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ICT・EducationNo.12 > p5〜p10

教育実践例
Fukusho Independent Corporation
−マルチメディアを利用した複合的学習空間の構築−
福井県立福井商業高等学校 嶋 基史
tajima@fukusho-ch.ed.jp
http://tajima.fukusho-ch.ed.jp
1.はじめに

 本校は,平成10年,文部省から「光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法の研究開発事業」の指定を受けた。高速な光ファイバー専用回線を使って接続するとともに,各教科や校務分掌などでの活用方法を全校を挙げて模索している。

 そうした中で,これから紹介する「Fukusho Independent Corpo-ration(以下,「FIC」とする)project」は,教職員,生徒がともに協力して,ITなどを用いてよりよい学校環境を創るために考え出された手法の一つである。

2.FICとは?
(1)誕生の背景
 平成8年度よりインターネットへの接続を開始した本校では,それを受けて校内LANの敷設など,校内の情報化を急速に進めていった。そして,平成12年度までに校内のほとんどの建物に,高速な通信網が引かれ,コンピュータの設置された多くの部屋で,ネットワークの接続が可能となった。

  それに伴い,校内でネットワークに接続されたコンピュータは数百台に膨れ上がり,それらをつなぐサーバの数も十台以上へと増加していった。

  これらのネットワークやコンピュータの管理は,一部の教職員と生徒がボランティア的に行ってきたが,そうした管理では到底追いつくことができない規模になっていた。

  また,校内のネットワークを校内業務などでも利用するようになり,安定的な運用の重要性が高まってきた。それと同時に,各教科などでもITの活用の範囲が広がり,それらを積極的に支援していく体制作りも必要になってきた。それらの懸案を,一手に解決する方策として,「FIC project」が誕生した。

(2)FICの組織構成
  FICは,校内ネットワークやコンピュータの管理・運用や,各教科・校内業務でのITの活用の支援などを目的に設立された「校内仮想企業」であり,一般的な株式会社の形態を模した組織構成になっている。

  この,民間企業を模した形態の組織で,効率的かつ効果的に校内の情報化への対応や,様々な授業支援を進めている。

  筆頭株主は福井商業高等学校になっており,基本金へは福井商業高等学校が整備したネットワークの各種設備を組み入れている。

  株主は,取締役の任命権,監査権などを持っており,FICが行っている活動に関しての責任を負っている。

  実際の業務執行権は,株主より任命された取締役会が持っており,さらにその下にある各事業部が実際の業務を行っている。

  また,取締役会は独自に「顧問会」を設置しており,FICが行う事業などに対して学外有識者の意見を求めることができるような体制をとっている。

  各事業部についても,横断的な連携ができるように組織構成を工夫しており,プロジェクトごとに部署を超えた協力体制などを作っている。

  業務の進め方についても,一般企業の仕組みを模しており,迅速な意思決定を行うことができる。会計などにおいても,一般会計基準を導入して,透明性の高い企業活動ができるようになっている。さらに,それ以外の業務においても,ISOなどの国際標準規格に準拠した企業内業務規約を定めて,汎用性の高い業務進行や情報セキュリティーを持っている。それらの運営には,教職員,生徒,さらにボランティアなど,様々な人々が共同であたっている。

  こうした運営を通して,生徒はネットワークの保守管理,企業活動などを実務的に学べると同時に,社会に出て活躍する多くの人々との関わりを持つことができる。

FICの組織構成図
▲FICの組織構成図
3.FICの事業内容
(1)EDEN事業
 本校の校内ネットワーク(EDEN :EDucational Experiment Network)は,各校舎をつなぐ400メートルに及ぶ高速バックボーンを中心に,全長3000メートルを超える独自の通信回線が校内各所に張り巡らされている。

 これにより,本校の80%以上の部屋からEDENにアクセスが可能である。また,インターネットへは複数経路の光ファイバー専用回線で接続しており,耐障害性のある,高速で快適な通信環境を実現している。

 これは,FICの中心事業であると同時に,FICが進める多くの事業はこのEDENを何らかの形で利用して行っている。

(2)EDEN iDC事業
 本校には,EDENを中心に,様々な通信機器やサーバを格納するデータセンターが設置されている。

 無停電装置などによる安定した電力供給,自然災害や盗難などの対策が施されており,安定したサービスの提供には欠かせない施設となっている。

1.station.eden事業
 様々なデジタル教材を格納する,巨大なデジタルコンテンツライブラリ。動画,静止画,文章などのデジタル教材が格納されており,EDENを通じて,必要なときにすぐに入手できるようにしている。
 また,これに付随して,独自の教材作成を行う部署を持っており,多くの教材を日々作り出している。

2.授業支援事業
 授業でのコンピュータの導入から活用までを,一貫した体制でサポートしている。
 また,外部で行われる研究授業などを分析し,福井商業高校でも利用できるように独自のアレンジを加えて,パッケージ化しており,多様な授業展開を支援できるようになっている。

3.校内業務支援事業
 校内業務をより効率化するために,グループウェアなどによる情報の共有などを支援している。上に挙げた以外にも,FICでは様々な事業,プロジェクトを展開している。
4.FICの具体的な展開

1.全校生徒にメールアドレスを配付し,意見交換の場を提供することで情報交換を活発にする。

2.商業高校での「課題研究」あるいは「総合実践」などの時間を利用し,電子商取引を通じて経営分析を養う力を身につけ自分のコンテンツをプレゼンテーションしていく能力を育成する。電子メールでの意見交換やWeb上での情報収集が多くなるので,インターネット情報倫理・情報リテラシーを理解させていく。
  アジア高校生インターネット国際交流プロジェクトやワールドユースミーティングでの共同製作内容を構築し,意見交換していく。

5.電子商取引の実践 (3年生課題研究)

(1)目的
 インターネットを利用して電子商取引を実際のインターネット上で行い,日本および外国の学校と特産物などの取引を行う。それを通して,各会社に利益追求のシミュレーション経営分析を行わせる。なお,電子商取引については,テレビ会議システムやネットミーティングを利用して,双方向のリアル画像交換を行う。テレビ会議システムは,取引相手を認識することで電子商取引にリアリティーを感じさせ,責任意識を持たせることを意識させた。

(2)学校間取引の取り組み
 1.5Mbpsの高速回線を利用してのインターネット活用の取り組みとして,1998年からインターネットを用いた商業実践の可能性を模索していき,西陵商業高等学校や川崎商業高等学校との連携を深めていった。次年度は,さらに実際の各県の商品を実際に販売していくことで,バーチャルからリアルへの試みを考えている。

(3)電子商取引(EC)授業の教育効果
  授業で習得を目指す基礎能力には,以下の四つの能力がある。

  ○概念化能力(Conceptual Skill)
  ○育成・分析能力(Analytical Skill)
  ○育成・コミュニケーション能力(Communication Skill)
  ○自己責任能力(Self-responsibility Skill)

  これらの能力を通じて,生涯学習の基礎を培っていくのである。

福井商業高校と西陵商業高校との実践例(NetMeetingによるリアルタイム通信を交えて)

福井商業高校と西陵商業高校との実践例(NetMeetingによるリアルタイム通信を交えて)
▲福井商業高校と西陵商業高校との実践例(NetMeetingによるリアルタイム通信を交えて)

6.ワールドユースミーティングin名古屋2001への参加 (国際経済科・商業科・情報処理科)

(1)目的
 ワールドユースミーティングは,表面的な国際交流によるコミュニケーションによって陥る閉塞感を打開すべく,お互いの意思を積極的に伝えあい,そこで生じる誤解をどれだけ理解に向けていくか意見交換ができるプロジェクトである。「誤解から理解」というテーマは,自分の国や町あるいは自己の再発見に通じていく内容であり,生徒達も教員も大変興味もって取り組んだ。

(2)福井商業高校生徒実行委員会の発足
 1998年からワールドユースミーティングに参加している。今年で3回目であり,今回は,福井商業の生徒がワールドユースミーティング実行委員会の事務局を担当させていただいた。開催地と事務局が離れているのであるが,生徒用の「w2001st・w2001ste」や教員用の「w2001・w2001e」を中心に,インターネットを最大限に利用し,準備を進めていった。

 機材の把握や宿泊の人数,海外からの生徒に関するホームステイ先の確認など,進めていかなければならないことは山積みであった。いかに効率よく進め,協力をお願いしていくか常にイメージを持ちながら,相談していかなければならず,前もってメールに流しておくこと,また,複数回流すなどのテクニックも必要であると感じた。

 今回は,本校の英語の先生方にもこのメーリングリストに参加してもらい,意見や質問などを受けるような体制を築いた。

 今回の参加生徒に関しては,6月ごろからの役割を決めて,それぞれが行動している。

 ・参加生徒 国際経済科35名 情報処理科4名

  最初に役割分担を行い,それから,各学年で仕事を進めていく。生徒が仕事にかかる時に,必ず今日の内容をお互いが明確に理解し,終わる時には,その成果を電子ファイルに記録していくようにした。計画→実行→点検→記録この一連の作業を展開していく中で,生徒は毎日の取り組みの内容を明確にできる。さらにファイルを共有していくことで,たとえその日に休んでも現在どこまで進んでいるのか把握することができるようになる。

 また,週に1回は,全体の進行の報告会を実施して,全体の流れと自分の仕事にずれがないか確認していった。これら一連の動きは,生徒に問題解決能力を育成していくともに,協同・協力・協調という活動とは何かを肌に感じてくれたのでないかと思う。

(3)学校全体の取り組み
 ワールドユースミーティングin名古屋2000の反省を踏まえて,今年は,本校ネットワーク推進委員会が中心となり,各教科の代表の先生方が本校のネットワーク活動について意見交換を行い,授業の利用方法について様々な意見交換を行った。今年のプロジェクトに参加するにあたり,7月24日〜27日まで福井で台湾の生徒のホームステイを行い,生徒同士で文化交流や本番に向けてのプレゼンテーションの打ち合わせなどを実施した。また,バス1台で40名近くの生徒が参加するなど,その事前準備や当日の練習などに多くの先生方の参加と協力を得ることができた。

(4)高校と大学との連携
 金沢商業高校の林先生に,生徒用のメーリングリストの管理運営をお願いした。北陸でもこういった活動を展開できないかと,日夜メールで交流させていただいている。

 また,中京大学の宮田先生のゼミの学生さん達に,様々なプレゼンテーションの展開の仕方を生徒は学んだ。福井まで来校していただき,本校の生徒と目的に向かって意見交換をしていただいた。今年は,確実にネットワークの広がりを感じており,世代間交流の深さを感じた。

(5)わくわく・どきどき・発見
  台湾・韓国・シンガポールの生徒たちと,日本との文化比較について新しいプレゼンテーションの形を模索していった。英語でのプレゼンテーションのため,なかなか観客とプレゼンターとの間に十分な意思疎通ができないのである。そこで会場を3分割してのポスターセッションを導入して,プレゼンターと観客が一体となったプレゼンテーションを実施していった。スライドによるプレゼンテーションから,ペアの外国の高等学校との連携をもとに,アトラクションをいれながら,観客とのコミュニケーションを主体として行った。新しいプレゼンテーションを追求していく姿勢に,生徒は多くのことを学んでいった。

福井商業と台湾の生徒のアトラクション
▲福井商業と台湾の生徒のアトラクション

員弁高校と台湾の生徒ポスターセッション
▲員弁高校と台湾の生徒ポスターセッション


台湾側中学生と日本側の比較(ポスターセッション前日準備)
▲台湾側中学生と日本側の比較(ポスターセッション前日準備)

インターネットを利用した英語教育の実践 (国際経済科 全学年英語科教員)

(1)ねらい
1.全校生徒にメールアドレスを配付し,意見交換の場を提供する。
2.電子メールでの意見交換やWeb上での情報収集が多くなるので,インターネットの情報倫理・情報リテラシーを理解させていく。
3.アジア高校生インターネット国際交流プロジェクトやワールドユースミーティングで共同製作の内容を構築し,意見交換していく。
4.英語のサイトを検索し,自国や他国,多民族の文化の相違点や共通点の発見し,調査研究していく。

(2)インターネット授業実践の内容
インターネット回線を利用しての授業の取り組みを英語科の授業に取り入れて実施していく。国際経済科の生徒全員に,コンピュータ操作やネットワークエチケットの講習会を授業で展開していき,情報倫理の必要性を認識させると同時に,メディアリテラシーを確立させていく。

(3)授業展開
1年生(英語Ⅰ)
10月後半から週1回のコンピュータを利用した授業展開(年15回)
1.ネットワークエチケット(3回)
具体例を挙げながら生徒に人間社会と同様に,ネットワーク上でも守るべきエチケットがあることを理解させる。
2.電子メール講習会(8回)
イントラネットの環境で電子メールの利用の仕方について習得させる。
危険なメールやウィルスについて具体例を挙げ,なぜ悪いのか意見交換させる。
英文検索データベース(CEC協同企画プロジェクト)などを利用しながら,まず英文メールに必要な内容を理解し,検索をかけながら,相手に送るメールを作成していく。
3.情報検索について
Web上での情報検索を実施していくにあたり,インターネットエクスプローラの利用の仕方を教えていく。
情報収集や情報発信などの利用の仕方を英語のサイトを利用して学習させていく。
ニュースサイトなどにアクセスし,リアルタイムの情報がどのような言い回しで表現されているか学習していく。

2年生(オーラルイングリッシュB)
年間を通じて週1単位のコンピュータを利用した授業展開(年30回)
1.ネットワークエチケット(3回)
1年生と同様
2.電子メール講習会(8回)
1年生と同様
3.フロントページエクスプレスを利用したWebページ作成
テーマ:学校生活

3年生(オーラルコミュニケーション)
4月〜9月末までの間週1単位のコンピュータを利用した授業展開(年12回)
1.ネットワークエチケット(2回)
1年生と同様
2.プレゼンテーションソフト講習会(6回)
3.班別によるプレゼンテーション発表会4回
テーマ:理想の海外旅行

8.成果と課題

(1)ワールドユースミーティングin名古屋2001の実践
1.成果
 今後,小中高校の全ての生徒,児童に対してインターネットをはじめとする情報教育が授業の中で展開され,高校においては新教科「情報」が授業の中で「必修」となっていく。今回は,本校生徒が実行委員会を組織して,自主的に企画立案し,全国の高校・大学・中学と連携をとりながら運営していった。「総合的な学習の時間」を見据え,生涯学習としてのコミュニケーションとは何かを追求していったのである。生徒は,言葉や文化の違いを学校の授業とは異なる観点で活用し,異文化とは何か肌で感じ取った。

2.今後の課題
 Webのコンテンツ作成,ビデオの編集,また,本番までの内容を具体的に展開していきながら取り組んでいっている様子をリアルタイムで記録していく作業が遅れがちになった。その日のうちに反省点を明確にして,自己評価を自分に返していきながら個人個人の成長をしっかりと認識させていくことが大切であると感じた。

(2)インターネットを利用した英語教育の実践
1.成果
 英語力が高い生徒が集まっているとはいえ,メール用の英文を作成していくことには,個人差がある。今回はその能力差を埋めるものとして,英文検索データベースを活用していった。英文を送る上での定型の言葉がそこには集約されており,それを用いて多くの情報交換ができるきっかけになったと思われる。英語の壁を取りはずし,実際に相手に伝えたいことをじっくりと考える時間が増えていったと思う。3年生では,理想の海外旅行をテーマとして,調べ学習を中心に進めていったわけであるが,生徒はとても活き活きと授業に取り組んでいた。

2.今後の課題
 生徒は授業に対して,積極的に取り組む姿勢が見られたわけであるが,担当者にとっては各講座の準備や講座中に発生するトラブルの処理に追われる日々となってしまった。ALTと英語科の教員,さらに技術担当ということで商業科の教員の3名が生徒の質問やトラブルに対し処理をしていったのである。しかしながら,生徒の質問は多岐にわたっており,英文メールの構成からパソコンのハードやソフトのトラブルと様々である。担当者同士で授業後,意見交換や調査を行い,すばやい対応ができるよう常に勉強をしていく必要性があると感じた。また,担当者の専門分野の能力を高めていくのはもちろんであるが,国際交流の授業を推進していくには,機械操作の担当者も英語のスキルをあげ,また英語担当者も機械操作になれることで授業全体が充実していくと思った。

9.まとめ

「飛び込む勇気と温める忍耐」

 生徒と共に過ごす時間のメインは授業である。授業を変えることができるのは教師である。勇気と工夫がいる。また,確かな方向性も必要となってくる。私たちはワールドユースミーティングでのプレゼンテーション,連動する交流に学んで授業を変えようとしている。

 生徒の工夫ある発信をサポートし,それを生徒に返してやることである。授業中で生徒自身が認められ,新しい自分に出会える,そんな時間を創り出そうとしている。

 チャレンジすることは大変勇気がいる。運は川を流れてくる。その運をつかむには川に飛び込む勇気が必要である。また,運は川の中で冷たくなっている。それを開花させるには温める忍耐力が必要である。見せかけでない本物を見極める力と感性を生涯を通じて,生徒とともに学び続けていきたいと思う。

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