ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.3 > p5〜p8

教育実践例
国際共同授業の実践
—アメリカ−ハワイ−西陵—
名古屋市立西陵商業高等学校 影戸 誠
kageto@seiryo.ed.jp
1.はじめに
 アメリカハヴァーフォード大学※注1との共同授業を始めたのが,1996年秋である。97年からはハワイ大学日本語コースの学生も交えて,それぞれ授業内での「共同授業」を目指して取り組んできた。現在バンダービルト大学も入ってきている。

  4年間の継続プロジェクトの中で我々がどのように人間関係を築き,年間の授業として作り上げてきたかここに紹介したい。

ハヴァーフォード大学
※注1 ハヴァーフォード大学 URL:http://www.haverford.edu/jnse/4fall97/students.html
2.本校の状況
 1994年100校プロジェクトに参加することによって急速にインターネットの利用が始まった。しかし考えてみると次の様なステップを経てきた。

stage1 一人で始める段階

  これは使えるぞとばかりに一台のパソコンを教室に持ち込み活用する。しかし生徒の端末がなく,返事も生徒に手渡すに時間がかかり,「インターネットって不便」と不評を買う。(1992年頃)

stage2 叩かれる時代

  1994年に100校プロジェクト参加校となり,専用線接続となる。事務や他教員にその効用をとく。

  しかしお金もかかり,他の予算を取ってしまうことから抵抗にあう。アルミのドアに穴をあけたり,屋根を踏み抜いたり,争いの元を作る。(1996年頃)

Stage3 認知を受ける段階

  「石の上にも3年」くらい立つと,徐々に理解者が増える。「鬼っこ扱いはやめよう」という雰囲気となる。職員研修も始まる。若手職員がノートパソコンを持つようになる。(1998年)

Stage4 全教員で使う段階

  校内的にも予算がとれ,整備が進む,対教育委員会に向けても予算要求が具体的にとれ,整備がさらにすすむ。実践事例が多く出せる。(1999年段階)

  このような段階を経て,現在に至っている。一台のパソコンを内線電話につないで,DOS画面からメールを送った時代から8年が立とうとしている。
3.共同授業の目的
(1)新しい授業の創造

小池先生は,ハワイ大学日本語コースの担当教官である。インターネット前の活動として,学生を日本人のコミュニティーにつれていったり,「使う場面」の設定に苦労されてきた。インターネットの利用により,新しい「体験の場」を設定しようと,呼びかけられた。

(2)日本語混在のプロジェクト

  西陵商業高校の生徒の英語能力は,それほど高いものではない。しかし,国際コミュニケーションコース(40名2・3年)の異文化理解への関心は高く,英語を積極的に学ぼうとする生徒が多い。

  この生徒の意欲を使いながら共に英語,日本語の学習後「体験の場」として設定した。

(3)新しい形の授業

  幸いどの参加校もインターネット環境が整っており,Cu-SeeMe等のリアルタイムセッションも可能であった。

  これらのツールの有効性も合わせて検証することとなった。また,日本側は教科「国際理解」」(商業科)で取り扱うこととした(3年次3時間)。
4.実践

(1)ねらい

・授業時間を相互に設定することにより定期的な交流を実現する。
・英語の負担が日本側生徒に少なくなるように「日本語・英語」での交流を行う。
・日常的交流により相互のステレオタイプの是正を行う。
・メーリングリスト,電子メール,CU-SeeMe等のインターネットツールを効果的に授業の中で活用する。
・論文あるいは交流レポートといった形で授業のまとめを相互に行う。

(2)2ヶ月前からの事前準備

  アメリカは9月から授業が始まる。従って授業準備は7月から始められた。多いときには毎週1回程度WebChat(掲示板)を活用し,ハワイ,アメリカ本土,日本を結んでリアルタイムで打ち合わせを行った。以下は呼びかけのメール

To:kanri-l@hawaii.edu:
Subject: fall course

  みなさま,今日は秋のことでご相談したいと思います。私の提案としては,98年の秋と同様の学校テーマのことを,内容・方法など改良しながら進めたいと思っております。相談チャットを今週できますでしょうか? 私は木曜日までならいつでもできますが,水曜日,あるいは木曜日あたりはどうでしょうか? 時間はいつも通り,ハワイー昼,アメリカ東部—夜,日本—早朝となりますが,ご都合をお知らせください。

  合わせてメールのやりとりも行われたが,リアルタイムでの話し合いで一番大きかったのは,お互いの時間を調整し,行う熱意が伝わり,信頼関係が無意識のうちにできあがったことである。

WebChatでリアルタイムの教員打ち合わせ
▲WebChatでリアルタイムの教員打ち合わせ

5.授業の流れ
 テーマは年度ごとに事前の話し合いで異なるが「理想の学校」「和食」「理想の家族」「吉本ばなな」「日本の建築」さらには「水子供養」などこれまで取り扱ってきた。これらは事前の打ち合わせで,前年度の評価を基に決定される。ここでは「日本食について」を例に取る。

(1)下調べ

  アメリカ側からの質問を知る。「外食の時,どんなレストランにいくのか。大人はどんなものを食べて,子どもはどんなものをたべるのか」,「醤油はどんな時に使うのか」,「アメリカではてりやきが大人気だけど日本ではどうか」など電話,電子メールを使い,質問項目を担当教師同士でまとめ,事前に生徒に下調べをさせる。

(2)当日

  授業前に教師同士でCU-SeeMeを使って簡単な打ち合わせを行い,回線のチェックなどを行う。回線状態が悪いときなどの対応方法を検討しておく。今まですべてうまくいっているが,その対処法として電話の活用, CU-SeeMeのチャットの活用等,次の手段を考えておく。CU-SeeMe参加の生徒が画面を通してリアルタイムでアメリカの大学生と日本語で交流を行う。他の生徒は,しばらくCU-SeeMeのやりとりを聞いた後,メーリングリストに日本食に対する自分の意見を投稿する。

  「味噌汁以外に,…の質問には驚きました。私は毎朝パンを食べていて,この頃の高校生は…」と,意見はどんどん出る。

(3)西陵商業高校側の準備

  CU-SeeMeを効率よく行うため,事前に校内でシミュレーションを行った。

・相手との会話が進むように,質問を多くしてあげる。あるいは,途中で英語を入れて,相手の緊張感を和らげる。
・わからない質問は黙ったり,隣の人に尋ねたりせず,受けた人が責任を持って「わかりません」「それについては調べて後でメールします」等の対応をとる。
・会話が弾むようにテーマに合わせて準備する。(新聞記事・写真・しゃもじ,生徒手帳など)
教室内のシュミレーションでは,練習後,「受容」「自己開示」についてノートに取り,交換して,書き込みを相互に行わせた。

CU-SeeMe セッション CU-SeeMe セッション
▲CU-SeeMe セッション

(4)メーリングリストの活用

  メール関係の運営は主にハワイ大学アシュワース教授の担当となり,生徒5グループ,教員用等のMLを設置していただいた。
6.作品
 このような活動を通して学生さんたちはデータを作り上げる。

(1)学生リーさんのレポート

  「日本とアメリカの和食」

  高校の時,親友が日本人だから,高校でアメリカの日本料理と日本の日本料理の違うことの不平ばかり言った。寿司の他に,天ぷらの方も相異点がある。それに,うまさも同じじゃない。日本で出来たえびの天ぷらだったら,そのえびは直立して,天ぷらは花が咲いているようだ。でも,アメリカの天ぷらは花が咲かせられなかったり,えびも曲がっている。 概して,日本の和食とアメリカのと全然違う。

(2)日本側生徒のレポート

  「日本側交流レポート」

  私達は2学期始めから,ハヴァーフォード大学などと交流してきました。外国人と,日本語や英語で交流するということで,変な感覚でしたが,全く違和感なく,交流しています。

  日本語学生の会話能力はすばらしいと思います。気持ちがよく伝わってきます。時々,間違った使い方をしていますが,その時は,直してあげています。

  日本に興味がある人ばかりで,日本の音楽,アニメなどにも詳しく,日本が好きと言う気持ちが伝わってきます。とても嬉しいです。

  このような授業の後,日本の生徒も交流レポートを作り上げていく。私はこれも評価の一手段としている。

(3)発見したこと

  1つの問題に対してそれぞれみんな,考えていることが違っていて,自分一人では,ぜったいに思いつかなかったようなことを聞くことができて,よかったです。

(4)困難だったこと

  時間の関係で,なかなかメ−ルを読むことができなかったり,学校が休みでチャットができなかったりして,話についていけなくなった時は,すごくたいへんでした。

(5)CU-SeeMe

  相手を身近な存在に感じることができます。また,相手の表情がわかるということで,片言であっても,心でつながっているといった感じです。
7.まとめ
 下図のごとく,ネットワークを使った共同授業は参加校,インターネットの機能によって発展して行く。継続して取り組み,なによりも人間関係を作り上げていく作業と共に授業内容も育っていくのではないだろうか。

(1)日本語での交流

  日本語コースの学生さんと交流することで生徒はのびのびと自己表現できている。同じ学習者としての共感,さらには間違っても使っていくことが語学学習,時には表現を借りる英借文も大切である事を認識しつつある。

(2)ツールの活用

  電子メール以外の交流方法も考えたい。共同web制作の作品は次年度生徒の目標となるので,できることなら実現したい。

「理想の学校作り」
▲「理想の学校作り」

交流のホームページ
▲交流のホームページ

  上の図はテーマ「理想の学校作り」※注2で作成したで共同ホームページである。最終的にページを作り上げることで,最終プレゼンテーションをするときなど,生徒のよりどころとなった。

※注2 
理想の学校作り URL:http://www2.hawaii.edu/~soyakawa/index.html
  理想の街 URL:http://seiryo.ed.jp/kageto/data/21.html

(3)問題を歓迎

  「私は昨日部活が遅くて,夜9時頃までかかって,先生についてもらって,アンケートに答えました。それなのに,それに対する返事が一通もなく,悲しかったです。」

  それぞれ学校生活を送りながらのプロジェクト参加で忙しいのだろう。「すぐに書いてくれるよ…」と慰めていると,早速小池先生が自分の学生にメールを送った。「みなさんこのような西陵の生徒さんのメールをどう思いますか? 対応の仕方をもう少し考えてみてください。何のための交流かわかりません。」

  その後,私たちは,生徒の作業に対する評価の与え方について討論することになった。

  現在この動きは評価表の作成に至っている。

(4)交流用ページを

  それぞれの大学で交流用ページを作り上げリンクし合っている。お互いの予定を知る上で大変重宝している。

(5)生徒の技術

  アクティビティがまずあってその必要性から,FTP,ホームページ作成を指導している。

  技術と実践の相互の連携で,スキルアップを達成している。

インターネットの利用方法と学校数の関係
▲インターネットの利用方法と学校数の関係
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る