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1.はじめに |
標題の「地域ネットワーク」という意味は,いろいろ考えられる。教師の場合でいえば,まず身近な同僚や友人との個人的なつながりがある。また,研究会等に所属しての会員間のつながりや,研究会どうしのつながりなど,組織を通してのつながりもある。これらのつながりは,インターネットなどの情報通信ネットワークによって媒介されるものもあるが,そうではなく,人間どうしの直接のやりとりによるものもある。いずれにしても,私たちはこのようなつながり,すなわちネットワークを介して,種々の情報をしかもマスメディアでは得られない生きた情報,すぐに役立つ情報を得ていることは日々実感することである。
筆者は,このような地域ネットワークの一つとして,「Sie-ML」※注1と呼ばれる,情報教育をメインテーマとしたメーリングリスト(以下ML)を運用しているので,本稿ではその概要や効果を紹介し,地域ネットワークの果たす役割について考えることにする。 |
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2.MLの概況 |
Sie-MLは,1998年5月末に筆者と三仲啓氏(鹿児島大学教育学部),辻慎一郎氏(鹿児島県三島小中学校)によって構築され,現在330名の会員を有しているMLである。会員のほとんどが学校の教職員(87.0%)であるが,企業や団体の方もおられる。また,鹿児島県内の方が大部分(89.1%)であるが,県外16都県の方も参加している。
構築以来,約3年4ヶ月間の延べ書き込み数は,2001年9月18日現在10214件である。この間,1日の書き込み数は,日によってかなり異なるが,平均で8.4件,最大で65件である。
筆者は本MLの書き込み内容について,1999年5月1日〜6月30日の2ヶ月間の書き込み(633件)をもとに分析したことがあるが,その結果を図1に示す。
※一つの書き込みが二つの項目にわたっているものもあるので,それはどちらにも入れてある。%は総書き込み数に対する割合なので,この図の%を合計すると100%以上になる。
▲図1:書き込み内容の種別
同図の「情報教育関連」(65.4%)は,本MLのもともとの趣旨である情報教育や,コンピュータやネットワークのハードウェア,ソフトウェアのことなどである。また,「教育一般」は,情報教育関連以外の教育一般に関することで,最近では,例えば「総合的な学習」に関することなどがときどき出される。このMLは「情報教育関連」に書き込みを限定しているわけではないので,このように「教育一般」もかなりある。このように書き込みを限定していない点がよい,ということは後述する会員への調査結果にも示されている通りである。なお,同図の「ML自体」は,MLの管理業務に関すること,新規登録会員の紹介や挨拶,それに対する応答(レス),MLの運営に関することなどである。 |
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3.MLの効果 |
次に,本MLの効果等や運用上の課題を調べるために,会員を対象としてアンケート調査を行ったので(1999年5月),その結果の一部を紹介する※注2。
調査は,会員に電子メールで調査紙を送り,電子メールで回答してもらう方法をとった。回答者は,調査依頼時点での会員191名中60名(回収率31%)であった。
(1)MLの有用性
本MLが役立っているかについては,図2に示したように,「とても」と「やや」を合わせると92%で,概ね役立っていることがわかる。
▲図2:Sie-MLは全体的に見て,あなたにとって役立っていますか?
(2)MLを続けている理由
次に,本MLに入った理由,あるいは現在本MLを続けている理由を問うた結果(複数回答可)が表1である。
MLに入った理由、続けている理由 |
人数 |
% |
他の人に紹介された |
43 |
72 |
新しいことを知りたい |
32 |
53 |
質問と回答のやりとりが役に立つ |
24 |
40 |
異なる職場の人と情報交換できる |
21 |
35 |
刺激を受けたい |
20 |
33 |
仲間作りをしたい |
15 |
25 |
内容が情報教育に限らず様々である |
14 |
23 |
わからないことをすぐに質問できる |
12 |
20 |
会合で知った |
8 |
13 |
電子メールの扱い方を習得したい |
3 |
5 |
その他 |
4 |
7 |
▲表1:あなたが,Sie-MLに入った理由,あるいは現在Sie-MLを続けている理由は何ですか?
同表に示したように,「新しい事を知りたい」「質問と回答のやりとりが役に立つ」「異なる職場の人と情報交換できる」「刺激を受けたい」など,MLそのものの特徴がよく出ている回答になっている。また,「内容が情報教育に限らず様々である」という回答もあるが,この点は内容を制限しないという筆者らの運用方針が支持されているようである。
なお,「その他」の回答は次のようなもので,役立っているから続けているという様子が伺える。
・いろんな考え方を知ることができて違った方向で物事を見つめることができる。
・すべてに当てはまります。人と人との中にいることが実感できること。職場にはない人間関係が感じられること。「先生」と呼んだり,呼ばれたりしなくていいこと。教職員以外の方とも交流できること。県下全域にわたって多くの方が参加していること。本当にありがたいです。
(3)メールの読み方
一般に,MLに入っていると1日に複数のメールが届き,読まないまま数多くたまってしまうことがある。MLで来たメールをどのように読んでいくか,多くの情報をどう読んでいくかは,いわば情報活用能力の一つになっていくわけで,筆者には関心のある課題である。そこで,メールの読み方について質問したが,その回答は表2のようであった。
読み方 |
人数 |
% |
タイトルを見て、内容を見るかどうか判断する |
17 |
28 |
タイトルに関わらず、内容は一応見てみる |
42 |
70 |
タイトルに関わらず、内容はほとんど見ない |
0 |
0 |
内容を見るときは、適当に読み飛ばす |
14 |
23 |
内容を見るときは、きちんと読む |
8 |
13 |
その他 |
1 |
2 |
▲表2:Sie-MLで来たメールの読み方は?
同表に示したように,「タイトルに関わらず,内容は一応見てみる」「タイトルを見て,内容を見るかどうか判断する」「内容を見るときは,適当に読み飛ばす」の順に多かった。このように,調査回答者では,70%の者が一応全部の内容を見ていることがわかったが,特に複数のMLに入っている者にとっては,自分なりの読み方のくふうを要するところである。また,書き込む際はタイトルの付け方にも気を配る必要がある。
(4)書き込まない理由
MLを管理する者にとっても,また会員にとっても,ML上で書き込みが活発に行われ,多くの情報が提供される方がよい。しかしどのMLでも,よく書き込む会員もいれば,ほとんど書き込まず読むだけという会員もいる,というのが現状ではないだろうか。
前述の調査ではSie-MLの書き込み状況も調べたが,それによれば,「よく書き込む」3%,「ときどき書き込む」32%,「あまり書き込まない」40%,「全く書き込まない」25%という状況であった。「あまり書き込まない」「全く書き込まない」を合わせると65%で,回答者はどちらかといえば書き込みの少ない方であった。このように,ふだん書き込まない会員がこの調査に回答したことを考えると,書き込まなくても読んではいるという会員が少なくないことが推察される。
ではなぜ書き込まないのか,その理由を管理者としては知りたいところであるが,「あまり書き込まない」「全く書き込まない」と回答した者に対して,本MLに書き込まない理由を質問した結果(複数回答)が表3である。
理由 |
人数 |
% |
書き込む方法がわからない |
2 |
5 |
何を書いていいかわからない |
4 |
10 |
書き込む勇気がない |
6 |
15 |
書き込む時間がない |
10 |
26 |
書き込める雰囲気ではないように思う |
8 |
21 |
自分の情報が他の人に役立ちそうには思えない |
13 |
33 |
質問などに対して自分が書かなくても誰かが返事をしてくれる |
1 |
3 |
もともと読むだけのつもりで参加している |
2 |
5 |
その他 |
12 |
31 |
▲表3:あなたが,Sie-MLに書き込まない理由は何ですか?
同表に示したように,「自分の情報が他の人に役立ちそうには思えない」(33%),「書き込む時間がない」(26%),「書き込める雰囲気ではないように思う」(21%)などである。また,「その他」の記述として,以下のようなものがあった。
・全くの初心者で基本的なことから分からないことが多く,聞いていいのかなあとちょっと不安です。
・入会したてのころ何度か書き込んだのですが,ほとんど反応がなく,場違いな書き込みだったのか,他県人だからか,よくわからないのですが,ちょっと書き込みは遠慮しておこうと感じたので。
・書きこむようなものを持たない。
・内容が高すぎる。
・会話のレベルが高すぎるので引けてしまう。
・難しい内容にはレスをつけにくい。
・書き込みたいのだが,もう少し勉強をしてから。
このように,内容が高すぎるためというのが見られる。確かに,ときどきLANの構築方法など難しい内容の書き込みが続いたこともあり,ついていけない会員も少なくなかったようである。
表3に示したように,「もともと読むだけのつもりで参加している」という回答は5%と少ないが,Sie-MLに限らず,MLに参加している人には,このような会員,すなわち情報は欲しいが自らは提供しない,という会員が実際には多いのではないだろうか。
(5)自由記述の感想・意見
調査では,最後に自由記述の意見,希望,感想などを求めたが,たとえば以下のようなものがあった。以下は原文のままであるが,回答者がわかるような部分は省いている。回答文は,1)2)…で,それぞれ一人分である。
1)全国的に会員がいて,非常に話題が豊富でためになりますが,レベルが高い話題だけでなく,楽しい話題も提供できるようにしていけたらと思います。
2)いつも読むだけのROM派ですが,とても勉強になります。できれば書き込みたいなと思っています。これからも様々な情報を期待します。よろしくお願いします。
3)最近のサーバー機の質問と回答など,何のことを言っているのかさえ分からないこともあります。しかし,メールを始めて半年足らずでいろいろなことを教えていただいたのは,このSie-MLのおかげであると感謝しております。本当に有り難うございます。
4)家族的な雰囲気が非常によい。初心者からベテランまで有益な情報収集の場,研修の機会となっている。
5)このSie-MLに入らせていただいてたくさんの情報にふれることができました。また分からないことについて回答をいただいたり大変ありがたいことです。これからもよろしくお願いいたします。
6)いつも受信するのを楽しみにしています。新規入会者,会員一覧を定期的に知らせて下さるので,相手が見えて発信しやすいです。他のMLではこれがないので発信してもいったいどれくらいの人が見るのかわからず不安です。教員はどうしても校内から出ることが少なく,他の教員とのコミュニケーションが希薄になりがちで,勤務校を中心に考えてしまい視野が狭くなりがちだが,このMLで他校の様子も分かるので参考になります。これからも顔の見える交流をしていけたらいいなと思います。(オフ会や講習会の実施)
7)特定のテーマにこだわらず,地域密着型で多様な情報交換,交流ができるので大変良いと思います。専門的なテーマ別MLにはかなわない面もありますが,それは当然の事として,MLが初めてという方のスキルアップや鹿児島の情報教育事情の把握に役立てば良いですね。管理者は大変になりますが,MLコマンドではなくて,Web上で過去メールの検索・表示およびMLへの加入申込などができればいいですね。
8)わたしは書き込むことに抵抗はありませんが,書き込みしづらいと思っている人が書き込んでいけるような雰囲気作りができればいいなーと思います。引用が長すぎると読みづらい時もあるので,読みやすいような書き込み方というのも課題かなーと思っています。
上述の感想のうち,1)〜6)は,概ね楽しみにしている,役立っているなど好意的な感想や期待感の記述である。また,7)には,過去のメールの検索・表示ができたらいいと,使い勝手に関する要望が出されている。これについては,過去のメールが検索できるようなしくみを,管理者の方で作成しこの要望に応えた。さらに,8)にはいわゆるネチケットに関する感想・要望もあるが,これについては,これらの意見を含めて自由記述の意見をSie-ML上に流して注意を喚起することを行った。 |
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4.まとめ |
本文では,地域ネットワークの一例として,筆者が運用している「Sie-ML」を紹介し,その運用状況や会員への調査結果について述べた。調査結果から,本MLは会員にとって役立っており,会員間の情報交換を支援する役割を果たしていることがわかった。
特に情報教育の分野は,専門的な情報や最新の情報が必要とされるが,それを入手するのに,このMLが役立っている。また,鹿児島県の場合,離島が多いという地理的特徴があるので,このようなMLによる地域ネットワークの果たす役割は大きいものがある。
ところで,ある研究会で「このようなMLがよく利用されているのは,職場での直接のコミュニケーションが最近減ってきているからではないか」という指摘が出された。そこで,前述の調査の中で「あなたの職場での,職員間の直接のコミュニケーションについておたずねします」という質問を出した。その結果は,「コミュニケーションはよくとれていると思う」が63%,「コミュニケーションはあまりとれていないと思う」が8%,「どちらともいえない」が28%であった。さらにこの質問と,前述の「Sie-MLが役立っているか」の質問との関係を調べたが,特に相関はなく,上述の指摘を裏付けることはできなかった。
このことから,職場での直接の情報交換と,MLでの情報交換を使い分けている─当然といえば当然であるが─会員の様子が伺える。
筆者は「人間は最高のデータベースである」ということばを聞いたことがあるが,Sie-MLの書き込みを見ているとそれを実感する。だれかが質問を出すとすぐに回答が書き込まれる。MLは一人の人間のデータベースをつないで,大きなデータベースを作り上げることがわかる。
その点で特によかったと思うのは,会員に学校の教職員以外の方がおられることである。本MLはもともとは教職員間のMLを想定していたが,前述のように,会員の13%は学校の教職員以外の方である。実際に運用してみてわかったことは,この教職員以外の会員の書き込みが,かなり役立っているということである。学校現場にいては気づかないこと,わからないことに対して,貴重な発言になっている。この点で筆者は,会員を教職員に限定しないでよかったと,改めてその効用を感じるしだいである。今後も存在価値のある地域ネットワークとして,Sie-MLを運用していきたいと考える。 |
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※注1 「Sie」は,School Informatics Educationの略称であるが,実は「Sie:シー」ということから,「Sea:海,See:見る」に通じ,これからの教師や子供たちは,インターネットを通して大「海」原に旅立ち,いろいろな世界を「見よう」という意味を込めたものである。紹介のWebページは以下である。
http://www-jc.edu.kagoshima-u.ac.jp/sie-ml/sie-ml.htm
※注2 園屋高志・三仲啓・辻慎一郎:教職員等のメーリングリストによるコミュニケーションの効果,教育情報研究,第16巻第1号,日本教育情報学会発行,2000年6月,pp.21ー30 |
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