ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.10 > p10〜p15

教育実践例
普通科高校における情報教育
−四日市四郷高校における実践と展望−
三重県立四日市四郷高等学校 世良 清
1.はじめに
 三重県立四日市四郷高等学校は,昭和58年に開校し,本年で19年目を迎える。本校では,教育方針に「人間尊重の精神を養い,個性を伸ばす教育」と掲げ,生徒諸君の興味・関心・能力に即して,普通科のなかに多様なコースと選択科目を開設している。
 本校はこれまでも,「スポーツ科学コース」や「芸術コース」など,特色のあるコースを開設し,父母をはじめ,地域社会や産業界のニーズに応えるべく模索を続けてきた。平成15年度には,新教科「情報(専門)」を取り入れた「情報コース(仮称)」を開設する準備を進めている。
2.これまでの情報教育の実践
 本校では,早い時期から情報教育に取り組んできた。平成4年度に発行された記念誌の巻頭には,早くも「今日の情報化社会に対応できるよう,パーソナルコンピュータ…(中略)が,充分に設置され,それを生かした授業を行い,教育機器を活用した教育も成果をあげております」との記述が見られる。

(1)商業の情報教育
 「情報処理」の授業は,教科としては「商業」に2年次と3年次で開講している。選択科目による類型コースの設定で,2年次では就職コースで4単位(平成13年度は「情報処理」(2単位)と「総合実践」(2単位)に分ける),3年次では就職コースは4単位(平成13年度は「情報処理」(2単位)と「課題研究」(2単位)に分ける)のほか,進学コースである文Ⅰコースで3単位,スポーツ科学コースと芸術コースで,各2単位実施している(p.15,表1参照)。
 2年次における授業では,主に表計算ソフト(EXCEL97)とワープロソフト(一太郎8)を使用し,情報リテラシーの養成に力点をおいている。また,キーボード操作の練習に使用しているタイピング練習のCAIソフト(Typing Pro)はサーバで練習成果を積み上げて管理している。さらに,コミュニケーション能力の向上のため,グループウエア(Outlook97)を使用して,e-mailの実習を行う。
 3年次においては,ビジネスソフトの活用としては,プレゼンテーションソフト(PowerPoint97)による自己表現の方法,ディジタルカメラやイメージスキャナの操作を通して,画像処理を習得させ,最終的にはHTML言語を用いて,自己のホームページを完成させることにしている。昨今は,便利なホームページ作成の支援ソフトも多数見られるが,敢えてHTML言語にこだわったのは,言語で記述するプログラミングこそ,情報処理教育の原点であると考えるからである。平成11年度には,全生徒の作品を収録したCD-ROMも完成した。

コース 就職 就職 スポーツ
芸術
文Ⅰ
クラス 2−2 3−3 3−1
3−2
3−4
3−5
3−6
科目 情報処理 総合実践 情報処理 課題研究 情報処理 情報処理
単位
分類 情報Ⅰ 情報Ⅱ 総実Ⅰ 総実Ⅱ 情報Ⅲ 情報Ⅳ 課研Ⅰ 課研Ⅱ 情報Ⅰ 情報Ⅱ 情報Ⅰ 情報Ⅱ 情報Ⅲ
担当 世良 松村 世良 松村 世良
(下畑)
松村 世良 松村
(下畑)
世良 松村 世良 世良 松村
1学期
前半
タイピング
実習
職業指導
(全般)
商業実務 プレゼテーション
(基礎)
商業指導 ネットワーク タイピング練習 タイピング練習
中間
考査
新聞調べ(課題) 新聞調べ(課題) 新聞調べ(課題) 新聞調べ(課題)
1学期
後半
表計算
(基礎)
職業指導
(適性)
商業実務 プレゼンテーション
(発表)
租税教室 ネットワーク 表計算・ワープロ 表計算・ワープロ
期末
考査
コンピュータ
の知識
    プレゼンテーション
の知識
  ネットワーク
の知識
コンピュータ
の知識
コンピュータ
の知識
夏休み
課題
産業教育作文 税の作文 産業教育作文 産業教育作文
2学期
前半
表計算
(検定)
企業見学指導 商業実務 ホームページ
(基礎)
面接練習 商業実務 ホームページ
(基礎)
ホームページ
(基礎)
中間
考査
作文(課題) 作文(課題) 作文(課題) 作文(課題)
2学期
後半
ワープロ
(基礎)
企業見学指導
地場産業講話
商業実務 ホームページ
(作成)
地場産業
講話
商業実務 ホームページ
(作成)
ホームページ
(作成)
期末
考査
ワープロ
の知識
    ホームページ
の知識
    ホームページ
の知識
ホームページ
の知識
冬休み
課題
  就職問題集
(奇数)
       
3学期
前半
ワープロ
(検定)
ワープロ
(知識)
商業実務 ホームページ
発表会
消費生活
確定申告
商業実務 ホームページ
発表会
ホームページ発表会
3学期
後半
ワープロ
応用
求人票調べ        
期末
考査
レポート(課題) 作品評価 作品評価 作品評価
春休み
課題
  就職問題集
(偶数)
       
▲表1 授業進行表

(2)成績評価の方法
 成績評価においては,従来の単純なペーパーテストを廃し,多様な評価を採り入れる実験を進めている。定期考査においては,2つの特長がある。
 その一つは,期末考査時に教科書やノート,プリント類の持ち込み参照を認めたことである。言うまでもなく,考査は単に暗記力を競うものではなく,特に職業場面においてはその重要度は必ずしも高くない。むしろマニュアル書を片手に調べながら職務を遂行することが日常的である。そのためには,授業の際に必要なことがらはノートに記録し,あるいは必要なことを調べる能力のほうが実用的な力となる。予め,考査問題の一部を公表したこともあって,単なる成績評価のための考査から脱皮して,学習の場としての考査の側面を持つようになった。副次的な効果として,配布したプリント類が授業後に放置されることが目立って減少した。
 次に一つの特長は,中間考査において,事前に所定の課題レポートを提出した者は考査自体を免除したことである。1学期は,新聞記事の切り抜き,2学期は,原稿用紙への手書きによる作文である。課題レポートは,1時間の考査よりも,事前に与えられた課題に従って,資料を整理し,じっくりレポート作成に取り組ませることに教育の意義を見出すことができる。やや誘導的な面は否定しないが,レポートをまとめ,提出期限を遵守する習慣づくりにもなっている。しかし,レポートの提出状況は,残念なことにまだ完全ではなく,1クラスに平均1名程度の期限までに未提出の者が出る。この場合も,考査の出題は,レポート課題とまったく同じ内容を課し,時間的な制限もしない。こうすることによって,レポート逃れを根絶させることが可能になる。考査は罰ではないが,同じ作業をするのであれば,友人が考査免除になって帰宅するなか,学校に居残って作業をするよりも,早めに作業を終えて一緒に帰宅したいに決まっている。決められたルールは,徹底的に遵守することを身を持って体験することになるのである。

新聞記事の切り抜きの活動を伝える新聞(平成13年6月5日「中日新聞」)
▲新聞記事の切り抜きの活動を伝える新聞(平成13年6月5日「中日新聞」)

[1]出席カードの活用
 生徒は,毎月1枚の「出席カード」を持ち,授業ごとに出席の確認印を受けることになっている。座学授業の際は,教師が机間巡視の際,生徒一人一人捺印してまわり,実習の授業では,教室入り口のカウンターで捺印を行う。教室移動のある実習授業は,授業開始のチャイム以降に遅れてきた生徒は如何なる理由があっても,生徒指導部に届け出て,入室許可証を持参しなければならないことにしている。一面,厳しい対応であるが,かつて,明確な学習意識を持たない生徒にとっては,「情報処理」の授業はただ息抜きの時間であったり,ゲームセンターと誤解するものも散見されたが,今では,時間を遵守し規律正しい生活を身につける場になっている。
 もし,単にパソコンやネットワークの知識や技能を習得するだけならば,これは学校教育の役割ではなく,街中にあるパソコン学院でその役割は満たしている。学校教育で行う授業である以上は,ただ楽しい,おもしろいというだけの内容ではなく,教育的でなければならないと考えている。
 出欠状況は,生徒は自分のカードを見れば,すぐに数えることが出来,遅刻や欠席防止にもなる。欠課数だけ,後日に残業が課されるからである。

[2]PDSカードの使用
 出席カードの裏面には,「PDSカード」が印刷されている。月始めに,今月の「目標(PLAN)」を,自ら定め,その実現に向けて「実行(DO)」する。そして,月末には,その出来を自ら「評価(SEE)」するのである。さらに,生徒は,今月の「評価(SEE)」を反映して,次月の「目標(PLAN)」を立てることになる。こうして,1年間に11回(8月を除く)のPLAN-DO-SEEの繰り返しによって,自ら主体的にものを考え,行動する経験を積み重ねることになる。

[3]レポートの自己評価と相互評価
 各学期に1回,中間考査に代わって,レポート課題を課している。その評価は,評価シートを使って,自ら評価の観点を客観的に評価する「自己評価」と,クラス内でレポートを巡回閲覧し,「相互評価」を行うことにしている。
 自己評価と相互評価が各50点,それに教師の評価が100点加わり,200点満点で総合評価が決まる。自己評価は,他人のレポート評価に先だって行い,その基準点となるものとする。したがって,自己評価では,50点満点はつけない約束にしている。また,相互評価にあたっては,全て記名によって行うが,公平を期して,最高点と最低点の削除を行う。評価シートのデータ処理は,自ら表計算ソフトを使って計算処理し,ネットワークドライブにファイルで提出することになっている。

(3) 資格取得の指導
 授業では,全国商業高等学校協会や全国経理学校協会主催による情報関連の各種検定試験への合格を目指している。生徒は3級から2級,1級へと段階的に受験していく。1歩づつ進む小さな目標であるが,合格に向けて学習に取り組む生徒もそれを指導する教師も,だからこそ着実に進歩していくのを,共通して理解することができる。合格できた時の成就感や不合格時の反省する態度からも教育効果を認識することができる。
 さらに希望者を対象とした課外補習や部活動(コンピュータ部)を通して,経済産業省(旧通商産業省)による情報処理技術者試験では,平成8年度に初級システムアドミニストレータ試験に初の合格者があり,以降,平成10〜12年度と毎年1名の合格者を出し,13年度においては現在2名の合格者を見た。初級とは言うものの,合格率は10%程度と,高校生にとっては極めて難関であり,全国的にも高校生の合格者はあまり多くない。特に普通科高校となると,その取り組みも余りないこともあって,珍しい存在であろう。また,平成11年度には,第2種情報処理技術者試験にも合格者を輩出している。
 しかし,これら資格取得は指導の最終目標とはしていない。ある生徒は,課題作文に「受験することのほうが重要だった。受ける過程で自分の適性を見極めることができた。資格取得は『自分さがし』の方法である」と記している。

情報処理技術者試験の合格を伝える新聞(平成9年1月25日「四日市ホームニュース」)
▲情報処理技術者試験の合格を伝える新聞(平成9年1月25日「四日市ホームニュース」)

(4)コンピュータ部の活動
 高等学校において,コンピュータ部あるいは情報処理部など類似の名称がついた部活動は多くの学校に存在するが,その活動内容は,学校の性格や顧問教員の取り組み方によって大きく異なる。一般に文化部に分類されるが,本校では競技会出場など,運動部と変わらない活動をしている。
 クラブの大きな目標として,「資格取得」と「競技会出場」がある。競技会は,東海地区高等学校商業実務総合競技大会(情報処理の部・ワープロの部)や全国高等学校プログラム競技大会などである。
 しかし,どれだけ立派な目標を設定しても,何の準備や練習もなく形式的に済ますことになれば,生徒諸君にとってプラスになるどころか,かえって気持ちは萎縮するのみであろう。そのためには,日々の学習の積み重ねが重要である。1年生は毎朝8時10分からの早朝学習が行われる。これに理由なく出席しない場合は除名となる。また,休校となる土日曜日や長期休業期間も定期的に活動を行う。2000年を期して始めた正月元旦の学習活動も恒例になってきた。新春早朝から登校してきた生徒には,顧問教師からささやかなお年玉をプレゼントすることにしている。しかし,この日ばかりは,親子や家族とのふれあいを妨げることはなく,出席を強制はしていない。
 近年,クラブのもう一つの活動目標に「ソフト制作」を加え,3大目標とした。プログラム言語やアプリケーションソフトを駆使するソフト制作活動は,多くの時間や労力を要し,困難な面も多いが,部員数もまだ少ないこともあって,敢えてこれに挑戦することにした。こうして,「ソフト制作」は様々な制約があるなか,中学生向けの高校見学会や地域の人々を招いたパソコン教室で使用する学校紹介づくりに取り組んだ。生徒の個性・感性と顧問教師の指導が一致する時,すばらしい作品をみる。短期間ではあったが,連日深夜に及ぶ作業もあり,各生徒が積極的に役割を分担し,当日はアシスタントスタッフとしても尽力してくれた。

プログラム競技会での活躍を伝える新聞(平成11年7月10日「四日市ホームニュース」)
▲プログラム競技会での活躍を伝える新聞(平成11年7月10日「四日市ホームニュース」)

インターネット教室の様子を伝える地区広報(平成12年3月20日「地区広報四郷」)
▲インターネット教室の様子を伝える地区広報(平成12年3月20日「地区広報四郷」)
3.これからの情報教育
 情報教育は,これまでは工業高校や商業高校などの専門高校の独壇場であった。いうまでもなく,あらゆる学校で情報教育は必要である。本校においては普通科高校ではあるが,情報教育は商業科の教員が担当し,「商業」の授業として開講してきた。しかし,新教科「情報」を新設した平成15年度からの新学習指導要領では,「情報(普通)」のほか,「情報(専門)」の実施が可能になる。すなわち,情報高校の設置が可能となるのである。
 本校では,平成14年度入学生から,まず類型としての「情報コース(仮称)」の開設を計画している。

(1)学校の魅力,特色化について
 生徒指導実績を評価することは,極めて困難である。資格を取ったり,入賞させることが教育の全てではなく,むしろ,問題のある生徒を向上させることこそが,理想の教育であろう。そのために,誰もが労を惜しまず努力している。
しかしながら,不本意入学者は,元来,勉学意欲はないばかりか,周囲の生徒にとっても,必ずしもよい影響を与えていない。魅力のない学校では,卒業まで続かない場合も多い。
 そこで,近隣各校にはない特色を打ち出すことによって,魅力あるコースづくりを進め,活気ある学校を築いていきたい。地域の理解を得て,意欲溢れる生徒を募る。

(2)情報コース(仮称)の目指すもの
 学校教育の目的は,言うまでもなく,人間が人間として生きていく上で必要な社会生活の能力を育てるものである。とりわけ普通科高校においては,基礎学力の育成が重要である。そして,その上に専門的な教育が成り立つのである。
本校で提案する「情報コース」は,国語,地理歴史,公民,数学,外国語,家庭,保健体育,芸術と,あらゆる普通教科で,人間としてバランスのとれた教育課程の上に,21世紀の情報化社会を力強く生き抜いていくことができる人材を育てていくことを目標とする。

(3)指導目標
 今後,どの場面でも要求されるコンピュータ・ネットワークの構築および保守管理ができる程度の基礎的知識,技能を養成する。具体的には,経済産業省の情報処理技術者試験(基本情報技術者,初級システムアドミニストレータ)に合格を目指す。

(4)開講科目
 現在,次の科目の講義を予定している。

 1年次:情報A・B・C(2単位)
 2年次:情報産業と社会(2単位)情報実習(2単位)
 3年次:ネットワークシステム(2単位)
      コンピュータデザイン(2単位)
      課題研究(2単位)

(5)生徒人数
 1クラス40名程度が望ましいが,興味・適性等により弾力的に受け入れる。

(6)教員組織
 情報科のほか,現在の商業科の教員とのティームティーチングも視野に入れる。
 また,あらゆる教科・分掌で全教職員との連携・協力を仰ぐ。

(7)留意すべきこと

 [1]スポーツ科学コース,芸術コースと並び,本校の3大柱とする。
 [2]一芸に秀でる人材を育てる必要はあるが,人としての基本的な態度やマナーの向上・育成を最優先させる。
 [3]普通教科においては,基礎的・基本的な学力の充実を重視し,文理両面のバランスのとれたカリキュラムが必要。
 [4]進路指導は,出口指導に終わることなく,ライフコースを見通し,入学から卒業までを一貫した指導を行う。大学へ入るためとか,就職のためのコースではなく,学校で学んだことを生かして,卒業後希望する進路が実現できるように援助することが重要である。
 [5]地域や産業界,行政など校外の教育力を上手に活用する。
 [6]新教科「情報」は,新学習指導要領で初めて開設される教科であり,「情報コース」の設置は全国初である。
4.まとめに代えて
 近年,24時間営業するコンビニエンスストアや,携帯電話の普及によって,生活が便利になり快適性を増している。しかし,その一方で,じっと我慢したり,一つ一つ工夫を凝らすということが急速に失われつつある。
 このような時代にあって,高校で行う情報教育は,コンピュータやネットワークの操作を教えるのではなく,これらの利点や欠点を見通した上で,道具として活用する態度や心構えの指導が大切であるといわれる。メールやチャットなどを悪用した新しい形の犯罪から身を守り,あるいは加害者にならないよう情報倫理の指導が重要であろう。
参考文献 世良 清:
「松商コンピュータ部と東海地区商業実務競技会」『三重の商業教育』(第33号),三重県高等学校商業教育研究会,1996
「普通科高校における商業教育と就職指導」『三重の商業教育』(第35号),三重県高等学校商業教育研究会,1998
「普通科高校における就職コースの開設とその成果」『平成8〜10年度免許法認定講習研究論文集』,三重大学教育学部,1998
「普通高校における情報教育の方法と展開」『三重の商業教育』(第36号),三重県高等学校商業教育研究会,1999
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る