近年,生徒の「活字離れ」が進行するとともに,「表現力」や「発表力」が低下していることが話題にのぼっている。また,以前から「学力と読書量は比例する」と言われているが,学校現場でも教科を問わず読書量の低下に危惧を感じている教師も多い。このような傾向は全国的なものであり,特に読書量の低下はすべての教科の基礎を揺るがしていると考える。一方「情報教育」の立場からは,インターネットを通じた安易な情報収集による著作物のコピーが無意識のうちに氾濫し,弊害をもたらしているとの声も大きくなっている。そこで,著作権と自分自身のオリジナルを大切にする真の「発信者」を育てる実践を試みた。また,この授業の中でイラスト等の利用許可に関する著作権の留意事項を具体的にまとめた。最後に,情報Cに向けての本校の方針と評価の例を解説する。
(1)授業を進めるに当たって 授業の中で著作権を体験的に教える必要を感じていたが,実際にどこまで,どのように,何が可能なのか,出版社編集部にお願いと問い合わせを行った。その結果,「イラスト」の授業での使用について許可を得た。その中でまとめたことを,以下に紹介する。 (2)授業推進に当たっての留意点 <1> 許可を得た場合の範囲 ・Webなどで外に発信することはしない。 ・一教師が授業の中で副教材として使用することが,著作権に触れない条件である。 ・これが,学年教師の方針や学校の方針でとなると,一団体が著作物を使用するため,著作権の使用が発生する。あくまで,一教師の教室の中は,個人の領域になる。 <2> 対外的な発表について ・生徒の対外的な学園祭等の発表で,イラストをコピーして使用すると,著作権の侵害になる。出版社に問い合わせをすれば,「著作権の侵害に当たりますのでおやめください」と断わられる。 ・教師の対外的な発表では,口頭で,某冊子を教師個人が授業で使用していることを明言する。また,本が特定されないように配慮する。 <3> 引用出典に関する留意点 ・必ず出所場所に確認をとる。 ・写真関係は写真著作権代行会社などから,版権料を支払い借りる。 ・イラストは,出版社が版権所有の場合かなり高額だが,希望があれば貸し出しに応じる。その際,出典の明記を条件とする。 ・出典を明記すれば,使用しても良いと考えている方が大半だが,著作権はクリアーできない。 ・無断使用は,違法行為で訴えられる場合がある。 ・そのままトレースをする場合,デザインの盗用になる。トレース資料借用料により,使用が許可される。 ・どのようにすれば,使用可能なのかと言えば,内容を理解し,自分のオリジナルな構図(トレースでない)で書き起こせば,それは,その人のオリジナルになり自由に使用できる。 <4> 著作物を使用する場合 ・某出版社では,オリジナルイラストのWebやデジタル化は一切許可をしてない。写真については,著作者あるいは「エージェント」に連絡する作業はかなり面倒であり,使用料は1点につき1万円を下ることはない。エージェントの場合,学会発表だけでなく授業のみの使用であっても連絡があれば料金の請求をせざるを得ないとのこと。実際に支払いを受けたこともあり,また,ホームページでの発表ではさらに料金が高くなる。 <5> 授業での活用について −実際の授業での留意点− 趣旨を伝え授業での許可を依頼した結果,以後の授業については,イラストと文章は編集室に連絡なしでも使用の許可を得た。しかし,本来は次の手続きをする。 編集部と各執筆者に連絡し,執筆者に許可を得る。その際,執筆者には某編集部からは許可を得ていることを伝える。これらを経て,生徒に次のような作業をさせる。 ア.イラストについて 許可を得た場合,各作品の巻頭に必ず「イラストは編集室の許可を得て転載」のように明記する。 イ.文章について 各作品の巻頭に出典(誌名・年月号・記事タイトル・執筆者名)と許可を得ていることを明記する。 ウ.写真について 写真を使用する場合,最近ふえてきた「版権フリーの写真集」を購入して利用を考える。どうしても使用する場合,使用料を負担して貸出代行業者(エージェント)に著作権代行業務を依頼する(冊子編集者は1回の使用ごとに使用料を支払って掲載)。利用する場合,「許可を得て」「使用料を支払う」等の手続きをする。著作権は撮影したカメラマンが持ち,エージェントはカメラマンにかわって使用者から著作権料の支払いを受ける。例えば「田北圭一/世界文化フォト」の場合「田北圭一」がカメラマン名,「世界文化フォト」がエージェント名となる。この場合,著作権代行業務を行っているエージェントに連絡すればよい(カメラマンへの連絡はエージェントが行う)。 エ.ホームページでの公開 「公への発表」には,編集室に一報を入れ相談する。
(1)これまでの経緯 本校のこれまでのコンピュータ教育への取り組みの経緯は,決して積極的とは言い難い。10年前は「情報処理」の2単位の授業を誰が担当するかから始まり,担当になった教師はどのような形で進めていくかが悩みの種であった。ワープロ,表計算,印刷,音楽等のマルチメディアを用意したこともあるが,実際に授業を進めると,生徒はいたるところでつまづき教師に助けを求める。コンピュータもたびたびハングアップしその復旧に時間をとられ,一人で授業を進めるには大変な授業であった。また,パソコン教室を自由に解放したこともあったが,コンピュータの故障が多発し,やむなく中断せざるを得ない羽目になった。そのような経緯を経て,この「コンピュータ授業」は全教科の応援で行い,授業も複数体制であることが当然のことになった。今回,新教科「情報」が立ち上がり,よい意味でこれまでの経緯から,TT授業が引き継がれた。 (2)本校の情報機器の導入 文部科学省の情報化推進が具体化され,本校の施設は2003年3月でコンピュータ室42台,各学年に4台(計12台),図書室に4台,進路室に4台,視聴覚室に21台,その他の教室に点在し,教師用も含め計100台を超えた。さらに,2000ルーメン以上のプロジェクターが計8台,デジカメやその他のマルチメディア機器が導入された。年度末に導入され,実践的な運用の準備中である。 (3)情報教育に対するスタンス 情報Cのスタートでの基本的な職員の合意は次のようである。 <1> 情報Cの授業は複数で行う。 (情報教師+他教科から1名) これによりパソコン教室を他教科が使用でき,マルチメディア機器の運用と推進ができる。 <2> 専門分掌ではなく,各組織からの構成委員からなる情報委員会を運営中心とする。つまり,「皆で進めていこう」ということである。 (教育活動全体に運用する姿勢はあるが,教師はかなり忙しく,情報機器の運用の研修機会は実際には多くないのがネックである。) <3> 生徒に対しては情報機器の正しい操作マナーの指導が重要。そのため,下記のような目標・方針を立てた。 (4)指導の目標・方針 情報化の時代に対応できる基礎的知識と技能を実践的に身につけさせるため,実習を通じて真の発信者となるべく作業を行い,次のことを体得させる。 (太字は生徒に強調したい部分) ア.著作権,著作肖像権など法的な知識と同時にその実践的意味を体得させる。特に人間関係について未熟な生徒であるから人権の侵害に関することには深く理解させる。 イ.真の発信者となるために,「独自のもの」を意識した作業を追求する。しかし,「オリジナル」とは,過去のものの土台の上に築くものであるから,当初は作品の転写作業の中から学習させる。 ウ.作品を完成させる中で,文・イラスト・写真その他のメディアについて扱う技術を適時学習し,情報機器を使用して自分の作成した内容を発表をできるようにする。
(1)図書を利用した授業以後 「真の発信者とオリジナル」のための「土台作り」の実習後は,さらに「発表力」と「独自のテーマ」選定を迫る。具体的には,夏期の読書課題を利用した「読書紹介」のWeb作成と,「世界史」からのテーマ選定と発表資料の作成を予定している。 また,これらの実習と作業を通じて,適時,必要に応じて教科書の内容を解説する。 (2)実習と試験の評価 成績は次のように評価する。 実習 <1> 作業 図書室の作業等 <2> 操作 発表資料作成スピード <3> 発表 作品の内容と発表力 試験 <1> 用語 教科書の出題範囲のカタカナ及びコンピュータ用語の意味を出題(国語及び英語辞書で共同・協力して調査させる) <2> 著作権 試験には毎回出題。 <3> 教科書 実習中に教科書の内容を解説した部分から出題