ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.20 > p10〜p13

教育実践例
Global Communication Projects in Nishinomiyaimazu
−県立西宮今津高等学校におけるネットワークコミュニケーションと連携学習の実践−
兵庫県立西宮今津高等学校 佐藤 万寿美
masato@hyogo-c.ed.jp
http://www.hyogo-c.ed.jp/~imazu-hs
1.はじめに

 本校では,「教育の情報化」を推進し,ICTを活用した教科横断型ティームティーチングという特色ある授業実践として,「国際交流」「地域学校間交流」「産学連携」「高大連携」の4つの連携学習を総合的にコーディネートする「Global Co-mmunication Projects in Nishinomiya-imazu(GCPN)」を平成14年度からスタートさせている。14年度の主な実践例として,国際交流部門では,学校設定科目「国際文化」と学校設定教科「情報コミュニケーション」とが連携し,韓国ソウル市内のシンモク高校との異文化交流に取り組んだ。地域学校間交流では,地域へ役立つ情報を提供することをテーマに,フィールドワーク・情報収集・制作・発信まですべて授業の中で生徒が行い,養護学校や地域の住民との交流を深めた。「産学連携」では,昨年選択「政治経済」の授業の中で,起業家を招き,マーケティングや店舗開発企画などの具体的指導を受けた。より実践に近い形の企業プロジェクトを展開することで,産業や社会の厳しさに直にふれ,企画力と実践力を専門家の指導により身につけ,生徒の興味関心と学習意欲を引き出す結果となった。今年度から,専門家の技術指導を仰ぐため「高大連携」もスタートさせた。GCPNによる連携学習の成果として,生徒の意欲・興味関心を引きだし,個々の希望に応じた学習のなかで,基礎語学力やコミュニケーション能力など,社会で生きていくための総合的な学力を向上させる学校全体の特色科目として機能するように,研究をすすめていきたい。

GCPNのWebページ
▲GCPNのWebページ

2.兵庫県立西宮今津高等学校と情報教育推進
(1)概要

 創立27年目,交通至便と環境に恵まれた全日制普通科高校である。西宮学区総合選抜制入学制度により,地域の中学校校区から,幅広い学力層と個性のあふれる生徒を受け入れている。現在22クラス,男女比はほぼ同じ,進学希望者が9割以上である。今年度から文部科学省フロンティアハイスクール,兵庫eスクール構想未来教室プロジェクトの指定を受けている。

(2)LAN環境

 平成15年2月から兵庫県教育情報スーパーネットワークが施行,県立学校は10Mの光ファイバーでつながった。県立教育研修所のサーバーを拠点とし,学校Webページやテレビ会議システムなどネットワークコミュニケーションに技術支援の提供を受けている。校内LANは生徒用・教師用の2つのセグメントで,全普通教室に情報コンセントの設置,図書館,特別教室棟には情報教室をはじめ必要に応じて情報コンセントが設置されている。体育館や図書館での行事や講演会などを職員室・校長室・事務室をはじめ各教室へLive配信が可能である。職員室内では教員の各机上でPCを持ち込んで教育情報ネットワークと接続し,インターネットを活用した教材作成などが自由にできる。職員室内だけに成績管理用LANを構築し,プリンタ・フォルダ共有など校務処理が円滑にできる仕組みを独自に構築している。

(3)体制と組織

 平成11年4月総務部情報教育係設置,あわせてネットワーク管理者を委嘱され,情報教育委員会の運営など学校全体の情報教育推進がスタートした。当時はインターネット接続もできておらず,コンピュータ教室は1室,ほとんど使われていなかった。平成15年度新課程を目指し,「すべての教科でインターネットを活用できるように」環境整備を図った。その後,校内LAN環境整備,図書館ネットカフェ(生徒への開放),校内研修会など教育の情報化,職員室LAN,回線を64→128kbpsに変更,テレビ会議を利用した学校間交流,情報教育推進委員会設置,管理職・事務職との連携,平成14年には教科「情報」の免許取得者が3名になり,15年度開講への準備が進んだ。「G CPN」の連携交流学習・プロジェクト学習を情報教育推進委員会で支える体制と技術力が確立した。

校内の体制
▲校内の体制

(4)「今津ネットディ」(H15.3.31)

 本校スタッフだけでなく,他校など多くの人々の協力により,手作りの情報第2教室を新たに設置することができた。古くからある情報教室1つだけでは,平成15年度に教科「情報」など授業を十分に実施できない,しかし予算がない,そんな窮地から救ってくれたのが「今津ネットディ」だった。コンピュータの設置,LAN配線工事,天井板をはずしてのリレー配線には生徒や校務員さんの協力が光った。いよいよ新入生を迎え,教科「情報」の授業が始まった瞬間,胸にこみ上げてくるものがあったことを今も忘れない。

「今津ネットデイ」の様子
▲「今津ネットデイ」の様子

(5)教育課程と授業

 生徒の幅広い学力層と多様な個性に応じた選択科目を設置,情報関連科目は,旧課程においては「情報コミュニケーション」(3年生3単位),新課程では「情報C」(1年生2単位)を実施している。来年以降では学校設定科目「環境と情報」(2年生2単位),「メディアと情報」「デジタルクリエーション」「コンピュータデザイン」(3年生2単位,3単位),特色科目としてGCPNを設置予定である。
3.GCPNの目的
 コミュニケーションの拠点としてWebサイトを教育実践の場とする,地域社会への情報発信基地となるWebサイトの構築と,校内での教科横断型連携学習の実践である。地球上のすべての教師と生徒と地域が集う場を提供し,国際交流だけにこだわらず,国内や校内などの交流学習やTTが特徴である。校内では複数の教科や科目が関わる教科横断型授業,情報推進委員会などもバックアップできる体制づくり,資源をWeb化し共有できるようなシステムの構築が目標である。学校教育における「心の教育」「ITで築く確かな学力の向上」に加え,この成果を将来的には高齢者や障害者のためのコンテンツ開発に役立てたいと考えている。

(1)国際交流—三者交流の実現—

 昨年よりソウル市シンモク高校との継続的交流学習を「国際文化」「情報コミュニケーション」で実施,国際文化では主に異文化の学習,情報の授業では生徒がテーマごとに制作物をWeb化する教科横断型の連携授業である。交流には掲示板・テレビ会議システムを利用し,継続的交流学習を重視する。英語・国語の基礎語学力の向上もねらいである。昨年,シンモク高校を教諭3名で訪れた。本校小西教諭の努力が実り,継続的交流学習が始まった。シンモク高校の現場の先生も進路指導など多忙な日々を送り,当初は,情報化教育には消極的なように見受けられた。通常はメールでのやりとりで,苦手な英語でメールを書いた。今年も2度目の訪問が実現した。担当の先生の努力が実り,シンモク高校では日本との交流用に「クラブ」を設置してくれた。国境を越えた教員間の自主的なコミュニケーションが実現した。異文化を学ぶ授業実践のなかで,ICT活用により,日本人・在日コリアン・韓国人高校生による三者交流が実現した。交流用言語は主に英語であったが,Web制作やBBSでは,日本語・英語・韓国語の3ヶ国語に積極的に挑戦した生徒もいた。今年度は,韓国語,英語のキーボード,Windows XPやOfficeXPのMulti Language版でグローバルマシンを設置,韓国の環境に一歩近づいた交流学習を体験することができた。

テレビ会議による交流学習
▲テレビ会議による交流学習

(2)地域学校間交流「UDAプロジェクト」−街角のユニバーサルデザイン情報を探そう!−

 3年生「情報コミュニケーション」では,教科間連携を実施している。「UDA(ユニバーサルデザイン&アクセシビリティー)プロジェクト」とは,障害者,外国人,初心者から高齢者まで,誰でも使いやすいWebユーザビリティーの研究である。地域のUD情報を取材し,アクセシビリティを配慮したWebによる情報発信など,Webサイトを実践の場とした学習活動を展開する。日本ではまだまだおくれているWebのUDの指導には,デザインの専門家等の協力が必要不可欠である。大学や専門家,養護学校,韓国の高校との連携を図り,インタラクティブな交流学習を進めるために,テレビ会議システムで研究室等と教室を結んで研究活動を展開中である。

 1年生の情報Cの授業で,「情報倫理」をテーマに川西緑台高校とテレビ会議による交流学習を実施した。「情報」を体験していない3年生へ,「新カリ軍団」によるプレゼンテーションや情報倫理クイズ,1年生が3年生を教える形になった。

(3)産学連携交流「スペースボールプロジェクト」ー体育科・情報科連携プロジェクトー

 専門家とのTTにより実社会との接点をもてる授業の実践,社会への興味関心を向上させ,産業社会の将来を担う人材の育成につながること期待する。今年度はICT活用をテーマに,NPO法人「SCIX」を介して,神戸製鋼ラグビー部のヘッドコーチを体育の授業に招き,「スペースボールプロジェクト」を体育科の授業で実施した。情報の授業では,「スペースボールプロジェクト」のLive配信,Webサイトやビデオ編集による「スペースボールプロジェクト」の番組制作などを生徒が現在行っている。

(4)高大連携交流

 平成15年度実施の「情報」では,武庫川女子大の学生が本校で教科「情報C」の授業を生徒と一緒に体験した。UDAプロジェクトでは,甲南大学の辻田教授の集中講義,ゼミのTAによる連携指導などを経て,画像処理等でより専門的な技術指導が実現した。大学との共同研究により,進路意識の向上を図り,可能性を広げ学ぶ意欲を高める。また,専門家の授業を受けることで知識の広がりを深め,より充実した授業を展開ができた。双方のメリットを意識した授業実践・共同研究として,来年以降も継続的交流学習を目標とする。

(5)連携のポイント

 次の活動を情報科と推進委員が支援・協力を積極的に行う。

1) 交流学習の拠点…校内で教科科目を募集,コーディネート,デジタルコンテンツの作成や指導
2) 国内交流の拠点…「UDAプロジェクト」「スペースボールプロジェクト」など校外との交流や折衝,他校の先生からの支援技術力,定期的・積極的交流・勉強会でお互いの問題解決を図る
3) 国際交流の拠点…英語科の翻訳支援,翻訳サーバー利用(研修所)を基盤に,メールなどで交流相手との打ち合わせ
4) 情報化と情報科…情報推進委員会で情報化推進活動支援を行う組織作り,情報科スタッフは週1回のミーティング,相乗効果

(6)評価規準の作成

 プロジェクト学習に不可欠なのは,テーマ・コンセプト・ゴール・評価をスタート時に生徒に対して明確にすることである。教師・生徒の計画的な取り組みのなかに評価を観点別に組み込んでいる。

 相互評価,自己評価,経過観察,継続評価などWebやレポート,ペーパーテストなど,生徒・教師が評価に参加する。情報科スタッフが週1回のミーティングで作成した「観点別評価規準表」により,制作物を評価している。
4.期待できる成果
・相手の立場を考える思いやり
・情報発信者としての責任感
・生徒の主体的活動
・情報活用能力の向上
・地域との連携による社会性向上
・多言語活用による語学力向上
・プレゼンテーション能力向上
・コンテンツやノウハウの公開と資源共有
・地域の教育の情報化推進の拠点
・教育の情報化コーディネーターの派遣による普及
5.エピソード
 UDAプロジェクトの授業の中で「多言語表示」に挑戦した。ほとんどの生徒は,翻訳エンジンで単語程度を英語表示する簡単な作業である。しかし,ある生徒は,すべてのWeb制作物に「English」のページを作成し始めた。普段は英語がとても苦手らしい。そんな生徒の自主的な取り組みに驚いた。英語への挑戦状だったのかもしれない。

 軽い障害をもつ生徒がいた。いつも片手で操作していた。障害者への情報発信の取材の中で「このドアは,片手でも開けることができます」とWebに書いてあった。

 今年の1年生を「新カリ軍団」と呼んでいる。パワーポイントなどさっさと使いこなしてしまう。自分のテーマにそった調べ学習で,ある生徒は「電車の中での携帯マナー」をテーマにテレビ会議で他校の3年生へ向かって発表した。「ペースメーカーってゆうのはね。人工心臓みたいな……なのでみんな電源を切りましょう!僕も今日から切りまーす!」実に説得力のある?発表だった。
6.未来へのアプローチ
 この3年間多くの先生たち生徒たちに助けていただいた。そして平成15年度の幕開けを迎えることができた。先生と先生,先生と生徒,保護者と学校,社会と教育,世界と日本,一番大切にしているのはやはり,人と人とのつながり「コミュニケーション」である。ICTを活用しはじめて人の輪が急速に広がった。ICTの向こう側には「心の存在」がある。情報教育を通して得た多くの宝物を生徒たち伝えたいと実感する。教科・学校・自治体・国境を越え,「普及と連携」の情報教育を伝えてゆきたい。

有志によるボランティア研究会
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