本校は平成7年(1995年),電気科1学級の募集停止に伴い情報技術科を新設した。この年,宮崎県として30年続いた工業高校の改革がスタートした。 専門教育の閉塞感を打ち破り,学校の改革を推進し,いかに学科の特色を出すか。筆者は,少なからず学科改編の準備から関わり,現在に至っている。ささやかではあるが,国際理解教育の取り組みと内容について報告したい。
情報技術科1年生40名,同3年生40名 合計80名
工業英語 2時間 学校裁量の時間2時間 合計4時間
1限目 ○アフリカのイメージアンケートの実施 まず,はじめに生徒がアフリカや途上国にどのようなイメージを持っているのかを把握する。 アンケートは内容を説明しながら,生徒の言葉で書かせるように配慮する。これによってプレゼンテーションの中味を組み立てる。 ▲イメージアンケート結果 2限目 ○プレゼンテーション マラウイの歴史,現状,JICAの役割,海外青年協力隊員の様子を紹介する。テーマは「私達と他の人々」とする。内容構成は,「知られざる楽園」「環境」「現状」「歴史」「豊かさと貧しさ」「国際協力」「隊員の姿」「まとめ」,生徒へのアンケート,課題として「一番印象に残ったこと」「アクションプラン」の58画面で構成している。写真をできるだけ多く挿入し,マラウイの美しい自然,太陽,光,水,村,そして人々を表現する。文章は簡潔にまとめ,生徒があきずに集中して授業に臨めるように工夫している。写真の説明は音声で入れる。 ▲国際理解教育のプレゼンテーション (プレゼンテーションで使用した画面) 3限目 ○「21世紀を拓く」アンケートの実施 (1)最近の関心・こだわり (2)マラウイの課題 (3)2010年はどんな世界であってほしいか (4)なぜ勉強するか (5)2010年の自分 (6)印象に残ったことは ▲「21世紀を拓く」アンケート結果 4限目 ○マラウイのビデオ鑑賞とアクションプランの作成 ビデオ鑑賞後,一人一人のアクションプランを考え,その後グループ討議をおこない,アクションプランをまとめる。質問の内容は,「あなたはアフリカの現状を聞き,何をしたいと思いますか。それができるかできないかは別として,自分の考えとグループの考えをまとめてください。」 (1)目標と課題 (2)現状と原因 (3)やれること(4)質問(マラウイの隊員にE-mailで回答をもらう。) (5)国際理解教育を受ける前と後での気持ちの変化
生徒は様々な受け止め方をしており,具体的計画も出てきた(抜粋)。 (1)目標と課題 ・砂漠化の防止。もっと自然を大切に。・食料を豊富にしてあげたい。たくさんの服を送ってあげたい。お金もかかるし,今の自分では技術がない。農業の普及。貿易のできる国にする。技術をもって品物を生産する。・もっと他の世界を知る。直接その場に行くのは難しいのでインターネットで情報を集める。行ってみて話がしてみたい。日本のことや世界のことを教えたい。自分の持っている知識を教えてあげたい。できることなら,その場に行って働きたい。それができないのなら,日本で活動できる範囲で頑張りたい。・電気を引く。太陽電池を普及させる。・医者になる。勉強する。・隊員になってアフリカに行く。・乳幼児の救済。医療。子供がもう少し多く生きられるよう。めざせ長寿大国。・すべての人が平等に生きていける社会をつくる。・間接的でもいろんなことに協力できることはやる。人の役に立つ仕事を1回はやってみたい。 (2)現状と原因 ・人間が木を切りすぎている。植物を栽培する。自然を破壊していることを気づかせる。日本もだけれど。・電気の普及率が低いので,今すぐは難しい。周囲の国も途上国であることが原因。・電気がないと不便だと思う。・寿命が短い。医療技術が進んでいない。医療を強化すべき。病院がない。薬がない。医療機器がない。子供の死亡率が高い。病院に行けない人がいる。技術的に遅れていて公衆衛生もあまりよくない。貧しい。・栄養不足と病気。乳幼児の死亡率が高い。色々な病気にかかっている。・材料のコストが高い。国の予算が少ない。・英語が話せない。・世界の文化や政治に疎い。・教育を受けたくても受けることのできない子供がいる。経済的に貧しいから。・日本からの派遣をもっと増やせないのか。・自国で生産することのできるものが少ないので輸出するものも少ない。・アフリカの人々の独自の文化の発展を妨げた世界の大国(米,英)がいけない。・一歩遅れた技術。他国が侵略してきた歴史。植民地になったから。・爆弾テロなどがあって治安が悪い。 (3)やれること ・木を植え育てる。・木の苗や植物の種を買うための資金を募る。コンビニの募金箱に入れる。赤い羽根募金をする。・まわりの人々に途上国の現状を教える。マラウイのことを人に教えること。もっと国際貢献しているJICAなどについて詳しく知る。・頑張って勉強する。勉強して技術を身につける。他人に教えてやれるような自分の技術をもっと伸ばす。・自然にクリーンな発電所をつくる。風力発電。・技術の提供。援助金を増やす。英語を勉強する。海外のことをもっと理解する。英語で話せる国にして同じ国で過ごせるようにする。・医者になれるような学校をつくる。 (4)質問 ・太陽電池はいくらぐらいかかるか。・つらいと思ったことはどんなことか。マラウイの人は今一番何がしたいのか。・どうして学習レベルが高いのに貧しいのか。なぜ頭がいいのに農業などできないのか。農業するときはいつも踊るのか。・木を植えて砂漠化を防げないのか。気候がわからない。・アフリカに派遣してもらってよかったと思うことは何か。・貧しい国々を過剰発展させることは,結果的に地球にとっていいことなのか?・JICAに入るにはどうすればいいか。・英語を話せる人はどういう生活をしているのか。アフリカにどのくらいの植物が今あるのか。アフリカに育つ野菜にはどんなものがあるのか。・他の国は協力してくれるのか。日本以外で先進国はどういうことをしているのか。・アフリカの政府は何をしているのか。アフリカの海の魚は食べられるのか。・トイレットペーパーはないのでしょうか。気になります。風呂はどうなっているのか。・アフリカと日本とで小数点の違いがあるのは何故?・学校を卒業したら職業はあるのか。 (5)国際理解教育を受ける前と後での気持ちの変化 ・アフリカはあまりきれいじゃないと思っていたが,そうでもないんだなとわかった。自分の持っているアフリカのイメージとだいぶ違っていた。もっとアフリカを知りたいと思った。もっとひどいところかと思っていたが,高校もあって勉強ができていた。アフリカの人 の苦労や努力がよく分かったが,知らないことがいっぱいあって驚いた。アフリカの人々を尊敬できるようになった。想像と違っていた。今からはやっぱりその国だけではなく,全世界が協力理解することが大切だと思う。井戸掘りに感動した。やはりボランティアは大切だと思った。・日本がここまで恵まれているとは思わなかった。同じ年代で学校へ行けない人がたくさんいるので,自分は幸せだと思った。自分達はかなり恵まれている。・今までは他の国だから関係ないと思っていたが,自分でもやれることがあると思うので何かしようと思った。何かできることはないだろうかと思った。授業を受けるまでは,あまりアフリカに行ってみたいと思わなかったけど,今はちょっと行ってみたい。自分も現地に行って自分の目で見てみたい。途上国に行ってみたくなった。アフリカだけではなく他の国への興味がわいてきた。・日本人は偉そうだ。人間がはじめから平等だったらここまで発展はしなかっただろうけど。できるだけ平等になったらいいと思う。 ・物を大切にして,食べ物を粗末にしない。今,住んでいる日本はアフリカに比べとても豊かだと思う。わがままを減らして我慢する道も覚えようと思う。勉強できるときに勉強しないといけないと思った。・この教育を受ける前はもっとすごくて食料も何もないところと想像していたが,そうでもなかった。怖いイメージがあったけど,ビデオを見て怖いイメージがなくなった。思ったより教育が進んでいた。アフリカの人々は字が読めないと思っていたが,ちゃんと勉強していた。アフリカの子供達の生活はとても厳しいと思った。想像していた通りだった。・漠然としていたアフリカのイメージがなくなった。農業をして生活しているのかと思っていた。アフリカの現状がこんなに悪いとは思わなかった。・もし自分がその場にいたら何かできることがあるかも知れないと思った。・今まで「人のために働きたい」と考えてきた「人」とは,すごく恵まれている「人」だった。アフリカなど,その他の貧しい国々の人のために働くことが,本当に「人のために働く」ということだと思った。・はじめから興味があった。・JICAはいろいろなことをしていることを知った。
いま「なんのために勉強するのか」という迫力ある問が我々教師に欠けている。生徒に勉強することの意義をどのように迫るのかは,大きな課題である。この切り口として,途上国の現状と課題を知らせ,問題意識を持たせる実践を通じて示唆を得たように思う。アクションプランにあるように,生徒は少なからず「他の人々の問題」を自分の問題として受け止めはじめている。 事前アンケート,プレゼンテーション,21世紀を拓くと題したアンケート,アクションプランという構成にした。生徒の反応から,未熟ではあるが,国際理解教育のためのカリキュラムとその展開の一方法を見出すことができた。普段の授業と違い,生徒は目を輝かせ生き生きと参加した。 アンケートの集約結果と質問をメールでマラウイに送り,生徒宛に回答をいただいた。 アンケートは単なるアンケートではなく,授業の一環として用紙も工夫し展開した。 今後,日本の国際化は急速に進むと考えられる。異文化や価値観の違いを柔軟に受け入れ,私達と他の人々の存在を認め合い,共に協力し,助け合いながら地球人としての生き方あり方を考えることが大切であろう。 本校の将来を展望した教育のあり方として,国際化を視野に入れた進路指導や生徒ガイダンスセミナー,小講演会,途上国への修学旅行など学校行事を教育課程や基礎学力の向上に結実させたい。また,社会や人と人のつながりを中心とした協働教育の展開を通して,「進路実現」100パーセントをめざす。すでにそのプロジェクトはスタートしている。この取り組みはその一つに過ぎない。これらを支える道具としてプレゼンテーションとインターネットは効果的である。 また,週5日制の実施,新教育課程の施行から,教育内容の厳選と学ぶ意欲を高める効率的な授業の展開と行事のあり方が,今後極めて重要な課題である。 今後,情報化は本校教育の中で中心的役割を担う。大所高所の立場からご意見・ご教示をいただければ光栄である。
※参考資料:富山隆志,「国際理解教育の展開 〜自分たちと他の人々〜」,『「いっしょに見つめようこの世界」平成10年度 高校教師海外研修〜授業に役立つ開発教育教材集〜』,1999年,国際協力事業団,pp14-19国際協力事業団(JICA)では,開発途上国の諸問題や国際協力活動に関心をもち,授業やクラブ活動などで開発教育を実践・研究している先生を対象に,実際に開発途上国を訪問し,国際協力の現場を視察する「高校教師海外研修」を実施している。
★プレゼンテーションで使用した画面