ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.17 > p18〜p21

海外の情報教育の現場から
アジアを歩いて
日本福祉大学メディア教育センター助教授 影戸 誠
makoto@kageto.jp
1.元気なアジア

 アジアは元気である。この1年間で7〜8回は訪問したであろうか。シンガポール,タイ,ベトナム,カンボジア,韓国,台湾。先生たちとそしてそこに学ぶ学生,生徒たちと語ってきた。

 私自身,インターネットの教育利用に10年間関わってきた。最初は2400bpsのモデムを使い,中国や,アメリカの教師と電子メールを交換し,その後1994年に64kbpsの専用線を使い,世界との国際交流に活用した。そのインターネットのスピードも,いまや一般家庭で1.5Mbpsである。

 そのような時代から関わってきた事をベースに,アジアのインターネットの教育利用を見つめたとき,それぞれの国のステップが見えるような気がした。

2.カンボジア
(1)平和の尊さ

 カンボジアは戦火の絶えなかった国である。

 いまやっと平和な国として機能しつつある。平和があり,そこに安定した経済がある。そして,教育が可能となる。学校での教育が成立することの意味を考えさせられる国である。

 大学の教員の給料は45ドル程度という。街のホテルで働く従業員と同じか,それ以下の給料だ。

 新聞を見てみると2002年には30パーセント給料をアップしたと書いてある。

 文教予算は7300万ドルで,過去数年の3倍の予算という。教育が大きなキーワードとなりつつある。

(2)入国

 入国はいたって簡単で,カンボジアではビザを空港で取ることにした。写真2枚を用意し,そしてビザカウンターへ行くと,8人ばかりが並んで,流れ作業で作っていく。

 デジタルカメラを持っていると,「それは新しいものか?」とのぞいてくる。これをチャンスと撮ってはいけないビザ・セクションの写真を撮り,彼に見せた。親指をたてて「good!」。

 お金を替えると,2万円が62万リエルに変わる。財布が折れない。迎えに来てくれたソフィアさん(大学助手)手配の車にのって街を走る。数時間前のホーチミンの騒がしさに比べ,実に静かだ。以前ローマからボンに飛んで,違いに驚いたことがあったが,同じような感覚であった。国民性の違いが運転に現れている。

(3)王立カンボジア工科大学(学生数3000名)

 7つの学部…コンピュータ,市民科学,地域科学 食品化学,電気,工業科学などである。

 学生はほとんどバイク(50cc)通学で,3人乗り,2人乗りは当たり前である。お金のある学生は,30万キロ走ったトヨタ車でさっそうと登校する。

 IT環境…20台のパソコンが並んだ教室がある。しかし,インターネットには接続されていない。

 イントラネットでコンピュータの授業を行っている。教員たちは,UUCP(ダイアルアップ)を使ってメールをチェックしている。

 パソコンは,すべて組み立てパソコンという。プロセッサ550MHzで,メモリは64kBであった。

 テクノロジー担当の教授がやってきた。現在,e-learningに取り組み,タイにサーバーをおき,コンテンツをそろえているというが,大学から接続はできない。

 質問も細に入ると,教師たち同士がフランス語で会話し,内容を確認している。フランス語の名残が大きい。フランスが奨学金を出し,言語政策に影響力を持っている。

(4)学生の利用

 大学でインターネットが利用できないため,インターネットを活用する学生は,全員インターネットカフェでの接続となる。それでも60〜70パーセントの学生が利用しているという。

 1時間1ドル,Webページがかろうじて開く。モデム接続56Kbps,10台程度でシェアしている。

カンボジアのインターネットカフェ
▲カンボジアのインターネットカフェ

(5)王立カンボジア大学

 工科大学に比べて,パソコンの台数も200台ある。しかしながら,インターネットに接続されている教室はわずかに1教室55台である。シスコがサポートしているという。

 専用線56kbpsでつながっているというこの国最高のシステムである。55台で56kbps,メールがかろうじてできるスピードではなかろうか(日本の家庭用ADSL1.5Mは約20倍)。おそらく,街角のインターネットカフェの方がはるかに早いと思われる。

 研修で来ていた高校の先生に,話を聞くことができた。Web上の情報を取ろうとするが,どこにどのようなコンテンツがあるかわからない。さらに,それを指導してくれる人もいないという。

 この大学で研修をしている若手英語教員は,かなりの熱意と指導法をもって現地の学校に帰るが,結局いままでの古い形の授業を強いられ,年のいった先輩教師につぶされるという。

 大学のネットワークは,まだまだ学生のための設定がされていない。かろうじて,教員がコミュニケーションのために使っている段階である。省庁間の連絡もネットワーク利用が行われているが,文字だけを送るファックス代わりの手法しての利用しかない。

 アンコールワットあたりのホテル内にはわりと速いインターネットコーナーがあった。日本のサーバーにpingを打つと700ms程度で帰ってくる。ゆっくりとWebが開く感じだ。28800bps程度で,料金は1時間5ドルであった。

王立カンボジア大学にて
▲王立カンボジア大学にて

(6)カンボジア大学での携帯電話利用

 誇らしげに,携帯電話で連絡を取っている学生がいた。聞いてみると,50パーセント程度の学生は持っているという。本体180ドルあと5ドル10ドル,30ドル50ドルのカードを購入し,それを本体にチャージする。1分あたり10〜15セント程度の料金がかかる。電子メールはできない。

 教員の給料4ヶ月分の携帯電話である。ステイタスとしての意味もあるように感じた。

携帯電話を持つ学生
▲携帯電話を持つ学生
3.ベトナム フエ大学訪問
 英語学部のDr.Phoc教授が迎えてくれた。簡単な自己紹介のあと,学長が待っているのでと,急いで学長室へ向かった。海外からの訪問者を迎える部屋らしく,マイクやいすなどが,それぞれに設置してある。

 「ネットワークは1年以内に整備され,その後これらを使って,国際交流にも力を入れて行きたい。そのための準備として,国際部を設置している。」とのことだった。

 国際担当のDong教授が,コンピュータルームなどを紹介してくれた。50台ばかりのコンピュータがある。ペンティアムⅡ,300MHzの端末である。しかし,外部には接続されていない。

フエ大学にて
▲フエ大学にて

(1)英語科のクラス訪問

 表情は豊か,コミュニケーション力抜群である。私たちへの質問が次から次へとやってくる。

 私たちが毎年開催しているインターネットを使った学生交流イベントのワールドユースミーティングについて話をすると,ぜひ日本に行きたいという。あっという間の時間であった。

 突然学生が立ち上がり,質問した。

 「どうして日本の学生は勉強しないのですか?」
 「遊ぶことに忙しいようで…。」

 あまり納得してもらえなかった。

 この国の英語政策についても興味があり,話を聞いてみた。1945年までフランス語,1945から55年までロシア語,1975年から1990年まで北部はロシア語,南部は英語,1990年にASEANのメンバーになったことから,それ以後英語がFirst official second Languageとなる。英語学習熱は高く,家に英語の家庭教師に来てもらう家庭も多いという。

 日本語学科の授業へも参加させてもらった。「授業をしてみませんか」と声をかけてもらった。日本の四季,学校制度など説明したが,反応がとてもよかった。学生の私への質問タイムになると,「日本でどこに住んでいますか。」「フエでどこが気に入りましたか。」「春巻きは食べましたか。」と,どんどん質問がやってくる。みんな一生懸命だ。南国である,明るい,笑顔が誰にも見受けられる。

 マルチメディアなど何もない。黒板とチョーク,それをふく布しかないが,意欲があり,夢がある。

日本語教室の授業にて
▲日本語教室の授業にて

(2)若者を元気付ける「夢」

 ベトナムの学生たちにとっては,「ルーズな生活」を送る日本の学生のことが理解できない。

 彼らにとって,学びは夢であり,金でもある。

 ベトナムには夢が飛び交っている。

 一般庶民もテレビがあれば,カラーテレビがあれば,エアコンがあればと…,私たち日本人も3C(カラーテレビ,クーラー,カー)の夢を追い続けてきた。確かに元気な時代だった。

 物を求める社会は元気である。ベトナムでは,英語が少しできて,日本語ができて,通訳の仕事に従事できれば,普通の人の給料の4倍は手にすることができる。これだけの給料が手にはいれば,夢のような生活をすることができる。

 学校での語学の学習は,まさに夢を手にするための重要な時間なのである。欠席や居眠りなど考えられない。その夢の実現を助けてくれる教師は,まさに「神」なのである。ない物を手にしようとするとき,そこには大きな力が出てくる。

 しかし,ベトナムもやがて豊かになれば,まなざしに力を失った学生の出現することだろう。日本の若者には元気がない。若者にとって元気とはなんだろう。目標を持ち,前進し,時に葛藤していく力が「元気」だとすると,「衣食住が足りていても夢を失いつつある」彼らに,揺さぶりをかけ,挑戦させることが重要である。そのような役割が私たち大人の仕事ではないかと,このごろ思っている。
4.アジアのインターネット
 カンボジアからタイに抜けると,急にまぶしくなった。ネオンサインや車のライトの明るさは,力の象徴でもある。ノートパソコンを持ち歩き,カンボジアやベトナムでも,もちろん電子メールをチェックすることはできた。ローミングサービスを利用したが,1分あたり20円もかかってしまった。インターネットは,利用者が増えれば増えるほど全てが安くなる。まだまだである。

 パソコンは,どこの国にあっても6万円前後はする。必要を感じる企業や個人は,これを手に入れつつある。インターネットの月額利用料は,3000円から4000円である。これは,労働者の平均月収とほぼ同額である。かなり高く,学校現場,とりわけ中学高校での利用は難しい。しかし,利用のノウハウは韓国や日本に蓄積されつつある。

 インターネットは,まずビジネスの分野で利用され,その普及の上に教育利用が促進される。経済も成長しつつある。平和を得たこの国々は,私たちが歩いたスピードよりさらに速く利用を促進させることだろう。

 フィルタリング,教員研修,ハードウエアと教室設計,交流授業のあり方などでの私たちの経験を大いに利用してほしい。教育においては,C=コミュニケーションが重要な柱なのだから。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る