ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.20 > p14〜p17

教育実践例
教科「情報」への取り組み
−本校の実践事例と課題−
熊本県立大矢野高等学校 友枝 武弘
t.f.tomo@crocus.ocn.ne.jp
1.はじめに

 大矢野町は,熊本県南西の天草地方に位置し,大小さまざまな島から成り,陸とは天草五橋で結ばれています。一号橋を渡った天草の玄関口で,島原の乱で有名な天草四郎の生誕の地でもあります。また,「遅いあなたが主役です」をキャッチフレーズに行われている天草パールラインマラソン大会は,健康マラソンの草分けとして全国に知られています。えびや真珠をはじめとする漁業やかすみ草などの花卉栽培は,全国有数の産地となっています。

 本校は,四方を海に囲まれた,四季折々の花々が咲く,自然豊かな環境に立地しており,定期船で通学している生徒もいます。全校生徒330名が在籍しており,1学年3クラスの小規模校です。

2.本校に赴任して
 私は,本校に赴任して4年目を迎えます。過去3年間,商業の教員として授業を展開してきました。本校は,2年次より進学コース1クラスと就職コース2クラスに分かれますが,商業の科目は主に就職コースのカリキュラムになります。赴任したばかりの私を苦しめたのが,生徒の学力差が非常に大きく,一人でコンピュータの実習を行う上で,既存の教科書や市販のテキストでは一斉授業が行いにくいということでした。特に,ワープロ部に所属し普段からコンピュータに慣れている生徒と,ローマ字入力がやっとであるという生徒とでは差が歴然でした。プロジェクタをはじめとしたハード面での環境整備もなかったので,どうしたらよいか悩みました。その結果出した結論が,オリジナルテキストを作成するということでした。
3.テキスト作成
 本校は当時,「わかるby先生」という県の指定を受けており,英・数・国の授業に関しては習熟度形態をとっていました。しかし,コンピュータの実習に関しては,ハード面から習熟度形態はとれない。商業2名の職員の負担を考慮するとチームティーチングはできない状況でした。よって,すべての生徒に対してわかる授業を展開する意味でも,オリジナルテキストをどのように作成するかが鍵を握っていました。

 文書処理の実習では,キーボードレッスンで,テキストにローマ字の表記を行ったり漢字にルビをふったりしました。また,「fjfj」といったアルファベットによるキーボードレッスンではなく,ホームポジションから順番に,熟語と単文による練習を取り入れました。

 文書入力練習に際しては,できるだけ生徒の興味・関心が持てる内容を,新聞記事のコラムを中心に,いろいろなジャンルから選ぶとともに,漢字の読み方や内容の解説,また,生徒の意見を聞いてから練習させました。

 表計算ソフトの実習は,より工夫を必要としました。一人で40名程度の生徒を指導しなければなりませんが,約3分の1程度の生徒が,説明だけでは理解が不足し,教師のきめ細かな支援を必要としました。

 テキストを作成する際の留意点は,以下の通りでした。

1) 1時間のポイントをまとめ,学ぶ内容をはっきりさせる。
2) 操作手順はビジュアル化し,一つのやり方で例題を完成させる。
3) 生徒の処理能力の違いを考慮し,練習問題を配列する。

 それと同時に,理解が不足する生徒を中心に机間巡視することで,きめ細やかな指導を心がけました。

授業で取り上げた関数(1)
(1)SUM
(3)MAX
(5)IF
(2)AVERAGE
(4)MIN
(6)COUNT・A

授業で取り上げた関数(2)
(1)DSUM
(3)DMAX
(5)DCOUNT・A
(7)V・HLOOKUP
(9)LARGE
(11)LEFT
(2)DAVERAGE
(4)DMIN
(6)PHONETIC
(8)INDEX
(10)SMALL
(12)SUMIF  など

 「わかる・できる・身につく」を合い言葉に,オリジナルテキストで,基礎・基本を身につけさせたあと,市販の練習問題テキストで応用力をつけさせました。

 生徒に目標・目的意識を持たせるため,旧全商コンピュータ利用技術検定2・3級を目標に定めました。全員に2級までの内容を指導し,3級は全員受験,2級は希望受験でしたが,3年目で3級が99名受験し92名合格,2級が21名受験し,10名の合格と成果を上げることができました。

年\級 3級 2級
H13年 41  
H14年 92 10
▲コンピュータ利用技術検定取得状況

年\級 4 3 2 1
H10年 84 30 6 0
H11年 61 46 6 1
H12年 43 73 29 2
H13年 21 54 21 2
H14年 32 64 29 5
▲ワープロ検定取得状況
4.環境面での整備
 本校は,平成13年1月に新しいパソコンに更新されました。県の整備計画に基づくもので,光ファイバによる校内LANが整備されました。コンピュータ室は,すべてのパソコンがインターネットができる環境に整備され,コンピュータのスペックに関しては,当時は満足できるものでした。しかし,安定性からOSにWindows98が選択され,アプリケーションソフトは,一太郎11とエクセル2002がインストールされているだけでしたので,平成15年度から始まる教科「情報」に向けて,ハード・ソフトの両面から不足していました。マルチメディアのソフトに関しては,フリーソフトで十分対応できると思いましたので,プレゼンテーションのパワーポイント,ディジタルカメラ,プロジェクタなど計画的に予算計上し,整備してきました。今年度は,データベースソフトであるアクセスを導入予定です。

 インターネット環境が整備されると,セキュリティやモラルに関しての心配がありました。県からの指導でネットワーク要綱・ネットワーク管理規則を作成するとともに,ネットワーク活用委員会を立ち上げました。

 これまでコンピュータ委員会は存在しましたが,実質私一人での対応でした。しかし,校内LAN上の4台のパソコンがウィルスに感染したため,職員に対しては,研修「ウィルス対策」を通して,「知らないうちに加害者にならないために」ということを周知徹底させました。

 実際にウィルス対策として頼りになるのは生徒です。ネットワーク委員を中心に,WindowsUpdade やウィルスソフトのアップデート, Webスキャンをはじめ,パソコンのメンテナンスなど,生徒による予防対策ができるようになり,モラルの向上にもつながっています。
5.教科「情報」や将来のビジョンを考えて
 本校で3年目を迎え,生徒のコンピュータ活用能力は年々かなり向上してきました。

 私自身も教科「情報」を意識し,講習会や研修会など,マルチメディア作品やホームページの作成,アクセス,LAN講座などに積極的に参加し,コンピュータ活用能力を高めてきました。

 しかし,校区内の離島にある小 ・中学校での情報教育の授業を参観したり中学校の技術・家庭の授業実践発表に参加したりすることで,今後の授業の在り方について考えさせられました。

 平成14年度卒業生は,授業の進度にゆとりがありましたので,プレゼンテーションとエクセルVBAの授業を試みました。

 プレゼンテーションの授業は,日本文教出版に協力をいただき,情報Aを先取りする形で授業を行いました。「総合実習に取り組もう」は授業を展開する上で非常に参考になり,特に生徒が中間報告を行う際,自己評価・相互評価を行うことで,Plan-Do-Seeを実践することができました。

 エクセルVBAは,簡単なマクロに慣れさせるため,まず「弁当注文システム」を作成させました。工夫した点は,以下の通りです。

1) 注文書の弁当名は一覧表から参照するようにリストボックスとVLOOKUP関数を組み合わせる。
2) 数量はスピンボタンがセルと連動するように設定する。
3) データが入っていなかったら何も表示しないように設定する。
4) ボタンをクリックすると住所・氏名や注文した内容が消える。

 デリートキーを使わず,ボタンをクリックすると瞬時にデータが消えるので,完成させた生徒からは歓喜の声が挙がっていました。また,2時間の授業で全員が完成させることができ,私自身も非常に満足のいく授業が展開できたと思います。その後もマクロの問題を数題行いましたが,生徒に大変好評でした。
6.教科「情報」のスタート
 毎年少しずつハード面・ソフト面・環境面をはじめ,教科「情報」への準備を進めてきました。しかし,実際に入学してくる生徒がどのくらいのコンピュータ活用能力があるのか未知数でした。私がそれまで知り得た限りでは,旧課程の生徒達よりかなりコンピュータを操作できるのではないかということでした。

 1時間目の授業で,IT活用に関するアンケートを採りました。「アプリケーションソフトをどの程度操作することができるか」「インターネットの使用状況」「中学校でどのようなパソコンの授業が行われたか」という内容のものでした。しかし,アンケート結果は予想に反し,インターネットは使用したことがあるが,約7割程度の生徒が,あまりアプリケーションソフトを操作できないということでした。中学校の授業内容に関しては,(1)キーボードレッスンのソフトで練習を行ったことがある(2)表を作成しグラフを作成したことがある(3)総合的な学習の時間で,数名の生徒がパワーポイントを使用して発表をしたことがあるが,模造紙や壁新聞での発表であったという結果でした。実際に10分間でどのくらい入力できるか,各クラス試してみましたが,100字を超えることができる生徒は数名しかいませんでした。また,表計算ソフトに関しても,ほとんどの生徒が扱えませんでした。よって,教科書の単元どおりには授業が行えず,大幅な見直しを余儀なくされました。
7.本校のカリキュラムから授業内容を見つめ直す
 本校は,約3分の2の生徒が就職コースに属し,普通教科「情報」を学んだあと,商業科目を履修します。コンピュータに関する資格取得の人気が高く,今年度から就職コースの生徒は,3年間コンピュータを活用した授業があります。よって,ある程度コンピュータの活用能力を高めてから,知識や問題解決型の学習等を行った方がよいのではと考えました。

 1学期は,コンピュータの実習を中心に,これまで三年間本校で培ったノウハウを活かした授業を展開しました。4月はキーボードレッスンとコンピュータの基本的知識や操作を,5月中旬からは,オリジナルテキストを使用したエクセルの演習,レベル関しては,全商情報処理検定3級においています。

 2学期は,エクセルの演習と教室での講義を並行して行っています。講義は2学期から始めていますが,教科書とワークシートを用いて,ハード・ソフトウェアに関する知識,通信ネットワークに関する知識,情報モラルとセキュリティに関する知識,教科書にはありませんが,データベースに関する知識と順次行っていく予定です。

 3学期は,1月に実施される情報処理検定の演習を行いながら,パワーポイントを利用したプレゼンテーション,検定終了後からは,問題解決型の学習と,情報社会に参画する態度を育成していく予定です。時間があれば,Webページを作成させたいと思っています。

  就職 進学
1年

情 報 A

2年 ビジネス基礎
商業技術
 
3年 商業技術
課題研究
8.最後に
 今年度は,入学してきた生徒の実態を考え,以上のような授業を展開しています。学力格差が大きいので,コンピュータに関する知識や理論,また問題解決型の学習をするためには,ある程度のレベルまで,コンピュータの操作や活用ができるということが前提であると私は考えます。特に,問題解決型の学習に関しては,コンピュータを使用するか否かについて考えたり,どのように集計するのが効率的か,またどのように表現するのが効果的かなどを考えたりする必要があります。集計技術やグラフ作成は,生徒自身がコンピュータのスキルを持たないと,意図しているような教育的効果は得られないと考えます。

 しかし,授業は生徒の実態を考え,見直していかなければなりません。これから入学してくる生徒達は,小・中学校でのコンピュータを活用した授業の取り組みの結果,今以上にコンピュータを活用できる生徒達が入学してきます。よって,高校での授業も随時見直していく必要があると考えます。現在の小・中学校の取り組みを考えると,今後入学してくる生徒達には,以下のようなカリキュラムが良いのではないかと考えています。入学してくる生徒に対するアンケートや授業での実践を通じて考えなければなりません。

 本校は,生徒の学力差が大きく,授業を展開する上で非常に難しい面があります。しかし,本校は他校にないカリキュラム「商業」が組まれています。3年間を通じて,どのような情報教育を展開する必要があるか,考えていく必要があります。

 現在,1年次には「情報A」を実施していますが,「情報B」が適当ではないかと考えます。就職コースには,2・3年次に商業科目として「ビジネス情報」「情報管理」を導入し,データベースソフトである「アクセス」を用いて授業や,イベント駆動型のプログラミングを新たに実施できればと考えています。

 雇用環境が激変し,中途採用などの即戦力重視傾向が強まっています。今後,さらに高校生の就職状況は厳しくなることが予想されます。就職に対して,ますます専門性が求められるなかで,情報教育を通して,どのような力をつけなければならないか,常に考えていかねばなりません。

 生徒の進路(生きる道)を広げる意味でも,コンピュータの資格取得のレベルを向上させるとともに,上級学校につながるような基礎・基本を徹底できるカリキュラムをいかに編成するかが課題です。

今後も,生徒の将来を考え,生徒の実態にあった特色ある授業を実践し,生徒をサポートしていきたいと考えます。

  就職 進学
1年

情 報 B

2年 ビジネス基礎
ビジネス情報
 
3年 商業技術
課題研究
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