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ICT・EducationNo.15 > p10〜p15

教育実践例
三重県立名張西高等学校における専門学科「情報科」のとりくみと、三重県学校情報「くものす」ネットワークの可能性
三重県立名張西高等学校 中野 由章
nakano@nishiko.ed.jp
1.学校の概要

 三重県立名張西高等学校は,普通科,英語科,情報科の3科を設置し,全体で28学級を擁する大規模校で,今年で創立17年目を迎える。創立当時は,普通科,普通科英語コース,情報科という構成であったが,2年後に,普通科英語コースを英語科として独立させ,現在に至っている。

 創立当初から,国際化,情報化に対応した人材育成をめざした先進的な教育実践が数多く行われており,生徒,保護者,地域,教員それぞれが各々の役割をしっかり果たしている,活気溢れる学校である。

2.情報科の概要
 本校が創立された時期は,ようやく工業高校に情報技術科が,商業高校に情報処理科が設置されはじめたという時代であったが,本校においては,『高度情報化社会を担うべき人材の育成』という,時代と地域の要請に応えた,工業科でも商業科でもない,情報専門学科としての情報科が誕生した。その理念は,今回の新学習指導要領における専門「情報」を今から遡ること17年前に既に先取りしたものであった。しかし,当時情報課程は存在しなかったため,情報科は工業課程に位置づけられた。

 経済産業省の情報処理技術者試験合格を目標に据えており,基本情報技術者(第2種情報処理技術者)試験のみならず,過去には第1種情報処理技術者試験にも何人か合格者を輩出している。
3.カリキュラム・実践内容
 工業課程とはいえ,それはあくまでも形式的な話であって,実体としては専門学科「情報」である。その創設理念である,高度情報化社会を担う人材を育成するために必要であると考えられる科目は,教科にとらわれず積極的にカリキュラムに盛り込んだ。具体的には,情報工学系科目の他に,簿記会計やマーケティング等の商業系科目も取り入れた。

 文部省(当時)の教育課程研究指定校として,教科「情報」に科目「情報Ⅰ」,「情報Ⅱ」,「情報Ⅲ」等を設置した。

 また,情報系大学進学を目指す者と,専門科目を徹底して学ぶ者に対応したコース分けを2年進級時に行っていた。

 しかしながら,近時の総合学科や情報関連学科の増加,生徒や保護者の要望の変化などにより,本校情報科では情報科学や情報工学を扱い,理工系大学進学に特化したいカリキュラムに変化してきている。またコース分けも廃し,多様な選択科目の設置により柔軟な対応ができるよう配慮している。

 3年次の春に基本情報技術者試験合格を目標に置いているので,1・2年次に

 ●ハードウェアとソフトウェアに関する基礎知識
 ●C言語によるプログラミング技術
 ●コンピュータ・電気・資格試験

等の分野を網羅する少人数実習を徹底して行う。3年次では進路にあわせて理工系大学進学を目指す者には数学と理科を,それ以外の者には情報社会学と情報リテラシーを指導することになる。また,昨年度からは,WBT(注1としてNetPrep(注2も試験的に導入し,ネットワーク教育の一手法として活用している。

 現在のカリキュラムは,工業課程必置科目の他,ハードウェア技術,ソフトウェア技術,コンピュータ応用,工業英語,工業数理,実習,情報システム,情報リテラシー等を用意している。

 「情報システム」と「情報リテラシー」は,従来の学習指導要領ではカバーできていない,情報処理技術者が当然備えておくべき基本的な事項を内容として扱っている学校設定科目である。

 「情報システム」では,

 ●特許と著作権を中心とした知的財産権
 ●ビジネスモデルの分析・改善
 ●情報倫理
 ●ディベート
 ●プレゼンテーション技法

等,情報社会学を中心に幅広い内容を扱っている。なお,知的財産権に関しては,特許庁/発明協会の実験協力校として,昨年度と本年度の2か年にわたり,特許制度とその理念について,充実した教育を行っている。

 情報システムにおいては,学校設定科目であるが故に,比較的自由に先進的な情報教育の実践検証を行ってきている。例えば,ITコーディネータ(注3のケース研修で行われているようなMBAコースなみの演習を行ったり,日本文教出版発行の「情報C」教科書や,「IT・Literacy」等のサブテキストを活用し,来年度以降,本格的に展開していく普通教科「情報」の授業モデルケースの検証を行ったりするなど,常に最新かつ有益な情報教育を模索し続けている。

 「情報リテラシー」では,「問題解決のためのツールとしてコンピュータをはじめとする情報機器類を如何に使いこなすか」というテーマを探究している。具体的には,各種アプリケーションや,時にはNC工作機械等も使い,テーマに沿った創作を中心とする教育を行っている。

 また情報科のみならず,普通科の生徒も情報科目を選択できるよう「情報科学Ⅰ」という学校設定科目も置いている。内容は,普通教科「情報」の「情報A」に近いものとなっている。在校生は,中学校において,充分なコンピュータ・リテラシーを身につけてきたとは言えず,ワープロ,表計算,インターネット,プレゼンテーションといった内容が中心とならざるを得ないが,単なるコンピュータの使い方に終始せず,情報の収集,加工,発信・表現それぞれの段階において考慮すべき内容を,その都度指導している。

 他教科における情報活用も精力的に行われている。本校は,アメリカ合衆国オレゴン州にあるフィニックスハイスクールと姉妹校提携をしていて,毎年,6〜8名程度が1年間留学や3週間程度の短期訪問を行っている。そのためもあり,国際交流が積極的で,英語の授業として,英文のWebページを作成して公開したり,e-mailで文通を行ったり,ビデオ会議を行ったりと,積極的にインターネットを活用している。また,情報科設置校ということで,教員の情報教育に対する意識も高く,地理歴史においては,Web上での調べ学習→データ加工→情報発信,芸術においてはコンピュータ・グラフィクス,数学・国語・保健体育においてはノートPCとプロジェクタを用いたビジュアルな講義,理科においてはイントラサーバを構築→そこにおく教材コンテンツを開発→生徒の学習行動を調査研究するといった,積極的な情報機器の活用が行われている。  
4.情報教育設備

 情報専門学科ということで,情報教育設備は比較的充実している。情報実習棟を持ち,40人が一斉にコンピュータを利用できる2つのラボをはじめ,マルチメディア・コンテンツ開発,制御演習等,各用途に特化したいくつかのラボを持っている。メインフレームも導入されていたが,今夏の設備更新に際して廃棄し,それに替わってマルチメディア系実習の比重が大きくなってきているので,動画処理や音楽創作等に対応したシステムに一新した。制御系実習としては,AIBO(注4のロボットコントロールを導入するなど生徒の興味関心を引くとともに,将来の情報処理技術者に必要な基礎的知識と技術を教育するべく工夫を凝らしている。

 さらに,情報科以外の各教科による情報機器の活用状況や,国際教育への積極的な取り組みの中,単なるコンピュータ実習室ではない,マルチメディアラボを設置する必要があった。そこで,マルチメディア語学教育支援システムを導入し,これによりコンピュータ上にLL機能を実現した他,CAI機能やシステム管理機能も充実させることができた。

 校内LANは,創立間もない頃から敷設されていたが,メインフレームに依存した特殊なものであったため,Ethernetによる本格的なLANの運用は6〜7年前に,実習室や職員居室を中心に校内全域へ展開した。その後,インターネット常時接続開始とともに全てのホームルーム教室にもLANを拡張し,各教室には発売間もないiMacを設置し,とりわけインタ−ネットを利用できる環境を整えた。その後,昨年からは,『三重県学校情報「くものす」ネットワーク』へと移行し,今年8月に完全に置き換わった。

5.三重県学校情報「くものす」ネットワーク

 三重県の全ての県立学校には,昨年度『学校情報「くものす」ネットワーク』が整備された。

 全ての学校にL3制御(注5のルーティングスイッチを置き,これを中心に校内の幹線はGbE(注6とし,末端は倉庫とトイレを除く全ての部屋に情報コンセントを設けている。さらに,各校にCATVインターネットを引き込み(一部エリア外の学校はDA1500(注7で対応),各学校間をVPN(注8で結び,情報共有を図れるようにしてある。校内においては,VLAN(注9によりネットワークを,情報系,校務系,行政WAN系に分離している。情報系は主に生徒が利用する系で,ほぼ全ての部屋に敷設されている。また,教職員が常駐する部屋には校務系が,事務関係には行政WAN系が敷設されている。

 情報系は,授業や課外活動等で生徒が自由に使える系で,コンテンツフィルタ機能付きのファイヤウォールを通してインタ−ネットに抜けて行く。また,他校の情報系とVPNで接続されているため,ビデオ会議等も容易に行える。勿論,情報系からは他の2系へは侵入できない。

 校務系は,教員が成績処理や校務処理,また教材開発等を行う系で,この系からは情報系へ入って行ける。つまり,情報系内に教育用サーバを,校務系内に校務用サーバをおけば,情報系を利用する生徒は教育用サーバしか利用できないのに対し,校務系を利用する教職員は校務用サーバのみならず,教育用サーバも利用できるので,教材開発や課題評価等も行える。

 行政WAN系は,三重県の「電子県庁」の一部として稼働しており,出張命令や旅費精算等をこの系で処理している。

 各種サーバ,ネットワーク機器類は,県庁から遠隔管理しているので,現場教職員はメンテナンス作業から解放されている。

 しかしながら,このネットワークはあくまでも基盤整備であり,決して画一的な利用を強要している訳ではない。各学校においてその特性に応じた利用が推奨されていて,本校においても移行が完了したこの2学期から,本格的な活用研究を積極的に行っていく計画である。

 また,全教職員にノートPCが配付されており,各校には小型プロジェクタや可搬型ビデオ会議システム等も整備されているので,プレゼンテーションソフト等で各教員が開発した教材コンテンツを広く共有したり,ビデオ会議システムを用いた学校間連携等,効果的な教育実践を進められるよう環境整備が完了しつつある。今後の活用事例報告にご期待いただきたい。

6.新教育課程

 普通教科「情報」においては,情報Aの中心テーマである「情報活用の実践力」,情報Bの中心テーマである「情報の科学的な理解」,情報Cの中心テーマである「情報社会に参画する態度」を身に付けることを目標としている。
私は,普通教科「情報」の目的に一番適っているものをA・B・Cから「1つだけ」選択せよと言われれば,それはCであると確信している。

 そこで,「情報活用の実践力」については,中学校の技術・家庭科と,高校の他の教科において伸ばすものとし,本校においては,全員に「情報社会に参画する態度」を重点的に身に付けさせ,さらに希望するものには「情報の科学的な理解」を習得させようと考えた。すなわち,1年次に必履修科目として「情報C」を,2年次に選択科目として「情報B」を開設することとした。また,3年次に「情報C」と「情報B」を受けて,情報活用能力を発展的に昇華させるべく,学校設定科目として「総合情報」の開設を予定している。これにより,全員ではないにせよ,バランスのとれた総合的な情報教育を保証している。

7.専門「情報」の問題点

 専門教科「情報」は,普通教科「情報」を発展的に学習できる内容であるべきである。しかしながら,設定されている11科目だけでは,普通教科「情報」における3本柱のうち,「情報社会に参画する態度」の領域の扱いが極めて弱く,バランスを欠いている。

 また現在,本校情報科は前述の通り,形の上では工業課程である。工業課程であることのメリットは大きい。例えば,教員配当数,産業教育振興関連予算,大学受験時の工業課程別枠設定等,枚挙に暇がない。すなわち,本校情報科が専門学科「情報」へ移行すると,これらの点で現在よりも,生徒にとっては不利となることが考えられる。よって,その理念は明らかに専門学科「情報」であっても,すぐに工業課程から情報課程へ移行するには躊躇する部分がある。このあたりに潜在する問題点を早急にに明確にし,解決しなければ,母体が専門学科,とりわけ工業課程からの専門学科「情報」への移行はスムーズに進まないと思われる。

8.これから

 情報処理学会のコンピュータと教育研究会や,情報コミュニケーション教育研究会(ICTE)において,高等学校における情報教育はどうあるべきかということについて,かなり深い研究がなされている。しかしながら,普通教科「情報」を対象としたものが多く,専門教科「情報」や専門学科「情報」を扱っているものは比較的少ない。本校は過去17年にわたる成功事例や失敗事例,また様々なノウハウを相当蓄積している。それをベースに,真に必要な教育内容は何か,また,情報教育は如何にあるべきかを常に考えながら,本校教育の充実はもとより,三重県や日本の高等学校における情報教育のあり方を提案できるような実践を今後も積み重ねて行きたい。

注1 WBT:Web Based Training:Webブラウザを使って行う遠隔学習のこと。殆どの場合,インターネット上のサイトにアクセスし,そこにある教材を使って学習する。 
注2 NetPrep:WestNet社が開発した,ネットワーク技術学習WBTコンテンツのこと。
注3 ITコーディネータ(ITC):経営者の立場にたって経営とITを橋渡しし, 真に経営に役立つIT投資を推進・支援するプロフェッショナルのこと。ITコーディネータ協会が認定する資格認定制度。注4 AIBO:ソニーの犬型エンターテインメントロボットのこと。
注5 L3制御:Layer 3 Control:OSI参照モデルの第3層(ネットワーク層)でルーティング制御をすること。
注6 GbE:Giga-bit Ethernet:1G(1000M)bpsのイーサネットのこと。
注7・DA1500:Digital Access 1500:NTTの専用線サービスで回線速度が1.5Mbpsのもののこと。
注8 VPN:Virtual Private Network:公衆回線(インターネット)を専用線であるかのように使うための技術のこと。
注9 VLAN:Virtual Local Area Network:物理的に共通なLANにおいて,仮想的なグループを設定し,論理的にLANを分割する技術のこと。

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