ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.5 > p9〜p12

教育実践例
情報好きの生徒を育てるために
大阪府立旭高等学校 橋本 佳三
afafa908@oct.zaq.ne.jp
1.はじめに

 旭高校に来てから5年(前任校で6年ほど)情報の授業を担当しています。今は3年生の選択2単位の情報科学を担当しています。1年の終わりに生徒に情報の授業のことについて書いてもらっていますが,それを読んでいるうちに,やはり皆さんに紹介するべきだと思い,大阪府高等学校情報教育研究会で発表しました。これに手を加えたのがこの実践報告です。

2.旭高校における情報科学の授業内容
○ワープロ(一太郎)の実習
○MS-DOSの実習
(夏休み)
○BASICによるCG実習
(冬休み)
○CG作品提出

  教科書はありません。すべて手作りのプリントを配っています。年間で,B4にして35枚位です。
3.受講生徒について
 情報科学の授業は一斉授業ではなく原則として個別学習で進んで行きます。自分で選択してきた生徒ですが,何十人といるので進度が個人によって異なり,CGの課題実習5問を9月中に終える生徒もいるし11月中頃までかかる生徒もいます。自宅にパソコンのある生徒は1割位です。課題が終わった生徒から,自分の作品制作に移ります。週2時間の授業なので,複雑な図柄の作品の場合は冬休みに学校へ来て続きをしないと間に合いません。それでも毎年「しんどいけど,作品を頑張ってよかった。」という声が多くあります。

(CG課題例)
・画面に大きなSの字を作る。
・三日月を作り,中を塗る。
・数字の5を大きく描き,中を自分の作った色で塗る。
・プリントの図を画面に出すプログラムを作る。
4.情報科学の目指すべき授業とは

 教科書をすべて教えようとすると,広く浅くといった授業になりがちですが,これは情報嫌いを作ってしまいます。初心者の生徒も沢山います。理解の遅い子もいます。この子らは,よく理解できないままに1年間を過ごすことになります。何もかも教える必要はありません。一つの事を気長に深く自分で勉強させればよいのです。テーマを持たせて教えすぎないようにすることです。コンピュータを扱うときは特に『教えすぎ』に気をつける必要があります。

  コンピュータをやりたいと思ってくれることが大切なのです。

  目標が明確であれば人間は自分で学んでいきます。また,この姿勢が無ければ人間は進歩しません。『自分で学ぶ』ことが身につけば,世の中がどんなに変わっても本質を見抜く目は失われることはありません。これからの日本に必要なのは自分で学ぶことのできる人間です。自分で学ぶといっても子供のことだから,ときどき教師の助けを必要とする事があるので,そのときだけ適切な助言を与えるようにすればよいのです。

5.生徒の声より

 生徒の側から見た1年間がよくわかります。教育とは待つことやなぁと,つくづく思います。

(生徒A)
  情報の授業で私はいろいろなことを学びました。今までコンピュータを使う授業なんて受けたことがなかったし,コンピュータに触れることもなかったので,初めての授業は緊張しました。一太郎の中で4倍角とか斜体の文字が使えるのはすごいと思いました。2学期から3学期にかけてやったグラフィックは難しかったし,疲れました。グラフィックで線と線がもし1mmでも合わなかったら色を塗るときにはみ出すことは,機械は本当に正確なんだと思いました。
 1年間情報の授業を通してコンピュータのかしこさがよく分りました。この授業は数学や英語の授業と違ってほとんどプリントを見て自分で勉強していくというやり方で,すごく新鮮というか良かったです。それから私は1年間,〇〇さんのおかげで難しい情報を乗り越えられたので感謝しています。

(生徒B)
  私がコンピュータを扱うのは,中学の時と合わせて2度目です。そして思ったことは,中学と高校での差がものすごく大きかったということです。一太郎はともかく,MS-DOSは私にとって最初の難関でした。それまでの「字を打つ」ことから,突然「自分で考える」ということになりました。不思議な気分でした。決まった数字や文字を打ち込むだけで「自分で考えた」ものができあがっている。でも,私はMS-DOSを勉強してよかったと思います。
 次にBASICのことについて,はじめは作品を描くと聞いたとき,私はマウスで絵を描くのかと思っていた。そして図形を描く練習をしはじめた時,これが科学に関係があるのかなと思った。はじめ,文字や数字だけで図形を描くことは変な感じがしました。けれど,最近映画でよく使われているSFの,基本的な,その中の特に基礎の部分ではないかと思いました。はじめての作品だったので,自分の納得いくような絵を描くことができませんでしたが,次に機会があれば,頑張って作品を作りたいと思います。
 最後に,この「情報科学」の授業は,自分で考えないといけないなと思いました。想像力が必要だと思いました。よくは分かりませんが,私はこういうことが,科学的であるのではないか,と思いました。

(生徒C)
  このテストは難しかった。きっと私は基礎が解っていないような気がする。作品はもうすぐ仕上がるけど,自分の中ですごく納得いった! ってものではなかった。この情報の作品をとても素晴らしく描くなら,技術と理解力がとっても必要だと思った。そして,とても繊細で素晴らしいと思った。私は、この前のテストの感想で「自分もあんな作品が描けるのだろうか」と書いていた。実際私は素晴らしくはないが円や楕円などいろんなことができるようになり,LINEの移動など理解できた。最初はマウスでやった方がいいわーなどと思っていたが,それでは表現できない細かいところもできることが解った(少し時間はかかるが)。そして途中,もうやめたいって本気で思うこともあった。でも,それは,少しずつナゾを理解し,自分がわかっていくことがうれしくなってきた。私は,この情報での苦労と努力がどこかで身についてくるだろうと思っている。
作品完成させるゾ!!!

(生徒D)
  2学期は1学期と違って更に難しくなりました。プリントを1人で勉強して,最後の課題終わって自分の作品に入る。1人で勉強してたときは何が何か全然わかってなくて,ただ,プリントに書いてある命令をマネして打っているだけでしたが,自分の作品となるとそうはいきませんでした。どの方法を使って描くのか,どうやったら自分の思っているような絵を描けるのか。自分の作品をよりいいものにするためにもう一度プリントをしっかり読み返しました。一つ一つの意味を考えながら。はじめ,マルの中を色ぬるのに,わざわざPAINT STEP使ってて,読み返したときに,
 CIRCLE STEP(-,-),o,o,,,,F,o
にしたらいいことを思い出しました。そのおかげでややこしい作品もだいぶスムーズに行くようになりました。同じ形を何個もいろんな所に描きたいという時に、先生は「文字」を教えてくれました。
  X=O,y=O
とか。その文字に打ち直してからまたスムーズに次の作業に取り組めました。私は同じ形をいろんな所に描いてそれで終わりのつもりでしたが,先生に色が同じやったら芸がないって言われた。ちょっとショックやったけど,少しガンバッテいろんな色作るのに挑戦してみたけど,美しい色はそう簡単には出せないものではやくも断念。同じ色でいいやって思いました。あともう少しで自分の作品終わります。コンピュータが変わる前に終わらせて,来年また数少ない授業でも新しいパソコンをさわれるのを期待しています。

(生徒E)
  2学期は1学期と違って頭を使って作業をしたから難しかったです。途中でフロッピーがつぶれたり,セーブができていなかったりと,大変でした。私はまず数字の5を作る時からつまずいていました。だから,その頃はおもしろくないなぁといつも思っていました。でも友達や先生にアドバイスをしてもらって少しずつできるようになってだんだんおもしろさが分かってきました。その他の課題もなかなかできなくて少しあせったりしてましたがやっとできて,自分の作品に入ることができました。自分の作品ではすべて自分でプログラムも考えやっていかなければいけなかったので大変でしたが,自分の思い通りにできると,すごくうれしくて楽しかったです。そのため情報科学が好きになって,次はこうしたらいいというのがスムーズにできるようになりました。私は今まで,分からなかったらすぐあきらめてしまう癖がありましたが,この授業によって少しは直すことができたのでとてもうれしいです。でも,自分の作品が最後までできるかすごく心配です。

(生徒F)
  最初,コンピュータで絵を作り始めた時は全然やり方が分からなくて,STEPの使い方も全くできなくて失敗ばかりしていたけれど,プリントを読みながら一つずつしていくうちに,少しずつだけど形になっていくのを見て作業が楽しくなり始めました。やっぱり下書きどおりに作るのは無理な部分が出てきて省いたところもいくつかはあるけれど,その分,他の所はできるだけ下書きどおりに作れるように丁寧に作業を進めていきたいと思います。コンピュータで作る初めての作品なので,自分が納得できるものを作りたいと思っています。自分でやってみて初めてコンピュータの難しさを知りました。まだ分からない部分が沢山あるけれど,この授業のおかげでコンピュータに触れる機会ができてすごく良かったです。これからは,もっと自分から積極的にコンピュータを使って,色々な事にチャレンジしていきたいと思います。

(生徒G)
  授業はいい案が思いつかなくて困っています。でもアイディアを考えるのはとても楽しいです。これから社会へ出て行くときに,このパソコンが使えてもあまり意味がないだろうけど,何か目標を作って一生懸命一つの絵を完成させるということにすごく意味があり,やりがいを感じます。ただマウスを使って描くよりも大変だけど,出来上がったときはこの絵が自分の誇りになるんだと思います。
 情報の授業では沢山の友達ができたし,頭をたくさん使ったのでとても充実していたと思います。情報をとってよかったです。

(生徒H)
  課題がなかなか思うように進まず,一つ仕上げるのにすごく時間がかかっていました。コンピュータは,頭で何も考えなくてもボタン一つでいいと思っていたけど,相対座標とかは結構考えさせられました。キーを押すのが1学期より早くなり,今まで分からなかった事がどんどん理解できるようになっていきました。そうなるとコンピュータを使うのがすごく楽しく感じるようになりました。まだ自分の作品に取り掛かっていないけど,今まで学んだことを活用して,よい作品を作れるよう努力しようと思います。家にコンピュータがないので,買えるようになったら欲しいです。

6.生徒作品

 CRTに映し出された生徒の作品をカメラで撮影したものです。













《撮影データ》CRTのコントラスト:最大,CRTの明るさ:黒色が黒に見える程度,露出データ:F11,3秒,使用フィルム:フジカラーREALA(ASA100) ※夜に部屋を真っ暗にして撮影すること。

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