ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.10 > p6〜p9

教育実践例
工夫で伝えるテレビ会議
−ネットワークを活用した遠隔交流の実践−
滋賀県立日野高等学校 小西 浩之
konishi@shg-hino-h.ed.jp
http://www.shg-hino-h.ed.jp/
1.はじめに
 日野高校では,平成11年度から13年度の3か年間,文部省(現,文部科学省)の光ファイバー網研究開発事業の指定を受け,インターネットの教育実践研究を行った。ここでは,その実践研究の一つであるネットワークを活用した遠隔交流の実践を紹介し,テレビ会議の教育活用の工夫について述べる。
2.手軽にできるテレビ会議
(1)テレビ会議の方式
 テレビ会議(Video Conference)の環境としては,会議会場を専用回線および専用機器で直接接続する方式と,インターネット接続したパソコンを使って間接的に接続する方式とがある。
 テレビ会議の技術,およびインターネット回線を取り巻く状況は急速に進展しているので,近い将来には高品位のテレビ会議環境を手軽なインターネット方式で得ることが期待できる。しかし,現時点ではまだその段階にはなく,高品位なテレビ会議環境が 必要な場合はコスト高ではあるが,直接接続方式がよく利用されている。
 それぞれの方式の現時点での長所・短所を簡単にまとめると,表1のようになる。
 現時点において,インターネット方式によるテレビ会議環境は品質的には十分なものではないが,さまざまな交流先とのテレビ会議を設定しようとした場合,この方式を使うことが多い。

  直接接続方式 インターネット方式
確実・安定 コスト安
× コスト高 不確実・不安定
▲表1 テレビ会議方式の長所・短所

(2)インターネット方式によるテレビ会議システムについて
 テレビ会議をインターネット方式で行うには,パソコンを中心にハードウェア,ソフトウェアについて表2の準備が必要である。
■ハードウェア
(1)映像系
<入力用> ビデオカメラ+ビデオ信号入力装置(あるいはUSB接続CCDカメラ)
<出力用> プロジェクタ,スクリーン等
(2)音声系
<入力用> マイク,マイクスタンド,(必要に応じてミキサー,アンプ)
<出力用> スピーカ,(必要に応じてアンプ)
(3)伝送系
インターネット接続し,IPアドレスを取得する。ダイアルアップ接続の場合も割り当てられたIPアドレスを調べることで通信が可能である。
■ソフトウェア
iVisit※,CU-SeeMe,NetMeeting等のフリーソフトを活用する。特にiVisitはMacOS,Windowsの両OSに対応していることや,ファイアウォールを介しての接続のしやすさで利があり,本校ではこのソフトを使用している。
※参照Webページ http://www.ivisit.com/
▲表2 システム準備

(3)準備・運用について
 準備・運用についてのノウハウ,留意点を以下に述べる。

[1]授業計画について
 授業コンセプトをしっかり立てた上で,テレビ会議の流れを絵コンテ等で簡単に描いておく。司会者やディレクタなど,テレビ局の仕事分担を簡単に真似た役割分担を行っておくと,スムーズな進行が期待できる。
 また,交流先との打ち合わせやリハーサルも重要である。

[2]システムおよび会場準備について
 テレビ会議環境の準備においては,まず確実に音声が伝え合えるように設定する工夫が大切である。相互に可能な限り明瞭な音質,適切な音量で音声が伝えられるように,システム準備や会場設営を行う。交流は画像が伝わらなくてもかなりのレベルまで成立するが,音声が伝わらないとほとんど成立しない。
 この際,送信した自局の音声が先方のマイクを介して戻って来ることによりエコーが発生し聴き辛くなることがあるが,先方でヘッドセットを利用して頂いたり,あるいは双方で送話時に送話スイッチを手動で押す等の対策が必要である。

[3]万が一の場合を想定した準備について
 確実にテレビ会議が実施できるようにするためには,可能な範囲で予備のシステムを冗長性を持たせて用意したり,まったく別の通信手段による代替のシステムを用意するとよい。余裕がない場合でも,電話回線や携帯電話による音声通信の方法は最低限確保しておきたい。テレビ会議の裏方作業として互いの状況を確認する際にも役立つばかりか,万が一の場合は電話機の音声をアンプを通して出し入れすることで応急の音声会議が可能である。

[4]テレビ会議の限界を乗り越える工夫について
 さまざまなメディア(電話,電子メール,チャット,電子掲示板,Webページ,音声メールなど)の他,郵便・宅配便といった物流手段も含めてうまく工夫することで,テレビ会議環境の品質についてのマイナス面を補ったり,さらにはテレビ会議そのものの限界を乗り越える取り組みも可能となる。

[5]テレビ会議の記録について
 テレビ会議はリアルタイムに進行するので,その様子をうまく記録に残すことに関しては工夫が必要である。テレビ会議で使用するパソコンからビデオ信号を取り出し,それをビデオ録画する方法が一番確実であるが,モニター画面をOSのキャプチャー機能で静止画像として残したり,デジカメやフィルムカメラで画面そのものを撮影したりしておく方法もよい。
3.事例1「味覚を伝えよう」
(1)授業展開
 平成11年度,家庭の授業の一環として長瀬教諭(現八幡高等学校)を中心に教科の枠組みを超えたTT(TeamTeaching)で“郷土料理”をテーマにした教育実践を行った。

授業展開1
 調理室に設置した各班ごとのインターネット端末を使い,滋賀県教育委員会生涯学習課のWebページ「におねっと」,および本校Webページ「ほんわか家庭科」で郷土料理についての情報(レシピ,調理ビデオ説明など)を入手する。

調理方法開設動画コンテンツ
▲調理方法開設動画コンテンツ

授業展開2
 Webページから得た調理情報を元に各班で調理実習を行い,郷土料理を用意する。
 1時間の調理実習で,「でっちようかん」,「赤こんにゃくの煮付け」,「アメノイオ御飯」,「シジミ汁」,「湖魚の佃煮」,「丁字麩のからし味噌和え」を用意した。「ふなずし」,「日野菜漬」に関しては市販のものを盛り付けた。

Webページで情報収集し調理
▲Webページで情報収集し調理

授業展開3
 交流校にあらかじめ近江の郷土料理をクール便で宅配し,多元中継のテレビ会議による試食会を行った。
 交流テーマを「試食の感想」および「それぞれの地域の郷土料理自慢」とし,小・中・高・大の校種の枠を越え,地域を越えた交流を行った。
 なお,交流校へは食品衛生面に配慮し,市販の食品である「ふなずし」,「日野菜漬」,「でっちようかん」,「赤こんにゃくの煮付け」を用意した。

テレビ会議による試食会
▲テレビ会議による試食会

交流校
・上越教育大学学校教育学部附属小学校(新潟県上越市)
・大潟町立大潟小学校(新潟県頚城郡)
・お茶の水女子大附属中学校(東京都文京区)
・山口大学教育学部附属光中学校(山口県光市)
・神奈川大学附属中・高等学校(神奈川県横浜市)
・鹿児島大学法文学部(鹿児島県鹿児島市)
▲交流校

(2)テレビ会議における工夫
[1]味覚を伝えることについて
 テレビ会議だけでは味覚を正確に伝えることができないが,クール宅配であらかじめ食品を送っておく方法でその問題を克服した。
 今回の試食会では,「ふなずし」が一番大きな話題となった。驚きの食感を持ってもらったようであるが,やはり実際にそのものを口にしてみないと味覚は伝えがたいものである。

[2]交流先の決定について
 テレビ会議そのものに慣れない初期の段階では,円滑に学校間交流を行うために何らかの学校間の関係があることが望まれる。今回の交流先決定には,CIEC(コンピュータ利用教育協議会)やACE(教育とコンピュータ利用研究会)での教員間交流がきっかけとなり,小・中・高・大の校種や地域を超えた学校間交流が可能となった。

[3]交流先との事前連絡について
 交流校と事前連絡をしっかり行っておくことが円滑な授業展開には重要であるが,電話や電子メールの他,メーリングリストやWebページなどを利用し,十分に連絡を取り合った。
 今回のテレビ会議では本校がキー局となったので,本校Webページに「ほんわか家庭科」という情報交流ページを設け,テレビ会議で伝えきれない情報を伝え合う工夫をした。
4.事例2「感動を伝えよう」
(1)授業の背景について
 平成12年度,北海道稚内市および豊富町の協力を得て,民泊体験を中心とした全国初のユニークな道北修学旅行を実施した。
 漁業や酪農を営んでおられるご家庭に小グループ単位で民泊させて頂き,それぞれ酪農や漁業体験を行った他,各家庭で心のこもったもてなしを受けた。

(2)授業展開について
 大自然の中での生活体験やホームステイでの暖かな交流から得た感動の記録を,“かたちあるもの”としてみんなで作り上げ,それを北海道に届けようということで,音楽の授業の一環として中村教諭による教育実践が展開された。

[1]合唱曲つくり
 生徒から寄せられた歌詞を元に,中村教諭が曲をつけ“2000年度修学旅行の思い出のうた 合唱組曲「北海道讃歌」OP.1「あなたに会える時まで」”という合唱曲が完成した。

[2]テレビ会議による合唱曲披露
 テレビ会議を使い,修学旅行でお世話になった滞在先のご家庭に合唱を生で伝えた。
 中村教諭は合唱発表における指導上の留意点として,「修学旅行の熱い思い出を胸に秘め,みんなで作ったオリジナルソングを合唱し,聞き手とともに至上の感動を体験させる。」と設定した。

テレビ会議で合唱披露
▲テレビ会議で合唱披露

[3]テレビ会議による対話
 合唱を聞いて頂いた後に,テレビ会議による双方向の対話を行った。
 ここでの留意点は,「お世話になったお礼と合唱を聴いて頂いた感謝の気持ちをこめて対話させる」と設定されている。
 インターネット方式の簡単なテレビ会議環境ではあったが,まさに感動そのものを伝え合うことができた。特に滞在先家庭から「○○ちゃん〜」と本校生徒へ心のこもった呼びかけがあった際は,本人たちはもちろんのこと,まわりの者まで心から感動し涙を流した。
 何らかの実際的な交流を持った後のテレビ会議は,想像以上の感動を伝えることができることを実感できた。

テレビ会議で対話
▲テレビ会議で対話

(3)テレビ会議における工夫について
 一般家庭との交流を行うということで,3点の困難点があった。
 第1は回線状況である。先方のインターネット接続はダイアルアップ接続であり,こちらが光ファイバーT1であっても細い回線の方で回線状況は決定するのでかなり厳しい状況にあったが,1対1のテレビ会議とすることや,転送画像の画素数を少なくすることで通信負荷を小さくした。
 転送画像の画素数を小さくすれば表示される画面も小さくなるが,モニター設定における解像度を低く設定することでそれなりの大きさに拡大表示する工夫をした。
 第2は交流先のパソコン映像入力装置に関する準備である。動画像の入力装置およびインターフェースについては,それほど一般的に最初から用意されているわけではない。今回のテレビ会議では,あらかじめ交流先にUSB接続によるCCDカメラを宅配便で送る方法をとった。
 第3は一般家庭における生活時間と校時との時間調整であり,実はこの点が一番苦労した点である。
 学校が望む授業時間帯に必ずしも交流先が対応してもらえるとは限らない。また,突然の事情が発生し,交流が成立しなくなることもある。交流先についてはなるべく複数の候補をお願いしておくことが不可欠である。
5.おわりに
 当たり前のことだが,テレビ会議を用いた授業を成功させるためには,その授業が教育計画の中でしっかりとした位置付け,意味付けをされていることが大切である。
 教科や総合的な学習の時間におけるテレビ会議では,授業における目標を実現する手段の一つとしてテレビ会議をうまく設定することが重要であろう。
 また,新教科「情報」においては,企画や役割分担等,テレビ会議の運用そのものも含めて,“情報をうまく伝え合う”ことを目標とした取り組みを生徒自身のものとして設定することも意義があると思われる。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る