ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.17 > p10〜p13

教育実践例
「電子メールの利用」授業実践
−メールのやりとりを通してマナーを学ぶ−
東京都立南野高等学校 佐藤 義弘
yoshi-sato@hi-ho.ne.jp
http://www.hi-ho.ne.jp/yoshi-sato/joho/
1.はじめに

 本校では情報Aを念頭に置いた授業を,3年生の選択科目として開講しています。平成11年度より,試行錯誤を繰り返し,追加・修正を経て,現在の授業内容となっています。授業内容は私のWebサイトで公開しています。

 学業にあまり自信の持てない生徒が多いため,授業は実習を主体とし,コンピュータを臆せず使えるようなリテラシーの面と,Webページの作成などを通して著作権などについて考える情報モラルの育成に主眼を置いています。

2.電子メールの問題点
 電子メールは,インターネットのサービスとして広く使われています。ところが,電子メールの実習を行う場合,問題点が数多くあります。

(1)メールアドレスの配布

 学校でメールアドレスを配布する場合,管理や設定に手間がかかります。外部にも出せる場合は,ウイルス対策・モラルやマナーの指導などをあらかじめ行ってから実習を行うことになります。

 無料メールアドレスを利用するには,生徒の個人情報を外部の機関に入力させることになり,学校の授業には向きません。
また,校内だけで利用できるメールアドレスでは,生徒や先生以外からの返事が来ないので,何度もやりとりするには限界があります。

(2)利用環境

 学校では1台のコンピュータを複数の生徒で共用するため,OutlookExpressなどではレジストリなどに記録が残り設定が難しくなります。また,環境復元が導入されている場合,利用するごとに設定が必要となります。

(3)授業展開

 メールを先生や外部の協力者に出しても,すぐに返事が来ないため,送るだけ,返信するだけの授業になってしまいます。そのため,メールのマナーを座学で教えてから実習する授業展開しかできません。

 これらの問題点をクリアし,フリーウエアと一般的なコンピュータ室の施設を利用して,実際に電子メールをやりとりしながら,電子メールのマナーや問題点について学ぶことができる実習授業を考えました。
3.環境とソフトウエア
 ソフトウエアは無料で利用できるものを利用しています。

生徒用メールソフト
 
nPOP-Q
教員用メールソフト
 
・OutlookExpress
メールサーバソフト
 ・BlackJumboDog

 コンピュータ室は導入から6年目の施設です。ほとんどの学校では本校より良い環境が確保されているいると思います。

 先生機・生徒機ともに,OSはWindows95で,LAN上にはファイルサーバが置かれています。
4.授業の概要
 上記のソフトを利用して,教室内で自動的にメールをやりとりしていきます。授業展開としてはこのような流れになります。

1.メール用フロッピーとアカウントの配布
2.各自メールアカウントを設定
3.生徒から教員宛にメールの送信テスト
4.教員機で自動返信され生徒に次の課題をメールで指示
5.生徒が課題をメールで教員機に送信
6.4・5の繰り返しで授業が進行

 生徒はアカウントの設定ができたら,先生宛にメールを送信します。すると,次の課題が自動的に返信されます。その課題をメールで送信すると,次の課題がメールで指示されます。
5.シナリオの作成
 生徒とどのような内容のメールをやりとりして,メールのマナーについて考えさせ,気付かせ,身につけさせるかを考えます。
生徒の状況に応じて,メールのやりとりの回数を増やしたり,内容や質問を変更すると良いでしょう。

(1)全体のシナリオ

 生徒が指定した件名で先生機にメールを送ると,事前の設定に従って返信を自動的に行います。

 件名で判別して自動返信をしていますが,本文内のキーワードで返信することや,返信内容を分岐することも可能です



(2)返信内容の作成

 返信時の件名を必ず指定します。テキストファイルとして作成し,保存します。返信内容の例を紹介します。斜体の部分については,学校の環境や状況に合わせて変更してください。

1.メールのマナー.txt

 先生の名前です。
 
今日は作業内容をメールで送信します。
 メールマナーのページURLに「メールのマナー」があります。
 これを読んで,メール作成上注意すべきことを簡単ににまとめて,メールのマナーに配慮したメールを「メール作成上の注意」という件名で先生のメールアドレスに送信してください。
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_
   先生の署名
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_

 メールのマナーについて述べているページはたくさんありますので,生徒の状況に合わせると良いでしょう。

2.署名をつける.txt

 先生の名前です。
 「メールのマナー」の最低限記述すべきものに署名(シグネチャ)というのがありました。
 署名の設定の仕方は
 イントラネット上のページURL
にあるので,このページを見ながら設定してください。
 設定が完了したら,署名をつけたメールを「署名ができました」という件名で先生のメールアドレスに送信してください。
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_
   先生の署名
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_

3.メールの利用.txt

 先生の名前です。
 
あなたは電子メールを実際に利用していますか。以下のアンケートの回答を「電子メールの利用」という件名で先生のメールアドレスに送ってください。
 アンケート内容は省略
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_
   先生の署名
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_


4.インターネットの利用.txt

 先生の名前です。
 あなたはインターネット(WWW)を自宅で利用していますか。以下のアンケートの回答を「インターネットの利用」という件名で先生のメールアドレスに送ってください。
 アンケート内容は省略
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_
   先生の署名
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_


5.授業の感想.txt

 先生の名前です。最後の課題です。
 あなたのこの授業の感想をメールのマナーに従って5行以上の文にまとめ,「授業の感想」という件名で先生のメールアドレスに送ってください。
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_
   先生の署名
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_
6.授業の準備

 授業準備のポイントは,Black JumboDogへのアカウントの一括設定とOutlookExpressの自動返信の設定です。

(1)BlackJumboDogの設定

 BlackJumboDog(以下BJD)をインストールし,メールサーバとして利用するための基本的な設定を行います。

1.BJDを起動します。
2.画面右下インジケータにBJDのアイコンが表示されるのでダブルクリックします。
3.BJDのメニューから[設定]→[メールサーバ]とクリックします。
4.[メールサーバを使用する]にチェックを入れ,ドメイン名を入力します。校内だけで使う場合は,実在しないドメイン名にすると安全です。

(2)メールアカウントの設定

 BJDにメールアカウントの設定をします。

1.利用者タグをクリックし,メールアドレスを1件程度設定し,[OK]をクリックします。
2.スレッド初期化中のウインドウが表示され,BJDのウインドウに戻ります。
3.[ファイル]→[終了]とクリックし,BJDを終了します。
4.インストールしたフォルダにあるファイル[Mail.Dat]をテキストエディターで開きます。
5.[アカウント,パスワード,コメント]の順にデータを入力します。パスワードは暗号化されていますが,そのまま入力しても有効になります。
6.一括登録するには,生徒用アカウントのリストをExcel等で作成し,csv形式で保存し,テキストエディターを使い,[mail.dat]の末尾に貼り付けます。
7.上書き保存し,BJDを起動すると反映されます。

(3)先生機の設定

 この設定によって,自動返信を実現しています。

1.[ツール]→[メッセージルール]→[メール]で[新規作成]をクリックします。
2.[ルールの条件]から[件名に指定した言葉が含まれる場合]をクリックし,[ルールのアクション]から[指定したメッセージで返信する]をクリックします。
3.[指定した言葉が含まれる]のリンクをクリックし,返信のキーワードとなる言葉を入力します。件名が少し間違っていても返信できるように,キーワードを細かく指定しておくとスムーズに進行します。たとえば,「電子メールの利用」であれば,「電子」と「利用」をキーワードとして指定します。複数のキーワードを設定した場合は[オプション]をクリックします。
4.[ルール条件のオプション]で[メッセージが次の言葉すべてを含む場合]にして,[OK]をクリックします。['電子'または'利用']が['電子'および'利用']に変わります。
5.[指定したメッセージ]のリンクをクリックし,あらかじめ用意した返信のテキストファイルを指定します。
6.これを繰り返して設定します。
7.生徒の送信したメールにすぐに返信するために,新着メッセージのチェック間隔を短くします。[ツール]→[オプション]で,[新着メッセージをチェックする]の時間を短く(1分程度)にします。

(4)説明ページの作成

 ダウンロード・インストール・アカウントの設定・メールの送受信の方法を説明したWebページを作り,イントラネット上に用意します。プリントでもかまいませんが,ディスプレイだけを見て作業ができ,フルカラーのスクリーンショットが載せられるWebページによる説明のメリットは大きいと思います。

 私の作成した説明のWebページを参照して下さい。

7.実際に授業をすると

 メールアカウントとパスワードは個別に印刷し,内容が見えないように折って生徒に配布します。大切な個人情報であることに気づかせるためです。

 説明があるWebページを開かせて,あとは各自が実習に取り組みます。

 アカウントの設定が間違っていても送信はできてしまいます。そのため,受信ができないところで,アカウントの設定の間違えに気づきます。自分のメールアドレスの入力間違えもありますが,パスワードの入力間違えがほとんどです。パスワードはあえて小文字・大文字・記号を混ぜているので,慎重に入力しないとうまくいきません。普段説明を聞かない生徒もうまくいかないときは真剣に聞きます。うまくいかない経験も大切だと思っています。

 メールマナーのページを読んでも,自分の名前を名乗る,適宜改行を入れるの2点はすぐにできるようになりません。携帯メールの影響でしょうか。しかし,こちらからのメールを何通か見るうちに,理解できてくるようです。やりとりが進んだ最後のメールでは,この2点がきちんと守られたメールが多くなってきます。マナーは本来,まねをすることで形成されるものですから,何度もやりとりすることが良いようです。

8.おわりに

 先日,この内容の授業を授業見学として公開する機会がありました。参加された先生から改善点やアイディアを頂くことができ,大変有意義でした。

 私の拙い実践ですが,できる限りWebで公開するようにしています。私の授業案を他の先生方に実践していただくことで,修正点・改善点がさらに見つかり,洗練されていくと思います。情報を発信することで得られるものが数多くあると思います。

 さまざまな先生が実践を公開されることを期待しています。

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