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ICT・EducationNo.17 > p10〜p13

教育実践例
「生徒の成長が感じられる情報の授業」
−沖縄尚学高等学校での情報教育への取り組み−
沖縄県沖縄尚学高等学校 上野 浩司
ueno@okisho.ed.jp
1.沖縄尚学高等学校について

 本校は,文武両道のたくましい進学校を目指している学校で,平成11年春の選抜高校野球大会(春の甲子園)の優勝校としても知られており,今年は創立20周年を迎える。昭和61年には中学を附設し, 中・高一貫6ケ年教育体制を整えている。国際文化教養コースというユニークなコースがあり,欧米の大学や高校と直接提携をして,職員や生徒の交流を持っている。

 これからの高度情報化社会にリーダーとなりうる人材育成も本校の重要な課題で,情報教育も重点をおき,生徒だけでなく,職員にはPC活用能力の達成目標を定め,父母に対しても定期的にIT講習会を開いている。特に,保護者と学校をつなぐ「尚学グローバルネット」では,掲示板も活用され,自宅から定期テストや模擬テストの結果が見られるなど,学校全体でITを活用している。

2.本校の情報教育環境
 校内LAN環境は基幹が全て光ケーブルでつながり,各教室からは無線LANでネット接続し,VODやエンカルタなどがネットワーク上で利用出来るようになっている。図書館では,無線LANでネットワークにつながるノートPCを貸し出し,学校生活の様々な場面で,ネットワークを活用している。

 マルチメディア教室が,2月時点で3教室,4月からは4教室になる。各教室に生徒用PCが50台(Windows)あり,外部とは光回線(1.5M)の専用線でプロバイダとつながっている。

 サーバー室には,15台ほどのサーバーがあり,生徒用,教師用の回線の切り分け,ファイル管理,Web管理などをそれぞれの専用サーバーでおこない,セキュリティを高めている。

本校マルチメディア教室
▲本校マルチメディア教室
3.本校の情報教育
 本校は中高併設校であり,中学では平成12年度から「情報基礎」の授業をおこない,高校では14年度から「情報C」を1年先取りする形でおこなっている。中学ではパソコン操作の基本とアプリケーションの操作を中心に指導し,パソコン検定5級,準4級受験を必修,同4級とデジタル技術検定5級は希望者に受験させている。高校では,中学を引き継ぐ形で1,2年で1単位ずつの授業をおこなっているが,高校から入学する生徒もいるため,復習をかねて基本的な部分から指導している。

 テキストを使用せず,必要な資料はプリントを作成して配り,ノート代わりのアクションシートとともにクリアファイルに入れて,ポートフォリオ形式で学習記録を残している。

 情報という教科は,どの教科ともつながる横断的な教科であり,また総合的な学習の時間とリンクする部分も多い。このような教科の場合,学習の目的は知識の習得でなく,情報活用能力の向上であり,生徒が自分自身の成長を確認することが可能である。実際,今年度の授業を通して,生徒が自分自身の成長を感じ取る場面を何度が目撃した。それは,生徒はもちろん,教師にとっても,とても幸せな瞬間である。今年度の第3タームでは,特にその幸せな瞬間の多い授業になった。それで,第3タームに重点を置いて報告したい。
4.カリキュラムと実践内容
 本校では情報Cを選択しているが,特に「情報化の進展が社会に及ぼす影響を理解させ,情報社会に参加する上での望ましい態度を育てる。」を重視し,生徒の考える時間を重視した授業を目指している。アクションシートとポートフォリオを取り入れたのも,生徒が毎時間,必ず考えたことを記録に残す時間が取れるからである。

 14年度のカリキュラムは,高1,高2ともにほぼ同じ内容とし,

(1)PCとインターネットに慣れ親しむ
(2)PCの理論を知る
(3)情報活用能力を高める

と,内容で大きく3つのタームに区切って指導した。

(1)PCとインターネットに慣れ親しむ(4〜5月)

 Windowsやアプリケーション,インターネットの検索などの基本的操作を学びながら,PCの構造,インターネットの仕組みや歴史を学ぶ。

 ここで,ネットワーク利用に関してのルールは,「ネット社会の歩き方」などを利用してインターネットで学び,それにプラスして校内での利用についてのルールを指導している。Web上にある既存の教材の利用は,ネットワークやコンピュータの効果的な活用力の育成に必要だと考え,教師が作ったマニュアル類も教材としてWeb上に公開している。

(2)PCの理論を知る(6月〜9月)

 情報の授業は,コンピュータの授業だと考える生徒も多いので,この単元では基本的に教室での座学になる。デジタル技術検定4級のレベルの内容を取り入れ,2進数から16進数,論理回路などを中心に2進数や16進数ができたわけをコンピュータの歴史にさかのぼって説明する。たまたま,倉庫から手回し計算機が見つかり,実物を見せることでとてもインパクトの強い授業ができた。

 このタームは,コンピュータというものを理解するための授業と位置づけているので,ただ2進数の計算法を教えるのでなく,デジタルの意味,2進数が使われるわけ,それが16進数に変換されることや,最初のCPUは日本人が設計したことなどを話した。生徒にとってはかなり興味深かったようで,感動したとか驚いたという言葉とともに「嶋さん(CPUの設計者)すごい」というコメントが書かれていた。この授業のネタは,NHKが10年ほど前に放送した「電子立国日本の自叙伝」という番組と同名の本から学んだことである。すばらしい内容で,録画したビデオを何度も見返した覚えがある。

 この授業の内容は中間試験の範囲となったが,総仕上げとして,希望者にはデジタル技術検定試験4級を受験させた。授業でふれない部分は,直前に対策講座を開き,受検者17人中16人が合格し,うち1人は文部科学大臣奨励賞を受賞した。

(3)情報活用能力を高める(10月〜3月)

 本年度の情報の授業として一番力を入れたところで,生徒が考える時間を大幅に取った。

 「インターネットは世界中につながっている。世界中から情報を集めるだけでなく,世界に向けて自ら発信したり,世界中の人々と交流したりすることもできる。インターネットを活用するにはどうすればいいか,という発問から始めた。生徒たちといろいろ議論しながら,「自分たちもWebページを作って世界に発信しよう」,と「他の国と国際交流をしよう」という2つの意見にまとまった。国際交流学習は,私が参加しているiEARN(アイアーン)という国際交流学習を支援する世界的なNPO組織があり,希望者を募ってサークルを作り,そのプロジェクトに参加することにしたところ,20名以上の希望者が出て,部活動として進めることになった。それについては,別途JAPETニュースレター61号に掲載予定である。
授業では,Webページ作成に取り組むことになり,作成に当たっては,以下のルールを決めた。

 「広く社会の人に見てもらうために,社会的に意味のあるページとしたい。そのためには,社会に働きかけ,読んだ人が少しでも前向きな気持ちになれる,あるいは,そのWebページによって,社会がよい方へ変わるきっかけとなるようなページを作る。作ったページを互いに評価して,評価の高いページは本校の外向けページに置いて,多くの人に見てもらう。」

 ここでの授業の展開は以下のようにした。

[1]Webページ作成の意義 2時間
[2]グループ討議 1時間
[3]ラフ案作成 1時間
[4]Web作成ソフトの使用法 1時間
[5]作成 4時間
[6]相互評価 2時間
[7]振り返り 1時間

[1]Webページ作成の意義
 社会に働きかけることの意味を考え,どのような働きかけが有効か考えさせた。
 ボランティア活動の経験はあっても,社会に対して働きかけるということは,考えたことのない生徒がほとんどであり,かなり悩んでいた。1時間考えて,アルカイダの問題,北朝鮮の拉致問題をテーマに選んだ者が半数近くいた。アクションシートに書かれた生徒の反応には,「初めて真剣に考えた気がする」「この1時間で僕は変わった」などがあり,これを選んで良かったと教師としての喜びを感じた。
 しかし,「今マスコミで騒がれていることをWebに書くだけで,人に働きかけているのだろうか。私たちはマスメディアに載っている以上のことをWeb上に書けるのか ?」との問いかけがグループ討議の中から出てきて,1から考え直すことになった生徒も多い。しかし,一度へこまされた生徒は,より真剣に考えて次のテーマを探す。その結果,身近な問題にテーマを移した生徒が多かったが,薬物乱用を選んだ生徒が多かった。沖縄は薬物汚染とは一番離れたところにあると言われている中で,薬物乱用防止キャンペーンに対する生徒の関心の高さに驚きを覚えた。

[2]グループ討議
 
自分の作りたい内容と一致している仲間を集めてグループを作らせた。どういうWebページにするかは,グループで相談させ,どうしても1人でやるという生徒は,1人でもかまわないことにした。ここで具体的な内容を考えて,担当ページを決めた。話が堂々巡りするグループとどんどん進んでいくグループが出てきた。

[3]ラフ案作成
 
グループ全体のWebページの構成を考えさせた。[2]でしっかり考えたグループは,ワークシートにどんどん書き込んでいくが,漠然と内容を考えていた生徒は,ここでかなり悩み出した。

[4]Web作成ソフトの使用法
 
htmlの概念は2タームで終わっているので,ここでは純粋にホームページビルダーの基本的な使い方に絞った。「デザインに凝るのではなく,内容で勝負」と繰り返し指導した。

[5]作成
 
ホームページビルダーは非常に簡単なソフトなので,基本操作を覚えれば,ページをどんどん作っていくことができる。作ったページは,ファイルサーバーの共有フォルダに保存させた。完成までは思ったより時間がかかった。
 また,資料が不足している生徒は,写真やデータをネット上からコピーしようとしてしまい,それが倫理上許されるのかどうか,グループで話し合わせた。なかなか結論が出ないグループもあり,その議論の中で成長していく生徒の様子を見ているのはとても楽しかった。

Webページ制作中
▲Webページ制作中

[6]相互評価
 
作ったWebページを互いに見て,相互評価をさせてた。
 バラバラに互いのページを見ていくと評価ができないので,順番に制作者は自分の作品をプレゼンテーションすることにした。自分たちがなぜこのページを作ったのか,どういう思いが込められているのか。Webページに入れられなかった自分の思い入れも,ここで話させた。おとなしくて普段ほとんどしゃべらない生徒が,自分の熱い思いを語り始めたとき,クラスメートが驚く姿も見られた。
 また,「社会へ訴えかけるようと自分の意見をまとめていたはずなのに,できたものは,調べたものをまとめただけになっていたことに,今になって気づいた。」という生徒もいた。インターネットは資料が多数あるだけに,調べ学習になってしまう危険性を生徒も私も改めて考えさせられた。

発表の風景
▲発表の風景

[7]振り返り
 
相互評価の結果と,教師の評価をあわせたものを生徒に提示。ここで,再度問いかけ。
 「社会を少し変えたいという目的で,ページを作ったが,これで社会は変わるだろうか?その前に,私たちは自分たちの社会=学級やグループの関係を変えることができるのだろうか。それができないのに,社会は変えられるのかなあ。」という教師の発問に,「思ってもみないことを言われてびっくりした」「こんなに考えさせられたことはない」という感想が出てきた。これが実際に彼らの変容に結びつくのか今後の見つめていきたい。

 最終的に外向けページに置く作品を決定。それ以外は,内部向けのページ載せることになる。

 この原稿を書いている時点で,授業はここまでである。この後の授業は,高1,高2では内容が変わる。高2は,表計算ソフト,プレゼンテーションソフトの使い方を完全マスターすることに重点を置く。高1は,「携帯電話ってどうなの?」という切り口で取り組むことになっている。これは,PDAやPCの機能も取り入れつつある携帯電話が,今後私たちの生活にどう関わり,どう影響を及ぼすのか,それによる近未来の生活はどうなるのか,現時点での携帯電話のさまざまな問題点も考えながら,近未来の生活も考えていく授業になる。これには,携帯電話会社も協力していただくことになっている。
5.情報の授業で目指すもの
 情報の免許講習会で繰り返し言われたことが,生徒を情報嫌いにさせない,ということであった。情報という教科は,さまざまな要素を含んでおり,常に旬の話題を提供できる教科であり,教師自身も楽しみながら授業ができると思う。情報化社会の中で,情報を探し活用するだけでは,受け身である。情報を自ら発信することも念頭に置いて,生徒が悩み,考える授業を行いたい。その過程で,生徒1人ひとりが自分の成長を感じる瞬間が持てるような授業を目指したい。

 次年度は,国内の幾つかの学校と海外も結んで,将来設計を考えるキャリア・プリパレーションの授業を一緒にやろうとの呼びかけが他校から来ている。次年度は,もっともっと楽しい授業になると思っている。
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