ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.33 > p22〜p25

中学校の情報教育実践例
中学校 技術・家庭科における「プログラミング学習」の実践
〜プログラミング言語「ドリトル」を使って〜
松阪市立飯南中学校 井戸坂幸男
idosaka@logob.com
1.はじめに
 中学校の技術・家庭科にコンピュータ領域ができたころの授業といえば,お絵かきソフトで絵を描くか,ワープロで文章を作るという「ソフトの使い方」が中心であった。インターネットが普及するようになってからは,Webページによる「調べ学習」が加わった。今でもこの状況はあまり大きく変わっていないように思われる。
 このような中で,ソフトウェア(とくにゲームソフト)がどのように作られているかに興味を持ち,プログラマという職業に憧れる生徒も多い。そこで,ソフトウェアがどんなもので,プログラマによってどのように作られているのかを体験させるために,プログラミング学習を取り入れた。
 授業を行う中で,生徒たちにとってはソフトウェアやハードウェア等コンピュータの原理を学ぶだけでなく,思考力や創造力の面でもよい影響を受けていることに気付くようになった。今では,「思考力」や「創意工夫する力」などをつける最適の教材ではないか,と考えている。
2.授業の内容

(1)授業で使用するソフト「ドリトル」
 プログラミングの授業をする場合,最も大切なことの一つに,どのプログラミング言語を選ぶかということがある。言語が難しいと言語の意味を理解し,使いこなす以前に学ぶ意欲をなくしてしまう場合もある。しかし,ほとんどの言語は英語で書かれており,英語が苦手な生徒にとっては厳しいものがある。現在使用している「ドリトル(一橋大学 兼宗進作)」は,日本語で対話的に記述できるため,すべての生徒が意欲的に取り組むことができる。初心者がわかりやすく学習できるようにいろいろと工夫されており,小学生でも使えるように作られている。また,オブジェクト指向型であり,本格的なプログラミング学習が可能である。このような点から,現在,「ドリトル」は小学生から大学生まで幅広く使われるようになった。
 「ドリトル」は,次のWebページより無償でダウンロードできる。また,メーリングリストによる意見交換もできる。


http://dolittle.eplang.jp/

(2)カリキュラム
 授業は,3年生の技術・家庭科の「情報とコンピュータ」領域で実施している。授業時間は,必修・選択あわせて週1時間,年間35時間であり,プログラミング学習には18〜20時間を使っている。
 授業内容は,主にタートルグラフィックスを扱い,4時間で1つの作品を作りながら学習していく。表1に授業カリキュラムを示す。

表1:授業カリキュラム
単元 時間数
(1)タートルグラフィックス
(2)タイマーによるアニメーション
(3)ボタンによる対話的な操作
(4)音楽演奏

(3)タートルグラフィックスの授業
 最初の4時間は,ドリトルのタートルグラフィックス機能を用いて,さまざまな図形を描きながら基本操作やプログラミングの基本を学習する。
 前進命令(あるく)と角度を変える命令(みぎまわり)を基本として三角形を描くところから始め,くり返し命令(くりかえす)や,描いた図形の移動(いどうする)などを学習する。
 プログラムは,図1のように書く。

かめた=タートル!つくる。
さんかく=「かめた!100ぽ あるく 120ど みぎまわり」!3かい くりかえす ずけいにする (赤)ぬる。
さんかく!100 100 いどうする。
▲図1:図形を描き移動させるプログラム例


▲図2:生徒によるグラフィックス作品

 生徒は,三角形,四角形,星,円,などの図形を組み合わせ,図2のような作品を作る。

(4)タイマーによるアニメーションの授業
 次の4時間は,描いた図形を一定時間移動させたり,回転させたりするタイマーオブジェクトを学習する。この学習では,ゲームソフトなどでキャラクタが動くしくみを体感することができる。他の言語では,このようにキャラクタを動かすためには複雑なプログラムが必要であるが,ドリトルでは図3のように簡単にできる。

かめた=タートル!つくる。
さんかく=「かめた!100ぽ あるく 120ど みぎまわり」!3かい くりかえす ずけいにする(赤)ぬる。
動き=タイマー!つくる。
動き! 1びょう かんかく 10びょう 
じかん。
動き!「かめた!15ど みぎまわり。さんかく! 10 10いどうする」じっこう。
▲図3:タイマーを使ったプログラム例

 生徒は,図4のような図形が移動するアニメーション作品を制作する。


▲図4:生徒によるアニメーション作品

(5)ボタンによる対話的な操作の授業
 次の4時間は,クリックすると命令が実行されるボタンオブジェクトを使い,ボタンを押すことで画面に線や図形を描く作品(お絵かきソフト)を制作する。ソフトウェアがどのように作られているかが体感できる。この作業は,ボタンオブジェクトが用意されているため,簡単に行うことができる。プログラムは,図5のように命令する。

かめた=タートル!つくる。
ボタン1=ボタン!”あるく” つくる。
ボタン1!-200 100 位置 150 50 大きさ。
ボタン1:動作=「かめた! 50ぽ あるく」
▲図5:ボタンを使ったプログラム例

 生徒は,図6のように,ボタンをクリックするとタートルが絵を描く作品を作る。


▲図6:生徒によるボタンを使った作品例

(6)音楽演奏の授業
 最後の6時間は,今までのグラフィックスとは違う題材として,音楽を演奏するプログラムを学習する。自作や既存の曲を題材に,いろいろな楽器を重ね合わせて演奏する作品を制作する。
 プログラムは図7のように書く。

チューリップ=メロディ!作る。
チューリップ!
『どれみーどれみーそみれどれみれー』追加。
楽器設定=楽器!『クラリネット』作る
(チューリップ)設定演奏。
▲図7:音楽プログラム例

3.生徒の様子〜アンケートより〜
 まず,授業の終わりに書かせている学習カードを紹介する。
 「今日の授業を楽しく感じたかどうか」を延べ人数で集計すると,表2のようになった。

表2:授業の楽しさの集計
「楽しい」… 57.2%(143/250回)
「楽しい方」… 32.8%(82/250回)
「楽しくない方」… 8.4%(21/250回)
「楽しくない」… 1.6%(4/250回)

 「楽しい」と感じている生徒が,非常に多いことがわかる。しかし,同時に記入している感想を読むと,いつも単純に楽しいと感じているわけではない。生徒の感想を表3に示す。

表3:生徒の感想記述(一部)
・星を動かすのが楽しかった。
・ドリトルで形を作るのがおもしろかった。
・思い通りにいかなかった。
・タイマーを使うのは難しい。
・あまりうまくいかなかった。
・どうしたらいいのかわからなかった。
・とても複雑だけど覚えることができたら楽しそう。
・前回の授業で無理だったことができたことがとてもうれしかったです。
・ボタンの位置をxやyで表すのが難しかったけど,楽しかった。

 これを見ると,理解できなかったり,思うように作品を作れなかったりして,困難を感じている生徒がいることがわかる。しかし,困難を克服した喜びの感想もあり,授業の中でいろいろな問題を克服しながら,理解を深めていく様子を感じ取ることもできる。
 授業で力を入れていることは,プログラムも大切ではあるが,発想・アイデアを重視した作品になるように工夫を促している点である。プログラムの思考ではなかなか優位になれない低学力の生徒も,発想・アイデアでは優位に立つことができる可能性があることから,すべての生徒が制作意欲をもって取り組めると考えたからである。
 次に,単元の最後に実施したアンケートを紹介する。まず,「プログラミング学習で役に立ったことがあれば書いてください」というアンケートを実施した。最初,自由記述式で項目を作り,その後,項目ごとに「強く思う,思う,あまり思わない,思わない」の4段階で回答する選択式のアンケートを実施した。肯定している生徒の数をまとめたものが表4である。

表4:アンケート集計結果
A1 数学の座標(x座標y座標,+や−)がわかるようになった。 68.7%
A2 図形の角度(内角や外角)がわかるようになった。 41.2%
A3 数学で図形を学習するよりドリトルで「かめた」を動かせた方がよくわかった。 41.2%
B1 根気強く同じことができるようになった。 51.0%
B2 集中力がついた。 56.9%
B3 考える力がついた。 68.6%
B4 創作力がついた。 52.9%
B5 難しいことでもあきらめず,自分で調べるようになった。 66.7%
C1 コンピュータソフトがどのように作られているかわかった。 62.8%
C2 ゲームソフトの作り方がわかった。 64.7%
C3 プログラムの構成「どうやったらこういう動作をする」ということがわかった。 74.5%

 A群のような「数学の理解」を助けるという意見があったが,半分近くの生徒がプログラミング学習の方が数学の図形の授業よりわかりやすく感じていることに驚いた。
 B群については,「根気」「集中力」「考える力」「創作力」などの力が身につくという意見であるが,半数を超える生徒が認めている。とくに「考える力」については,7割近い生徒が認めていることに驚いた。
 C群は「コンピュータに関する理解」であるが,ほとんどの生徒はソフトウェアの仕組みなどを理解できたと感じていることがわかる。また,ほとんどの生徒はプログラムの本質である「手順が自動的に実行されて行く」という概念を理解していることもわかる。
 学習カードやアンケートから,プログラミング学習によって,いろいろな学習に波及効果があることがわかった。
4.おわりに
 現在のプログラミング学習の扱いは,中学校指導要領技術・家庭科を見ると,図8のようになっている。「B.情報とコンピュータ」の学習内容ではプログラミングの単元は選択になっているため,すべての中学校で実施されているわけではない。
 今後プログラミング学習の効果が広く認められ,すべての学校で実施されていくことを期待する。


▲図8:中学校学習指導要領

 この研究は,一橋大学の兼宗進助教授,筑波大学の久野靖教授の協力を得て実施しております。また,全国の小中高の先生方と連絡を取りながら進めています。
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