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情報化の授業ネタ |
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「ヤギ算」2進数と16進数の図形化 |
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1.はじめに |
教科「情報」,特に「情報B」において,2進数や16進数は,“コンピュータのしくみ”などの単元で,程度の差こそあるものの必ず触れられているといって良い内容である。「情報B」は,コンピュータの専門家を育てることを目的とはしていないので,2進数や16進数に重点をおく必要はないが,日常使用されている10進数以外の数を扱うことは,生徒にとって新鮮なものであり,意味深いものでもあろう。
しかし,多くの場合,従来「数学」などで教えられてきた手法によってそれらの数を教える傾向がある。これは,ともすると教科「情報」を「数学」の延長としてとらえることを意味している。もちろん,教科「情報」は「数学」や「理科」などの教科の内容を含んではいるが,それらを統合した全く新しい教科である。
そこで,教科「情報」の内容を教える場合には,できるだけ新しい手法で教えることも必要ではないかと考え,今回,2進数や16進数などを数字を中心とせず,イメージを重視して教えることを試みたので紹介したい。
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2.2進数と16進数 |
コンピュータの内部で電気信号として処理されているディジタルデータには,ONとOFFの2通りしか存在せず,これを2進数で表現するのは当然である。また,ディジタルデータを表現する方法として,10進数ではなく,2進数の4桁を1桁で表現する16進数が用いられていること,さらに,16進数では,アラビア数字の0〜9では表現できない部分をアルファベットのA〜Fまでの文字で表現することは,興味深いことである。漢数字では,“百”,“千”,“万”など位取りにおいて,数字の不足を漢字で補うことはあっても,文字をそのまま当てるといった発想を知ることだけでも十分に意義のあることと思われる。
このように,2進数と16進数をきちんと理解することは大切なことである。しかし,現実には単に数の変換として,従来「数学」などで用いられてきた変換の方法をそのまま使うことが多く,教科「情報」での取り扱いと「数学」での取り扱いに大きな違いが見出せなくなっている。
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3.“ヤギ算” |
従来「数学」で教えられてきた2進数と16進数の教え方ではなく,教科「情報」としての新しい方法を考えていたところ,数字を図形化した文章が書かれている『ぼくには数字が風景に見える』を読み,2進数と16進数を図形や画像など,視覚化することにした。数の視覚化については,幼い子供が手の指を折って数を数えることも数の視覚化のひとつであり,2進数では,これまでも豆電球やトグルスイッチを図示して説明する方法がある。
豆電球やトグルスイッチを用いた場合,2進数との対応は良好である。しかし,2進数では頻繁に桁上がりが行われ,桁数が大きくなるとその分のスペースが必要となり都合が悪いということから,16進数の学習へと入っていく。その際に,2進数を意識しながら16進数を説明できる図形化を模索し,キャラクター?化したのが,“ヤギ算”である。
16進数を図形化するにあたり,2進数の4桁を表す4箇所のポイントを考えた。また,桁数の変化を考慮し,左回りの動きとした。これらを生徒になじみやすいように表現したのが,図1の中の右下にある基本形である。ヤギのあごひげ,右角,左角,鼻がそれぞれのポイントになる。図1では,0から15までを示した。数を視覚化する利点は,目で見てすぐに計算できることにある。このため,ヤギ算の基本的な図形を覚える必要がある。最小限,2,4,8,A,C,Fを覚えれば,16進数の加算,減算が簡単にでき,それぞれのポイントの有無に注意すれば,2進数への変換も容易にできる。
実際に発展的な内容として,1年生に図1を示したプリントを用いて簡単に説明したところ,各クラスのおよそ半数程度が理解し,興味を示した。しかし,中には数字で2進数と16進数を理解しており,あえて図形化することに抵抗を示す(16進数を見て,即座に2進数に変換できる数学的センスを持つ)生徒もおり,このヤギ算が,全員に有効とは言いがたかった。だが,数を理解する上で,図形化して考えるといった,新しい視点を生徒に与えることができたのではないかと思う。
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4.おわりに |
教科「情報」が実施されて数年が経過した。情報リテラシーという考え方から,生徒をコンピュータに触れさせることを第一と考えた学校もあったように思う。また,教科「情報」を「理科」や「数学」,「商業」など,従来の教科の延長線上としてとらえる傾向もある。しかし,教科「情報」を全く新しい教科としてとらえ,本当に新しいアプローチがなされたなら,教科「情報」がこれまでにない科学教育を担うことができるのではないかと考えている。
そこで,今回,発展的内容として2進数と16進数を教えるにあたり,計算の図形化といった新しいアプローチを試みた。結果として,生徒全員に満足する効果を与えられたとは考えていないが,いくらかの生徒に発展的に考える新たなヒントを与えられたのではないかと考えている。
【参考文献】
『ぼくには数字が風景に見える」』(ダニエル・タメット著,古屋美登里訳,2007年,講談社,東京)
▲図1:0から15までの“ヤギ算”
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