになり,互いに尊敬する。尊敬し合うと手みやげを持たせたくなる。相手の家のことを思うようになり,家と家がつながる。これが一つの小さな地域ということになる。
 本来,学校は家と家の上にあると思う。悪いことをしたから家庭訪問ではなく,普段の生活の中で家と家とのコミュニケーションが上手くいくと学校が良くなるだろう。
    生徒の感想(1)
  • コミュニケーションの輪を広げることで新しい出会いがあることを知った。短所ばかりではなく,長所を見ていくと良い関係になるとわかった。
  • 授業ノート提出者:22名
    有効回答数:15名(男子7・女子8)
    回答率:68.18%
    生徒の感想(2)
  • 誰とでも楽しい話をしてお互いを好きになっていきたい。地域交流を深める話しで良いと思う。
  • 授業ノート提出者:16名
    有効回答数:13名(男子8・女子5)
    回答率:81.25%

(3)来年の抱負を考える

 12月に,「未来デザイン」の考え方を定着させるために,遠い将来に対して,比較的近い将来に対する目標設定ということで来年の抱負を考えさせてみた。
 これまで,コミュニケーションを上手く取って良い関係にすることについて学んできたが,2008年をどんな年にしたいと考えているだろうか。恐らく,コミュニケーションのあり方が問われてくる年になるという見解もあるだろう。
 コミュニケーションとは,話しの仕方について考えることだと思う。どんな話し方をすれば,相手が良い気持ちになるのかを良く考えることだろう。
 このことによって今までの自分から新たな気づきが生まれ,次元の高い自分に変容してくることを期待した。
    生徒の感想(1)
  • 気持ちを引き締め,責任感を持ち,規律ある行動をしたい。
  • 文武両道に心掛け,後輩から慕われるようになりたい。
  • 目標の大学に向けた進学対策をしたい。
  • 進路に向けた準備をして,今しかできないことをやり抜いていける一年にしたい。
  • 資格取得に心掛ける。
  • 授業ノート提出者:25名
    有効回答数:25名(男子13・女子12)
    回答率:100.00%
    生徒の感想(2)
  • できるだけ多くの資格に挑戦してみる。
  • 自分のためになるような一年にしたい。
  • けじめのある学校生活を送り,いろいろな経験を重ねて悔いの残らない楽しい一年にしたい。
  • 自分を磨けるような一年にしたい。
  • 授業ノート提出者:19名
    有効回答数:18名(男子9・女子9)
    回答率:94.74%
 また,一つのものを見てみんなで共感したり,みんなで一緒に聞いてみたり,食事をして味わったりするといった非言語コミュニケーションも「話しをする」という言語コミュニケーションと同様に,またはそれ以上に大切なことである。そのことに理解を示すことも大切であると考える。

(4)コミュニケーションの取り方

 コミュニケーションの取り方について,「となりの生徒への声のかけ方」と題した授業を行った。まず,次のような話をした。
 コミュニケーションを取るとき,どのようなことに注意すると,お互いに良い気持ちで話しをすることができるだろうか。
 たとえば,教室で隣の生徒に声をかけるとき,その抑揚を下げて話しをするとどうなるだろうか。その逆に,抑揚を上げて話しをすると相手の反応はどうなるだろうか。話す相手は,やはり話しかけられた人の態度を見て,そのことばを聞いて対応していくのだろうと思う。
 自分が明るく接すると相手もそれに応じて明るく話しをしてくれるだろう。そういう点では,相手は自分の鏡ということになるだろう。
 そして,何のために話しかけるのだろうか。それは良いコミュニケーションを図るために話しかけるのだろう。では良い関係って,どんな感じだろうか。やはり温かい,ホットな感じだろう。でもホットな感じと一言で言っても,いろいろなホットな感じがあると思う。飲み物をイメージしたHotもあるだろうし,胸をほっと撫で下ろすこととか,頬を赤らめてほっとすることや,ホッと一息つくこともあるだろう。
 また,人との良い関係とは,どんな関係を言うのだろうか。人と良い関係を築き上げることができることとは,人として成長していることではないだろうか。それが一つの現れであり,「自立」と言えるだろう。ただ自分が気張って,良くしようと考えすぎても自分が疲れるだけだと思う。何事もほどほどに,距離を保つことも大切なことだろう。
 そして,『鏡の法則−人生のどんな問題も解決する魔法のルール−』(※注2)という本を紹介した。授業の中で紹介することで,設定したテーマをより一層深めることができる。そこで,この本の一部を読み上げて生徒に聞かせた。
 授業の中でコミュニケーションを活性化させる方法の一つに「聞く」活動がある。教師の話しを聞く活動と,本などを読んで聞かせる活動とは別に捉えていく必要がある。本などを読んで聞かせることにより,自分の中で聞いたことに対するイメージが湧き上がり,まるで紙芝居を見ているような状況に誘うこともできる。読んで聞かせる大切さをこの授業で感じ取った。生徒の主な感想を以下に示す。
    生徒の感想(1)
  • 忙しいときに話しかけられても「いーよ。」と答えられる人になりたいと思った。
  • 自分のあり方で相手も変わってくることを知りました。
  • 相手は自分の鏡ということを普段から意識していきたいと思った。
  • 相手がイヤな気持ちにならないように自分の表情や行動に気をつけなければならないと思った。
  • 授業ノート提出者:25名
    有効回答数:18名(男子9・女子11)
    回答率:72.00%
    生徒の感想(2)
  • 自分が気持ちを込めてあいさつをすれば,相手もちゃんとわかってくれることを知った。
  • どのように話しをすれば相手も心を開いてくれるかを考えながら生活していきたい。
  • 自分の取る態度によって相手の態度が違ってくるんだと思いました。
  • 相手からイラつかれたら自分もイヤな気持ちになる。反対に笑顔で話しかけられたら,うれしいから自分もそうする。
  • 授業ノート提出者:19名
    有効回答数:12名(男子7・女子5)
    回答率:63.16%

(5)一対一の間に入る対話の場合

 通常の状態で友だち同士が話しをしているときに,話しの中に突然割り込んでくることもある。そういうときの自分の気持ちのコントロールすることについて,どのように対応すべきかを考えさせてみた。概要は以下の通りである。
 一対一で話しをしているときに,その間に割り込んで入ってきたり,今話しをしていることに対する反対の意見を言ってその場を去ってしまったりする人がいる。立ち去った人は,いつもそうした話し方をする人だと思うが,言われた方の気持ちを考えてみなければならない。
 こうした行為についてどう思うだろうか。また,この行為をした人に対して腹を立てて,憤慨しながら意見を言うと,どうなるだろうか。こうした行為は友だち同士であっても,家庭の中であっても,どんな人間関係の中であっても,自分がそうされたときのことを考えてみると自ずと答は出てくるだろう。
 この行為について考えることができれば,一つ成長した自分,相手を敬うことのできる自分になったと言えるだろう。大人な人物像への第一接近だろう。
 その他に,コミュニケーションに関して以下の話題を提供した。
 文章を書くコミュニケーションにおいて,読書から得た情報を自分の中に取り込むことの大切さに気づいてほしい。そこには書き手と読み手とのコミュニケーションも働くだろう。その発展形態として,タイトルをつけたりパソコンで表現したりすることも,コミュニケーション活動として有効だろう。しかし,高校生には,そうした能力を伸ばすほど読書量が充分ではないことを知る必要もある。読むコミュニケーションで,多くのものの見方ができように意識してほしいという望みもある。

(6)コミュニケーション学追究

 1年を通じて実施してきたコミュニケーション能力を高める授業をまとめるにあたって,「コミュニケーション学」を考えてみた。その概念を「人間関係に係る分野として,意思疎通をその対象とし,コミュニケーションの技術や方法,そして表現に関する要素について考えながら,歴史的に過去を振り返り,今,そしてこれからのことを追究する」と解釈するならば,江戸のエコライフを通じて,コミュニケーションを歴史的経緯から捉えるてみると,生徒の関心を高められるのではないかと考えた。2月に入り,わずかな授業時間ではあったが,江戸のエコライフについて,情報検索を通して意見交換を行った。
 たとえば,江戸時代にも太陽エネルギーを使った『ソーラー照明』があったという。それは,太陽の光をいっぱい浴びたアブラナから採られる菜種油を用いた照明のことである。菜種油は,1年間に受けた太陽の恵みの代物である。
 また,江戸時代は非常に緑豊かで,広葉樹が多かったという。人々の森林と土壌を守ろうとする意識は,日常生活に必要な「読み,書き,そろばん」と同じくらい高かった。緑豊かであれば,心が安定し,相手と良いコミュニケーションを取ることができる。緑が心を落ち着かせ,良い人間関係の基礎になる。
 そして,森林と土壌を重要視する江戸では,米や野菜を栽培し,ワラで日用品をつくり,最後には残飯などを土に返すことで土壌が肥える。ここに,良いリサイクルの循環モデルができあがっているという解釈も成り立つだろう。
 このように,コミュニケーションを歴史的経緯から捉えることで,生徒のコミュニケーションに対する考え方も変わってきたようだ。
 次に,歴史的経緯とは別に,領域を国際的視野にまで広げることによってさらに充実した展開になると考えた。まず,モンゴルのコミュニケーションについて,以下の話を生徒に紹介した。
 暗闇の中でモノを見て識別できるなんてムリだという。しかし,真っ暗闇というけれど,月や星が出ているときは,かなり明るいと思う。そんなとき,山の向こう側にある木々の一本をよく見ていると次第に見えてくる。今までの判断では「見えないモノ」が見えてくると,人はつぎの段階に行こうとする。「見えない」「見えていない」から焦ることだろう。「できないこと」でも繰り返しているうちに「できる」ようになるかも知れない。
 羊は自分の産んだ子羊でなければお乳をあげない習性がある。モンゴルの人々は,どの羊から生まれた子羊かを識別して親羊の元に返すという。一見,他の人にはできないようなことでも,その人は簡単にやってのける。その努力って暮らしから出てきた知恵であり,羊への愛情の一つだろう。
 次に,韓国のコミュニケーションについて,以下の話を提供した。
 韓国の場合,箸とスプーンでごはんを頂くのは定番であるが,これを食器の右側へ「縦」に並べておく。日本では食器の手前に箸を「横」に置くのが通例である。韓国はすべて「縦の文化」であり,正座は右膝を立てて座ることが正式な座り方である。日本ではそうした習慣がないため不作法なこととされている。このように国が違うことで習慣までも異なるのである。したがって,コミュニケーションの取り方もそれぞれの国によって異なっているのである。
 同じアジアの国でありながら,これほどまでに文化の違いがあるのかと,興味を抱いて話しを聞いていた生徒の姿が印象的だった。
 次号では,コミュニケーション能力を高める授業の評価,課題,今後の展望を紹介する。
注1:未来デザインとは,将来ありたい姿を想い描き,それを実現させるためにはどのようにすればよいのかを考え,過去から現在を見通して,これからの目標を設定する考え方である。これは,筆者のオリジナル・コンセプトから考えたものである。
注2:野口嘉則著,『鏡の法則−人生のどんな問題も解決する魔法のルール−』,総合法令,2006年9月15日発行
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