三重県立名張西高等学校は,普通科,英語科,情報科の3科を設置し,全体で28学級を擁する大規模校で,今年で創立17年目を迎える。創立当時は,普通科,普通科英語コース,情報科という構成であったが,2年後に,普通科英語コースを英語科として独立させ,現在に至っている。 創立当初から,国際化,情報化に対応した人材育成をめざした先進的な教育実践が数多く行われており,生徒,保護者,地域,教員それぞれが各々の役割をしっかり果たしている,活気溢れる学校である。
情報専門学科ということで,情報教育設備は比較的充実している。情報実習棟を持ち,40人が一斉にコンピュータを利用できる2つのラボをはじめ,マルチメディア・コンテンツ開発,制御演習等,各用途に特化したいくつかのラボを持っている。メインフレームも導入されていたが,今夏の設備更新に際して廃棄し,それに替わってマルチメディア系実習の比重が大きくなってきているので,動画処理や音楽創作等に対応したシステムに一新した。制御系実習としては,AIBO(注4のロボットコントロールを導入するなど生徒の興味関心を引くとともに,将来の情報処理技術者に必要な基礎的知識と技術を教育するべく工夫を凝らしている。 さらに,情報科以外の各教科による情報機器の活用状況や,国際教育への積極的な取り組みの中,単なるコンピュータ実習室ではない,マルチメディアラボを設置する必要があった。そこで,マルチメディア語学教育支援システムを導入し,これによりコンピュータ上にLL機能を実現した他,CAI機能やシステム管理機能も充実させることができた。 校内LANは,創立間もない頃から敷設されていたが,メインフレームに依存した特殊なものであったため,Ethernetによる本格的なLANの運用は6〜7年前に,実習室や職員居室を中心に校内全域へ展開した。その後,インターネット常時接続開始とともに全てのホームルーム教室にもLANを拡張し,各教室には発売間もないiMacを設置し,とりわけインタ−ネットを利用できる環境を整えた。その後,昨年からは,『三重県学校情報「くものす」ネットワーク』へと移行し,今年8月に完全に置き換わった。
三重県の全ての県立学校には,昨年度『学校情報「くものす」ネットワーク』が整備された。 全ての学校にL3制御(注5のルーティングスイッチを置き,これを中心に校内の幹線はGbE(注6とし,末端は倉庫とトイレを除く全ての部屋に情報コンセントを設けている。さらに,各校にCATVインターネットを引き込み(一部エリア外の学校はDA1500(注7で対応),各学校間をVPN(注8で結び,情報共有を図れるようにしてある。校内においては,VLAN(注9によりネットワークを,情報系,校務系,行政WAN系に分離している。情報系は主に生徒が利用する系で,ほぼ全ての部屋に敷設されている。また,教職員が常駐する部屋には校務系が,事務関係には行政WAN系が敷設されている。 情報系は,授業や課外活動等で生徒が自由に使える系で,コンテンツフィルタ機能付きのファイヤウォールを通してインタ−ネットに抜けて行く。また,他校の情報系とVPNで接続されているため,ビデオ会議等も容易に行える。勿論,情報系からは他の2系へは侵入できない。 校務系は,教員が成績処理や校務処理,また教材開発等を行う系で,この系からは情報系へ入って行ける。つまり,情報系内に教育用サーバを,校務系内に校務用サーバをおけば,情報系を利用する生徒は教育用サーバしか利用できないのに対し,校務系を利用する教職員は校務用サーバのみならず,教育用サーバも利用できるので,教材開発や課題評価等も行える。 行政WAN系は,三重県の「電子県庁」の一部として稼働しており,出張命令や旅費精算等をこの系で処理している。 各種サーバ,ネットワーク機器類は,県庁から遠隔管理しているので,現場教職員はメンテナンス作業から解放されている。 しかしながら,このネットワークはあくまでも基盤整備であり,決して画一的な利用を強要している訳ではない。各学校においてその特性に応じた利用が推奨されていて,本校においても移行が完了したこの2学期から,本格的な活用研究を積極的に行っていく計画である。 また,全教職員にノートPCが配付されており,各校には小型プロジェクタや可搬型ビデオ会議システム等も整備されているので,プレゼンテーションソフト等で各教員が開発した教材コンテンツを広く共有したり,ビデオ会議システムを用いた学校間連携等,効果的な教育実践を進められるよう環境整備が完了しつつある。今後の活用事例報告にご期待いただきたい。
普通教科「情報」においては,情報Aの中心テーマである「情報活用の実践力」,情報Bの中心テーマである「情報の科学的な理解」,情報Cの中心テーマである「情報社会に参画する態度」を身に付けることを目標としている。 私は,普通教科「情報」の目的に一番適っているものをA・B・Cから「1つだけ」選択せよと言われれば,それはCであると確信している。 そこで,「情報活用の実践力」については,中学校の技術・家庭科と,高校の他の教科において伸ばすものとし,本校においては,全員に「情報社会に参画する態度」を重点的に身に付けさせ,さらに希望するものには「情報の科学的な理解」を習得させようと考えた。すなわち,1年次に必履修科目として「情報C」を,2年次に選択科目として「情報B」を開設することとした。また,3年次に「情報C」と「情報B」を受けて,情報活用能力を発展的に昇華させるべく,学校設定科目として「総合情報」の開設を予定している。これにより,全員ではないにせよ,バランスのとれた総合的な情報教育を保証している。
専門教科「情報」は,普通教科「情報」を発展的に学習できる内容であるべきである。しかしながら,設定されている11科目だけでは,普通教科「情報」における3本柱のうち,「情報社会に参画する態度」の領域の扱いが極めて弱く,バランスを欠いている。 また現在,本校情報科は前述の通り,形の上では工業課程である。工業課程であることのメリットは大きい。例えば,教員配当数,産業教育振興関連予算,大学受験時の工業課程別枠設定等,枚挙に暇がない。すなわち,本校情報科が専門学科「情報」へ移行すると,これらの点で現在よりも,生徒にとっては不利となることが考えられる。よって,その理念は明らかに専門学科「情報」であっても,すぐに工業課程から情報課程へ移行するには躊躇する部分がある。このあたりに潜在する問題点を早急にに明確にし,解決しなければ,母体が専門学科,とりわけ工業課程からの専門学科「情報」への移行はスムーズに進まないと思われる。
情報処理学会のコンピュータと教育研究会や,情報コミュニケーション教育研究会(ICTE)において,高等学校における情報教育はどうあるべきかということについて,かなり深い研究がなされている。しかしながら,普通教科「情報」を対象としたものが多く,専門教科「情報」や専門学科「情報」を扱っているものは比較的少ない。本校は過去17年にわたる成功事例や失敗事例,また様々なノウハウを相当蓄積している。それをベースに,真に必要な教育内容は何か,また,情報教育は如何にあるべきかを常に考えながら,本校教育の充実はもとより,三重県や日本の高等学校における情報教育のあり方を提案できるような実践を今後も積み重ねて行きたい。
注1 WBT:Web Based Training:Webブラウザを使って行う遠隔学習のこと。殆どの場合,インターネット上のサイトにアクセスし,そこにある教材を使って学習する。 注2 NetPrep:WestNet社が開発した,ネットワーク技術学習WBTコンテンツのこと。 注3 ITコーディネータ(ITC):経営者の立場にたって経営とITを橋渡しし, 真に経営に役立つIT投資を推進・支援するプロフェッショナルのこと。ITコーディネータ協会が認定する資格認定制度。注4 AIBO:ソニーの犬型エンターテインメントロボットのこと。 注5 L3制御:Layer 3 Control:OSI参照モデルの第3層(ネットワーク層)でルーティング制御をすること。 注6 GbE:Giga-bit Ethernet:1G(1000M)bpsのイーサネットのこと。 注7・DA1500:Digital Access 1500:NTTの専用線サービスで回線速度が1.5Mbpsのもののこと。 注8 VPN:Virtual Private Network:公衆回線(インターネット)を専用線であるかのように使うための技術のこと。 注9 VLAN:Virtual Local Area Network:物理的に共通なLANにおいて,仮想的なグループを設定し,論理的にLANを分割する技術のこと。