ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.20 > p26〜p29

海外の教育情報の現場から
ハワイにおける中高等学校のIT教育の様子
大阪学院大学高等学校 松本 宗久
munehisa@htc.ogu-h.ed.jp
1.はじめに

 本校は吹田市の東部に位置し,JR大阪駅から電車で約15分という交通至便なところにある。昭和34年の開校以来「明朗・努力・誠実」を校訓に,男子校としての特色を生かした教育を行ってきた。2000年に男女共学の国際情報コースを開設し,国際化時代に活躍できる人材の育成に努めている。(http://www.osaka-gu.ac.jp/ogush/

 今回,併設大学である大阪学院大学が毎年参加しているハワイ州教育局(Department of Education, 以下DOE)主催のE-school conferenceに高校教員として参加し,その際メール交換などを通じて交流のあったJames Campbell 高校とIlima 中学校を2003年3月7及び13日に訪問した。本稿は,訪問を通じて得たハワイの中・高等学校の印象をまとめたものである。

2.ハワイにおけるコンピュータ教室の様子
(1)Island Movie contestについてhttp://islandmovie.k12.hi.us/

 ハワイではMacを利用した映像編集が盛んであり,関連して公立学校を対象にしたコンテストが行われている。これをIsland Movie contestというが,2分間の動画を,毎年決められたテーマに沿って,素材の撮影から絵コンテの作成,編集,DVD-Rの製作まで児童・生徒自身で行うのが特徴である。多くは15人程度のチームで一つの動画を作成するが,中には2人で作ったというものもあるそうである。対象年齢は小学生からであるが,この場合はスライドショーのようなものが多く,先生が補助もするそうである。中学生になるとiMovieというMacに標準でついているソフトを使ってDVカメラで撮影したものを編集するものが増え,更に高校生になるとFinal Cut Proという商用映画の現場で使用されているようなプロ向けのソフトで編集を行うところもあるそうである。

(2)Ilima中学校http://www.k12.hi.us/~ilima/

 では,Ilima中学校の様子を紹介する。中学校と訳したが,実際にはIntermediateといって,日本でいう中学2,3年生の2年間を学ぶ場所である。ここではパソコン教室だけを訪問した。その部屋の広さは日本の教室の大きさと余り変わらず,設置されていたのはいずれもMacで,G3アルテミス(日本未発売)8台で2列,iMac600Mhzも8台で2列という構成に,HPのレーザープリンターが4台用意されていた。特に語学教育を意識した部屋には見えなかったが,使わせてもらったiMacは日本語が普通に使用できたのが印象的であった。

 ソフトは日本で一般的なMS-Officeはインストールされておらず,Apple Worksという統合ソフトでワープロなどの教育を行っているようである。

Ilima中学校のパソコン教室
▲Ilima中学校のパソコン教室

 なお,たまたま生徒の給食をいただくことができたので,写真と共に紹介する。白黒ではわかりにくいかもしれないが,照り焼きチキン,ツナサラダ,ゆでたトウモロコシに,パンやご飯,コーヒー牛乳がついている。ハワイではアジア系移民が多いせいか,白米を食べるのにそれほど苦労しなかった。むしろマクドナルドの朝メニューに米飯主体のものがあって驚いたほどである。

Ilima中学校の給食
▲Ilima中学校の給食

(3)James Campbell高校http://www.campbell.k12.hi.us/

 Campbell高校は,空港をはさんでホノルルとは反対側に位置し,ゴルフ場で有名なEwa Beachという場所(ホノルルから高速を使用して約1時間)にあり,Ilima中学校とは隣り合って建っている。学校の特徴としては,軍の施設が近所にあることから,軍人やその子息が通学していること,フィリピン系の人が多いことがあげられるそうである。実際筆者が訪問した際も,陸軍の迷彩服に身を包んだ生徒を見かけた(イラク戦争直前とあって,空港の審査も普段より緊張気味だった頃である)。また,赤ん坊を連れた生徒がいて驚くとともに,出産前後の生徒を対象とした家庭科の授業が組まれているという話には性意識の違いを感じた。

1) 普通教室

 今回の訪問を調整下さったClaire Ichiyama(クレア・イチヤマ)先生が,日本語と東洋史の授業をされている教室を訪ねた。ハワイでは,日本と違って教員が部屋にいて,生徒が教室を移動する大学と同じスタイルで授業が行われている。授業内で,30分ほどの時間を下さったので,十数名ほどの生徒たちと日本の若者文化について簡単に話をした。印象的だったのは,吹き替えで放映されているせいか,最近の日本のアニメーションの話題をよく知っていたことである。逆に「ドラえもん」など幼児向けの番組を知らないところにギャップを感じた。この教室には日本語環境で使用できるiMacが一台設置してあり,試しに本学のWebメールにアクセスしたところ,問題なく表示された。文部科学省は現在,普通教室にインターネットに接続できるパソコンを常備する政策を進めているが,その前例を見ているような印象であった。なお,イチヤマ先生には今年6月下旬に本校を訪問していただき,3年生に対して自己の経験談を語っていただいた。詳細は本校のWebページに掲載されている。

2) パソコン教室

 ここは日本とそう変わらない。教室の大きさは日本の特別教室並で,見本を示すスクリーンに対し4列にパソコンが並び,Windows98を用いて,Officeなどを学んでいるということであった。違いといえば,生徒たちが制作したパソコンも使用されているということであろうか。

3) CAD教室

 この教室ではWindowsXP上で,AutoCAD LTというソフトを用いてCADの練習を行なっており,訪問時には「私の住みたい家」というテーマで作図をさせていた。初心者にはCADをお絵かきツールとして,上級者には実際に図面を引かせるというような教育を行っているとのことであった。余談であるが,筆者が見学中に,ある生徒の携帯電話が鳴り,話し始めたので,先生に怒られるという一幕があった。その際先生が「日本ではどうなんだ?」と聞くので,学校にもよるが同様に苦労をしていると答え,苦笑を誘った。

4) パソコン製作室

 まさにガレージ(工房)といったおももちの倉庫つきの教室である。そこでは生徒がネットワークの実習を行なったり,部品を集めてパソコンを組み立てたりすることができるようになっている。筆者が訪れたときにはIPアドレスの書かれた配線図があり,それを元に機器を接続する準備がなされているところであった。また,先ほど訪れた普通教室に導入されているパソコンに,ここで製作されたものも含まれているという。場所やコストの問題もあるのだろうが,こうした部分において日本はまだまだ遅れているなと感じる。

5) 映像編集室

 先に紹介したIsland Movie contestに関連するが,高校生がDVカメラを用いて素材を撮影,それをFinal Cut Proを用いて編集する教室である。生徒たちは,かなりてきぱきと手慣れた様子で操作しているのが印象的であった。設置されていたのはiMacとeMacがそれぞれ6台ずつである。奥の方に使われなくなったアナログ編集装置がひっそりと置いてあったのが,時代の流れを感じさせた。

 また,この部屋ではホワイトボードにRublicが書かれており,これを利用した動画に関する評価をかなり一般的に行っていると感じられた。こちらに関しては本誌の関連書である「Ruburic Chart」を参照されるのがいいと思うが,絶対評価が必要になった今日,日本でも導入を進めるべき評価のあり方だと感じられた。
3.今後の交流について
 訪問後,イチヤマ先生のクラスとWebカメラを利用したVideo会議を生徒間で行うよう計画が立案され,その後数度の接続試験を行っている。しかし,セキュリティーの問題などでなかなかうまくいかないのが現状である。そこで最近,この計画と並行してメーリングリストを利用したコミュニケーションをテストしており,双方の利点を生かして今後も交流を続けていく予定になっている。また,2004年度のIslandMovie contestについては,本校が試験的に参加することになり,現在パソコン部の生徒を中心にして動画の製作を行っているところである。
4.コミュニケーションの大切さについて
 IT教育とは外れるが,今回ハワイの学校を訪問させていただいて感じたのは,場所は変われど結局の所大切なのは「人間同士のコミュニケーションなのだな」というごく当たり前のことであった。イチヤマ先生が日本語に堪能なおかげで,教員の抱える悩みについて色々と話ができたのだが,「本当にここはハワイか?」と思えるほど日本と変わらない問題もあることを知ることができた。一方で滞在中,こちらが英語を話せずもどかしい瞬間が何度もあり,コミュニケーションの道具である言葉の重要性を認識させられた(筆者はもともと物理を専門としていた。英語を覚えるのにスヌーピーの対訳本を読んで勉強したという話題を自己紹介の際に何度かしたのだが,会話をはずませるのに役に立ったと思う)。

 振り返れば,2002年に大阪学院大学で私とイチヤマ先生が偶然出会い,筆者との相互訪問に発展し,かつ学校間の交流に向けて調整をしている現在の経緯を考えるとき,一人の人間が大きく物事を変えることができるとは思わないが,人の目に映らない時分から自らが能動的に行動し,少しずつ積み上げていかなければ事は成せないのだなと感じている。一方でそこに私を支えてくれているいろいろな方々の陰なる助力があることも忘れてはいけないとも思う。こうした部分にもコミュニケーションの大切さの本質的部分があるとはいえないだろうか。

 その意味で,筆者の訪問をこころよく受け入れて下さったイチヤマ先生をはじめ,James Campbell高校とIlima中学校の皆さん,DOEの諸先生方,今回の派遣に色々助力して下さった併設大学事務局の方々に,この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。
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