標準的な年間指導計画だけでなく,生徒の実態などに合わせて大胆な組み立てを試みてもよい。ここでは教科書を活用した例として,システムのしくみを中心に,問題解決的な手法を用いて学ぶ方法と,問題解決の手法を中心に,その道具としての情報システムのしくみを学ぶ方法の2通りを提案したい。
(1) 情報システムのしくみを中心に,問題解決的な手法を用いて学ぶ「情報の科学」
1年次に「情報の科学」を設置した学校などでは,中学校での学習も考慮し,情報システムを中心とした「情報の科学」が実施しやすい。中学校の「技術・家庭科」での学習内容を発展させながら学習を進めていく。具体的には,教科書のネットワーク編を中心とした指導計画の中に,問題解決の手法を取り入れた実習を組み入れていく方法である。5章〜6章の内容を1〜3章の実習などに取り込んでいくことが想定される。
たとえば,1章2節の情報のディジタル化で,5章の内容を取り込み,基数変換や文字コード表を作成するアルゴリズムを考え,プログラミングで実施するということも可能であろう。教科書で利用しているプログラミング言語,JavaScriptは組み込み機能として基数変換や文字コード出力などの機能を有している。
2章のネットワークサービスでは,6章のデータベースのしくみを組み込むことが考えられる。普段利用しているネットワークサービスの多くは,データベースによって支えられていること,データベースにどのようにデータが記録されているのかを知ることにより,ネットワークサービスを利用する際の,その有効性や安全性を考えていく。また,p.141のコラムで扱われているXMLデータベースは,高校生もよく利用している携帯音楽プレーヤのデータ管理で利用されている技術である。リレーショナルデータベースと合わせて学ぶことで,親近感をもって学べるのではないだろうか。
このように,ネットワーク編の内容をベースに,問題解決編の内容を実習などに取り込み,年間の授業を組み立てることができる。
(2) 問題解決の手法を中心に,その道具としての情報システムを学ぶ「情報の科学」
問題解決は新学習指導要領においてより重点的に扱うように求められている。共通教科「情報」の中心的な学習内容である。問題解決は情報科だけでなく,他教科においても活用できる。そこで,ある程度他教科での学習も進んだ2年次に「情報の科学」を開設しているならば,問題解決の学習を軸にして,情報通信ネットワークのしくみを学習するといった組み立てが有効であろう。
学ぶという過程は,ある意味で問題解決の過程そのものである。生徒自身が自らの知らないこと,学ぶべきことを解決すべき問題として認識し,さまざまな手法を用いながら学習を進め,目標に向かって進むことを「情報の科学」の学習を通して展開していきたい。
1章のコンピュータのしくみや情報のディジタル化については,生徒の探究課題として設定し,個人やグループで発表を行う形式で学習を進めてはどうだろうか。ポイントとなる事項を解説する場面で,教科書をうまく活用できるであろう。受験科目ではない「情報の科学」では,参考書などがほとんどないため,Webを活用した調べ学習が必須となるであろう。その際,2章や3章で取り扱われているさまざまな情報サービスのしくみや情報モラル,情報の信憑性,著作権などの知的財産権について,適宜課題として取り上げながら授業を構成することが想定できる。
教科書では,生徒も学習経験が少ないと思われる問題解決やアルゴリズム,モデル化とシミュレーションといった内容は,生徒自身が実際に活動を行いながら学習を進められるように例題形式となっている。まずはこれにしたがって知識と技能を身につけ,それらを活用しながらさまざまな問題解決に取り組めるようになっている。
人間は日常的に問題解決を繰り返しながら生活している。しかしながらあまりに日常的な行為であるために,その手順や用いる手法について,意識化することはほとんどない。やみくもに問題解決を行おうとして,無駄が多く発生したり,成果を上げることができなかったりすることも多い。教科書の4章では,これらを比較しながら問題解決の代表的な流れを身近な例を用いて解説している。また,問題解決におけるさまざまな手法が紹介されており,生徒自身がこれらの手法を実際の問題解決に用いる学習も当然考えられるだろう。
また,アンケート調査などは小・中学校でやった経験をもっている生徒も多いと思われるが,サンプリングの方法,アンケート用紙を作成するときの注意点,集められたデータの集計方法,分析方法などについても4章にかなり詳細に記載されている。表計算ソフトを利用すると,簡単にきれいなグラフが作成でき,生徒もあまり考えずに利用している場合が多いが,統計の考え方をきちんと学習することにより,より正確に情報を表現する方法やメディアなどで利用されているデータの扱い方を批判的に読み解く能力を養うことができるであろう。
アルゴリズムの学習ではプログラミングを通して理解を深める工夫がなされている。JavaScriptは現在でも多くのWebサービスで利用されているものであり,今後普及が予想されているWeb標準技術であるHTML5でも,動的Webページ作成のためのプログラミング言語として,その可能性が広がりつつある。特別なアプリケーションや開発環境の必要がなく,WebブラウザとOSに標準で添付されているエディタソフトがあれば利用できる。Webベースの技術であり,OSにも依存せず,ほぼすべての学校のPCで利用できる。最近ではデバッグなどを簡単に行える開発環境も揃ってきており,Webブラウザのadd-onやオープンソースのソフトウェア,ソフトウェアメーカーの提供するフリーソフトとして利用できるものも増えてきた。巻末資料で,JavaScript参考資料も用意されており,学習の際に利用できる。
探究的な学習活動を進める上において,探究の手順,方法などを意識的に考えさせるような指導を行うことにより,生徒にアルゴリズムを意識させたり,集めたデータの整理にデータベースを活用したりする場面をつくり出すことが可能であろう。
また,場合によってはシミュレーションを取り入れながら,変化を予測したり,最適な手段を選択したりする方法を学習させることもできる。これらの学習課題や方法は,7章2節の課題解決学習実践例が利用できる。
もちろん,他教科の学習内容や学校行事などを事例として取り上げた独自の課題を設定するなど,生徒や学校の実情に合わせた課題を用いた学習が多くの学校で展開されることにも期待したい。 |