教科「情報」での情報教育とはどのようなものをイメージすればいいのだろうか。これを考えるためには,少なくとも次のようなパースペクティブをもたなければならないだろう。 (1)学習指導要領や解説で何が示されているか 学習指導要領やその解説の「情報」の部分に何度も出てくる表現がある。例えば,「技術的な内容に深入りしないようにする」や「ソフトウェアの利用技術やプログラミング言語の習得が目的とならないようにする」というようなものである。これは,「情報」が,プログラマーや情報処理技術者を直接育成するものではないからである。むしろ,高度にデジタル化された情報化社会において,普通に生活するために,諸々のメディアをうまく使い分ける“有能さ”を育てるものなのである。 情報教育のねらいは1998年の報告書で明示されている。これには,従来の情報教育のイメージとは異なる方向性がある。 ◎情報活用の実践力 ・コンピュータの教育→情報手段全般に渡る教育 ・情報処理(プログラム)→思考による情報操作 ◎情報の科学的理解 ・機器操作法の習得→メディア特性の理解 ・操作できること→操作も含めて意味のメタ認知 ◎情報社会に参画する態度 ・機器の使い方→使うことの社会的な意味 ・覚える,理解する→考える これらはすべて,視座を情報機器から人間に移すことにほかならない。メディアを利用する人間がどのように変わっていかなければならないかを,メディアに即して考え,身につけるのが教科「情報」なのである。 (2)中学校までに何を学んだか 生徒の出身校によって,メディアとの接触経験や,接触方法が全く異なることが予想される。メディアに対する経験の差を,どうとらえて対処するかということは,常に問題になるだろう。この懸念は,最初のレベルを揃えることとは若干異なる側面も持つ。中学校の「情報とコンピュータ」では,プログラミングや計測・制御に関してかなり高度なことまで習ってくる場合がある。そうなると,高校「情報」の内容に全く興味がもてないといったことも起こり得る。この点についても,考慮が必要である。 (3)“教科など”で何をするか 情報教育は,教科「情報」だけで行われるのではない。他の教科においても,積極的にコンピュータ等を使うことが求められている。学習指導要領を見ると,例えば数学の「統計とコンピュータ」では,「統計についての基本的な概念を理解し,身近な資料を表計算用のソフトウェアなどを利用して整理・分析し,資料の傾向を的確にとらえることができるようにする」とされている。その他の教科の「内容の取扱い」でも,随所に「適宜コンピュータなどを活用させること」と記されている。 教師が,ただ教材を効率的に提示する道具としてコンピュータを用いるならば,それは学習者にとっては「情報の扱い方」を学んでいることにはならないようにも思う。しかし,教師が洗練された情報提示をするとき,それはモデリングの効果をもつだろう。「さっきダウンロードしてきた画像を見せよう」といってプロジェクタで衛星画像を提示することで,インターネットを使うことによって最新の情報が手に入るということを教えていることになる。ITとICTのボーダーラインである。 総合的な学習の中でも情報機器が使われ,情報教育が行われる。ここでは,コミュニケーションの手段として情報機器を活用することが多いだろう。ここではやりとりされる情報の中身(内容)と関連した情報教育が行われる。ITよりICTによった部分の情報教育である。 さて,高校「情報」には何が残るのだろう。
※注1:文部省(1998),「情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて(情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議最終報告)」 ※注2:日本文教出版株式会社(2001),「情報教育実践レポート 我が家の自慢料理プロジェクト」