ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.14 > p18〜p21

ソフトウェアの活用事例
MacromediaFlashMXを使った情報教育の展開
神奈川大学附属中・高等学校 小林 道夫
1.何のための表現

 情報教育はコンピュータやインターネットの操作方法を学ぶものではありません。これらのツールをどのように活用するかを学び,自分で考え,表現することにあります。しかし,自分で考えることができなかったり,表現したくても何を表現すればよいかわからないとなれば,何もできないことになります。そうならないためには基礎知識を身につけたうえで,与えられた情報から何を生み出せるか考える力を育てる必要があるのです。

 インターネットはWebページやeメールといったこれまでにない圧倒的な力を持った新しい表現手段を持ち込みました。特にWebページは出版やテレビ放送のように時間や費用をかけなくても,世界の人々に向けて自己表現できます。
中学,高校で実施する情報教育ではWebページ制作やアニメーションソフトを使って表現する単元があります。ここで重要なことは,「何をどのように表現し,人にわかりやすく伝えるか」を考え,その方法を身につけさせることなのです。

2.Webページのアニメーションの役割
 Webサイトを検索してみると,多くのサイトでアニメーションやムービーが使われていることに驚きます。特にマスコミや映画会社などのサイトでは必ずと言っていいほど,QuickTime,Windows Media Player,Flashコンテンツがあり,ムービーやアニメーションが再生できます。ページのナビゲーションやオープニングムービーとしてFlashで制作したアイコンやムービーを表示しているサイトも多くなってきました。

 また,理科や数学のシミュレーション実験やイラストでモデル化したものをアニメーションで表現することによって,学習教材として提供しているサイトも多くなってきました。

 例えば,総務省の「こども情報白書」では,インターネット技術や通信技術のことをアニメーションを使ってわかりやすく説明しています。パケット通信やブロードバンドを説明しようとすれば,通信プロトコルやデータ量の話を先にして…などと余計なことを考えてしまいます。しかしアニメーションを使えば実に直感的に教えることができ,それを見せながら教師が補足説明をすることによって学習定着度も大きく変わってきます。

 なぜWebページにムービーやアニメーションを表示させるのでしょうか。それは制作者の「何をどのように表現するか」「誰に何を伝えるか」というコンセプトによって決まってきますが,根本にあるものは「相手にわかりやすく効果的に伝えることができるから」です。

 Webページは基本的にテキストと静止画像を組み合わせて制作します。ある事象や経過を表現する場合,文書で書くのが最も簡単で明確ですが,読む側の想像力によって伝わり方に差が生じます。しかしムービーやアニメーションの動画で表現することによって,ダイレクトに目に飛び込んできますから受け手は想像するまでもなく事実を知ることになるのです。Webページはテレビと違い何度も繰り返し見ることができるので,一度見て理解できなくても繰り返すことによって理解が深まることになります。
3.Flashはドロー系ソフトの定番?
 情報教育はコンピュータやインターネットの操作方法だけを学ぶものではありません。そうはいっても操作方法をしっかり身につけなければ,情報教育を実施している意味もありません。そして重要なことはこれらのツールをどのように活用するかを学び,考え,自分で表現することにあります。

 表現,情報処理の手段としてコンピュータを活用するとなると,ワープロ演習,表計算演習,プログラミング,Webページ制作,プレゼンテーションといった実習課題が中心となるでしょう。ここでWebページ制作の課題を例にカリキュラムを考えると次のようになります。

 (1)情報を伝えること
 (2)制作の流れ,プランニング
 (3)ページデザイン,構成図,絵コンテ
 (4)スキャナ,デジタルカメラの画像の取り込み
 (5)タイトルロゴの制作
 (6)アニメーション,動画像の編集
 (7)HTMLエディタを使ってのオーサリング
 (8)リンクの設定,動作確認

 何でも書きたいことを書いてWebページを作りなさいというわけにはいきません。ページにテキストを流し込むだけでなく,静止画像を扱うとなれば画像解像度や加法混色の知識や画像処理ソフトの活用方法を学びます。また,アイコンや動くバナー,わかりやすく説明するためのアニメーションコンテンツを作ろうとすればアニメーションソフトの使い方やデザインの知識を学ぶ必要があります。このように,Webページ制作でもこれだけの学習内容が必要になってくるわけです。

 3年前から中学高校の情報の授業でこのカリキュラムを実施しており,アイコンやアニメーションコンテンツの制作はFlashを使っています。図形や文字の入力方法,タイムラインとレイヤーの使い方,シンボルとインスタンスプロパティの使い方などを説明したあとにロゴとキャラクターのアニメーションの制作を行います。

ロゴのアニメーション
▲ロゴのアニメーション

 Flashは方眼紙のようにピクセルを敷き詰めて画像を再現するビットマップ形式と違い,数値によって図形の形状を定義するベクトル画像として扱うドロー系ソフトです。一度描いた画像もすぐに修正でき,アニメーションも容量の軽いswf形式に保存することができます。小学生からでもお絵かきソフトとして手軽に扱えるドロー系ソフトとして導入できます。子どもたちの様子を見ていると,お絵かきソフトはKIDPIXなどのペイント系のものしか使ったことがないという子が多く,最初は戸惑うのですが一度使えばベクトルの扱い安さに目覚めていき,簡単なロゴやイラストを描くときもFlashを使っています。

拡大してもきれいなFlashデータ
▲拡大してもきれいなFlashデータ

 インターネットに配信されたFlashコンテンツを再生するには,ブラウザにFlashプラグインをインストールしなければならないのですが,マクロメディア社によると4億4千万人以上のインターネットユーザがMacromedia Flash Playerを使い,Flashで作成されたコンテンツを見ることができるそうです。世界のインターネット人口が5億6千万人程度といわれていますから,かなり高い割合といえます。
4.Flash MXの登場

 今年の4月に登場した「Flash MX」はFlashのVer.6です。今後マクロメディア製品のDreamweaver,FireworksなどもMXとして登場します。さて,問題はバージョンアップして使いやすくなったかということです。教育現場の先生方には,予算の問題で一度購入したソフトはなかなかバージョンアップできない,と困っている人も多くいると思います。使い方が複雑になるばかりで,特にできることが変わらなければ古いバージョンのまま使いつづけるべきでしょう。

 ただ,「Flash MX」には,強力なムービーサポートとActionScriptが強化されているのでずいぶんと使い勝手が良くなったと言えます。MPEG,DV(デジタルビデオ),QuickTime ムービー(MOV),AVIなどを含む,QuickTime PlayerやWindows Media Playerでサポートするすべての標準ビデオ形式を読み込むことができ,フルモーションのビデオをFlashコンテンツやアプリケーションに追加することができます。

 ActionScriptはver.5から採用されたスクリプト機能で,高度なプログラミングが可能となりました。JavaScriptやCGIの感覚でスクリプトを記述すれば,時間や時計の表示などができます。そしてカーソルを追いかけたりオブジェクトの回転スピードを変えたり,インタラクティブ性を持たせたコンテンツが作成できます。

参考になる事例が多数掲載されているマクロメディア社のWebサイト
▲参考になる事例が多数掲載されているマクロメディア社のWebサイト http://www.macromedia.com/jp

5.さぁ,チャレンジしてみよう

 Webページの中身を記述しているのは単なるHTMLデータです。テキスト,画像,サウンド,ムービーなどそれぞれのパーツを組み合わせて表示させているに過ぎません。伝えたい情報をより確実にわかりやすく伝えるにはどのような表現方法が良いか判断し,その方法を決定します。文章で伝える場合はそのままテキストを入力します。動きをムービーで視覚的に伝えるとなれば,ムービーやアニメーションの編集方法を学ぶ必要があります。

 Photoshopを使った画像処理は難しいから,Flashは操作が難しいから,と教師が決め付けてそれらのソフトを使うチャンスを奪ってしまえば,子どもたちの表現力は育たないままに終わってしまいます。まずは教師が子どもたちにどのような表現方法を身につけてほしいか目標をたて,そのために必要なソフトを導入し指導計画を立てることがスタートになります。

 案ずるより産むが易し。さぁ悩んでいないで,まずは自分からチャレンジしてソフトを使って試してみましょう。きっと新しい授業のイメージが浮かんでくると思います。

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