ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.20 > p22〜p25

中学校の情報教育実践例
中・高一貫教育における情報教育の実践
〜アニメーションによる情報教育の展開〜
東京成徳大学中学・高等学校 増澤 文徳
f-masuzawa@hi.tokyoseitoku.ac.jp
1.はじめに

 平成15年度より,学習指導要領の改訂に伴い,高等学校の中に教科「情報」が導入された。導入として用いられる「情報A」の教科書には,盛りだくさんの知識が載せられている。その1単元として,高等学校普通科「情報A」に導入されているアニメーションと中学校「技術」に導入されているアニメーションにおける授業を通し,中学・高校による年代別の心の動きがどのように変化しているかを検証する取り組みを試みた。

 授業を考案するにあたり,テレビや映画,そしてコマーシャルなど多岐にわたりアニメーションが使われている今日,色彩の美しさや楽しみながら学べるといった要素が授業を考案するうえでの大きな要因となった。本授業では,題材を与えず,それぞれの個性を重視した取り組みとし,色彩,キャラクターの動き,全体のバランスなど,他の作品に対し,何かを感じ取ったとき,自己の表現力,洞察力,想像力など,心の動きに変化が現れるものと考える。

2.中・高における単元比較
 中・高一貫教育における情報教育を展開するにあたり,高校では中学で学んできた内容を発展的な学習へと展開する必要がある。最近では,小学校における情報教育も進んできており,キーボード操作はもちろん,文章も打てるようになってきている。そこで,中学校における情報教育と高校における情報教育を見直す必要性がある。中・高の教科書の単元を比較してみると,かなり重複している部分が多く,より発展的な学習へとつなげていくカリキュラムが必要となってくる。

<中学校・高校による単元比較>

中学校 技術「情報とコンピュータ」の単元

「マルチメディアの活用」
 ・プレゼンテーション
 ・ホームページの作成
 ・動画像の編集
 ・アニメーションの作成
 ・音の編集
「コンピュータの活用」
 ・文書作成,表計算,データベース,図形処理

高等学校 情報「情報A」の単元

「情報の統合的な処理とコンピュータの活用」
 ・文字による情報
 ・数値による情報
 ・画像による情報
 ・音声による情報
 ・映像による情報
 ・Webによるプレゼンテーション

 これらを比較してみても,文字・画像・音声・アニメーション・動画像・プレゼンテーション・Webの活用など,各発達段階で難易度は異なるものの,多くの項目が重複した内容となっている。そこで,中・高の情報教育の動向とアニメーションの実践を通し,心理的な世界にもかかわってくる創造性,独創性といった内面的な心の動きの過程について考察してみることにした。
3.教科「情報」へのアニメーションの導入
 「情報を伝えるもの」として,文字情報,数値情報,画像による情報がある。特に画像に関する授業は,小学校でペイントソフトなどを利用して体験してきている生徒が多い。しかし,中学校・高等学校になるにつれコンピュータの絵を描く道具としての位置づけは薄らぎ,文字情報,数値情報を扱う内容が増えてきている。情報教育の重要な要素として,「楽しさ」を感じ取れる授業展開が,中学や高校においても必要であると考える。

 そこで,画像による情報から映像による情報へと展開できるアニメーションについて,中学校2年生の技術分野「情報とコンピュータ」と高等学校1年生「情報A」で取り上げ,相互比較しながら成長過程における思考の変化を考察してみる。

 アニメーションはテレビ番組や映画をはじめ,テレビのコマーシャル,企業研修や学校の視聴覚教育向け教材,CD-ROMやゲームなど多岐にわたって使用されている。五官による知覚の割合は視覚器官が83%,聴覚が11%,臭覚3.5%,触覚1.5%,最後の味覚が1.0%,であるとされている。視覚・聴覚・触覚といった人間の感性に訴えることで,創造的,積極的な学習が期待できるものと考える。

 アニメーションは言葉や数字と異なり,画像にはそのメッセージが指し示す対象の視覚的特徴が描画されているため,思想,考え方が異なる場合でも共通して理解できる可能性がある。しかし,画像は直感的な理解を可能にする一方で,意味を限定しにくいという短所もある。同じ画像を見た人が受け取るメッセージは必ずしも同じではない場合がある。そこで,アニメーションという創造的な表現活動を通して「心や感性」を培い,個性的で創造性豊かな人間をはぐくむことを主なねらいとしている。
4.アニメーションによる授業展開
 本授業では,アニメーションについて考えさせることにより,観察力・分析力・思考力・表現力・情報活用力・相互理解力の育成を目標とする展開を考えた。



 アニメーションの特性を活用し,現実には起こり得ない出来事を表現する。言葉の表現ではなく,キャラクターに言葉の表現を盛り込み,言葉は擬音などの補足的手段として用いる。アニメーションを作成するにあたって重要な要素は,自分が作成したアニメーションを他人がどう期待し,それを受け止めてくれるかである。そこにはユーモアや魔法の玉手箱的な仕掛けも必要となってくる。さらに自分の気持ちや考え方を伝えるために話題の選択とアニメーションの持続性が必要となってくる。また,目的意識,相手意識を明確にし,アニメーションによる表現で相手が理解できるようなわかりやすい表現が求められる。各メディアのフレーム数は,映画の場合1秒間に24コマ,テレビは30フレームの画像によって構成されているが,時間的な配分からアニメーションフレーム数最低8コマを目標として設定した。

 中学2年生に対しては,小学校で利用したペイントソフトで馴染みのある機能を生かして,フリーソフト「EDGE」を用いて制作を行う。これは,手書きによる書きやすさとレタッチソフトのレイヤー機能,AVI出力等が利用できるため,生徒の思考を実現させることができるソフトのひとつであると考え採用した。

中学生の作品例 中学生の作品例
▲中学生の作品例

 高校1年生に対して,GIFアニメーション,音楽効果,動画編集,Webページ作成ができるソフトとして「ホームページビルダー」を採用した。ここでは,レイヤー機能を確実に学習させることを主題としており,さらにアニメーションに音楽効果を挿入したいなど課題を発展させることができるような広がりのあるソフトを選択している。

高校生の作品例 高校生の作品例
▲高校生の作品例

 本授業では,題材を与えることなくそれぞれが自由な発想でストーリーを組み立てられるよう身近な題材を選択するよう指示している。授業の展開として,絵コンテシートにストーリーを書きあらわし,そこにオリジナルのキャラクターを考案していく。キャラクターを制作していく際に,多くの生徒はイラストを用いて表現するため,アニメーション作品に登場するキャラクターを模倣することがないよう著作権の問題について考えさせる必要がある

 中学生,高校生によって取り扱っているアプリケーションソフトは異なっているが,実施した内容はほぼ同じである。その中で個々の生徒から,遠近感をどう表現するかという問題や,自分の声や音楽効果を挿入したいという要望もあがってくる。生徒の要望も加味したうえで,ソフトを選択することは当然必要であるが,シンプルなアプリケーションソフトほど,使い勝手はいいものである。さらに,高度な技術を必要とする場合,新たなソフトを選択する能力も必要となり,生徒のメディアリテラシー能力が向上してこそ,メディアに対する理解力と選択能力が生まれるのではないだろうか。
5.アニメーションによる比較分析
 生徒の作品について,年代層による分類と志向による分類を試み,中学生と高校生の作品を比較してみた。年代層による分類は,幼児向け・少年少女向け・一般向けの3つに分類し,志向による分類は,体験型・アクション型・感情表現型・自然現象型の4つに分類してみた。分類にあたって,作品の表現を以下のような観点で分析した。

幼児向け:色づかいやしつけ効果が表現されているもの
少年少女向け:主人公が未成年であると判断されるもの
一般向け:ほのぼの系やリアルさが表現されているもの
体験型:過去の経験にもとづくもの
アクション型:躍動感あふれるもの
感情表現型:ロマンチックさが表現されているもの
自然現象型:成長や消滅といったものが表現されているもの



  作品数は,中学生は26,高校生は44である。それぞれ年代層別に作品を分類してみると,中学生は幼児・少年少女向けのアニメを制作した生徒が80.8%,高校生においては,40.9%となっている。

 中学生の作品の場合,手書き機能を活用して制作した作品が多い。また,色づかいも多色にわたり,ストーリーの面白さよりは画面の楽しさに重点が置かれ,どちらかというと幼児向けにシフトしているように思われる。高校生の作品では,図形の組み合わせが多く見られ,ストーリーの面白さに重点が置かれ,内容が充実している。年齢層の差によるものは多分にあるが,高校生の方がユーモアや魔法の玉手箱的な仕掛けがある作品が多く見受けられる。

 志向別に見ると,アクション型では,中学生が46.2%,高校生では61.4%と高くなり,自然現象型になると中学生が38.5%,高校生が18.2%と低くなる。年齢層があがることにより,自然現象型からアクション型へと移行し,静から動への動きが見られるようになることがわかる。さらに,感情表現型では,中学生が7.7%,高校生が18.2%と高くなっている。生徒の年齢層があがるにつれ,相手の共感や期待感を得られるようなドラマティックな作品となり,相手の心に自分の思考を再現させることでアニメーションを通じたコミュニケーションをはかっていることがわかる。

 アニメーションを通した作品制作において重要なことは,相手の内部に自分の思考を再現させることであり,受け手にとって重要なことは,作品に対して人の心を理解しようとする能力があるかということである。アニメーションは,見えない心の理解を手助けする手段として有効である。アニメーションを使うことによって,言葉以上のことを伝えることができる。さらに,文字,音楽などを交えた自己表現の手段として発展していく可能性を秘めている。

年代層による分類
▲年代層による分類

志向による分類
▲志向による分類
6.おわりに
 本授業の目標は,伝える情報の形態として画像情報から映像情報への展開が可能なアニメーションを取り上げることで,表現力・洞察力・情報活用能力の向上を図ることにある。アニメーション制作は,創造性・独創性を高めるだけではなく,技術面の楽しさも感じさせる。中学生の作品では,ストーリーより,むしろ画面やキャラクターの面白さ,楽しさに重点がおかれ,画面へのこだわりを感じる。逆に,高校生の作品は,ストーリーの面白さを重視し,かなり凝った作品に仕上がっている。

 アニメーションは,創作力の向上と技術面の高度化を目指す要素と考える。作品を通して,相手の心の動きを理解しつつ,その反応をキャッチすることで新たな展開が期待できる。これは,見ることの出来ない心の動きを感じとり,言葉以上の何かを伝えることなのかもしれない。自己表現の手段としての画像や映像のほかに,音楽や言葉・文字などを導入することで表現力は倍増する。

 アニメーションは,単純ではあるが効果が大きいメッセージとして言葉を越えるコミュニケーション手法であると考えられる。
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